ムンバイ~アーメダバード間高速鉄道計画の今(インド)
インド高速鉄道公社に聞く

2018年6月15日

2023年の全線開通を目指し、インドで日本の新幹線方式を採用した高速鉄道整備が進んでいる。2018年6月ごろから本格的な入札が開始される見込みだ。土木、軌道、車両、電気通信などの分野で日本企業の積極的な参画が期待される。ジェトロは5月24日、高速鉄道の建設と運営を担うインド高速鉄道公社の幹部にその進捗状況を尋ねた。

日本の新幹線方式を採用し、インド西部マハーラーシュトラ州ムンバイとグジャラート州アーメダバード間をつなぐ高速鉄道(MAHSR: Mumbai Ahmedabad High Speed Railway)の計画が進んでいる。新路線は、ムンバイ~アーメダバード間505キロを2時間7分で結ぶ計画。12駅を配置し、最高時速320キロで走行する。路線はほぼ高架あるいは地下となり、車両や運行システムは日本の新幹線方式を採用する。当初の調達車両数は10両24編成を計画している。総工費は約9,800億ルピー(約1兆5,680億円、1ルピー=約1.6円)を見込み、用地取得費用などを除く工費の約8割は日本政府[国際協力機構(JICA)]による開発援助(円借款)で賄われる予定だ。

高速鉄道の建設、調達、運営に当たっては、日本からインドへの技術移転を伴うかたちで進めることが日印政府間で合意されている。インド政府が掲げる「メーク・イン・インディア」の促進を狙った現地調達率の設定などが懸念されていたが、両国の官民関係者が参画する専門委員会が設置され、本専門委員会において技術や製品分野ごとの現地調達や技術移転の方針に一定の結論が出た。2018年6月ごろから本格的な入札が開始される見込みだ。

日本企業が本プロジェクトに参画するには、土木や電気工事などのメインコントラクターとして応札するか、もしメーカーであればインド企業と協業(合弁や技術支援など)するか、または自社工場で現地生産するなどの選択肢があるだろう。2022年までという期間を考慮すれば、今後インド進出やパートナーシップ構築への動きが活発化すると予想される。ジェトロも日本企業の支援体制を強化している(注)。

MAHSRの建設と運営を担うインド高速鉄道公社(NHSRCL: National High Speed Rail Corporation)はニューデリーに本部を構え、アーメダバード、バドーダラ、スーラト、ムンバイにプロジェクト・オフィスを持つ。今回、入札開始直前の時機を捉え、NHSRCLのプラシャント・ミシュラ部門長(電力担当)に本プロジェクトの進捗状況などについて、2018年5月24日にヒアリングした。

図: ムンバイ~アーメダバード間高速鉄道計画(MAHSR)路線図
インドの西部マハーラーシュトラ州ムンバイと、グジャラート州アーメダバード間、505キロを結ぶ計画。ムンバイとのアーメダバード間には、スーラトやバドーダラなどの主要都市があり、本計画はこれらを通る見通し。
出所:
NHSRCL提供資料を基にジェトロ作成

入札開始、移設作業が進む

質問:
土地収用の状況は。
答え:
用地取得通知などの初期手続きはおおむね終えている。一部で土地所有者の説得に当たっている場所があるが、インド政府が全面的に支援している。今年中には全ての土地収用を終える見込みだ。また、線路を敷くルートの特定は完了しており、それに沿ってルート上の既存の建物や施設などの移設作業を進めている。この作業を2019年7月ごろまでには完了させたい。全線開通は2023年を予定しているが、インドが独立75周年を迎える2022年の部分開通を目指している。
質問:
入札に向けた準備状況は。
答え:
現在はコスト試算やJICAでの設計や規格などに係る承認作業などが進んでおり、2018年7月をめどに全ての分野の入札が開始できる見込み。入札後に選定期間などがあるため、コントラクターが決まるのは2019年3月ごろを見込んでいる。

日印企業の協力で進めるインドでのものづくり

質問:
日印企業の協力における技術移転の進捗は。
答え:
日印企業の理解の相違など課題はまだ多いが、当初に比べればコミュニケーションが円滑になり、両企業の関係は進展していると感じる。当事業はインドでのものづくり「メーク・イン・インディア」を進めることを目標としているが、全ての製品をインドで製造できないことは理解している。既に日印の政府間協議と官民関係者による専門委員会で土木、軌道、車両、電気通信の4分野において、製品・技術分野ごとにインド、日本あるいは第三国のいずれかから調達するかが合意されている。進出日系企業による現地生産や、日印の合弁企業による生産品目も「メーク・イン・インディア」と見なす。ぜひ技術を持った多くの日印企業に参画いただきたい。
質問:
新幹線の乗客のターゲットは。
答え:
運賃は現在、従来型鉄道の1等エアコン車料金の1.5倍を想定している。乗車区間や距離により、乗客のニーズは異なると理解している。ムンバイ~アーメダバード間の利用者にとっては、飛行機が競合する交通手段となる。ただし、空港は街の中心地から遠く、搭乗までの一定の待ち時間があるため、移動時間トータルでは、目的地までの移動時間が軽減される利用者の方が多いはずだ。新幹線は優位性を有する移動手段の1つとなるだろう。区間によっては、通勤や通学で日常的に利用する乗客も想定している。また、ビジネス客の利用を見込み、ムンバイでは、同地のビジネスの中心地の1つとなっているBKC(バンドラ・クルラ・コンプレックス)の地下に設置される計画だ。
質問:
目下の課題は。
答え:
まずは土地収用を完了することだ。土地所有者はもとより、州政府などさまざまな関係者との調整が重要となる。また開通までの時間が限られているため、迅速に工事を進めていかなければならない。特に既存路線が敷設されているアーメダバードと同州バドーダラ間の工事や、高い技術を必要とするムンバイ周辺の海底トンネル建設などは難易度が高い。
建設などハード面に加えて、人材育成も急務といえる。現在バドーダラに研修施設の建設を進めており、2020年6月に運営を開始する予定。当初この施設で3,000人ほどを研修し、そのうちの300人強を日本に派遣し、研修させる計画だ。
研修生には、より多くを学習できるよう日本語も学ばせ、その能力によってインセンティブを与える考えだ。NHSRCLの職員も、本プロジェクトに関係する日本のコンサルタントら関係者とのコミュニケーションを円滑化するため、日本語教師を招き、全員が日本語の学習に励んでいる。

注:
MAHSRに向けて、ジェトロが強化した支援サービスは以下のとおり。
(1)ビジネスマッチングサイトTTPP「インド鉄道産業向け特集
TTPP内に、鉄道関連事業者に特化した専用ページを開設し、インド企業とのマッチングを支援している。
(2)ビジネス・サポートセンター(BSC)
BSCは、インドでのビジネス立ち上げに活用できる貸しオフィスで、投資アドバイザーが常駐する。現在はニューデリー、ムンバイ、チェンナイで展開しており、アーメダバードにも新設する予定だ。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課を経て、2015年7月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
山本 直毅(やまもと なおき)
2011年、株式会社日本政策金融公庫入社。2016年4月からジェトロ出向。ビジネス展開支援部新興国進出支援課を経て、同年10月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。