特集:どうする?世界のプラスチックグローバル企業や自治体は廃プラスチック削減対策を強化 (米国・カナダ)

2019年1月10日

中国政府による「海外ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画」の施行(2017年12月)をきっかけに、廃プラスチックの主要輸出国である米国では、その膨大な廃棄物の行き先変更を余儀なくされている。また、海洋プラスチックごみへの関心の高まりを受け、米国のグローバル企業はその削減に向けた取り組みを拡大しており、米国の州政府・自治体やカナダ連邦政府では使い捨てプラスチック対策を強化している。

ベトナムやマレーシアは廃プラスチック輸入の規制強化

「海外ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画」の施行後、2018年1~9月の米国の廃プラスチック(HSコード3915)の中国への輸出量は、前年同期比93%減の約3 万7,000トンと激減している(表1参照)。また、廃プラスチック貿易の経由地である香港向けも72%減の9万トンにとどまっている。これらの減少分は、東南アジア諸国へのシフトがみられる。タイへの輸出量は6.8倍の約9万3,000トンと急増。マレーシアへは2.7倍の約18万9,000トンが輸出されており、中国に変わる最大の廃プラスチック受け入れ国となっている。

ただ、この東南アジア各国への輸出先の切り替えは、一時的な状況のようだ。ベトナム では2018年5月、廃プラスチックの輸入増加に伴い、一部の港においてコンテナの長期滞留が問題になり、6月には廃プラスチックと紙くずの輸入が制限された。単月の輸出量をみると、5月には約1万8,000トン輸出されたが、9月には約195トンまで縮小した。マレーシアでも7月に、大気・水質汚染を理由に、プラスチックの輸入を行う一部の企業や工場の輸入許可が取り下げられ、7月には約2万4,000トン輸出されたが、9月は約3,000トンに減少、10月からは廃プラスチック輸入が全国的に禁止された。

表1:米国の主な廃プラスチック輸出先国・地域(単位:1,000トン、%)(△はマイナス値)
国・地域 2016年1~9月 2017年1~9月 2018年1~9月 前年同期比
マレーシア 29 71 189 168
インド 73 96 102 6
カナダ 137 102 102 △ 0
タイ 6 14 93 579
香港 479 327 90 △ 72
ベトナム 48 79 73 △ 7
台湾 25 20 44 118
中国 571 513 37 △ 93
メキシコ 23 36 35 △ 3
韓国 2 5 24 349
その他 53 68 82 20
世界計 1,446 1,331 872 △ 34
出所:
米商務省統計

米国の廃プラスチックの輸出量合計は、前年同期比34%減の約87万2,000トンと減少しており、減少分は国内の処分場などに向かっている模様だ。

廃プラスチックの75%が埋め立て、ペットボトルのリサイクル率は増加

米国環境保護庁(EPA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、2015年の廃プラスチック排出量は約3,450万トンに上るが、そのうち約75%に当たる約2,601万トンが埋め立てられている。リサイクルされているのは約314万トンで、排出量のわずか約9%にとどまる(図参照)。この数値から読み取れるように、リサイクル率向上への対策は依然として、検討の余地を残している。

図:米国における一般廃棄物中のプラスチック量推移
2015年の廃プラスチック排出量は約3,450万トン。そのうちの75.4%にあたる約2,601万トンが埋め立て処理、15.5%にあたる約535万トンが熱回収、9.1%にあたる約314万トンがリサイクルされている。
出所:
米環境保護庁のデータより作成

ただ、廃プラスチックの中でも、ペットボトルのリサイクル率は高い割合を示している。2018年11月に発表された全米ペット容器資源協会(NAPCOR)とプラスチックリサイクル業者協会(APR)の共同レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、2017年のペットボトルのリサイクル率は29.2%で、前年より0.8ポイント上昇した。また、2009年には、米国内で回収されたペットボトルの6割近くが輸出されていたが、2017年には輸出の割合は16%にとどまり、米国・カナダで再生利用されたプラスチック量は約71万4,000トンに達している。

グローバル企業は海洋ごみ問題に積極的に対応

中国をはじめアジア諸国による廃プラスチック輸入規制とともに、注目を集めているのが海洋プラスチック問題だ。エレン・マッカーサー財団(注)のレポートによると、今後、このままのペースや処理方法でプラスチックが廃棄されると、2050年の海には魚より多くのごみが浮遊するという。最近では、ウミガメの鼻腔(びこう)に入ったプラスチック製ストローを取り除く動画の再生回数が約3,300万回(2018年12月時点)を超え、この動画が米国でも環境問題への意識が高まる大きなきっかけとなり、以前にも増してプラスチック利用規制の施行や見直しが活発に議論されている。

そうした中、米国を代表するグローバル企業が相次いで海洋ごみ削減に向けた施策を打ち出しており、各産業や消費行動に大きな影響を与えている(表2参照)。

飲料大手ペプシコ(本社:ニューヨーク州)は2018年10月10日、原材料のすべてに廃プラスチックを使用する包装容器製造会社、ループ・インダストリーズ(カナダ、ケベック州)と複数年の契約を締結した。同社は、廃プラスチック原料のみで、高品質のプラスチック製品を常温常圧で製造でき、2018年に入って、フランス化粧品大手ロレアルやコカ・コーラ・システムのグローバル調達グループとも供給契約を結んでいる。

オレオやメントスなどで知られるモンデリーズ・インターナショナル(本社:イリノイ州)は10月9日、2025年までにすべての包装をリサイクル可能な素材で製造すると発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(119KB) した。同社はまた、2020年までに紙素材をリサイクル可能なものに変更するとともに、6万5,000トンの包装素材を削減することも掲げている。ライフ・サイクル・アセスメント企業のクォンティスによると、食品廃棄が環境に与える影響は、包装資材が環境に与える影響の約10倍に及ぶとしており、モンデリーズは、食品の質を保つための包装資材と包装量を最適化することで食品廃棄を減らし、環境への負荷を減らす取り組みを行う。

表2:主な米国グローバル企業のプラスチック利用削減に関する取り組み
企業 取り組み
ペプシコ 2025年までに、プラスチック容器の再生素材割合を25%(ペットボトルは33%)とし、その100%をリサイクル、堆肥化、または生分解可能にする。
コカ・コーラ 2030年までに、容器に使用するすべてのペットボトルと缶の相当数を回収し、リサイクルすることを発表。将来的に自社製品の容器を100%リサイクル可能とするため、植物由来の樹脂の開発、容器の軽量化に取り組んでいる。
モンデリーズ 2025年までにすべての包装をリサイクル可能な資材で製造する。また、2020年までに6万5,000トンの包装資材を削減する。
P&G 同社で世界一のシェアを持つシャンプー「ヘッド&ショルダーズ」と食器用洗剤「フェアリー」の限定ボトルにつき、原材料の10%以上に海洋廃棄プラスチックを使用したリサイクル可能なボトルをテラサイクルなどと共同開発、欧州数カ国で販売。各商品ブランドに目標値を設定。
ディズニー 2019年半ばまでにプラスチック製ストローとマドラーを廃止する(それぞれ年間1億7,500本と1,300万本の削減)。今後数年でディズニーホテル、船内のアメニティをリフィル可能なものに変更し、室内のプラスチック製品を80%削減する(日本以外)。ポリスチレンカップの撤廃、プラスチック製袋の削減を宣言。
マース 2025年までにすべての包装資材をリサイクル可能にする。
出所:
各社プレスリリース、サステナビリティに関するレポートを基にジェトロ作成

州・自治体レベルの取り組みでは、カリフォルニアが先行

一方、行政府の取り組み状況をみると、プラスチック製袋に関する規制を導入する自治体数は、カリフォルニア州が140と最多で、マサチューセッツ州、ワシントン州と続く(表3参照)。プラスチック製ストロー利用に関する規制を導入する自治体もカリフォルニア州に9つあり、2018年9月には、フルサービスのレストランでのプラスチック製ストローの提供を禁止する法案が成立した(2018年10月24日記事参照)。同法は2019年1月に施行予定で、州規模でプラスチック製ストローの提供を規制するのは、全米で初めてとなる。

表3:プラスチック製袋、ストローに関する規制を導入する自治体数
所在州 自治体数 (袋) 自治体数 (ストロー)
カリフォルニア 140 9
マサチューセッツ 69 0
ワシントン 19 2
ニューヨーク 16 0
メーン 15 0
ニュージャージー 12 1
テキサス 11 0
その他 59 2
合計 341 14
出所:
プラスチック製袋関連規制は「フォーブズ」9月20日記事、プラスチック製ストロー関連規制は「インベスタープレイス」7月2日記事よりジェトロ作成

スターバックスのお膝元であるシアトル市(ワシントン州)では、2018年7月から、飲食物の販売を行う事業者に対して、ストローをはじめとしたプラスチック製食器類の使用禁止を決定した。同市では、2008年に包装資材と食器を含む使い捨て食品サービス品目をすべて再利用もしくは堆肥化が可能なものにする条例を制定したが、使い捨てのスプーンなど、代替品が見つからない特定のプラスチック製品に対しては規制対象から除外されていた。

一方で、州政府が自治体に対し、プラスチック製品に規制を敷くことを禁じた事例もある。ミシガン州議会は2016年、州内の各自治体がプラスチック製品の利用、廃棄、販売の禁止や制限、また料金の請求や税金を課すことを禁止する法令を制定した。州内のフードサービス事業者約4,500社が加入しているミシガン・レストラン協会(MRA)は、各自治体によるツギハギのような追加規制へ適応するのは困難として、同法令の制定を強く支持していた。同様の規制はアリゾナ州、アイダホ州、ミズーリ州などにもみられる。

他方、連邦レベルで特定のプラスチックの製造を禁止するものとしては、オバマ前大統領時代の2015年12月に「マイクロビーズ禁止水質法PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(198KB) 」が制定されている。マイクロビーズは、角質除去や研磨効果があるため、洗顔料や歯磨き粉、化粧品など、さまざまなトイレタリー製品に使用されているが、下水処理場で除去ができずに湖や海に流出、小魚や野生動物が誤飲し、食物連鎖に影響を与える可能性も指摘されている。米国では2017年7月から同物質を含むリンスオフ化粧品(歯磨き粉など)の製造が禁止され、2018年7月からは州をまたいでの流通が禁止されている。

トランプ大統領は、2017年6月にパリ協定からの離脱を表明し、オバマ前政権が進めた石炭火力発電所の二酸化炭素排出規制の撤廃案を出すなど、環境保護よりも規制緩和に重点を置いている。ただ、海洋プラスチック問題については、2018年10月に国家海域保護法案(S.3508外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )に署名した。この法律は、米国海洋大気庁(NOAA)の海洋ごみプログラムへの2022年までの予算を措置するとともに、諸外国の廃棄管理の改善や米国海域の水質浄化を図るもの。トランプ大統領は、「他国が米国の海域をごみ廃棄場にするのを防ぐために、最大限の措置を継続する」と述べている外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

政府主導の取り組みで世界をリードするカナダ

米国の隣国カナダの国土は3つの大洋に囲まれ、その海岸線は約20万2,080キロと世界最長。カナダ国民の5人に1人は沿岸地域に生活基盤を持ち、国民は海岸に漂着するごみの多さを深刻に捉えている。全国規模で実施されている海岸清掃活動「グレート・カナディアン・ショアライン・クリーンアップ」は、1994年の始動から累計約80万人が参加していることからも、海洋ごみ問題への意識の高さがうかがえる。同プロジェクトが発表した2017年に最も回収されたごみリストをみると、プラスチック片・梱包(こんぽう)材をはじめ、ペットボトル、プラスチック製袋、ストローなどが目立ち、ここでも廃プラスチック対策は喫緊の課題となっている。

カナダ連邦政府も2018年7月までに、マイクロビーズを含むトイレタリー製品の製造、輸入、販売を禁止(自然健康製品と非処方薬の販売は除く)しており、2019年7月からは、マイクロビーズを含む自然健康製品と非処方薬の販売も禁止となる。

2018年6月にケベック州シャルルボワで開催されたG7サミットでは、カナダ政府の主導により「健全な海洋および強靭(きょうじん)な沿岸部コミュニティーのためのシャルルボワ・ブループリント」が採択され、海洋プラスチック廃棄物などの生態系への脅威の緊急性を認識するとともに、より資源効率的で持続可能なプラスチック管理への移行にコミットしていくことが確認された。また、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国および欧州連合(EU)首脳は、「G7海洋プラスチック憲章」に署名PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(873KB) しており、2030年までにプラスチック包装の55%をリサイクルまたは再利用し、2040年までにはすべてプラスチックを回収するよう産業界や政府と協力するとしている。

2018年9月中旬にノバスコシア州ハリファックスにて開催した「環境・海洋・エネルギー大臣会合」の場において、カナダ政府は2030年までに連邦事業における無害廃棄物の75%をリサイクルなどで転換することを約束。さらに、開発途上国の廃プラスチック問題解決のための支援として、世界銀行を通じて国際ファンドへの6,500万カナダ・ドル(約52億6,500万円、Cドル、1Cドル=約81円)拠出や、海洋プラスチックごみの流出を防ぐカナダ発のイノベーションや技術支援のために1,200万Cドル(約9億7,200万円)を投じることを発表しており、カナダ政府が一丸となって海洋問題に対峙していく姿勢を示した。

米国とカナダにおいて、プラスチック廃棄物の削減や循環的利用など、規制の導入や企業の取り組みは今後さらに活発化していくと予想される。米コンサルティング企業マッキンゼーの調査によると、プラスチック廃棄物の再資源化により、化学分野においては2030年までに年間約550億ドルの新たな利益源が創出されるとしている。前述のように、米国ではマイクロビーズを含む一部化粧品などの製造や販売が禁止され、カナダ、フランス、英国などでも類似規制が導入されている。これらの規制を受けて、化粧品・消費財などの関連産業は代替素材への切り替えを行っているが、こうした取り組みによって新たな商機が生まれている。国内でプラスチックを製造する化学メーカーや梱包材産業なども、廃プラスチック対策を大いに商機と捉えてほしい。


注:
2010年9月、企業、政府、研究機関などと連携し、サーキュラー・エコノミーへの移行を目的として設立された。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課北米班(執筆時)
野口 真緒(のぐち まお)
2018年、ジェトロ入構。外資メーカー等勤務を経て現職。