特集:どうする?世界のプラスチック規制を進めるEUと追う加盟国、チャンスをうかがう企業
欧州のプラスチック事情

2019年2月8日

2017年7月末、中国が廃プラスチック(以下、廃プラ)を含む一部資源ごみの輸入禁止令を発表した。(2018年4月11日記事参照)。EUの廃プラの輸出先は東南アジアやトルコ、台湾に変わってきている。しかし、これらの国々に対して、今後も従来のように輸出を続けられるとは限らない。

本稿ではまず、中国の禁止令前後におけるEUからの廃プラの輸出先の変化を紹介する。そして、EUによるプラスチック規制と、それに対する加盟国・地域政府、企業の対応を報告し、EU内のプラスチックの今後を展望する。

EUの廃プラの行き場は変わるも安心はできない

図1は2018年1~10月のEU28カ国からの廃プラの輸出量上位8カ国・地域について、禁止令前の2017年1-10月とで比較したものだ。中国と香港を除く6カ国・地域で、2018年1~10月の輸出量が前年同期に比べて増加している。

図1:EUからの各国・地域向けの廃プラ輸出量(千トン)
2018年1-10月の輸出量の上位8カ国・地域を多い順に並べ、前年同期の輸出量と比較したグラフ。上位からマレーシア、トルコ、ベトナム、香港、インドネシア、インド、台湾、中国となっており、香港、中国を除く6カ国・地域で前年同期に比べて増加している。

出所:Global Trade Atlasよりジェトロ作成。

しかし、これらの廃プラもまた、行き場を失いかけている。マレーシア、ベトナムではそれぞれ2018年7月から輸入制限措置が取られており、同年8月のEU28カ国からの輸出量はそれぞれ前月比で76.2%減(4万2,000トンから1万トンに)、97.0%減(5,700トンから170トンに)と大きく減少している。また台湾でも、2018年10月から質の悪い廃プラに対して、輸入制限が行われている。現在、輸入制限措置を取っているインドネシアにおいても、追加の措置が取られる可能性がある。

またEUには、埋め立てなど「処分」目的の廃棄物のEUからの輸出を欧州自由貿易連合(EFTA)域内向けに限定する、廃棄物輸送に関する2006年6月14日付「欧州議会・理事会規則1013/2006 」がある。トルコに対しては、同国内で廃プラの回収が正しく行われているか疑問視する報道もあり(「ガーディアン」紙、2018年10月19日)、EFTA域外のトルコでの処理が「回収」ではなく「処分」と判断されれば、違法な輸出になり、今後の輸出が規制される可能性がある。

この状況に対応すべく、EU、加盟国・地域政府、企業がさまざまな取り組みを行っている。以下では、その取り組みについて紹介する。

各国・地域政府のプラスチック袋への規制は控えめ

既に採択されているEUのプラスチック規制としては、2015年5月に採択されたプラスチック袋を規制する、EUの包装および包装廃棄物に関する指令(欧州議会・理事会指令2015/720)第4条1aが挙げられる。加盟国では、この指令の国内法化が進んでいる。以下で、EU加盟各国・地域のプラスチック袋の規制について概観する(表1参照)。

表1をみると、禁止などEU指令よりも野心的な規制を敷いている国・地域は少数派だ。EU指令に基づき、各国・地域は目標達成のための国内法を制定する必要があるが、各国・地域政府には規制の水準をEU指令で求められる水準に抑える傾向がある。プラスチック袋の使用禁止を閣議決定したオーストリアでは、産業界を代表するオーストリア連邦産業院から、オンラインショッピングが普及している同国内で、国内企業のみに規制を行うことに疑問が呈された(2018年12月18日記事参照)。

進行する欧州プラスチック戦略

現在、EUはどのようにプラスチックの問題に取り組んでいるのか。欧州委員会は2018年1月16日、「循環型経済(サーキュラー・エコノミー)における欧州プラスチック戦略」(以下、欧州プラスチック戦略)と題した政策文書を公表し、2030年までに全てのプラスチック包装のリサイクルの徹底を目指すと表明した。同戦略では、(1)リサイクル事業の収益化を図る、(2)プラスチック廃棄物の削減、(3)海洋投棄の抑止、(4)投資・イノベーション支援、(5)国際展開、が主な政策目標として掲げられている。

欧州プラスチック戦略履行のために欧州委員会が提案した指令案は、2018年10月24日に欧州議会本会議で採択された外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。欧州委員会の提案通り、綿棒、フォークなどのカトラリー、皿、マドラー、ストロー、風船の棒が2021年から原則として禁止対象とされたほか、欧州議会での審議を経て、ファストフードなどの袋や容器に用いられているオキソ分解型プラスチックと、発泡スチロール製の食品・飲料容器についても対象に追加された。本指令案に関する次のステップは、EU理事会での採択となる。

今回の指令案では、食品容器や飲料容器も対象となっており、消費量の削減目標が設定されているが、規制の手段は加盟国に委ねられている。プラスチック袋と同様、指令案の目標値を超えた削減量を達成するような厳格な規制を敷く国は少数派になるのではないか。

一方で、加盟国の中には、EU理事会での採択に先駆けて特定製品の禁止に動いている国もある。例えば、イタリアでは2019年1月1日から、非生分解性かつ肥料化不可能なプラスチック製綿棒の使用が禁止された。また、その包装にも、適切な処分方法を記載する必要があるとした。

英国でも、政府がプラスチックのストロー、マドラー、綿棒の流通と販売を禁止する法案を発表した。同法案は現在審議中で、2019年10月から2020年10月までの間に施行される予定だ。政府はこの法案で、企業に代替製品の提供を促す狙いがある。

対応を迫られる企業、チャンスを見いだす企業

企業の間でも、対応が進められている。表2は、英国の主なスーパーマーケットの取り組みを示したものである。

表2:英国内のスーパーマーケットの取り組み事例
企業名 取り組み
ウェイトローズ 2019年の春から青果類のプラスチック袋、有料プラスチック袋を廃止し、コーンスターチ由来の肥料化可能なものに変更する。
2019年以降は黒色のプラスチック袋(注)の使用を取りやめるとともに、2025年までに自社製品のパッケージをリサイクル、リユース、肥料化のいずれかが可能なものに変更。
リドル 青果類に使用されている黒色のプラスチック袋の使用を取りやめるとともに、自社製品のパッケージをリサイクル、リユース、肥料化のいずれかが可能なものに変更。
テスコ リサイクルできないプラスチックの使用を2019年までに禁止。
コープ 1,000を超える支店で肥料化可能なプラスチック袋を導入。
マークス&スペンサー
プレタマンジェ
従来プラスチック製だったカトラリーを木製に変更。
注:
黒色のプラスチック袋は英国内の分別システムで検知されないため、同国ではリサイクルができないとされている。
出所:
各国報道よりジェトロ作成

スーパーマーケット以外にも、こうした取り組みは広がっている。英国ポテトチップスメーカー大手のウォルカーズは、30万人を超える消費者の署名を受け、ポテトチップス袋のリサイクルに取り組むことを発表した。同社が使用している袋は、技術的にはリサイクル可能であるものの、分別・収集が難しく、通常のリサイクル企業では対応が難しかった。同社は当面、リサイクルの難しい製品を専門とする、米国リサイクル企業のテラサイクルと提携し、リサイクルに取り組む。同社は2025年までにリサイクルしやすく、肥料化が可能な素材の袋に変更することを約束している(「ガーディアン」紙、2018年12月15日)。「ガーディアン」紙(2018年10月5日)によれば、英国人は年間60億袋のポテトチップスを消費している。この取り組みが実現すれば、影響は大きい。

同社のように対応を迫られている企業もある一方、チャンスを見いだそうとしている企業もある。英国IoT(モノのインターネット)ソフトウエアのスタートアップ企業Evrythngは、EUの「ホライズン2020」プログラム(注)に参加し、提携企業の製品バーコードをスキャンするとリサイクルの方法が表示されるアプリを発表した。既に、スペインのカルフールで導入されている。

代替素材メーカーも積極的だ。表3は、欧州に拠点を置く代替素材メーカーの取り組み事例を紹介したものである。

表3:代替素材メーカーの取り組み事例
企業名 取り組み
スポーンフォーム
(ポルトガル)
農林業で生じた廃棄物、キノコ類を原材料とした生分解性の鉢植えや緩衝材を開発。
バイオパップ
(イタリア)
生分解性、リサイクル可能、肥料化可能な素材のトレーを製造。蓋は段ボール製。オーブンや冷凍にも対応。
スマーフィット・カッパ
(アイルランド)
再生可能な段ボールや同質板紙を使用した青果類用のトレーなどを製造。撥水加工や通気用の穴など、食品に合わせた加工が可能。
プラスティロール
(フィンランド)
100%生分解性の透明なパッケージフィルムを製造。通気性が高く新鮮さを保つことが可能。
出所:
各国報道、企業ウェブページよりジェトロ作成。

これらの事例をみると、各社が、(1)代替素材として生分解性のプラスチックを利用、もしくは段ボールなど完全に別の素材を使用し、(2)単に「環境にやさしい」だけでなく、現在のものと同等の機能を果たすという付加価値を持った素材の開発に取り組んできたことが分かる。欧州への進出を検討している素材メーカーにとっては競合、食品メーカーにとって容器包装の取引先の候補となるだろう。

このように政府や企業がさまざまな取り組みを通じ、プラスチック問題に対応している。しかし、EUも決して一枚岩ではない。国内にプラスチック袋メーカーの強力なロビイング団体を有するクロアチアは、欧州プラスチック戦略に反対する動きを見せている。

フランスも、指令案よりも禁止対象を拡大し、さらに短い期限という厳格な規制を設けたところ、国内の業界団体からEU指令よりも厳しい規制を短期間で設けるのは遺憾と、批判の声明が出されている(2018年10月11日記事参照)。

また、現在の代替素材としての生分解性プラスチックの使用は、必ずしも最適でないという意見もある。国連環境計画(UNEP)が2015年に発表したレポートの中では、完全な生分解の環境が限定され、自然環境では分解されず、ごみとして残される懸念が指摘されている。

消費者からの反発もある。既に紹介したマークス&スペンサーとプレタマンジェの木製カトラリーには、プラスチックに慣れ親しんだ消費者からの強い反対があり、プレタマンジェは導入後わずか数週間で提供を中止した。「環境への負荷が小さい」だけで、人々が利用するとは限らないのだ。

欧州のプラスチック対策の今後

指令案は、ふたやカバーを含む飲料用カップや食品容器について、2025年までに25%削減することを加盟国に義務付けている。この目標を達成するため、今後各国でさらなる規制が設けられることとなるだろう。また、欧州議会・理事会指令2015/720で、欧州委員会は、欧州議会、EU理事会に対して、2021年11月27日までに規制の有効性につきEUレベルで評価、報告を行うことを義務付けられている。そこで、規制が有効でないと評価されれば、欧州委員会が新たな規制案を提案する可能性もある。今後もEU、加盟国のプラスチック対策から目を離すことはできない。


注:
2014年から2020年までの期間に総額800億ユーロの予算で、研究、イノベーションを支援するプログラム。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部海外調査計画課
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。