交通インフラ整備の実態
近代化が進むインド商業都市ムンバイ(前編)

2026年6月29日

インド最大の金融・商業都市であるムンバイでは、国内の経済成長の中心地として、近代都市化に向けたインフラ整備を軸とした大規模な都市開発が急速に進んでいる。一方で、開発の進展に伴い交通問題や環境汚染などの深刻な問題も浮上している。

本連載では、ムンバイの代表的な開発プロジェクトである「ムンバイ・メトロ計画」「ダラビ再開発計画」「新都市開発(ナビムンバイ)」について、前編・中編・後編の3部構成で、その実態を整理する。

インド最大の金融・商業都市:ムンバイ

ムンバイはインド西部マハーラーシュトラ州に位置する国内最大級の都市で、2011年実施の国勢調査(注1)によれば、都市人口約1,800万人を擁する経済の中心地だ。同地域には、インド準備銀行(RBI、中央銀行)やインド証券取引委員会(SEBI)といった主要金融機関が立地している。中心地のバンドラ・クルラ・コンプレックス(BKC)地区には外資系企業が多く進出しており、国内外の経済活動を支える中心的役割を担っている。


BKC地区(オフィスエリア街)の様子(ジェトロ撮影)

一方で、急速な都市化と人口流入の増加によって、環境問題や交通渋滞といった深刻な都市問題に直面している。中心部にあるダラビ地区は、約2~2.5平方キロメートルの限られた区域の中に約70~100万人が居住する超過密地区だ。インフラ整備も不十分であり、廃棄物処理機能の不足や大気汚染といった環境問題も引き起こしている。また、それ以外の各地区でも人口増加に対して交通インフラの整備が追いつかず、慢性的な交通渋滞が発生している。このように、ムンバイでは過密化、環境悪化、交通渋滞といった問題が複合的に影響し合い、都市の持続的発展を阻害している。これらの課題を解決し、生活環境を改善するためには、包括的な都市開発が不可欠と考えられる。


ムンバイ(ダラビ地区付近)の廃棄物(ジェトロ撮影)

国有鉄道の混雑も深刻化する事態に

公共交通機関の過密化も深刻な問題となっている。インドには鉄道省が所有・運営する国有鉄道(国鉄)があり、1853年に初の旅客列車がムンバイ~タネ区間で運行を開始した。1951年には国有化され、現在では世界最大級の公共交通機関として知られている。国鉄はインド全土で18の区域に分けられており、ムンバイには西部鉄道と中部鉄道が通っている。これらは世界で最も混雑する鉄道の1つであり、現地紙(注2)によれば1日の利用者は双方合わせて約1,000万人に上るという。


通勤時のバンドラ駅(西部鉄道)の様子(ジェトロ撮影)

全14路線、全長300キロ超のメトロ計画

前述の状況を踏まえ、2004年5月、「交通渋滞の解消」と「国鉄の混雑緩和」を目的に作成されたムンバイ・メトロ計画「Mumbai Metro Master Plan」がムンバイ都市圏開発公社(MMRDA)によって承認された。計画では9路線・約146キロメートルに及ぶ大規模な都市鉄道ネットワークが構想され、交通未整備地域の改善と都市の移動効率向上が目的とされている。現在はその路線区域が拡張されており、最終的には全14路線が開通し、全長約337キロメートルとなる見込みだ。

図1はメトロ各路線の開通状況および路線区間を示しており、メトロ第1号となる1号線は2014年に全線開通した。全長約11.4キロメートル、全12駅から構成されており、東西(ベルソバ~ガートコーパル間)を結ぶ初の鉄道路線だ。当路線の開通により、自動車移動では渋滞時70分ほどかかる距離を、所要時間約20分で移動可能となった。その後、2022年に2A号線と7号線、直近では2025年に3号線が全線開通した。

図1:ムンバイ周辺におけるメトロ路線の概観図(注)
路線・区間。全線開通。1号線 ベルソバ ~ ガートコーパル。2A号線 ダヒサール・イースト ~ DNナガル。3号線 アーレイ ~ カフ・パレード。7号線 ダヒサール・イースト ~ アンデリ・イースト。部分開通。2B号線 DNナガル ~ マンダレ チェンブール~マンダレまで開通済み。9号線 ダヒサール・イースト ~ ミラ・バヤンダル。ダヒサール・イースト ~ カシガオンまで開通済み。建設中。4号線 ワダラ ~ カサールバダバリ。5号線 タネ~カリヤン。6号線 ロカンドワラ ~ ビクロリ。7A号線 アンデリ・イースト ~ チャトラパティ・シバージー・マハラージ国際空港 第2ターミナル。

注:計画段階の路線は除く。建設中の路線は点線で表記。
出所:MMRDA、ムンバイメトロレール公社(MMRCL)の公式サイトを基にジェトロ作成

3号線は初の全線地下を走る路線であり、開通式にはナレンドラ・モディ首相も出席し、「地下を走るこのメトロは、発展するインドを象徴する存在だ」と述べた(2025年10月17日付ビジネス短信参照)。当路線は、チャトラパティ・シバージー・マハラージ国際空港と直結しており、空港から市中心部や南部の観光拠点へのアクセスが大幅に改善された。また、現在建設中(2026年内の開通予定)で、7号線の延伸区間に当たる7A号線が開通すれば、7号線も空港直結路線となり、さらなる利便性の向上が見込まれる。


メトロ3号線を利用する様子(ジェトロ撮影)

日本政府機関も関与、インド初の高速鉄道計画

インド初の高速鉄道計画「ムンバイ~アーメダバード高速鉄道(Mumbai-Ahmedabad High Speed Railway:MAHSR)」の大規模インフラ建設が進行中だ(注3)(図2参照)。全長約508キロメートルでムンバイとグジャラート州アーメダバードを結び、時速約320キロメートルで運行する。ムンバイのBKC地区とアーメダバードを約2時間で結ぶことで、従来の長時間移動を大幅に短縮し、都市間の経済連携強化を目的としている。本計画は鉄道省を通じた中央政府と、グジャラート州政府およびマハーラーシュトラ州政府の共同出資によって設立された国家高速鉄道公社(NHSRCL)によって実施されている。推定費用は約170億ドル(税抜き)で、その約8割が、日本の政府機関である国際協力機構(JICA)の支援を受けた日印共同プロジェクトである点が特徴だ(2018年6月15日付地域・分析レポート参照)。

図2:ムンバイ~アーメダバード間高速鉄道計画(MAHSR)の路線図
ムンバイ~アーメダバード間高速鉄道計画(MAHSR)の路線図。ムンバイ、タネ、ビラール、ボイサール、バピ、ビリモラ、スーラト、バルーチ、バドーダラー、アナンド/ナディアド、アーメダバード、サバルマティ。

出所:NHSRCL提供資料を基にジェトロ作成

また、本計画では日本の新幹線技術が導入されており、高速運行だけでなく、自動列車制御による高い安全性や定時性、専用軌道による安定運行が実現される。路線は主に高架構造で建設され、トンネルや海底トンネルなどの高度な技術も用いられている。さらに、各駅はほかの交通機関と連携した拠点として整備され、地域開発や経済成長への貢献も期待されている。

長期的視点での経済効果に期待

ここまで都市開発に向けた「メトロ計画」と「高速鉄道計画」について述べてきたが、全てが順風満帆に進んでいるとは言い難い。現在、メトロの開通状況は4路線(1号線、2A号線、3号線、7号線)を除いて半数以上が部分開通または建設中であり、同時多発的に建設が進められている。この影響で、各地で相次いで発生する渋滞が深刻化しており、特に幹線道路上での工事に伴う車線規制やバリケードの設置による影響は甚大だという。


BKC地区付近における2B号線の工事の様子(ジェトロ撮影)

これらの問題は現地紙でもたびたび報じられており、行政や警察も渋滞悪化の主要因として認識している。また、メトロ利用者によれば、各路線同士が完全に接続されておらず、「乗り換えの利便性」に課題があると指摘されている。具体的には、乗り換え時に一度改札を出て屋外を移動しなければならない場合もあり、日本の都市鉄道のような円滑な乗り換え環境とは異なる状況にある。さらに、現在のメトロ計画は路線建設そのものに重点が置かれている傾向が見受けられる。仮に全路線が開通したとしても、乗り換え動線の改善や駅間接続の強化といった追加的な整備が進められなければ、全体としての利便性は十分に向上しない可能性がある。

一方で、1号線開通による「東西移動ルートの確保」や、3号線開通による「市内南部から国際空港への直接アクセスの実現」など、メトロ計画の効果が着実に表れているのも事実だ。短期的には「交通環境の悪化」や「乗り換えの利便性」といった課題もあるが、長期的には都市交通の改善に寄与する重要な大規模プロジェクトの1つだと考えられる。


注1:
政府は、約16年ぶりに2026年から2027年にかけて次回調査を実施する方針を公表している。 本文に戻る
注2:
2026年2月18日付ミッド・デイ紙参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
注3:
2026年1月3日付フォーチュン・インディア紙参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、ジェトロ調査部アジア大洋州課を経て2026年4月から現職。