特集:どうする?世界のプラスチックバイオベースプラスチックの製造・販売の動き広がる(ブラジル)

2019年1月10日

ブラジルは世界最大のサトウキビ生産国であり、第3位のトウモロコシ生産国だ。こうした農業資源を生かし、脱石油由来のプラスチックであるバイオベースプラスチックを製造し、州レベルで普及する動きが始まっている。

欧州プラスチック機械工業会(EUROMAP)が2016年に発表した世界のプラスチックの1人当たり消費量を見ると、ブラジルは約30kgで推移し、日本の半分以下にとどまっている。ただ、サンパウロ大学海洋学研究所(IO-USP)とプラスチック社会環境研究所(Plastivada)が提携して2012年から行っている調査によれば、ブラジルのビーチで見つかるゴミの95%以上は、いずれもプラスチック製のボトル、使い捨てカップ、ストロー、アイスクリームパックなどとなっており、環境保護への啓発が必要とされている。

環境への影響が懸念されるプラスチック廃棄物のリサイクルを困難にしているのは、リサイクルの利益率が低く、この分野の企業活動が低調であることだ。ブラジル・プラスチック生産者協会(ABIPLAST)によれば、プラスチックをリサイクルする企業数は近年、1,000社前後にとどまっており、雇用数も横ばいである。

その背景の1つとして、プラスチックをリサイクルする際の税制インセンティブが存在せず、むしろリサイクルすることで発生する課税がコストアップ要因としてボトルネックとなっているとの指摘がある(ブラジル機械装置工業会・固形廃棄物グループコーディネーターのパウロ・ダ・ピエービ氏)。製品出荷時に課せられるIPI(工業製品税)や、州を越えると課せられるICMS(商品流通サービス税)がその例だ。

脱石油として注目されるバイオベースや再利用可能な素材

そうした状況を背景に、ブラジルでは、プラスチック製品のリサイクルよりも、消費量の削減、また代替材料を適用するなどの取り組みが州レベルで先行している。

リオデジャネイロ州では2018年6月26日に公布した法律8.006によって、商用で使われるポリエチレンやポリプロピレンなどによる使い捨てプラスチック製の袋の使用を禁止し、材質の51%以上を再生可能なものにすると定めている。なお、中小・零細企業などは18カ月、大企業などは12カ月の猶予期間が設けられている。ブラジルは再利用可能なプラスチックの材料となるサトウキビの生産量が世界1位、生分解プラスチックの材料となるトウモロコシは世界3位であることから、例えば南米最大規模の化学メーカーであるブラジルのブラスケム社は、プラスチック製の袋に代わるサトウキビ由来のバイオベースポリエチレンを製造している。また、ベルギーのラバゴグループであるレジネックス社や米国のネイチャーワークスは、トウモロコシから得られるポリ乳酸由来の生分解性プラスチックを製造している。ちなみに、ブラジルでの生産量が世界2位の大豆やブラジル原産で世界3位のキャッサバなどもバイオベースプラスチックの原料になり得る。サンパウロ州では既に2011年に期間限定になっていたプラスチック製の袋の配布を禁止する法律が、2015年1月7日で公布した州政令55.827で再度規定されている。

リオデジャネイロ州はプラスチック製のストローに関しても全国に先駆けた取り組みをしている。2018年7月6日付で公布した州法6.384に基づき、レストランやバー、スナックバーなどの飲食店による生分解性の紙ストローや、再利用可能な素材によるストロ-の使用、提供を義務付けた。これを順守しない場合には3,000レアル(1ドル=3.9レアル)の罰則が科せられ、再度の違反には6,000レアルと定められている。

これに伴い、飲食店などからは紙ストローをはじめとした生分解性のストローへの需要はもちろんのこと、再利用可能なガラス、竹、使用後に食べられるように小麦と水でできたストローまで、さまざまな材質の商品が登場している。ストローを太くして、ブラジルならではのアサイージュースなど粘度が高い飲み物を飲みやすいように工夫している企業もある。

リオデジャネイロ州法6.384の影響を直接受けているわけではないが、ユニリーバ・ブラジルは脱プラスチックの動きをとらえて、先行した取り組みを行っている。ユニリーバブランドの液体洗濯用洗剤OMOのボトルを、ブラジル沿岸で収拾したプラスチックによる再生プラスチックボトルに変更した。これにより、年間500トンのプラスチック使用を削減し、環境配慮の啓発に貢献しようとしている。

消費者が生分解性や再利用可能な製品を利用することで、環境保護への貢献を担おうとする動きが広まる場合、石油由来の脱プラスチックの動きは多様な産業に広がる可能性がある。

執筆者紹介
ジェトロ 海外調査部 米州課 中南米班
古木 勇生(ふるき ゆうき)
2012年、ジェトロ入構。お客様サポート部オンライン情報課(2012~2015年)、企画部海外地域戦略班(中南米)(2016~2017年)を経て現職。