新都市ナビムンバイ
近代化が進むインド商業都市ムンバイ(後編)

2026年7月6日

近年、高速道路の開通や新空港の建設により、インド西部マハーラーシュトラ(MH)州の州都ムンバイからのアクセスが向上し、近代都市としての存在感が高まりつつあるナビムンバイ。本稿では、当地区の都市開発について、その一部を紹介する。

都市開発の背景

ナビムンバイはムンバイの東部に隣接している(図1参照)。ムンバイは急激な人口増加に伴い、住宅不足や交通渋滞などの問題が深刻化していた。そのためMH州政府は、人口と都市機能の分散を目的に当該地区の開発を1970年代から開始した。都市開発は都市産業開発公社(CIDCO)によって推進され、住宅、商業施設、工業地域などが計画的に整備されている。また、都市は複数の地区(ノード)に分けられ、それぞれに住宅、商業、工業などの機能を配置することで、バランスの取れた都市構造を目指している。現在では、IT企業の進出や空港建設計画の進展により、ムンバイ都市圏の重要な一角として発展を続けている。以下では、本プロジェクトの核ともいえる「インド最長の海上道路の開通」「ナビムンバイ国際空港の開港」「鉄道直結型都市シーウッズ」について述べる。

図1:ナビムンバイの所在地
ナビムンバイの所在地。ムンバイ(左)、ナビムンバイ(右)

出所:ジェトロ作成

分断された都市構造の克服へ:海上道路の開通

ナビムンバイはムンバイ湾を挟んで形成された都市であり、従来は陸路による遠回りの移動が必要であった。この問題を解決するために建設されたのが、2024年1月に開通したムンバイとナビムンバイを結ぶ「アタル・セトゥ(Atal Bihari Vajpayee Sewri-Nhava Sheva Atal Setu)」だ。この海上道路は、ムンバイ中心部とナビムンバイを直接接続する国内最長の海上道路(全長21.8キロメートル)であり、これまで陸路で約2時間かかっていた移動時間が約20分へと大幅に短縮された。総工費は2,120億ルピー(約3,600億円、1ルピー=約1.7円)で、そのうち約70%は国際協力機構(JICA)による円借款で支援された。本海上道路は2018年に着工し、日本企業も建設に関わった(2024年1月18日付ビジネス短信参照)。

アタル・セトゥの建設は、ナビムンバイが単なる郊外都市ではなく、ムンバイと一体化した都市圏として発展する礎となったといえる。さらに、この海上道路の開通はナビムンバイ国際空港へのアクセス向上にも大きく寄与している。空港と都市部が効率的に結ばれることで、観光やビジネスの利便性が高まり、地域経済の活性化が見込まれる。このように、海上道路は交通インフラの改善にとどまらず、都市の成長や機能分散を促進する重要な要素となっており、ナビムンバイとムンバイ都市圏の発展を支える基盤となっている。

図2:ムンバイとナビムンバイを結ぶ海上道路(アタル・セトゥ)
ムンバイとナビムンバイを結ぶ海上道路(アタル・セトゥ)。ムンバイ(セウリ)、ナビムンバイ方面(チルレ)、アタルセトゥ(全長21.8キロ)。

出所:ジェトロ作成


アタル・セトゥ(ジェトロ撮影)

ムンバイにおける「ツイン空港体制」の実現

ナビムンバイ国際空港は、アダニ・グループが中心となって開発・運営を担った官民連携(PPP)の国家的インフラプロジェクトだ。総事業費は約20億ドルで、1990年代から構想が始まった長期計画だ。ムンバイにある既存のチャトラパティ・シバージー・マハラジ国際空港は、年間5,000万人規模の旅客を扱い、慢性的な混雑が課題となっていた。本空港はその代替・補完機能として、ナビムンバイのウルウェ地区に建設され、「都市機能の分散」と「交通効率の改善」を企図している。

同空港は2025年10月に開港式が行われ、同年12月25日から商業運航を開始した。第1期では、滑走路1本とターミナル1棟が整備され、年間約2,000万人の旅客処理能力を備えている。また、当初は国内線を中心に段階的に運航を拡大し、2026年中には24時間運用体制への移行が進められている。将来的には複数の滑走路とターミナルを段階的に整備し、年間約9,000万人規模に拡大させる計画であり、インド有数の航空ハブへと成長する見込みだ。また、近接するジャワハルラール・ネルー港(JNPT)との連携により、航空貨物と海上物流を結ぶ統合物流拠点としての役割も期待されている(2025年10月16日付ビジネス短信参照)。


ナビムンバイ国際空港(ジェトロ撮影)

一方で、課題として空港へのアクセスインフラの整備が挙げられる。現時点では道路中心のアクセスに依存しており、鉄道やメトロの延伸計画はあるものの、完成には時間を要する。そのため、初期段階では旅客利用よりも貨物利用が先行する可能性が指摘されている。総じて、ナビムンバイ国際空港は、インドの急成長する航空市場を支える戦略的拠点であり、ムンバイの「ツイン空港体制」を構築することで、地域経済および国際物流の発展に大きく寄与することが期待される。こうしたインフラ整備の進展は、不動産、物流、リテールなどの分野で新たなビジネス機会を生む可能性があり、企業にとっては進出や投資判断の重要な指標となる。

鉄道直結型の次世代都市:シーウッズ

シーウッズは、ナビムンバイのネルル地区に位置し、近年急速に発展した高級住宅・商業複合地域として注目されている。1990年代には、湿地帯やマングローブが広がる地域であったが、CIDCOによる計画的な都市整備により、現在では近代的インフラが整った都市へと変貌を遂げている。最大の特徴は、交通と都市機能を一体化した「公共交通志向型開発(Transit Oriented Development:TOD)」が進められた点だ。その中心に位置するのが2017年に開業した「ネクサス・シーウッズ(Nexus Seawoods)」であり、住宅、商業施設、オフィスを統合した複合開発だ。この施設はムンバイ近郊鉄道の「シーウッズ=ダラベ=カラベ」駅と直結しており、通勤・買い物・娯楽を徒歩圏内で完結できる利便性を実現している。


ネクサス・シーウッズ内の様子(ジェトロ撮影)

商業面では、同モールは約100万平方フィート(1平方フィート=0.092平方メートル)の規模を誇り、数百の国内外ブランド、映画館、飲食施設などを備えたナビムンバイ有数のショッピング・レジャー施設となっている。交通面でも優位性は高く、ムンバイ都心のチャトラパティ・シバージー・マハラジ・ターミナス(CSMT)やタネ方面へ直通するハーバー線に加え、「パームビーチロード」や「シオン・パンベル・ハイウェイ」などの主要道路にも接続している。さらに、海上道路のアタル・セトゥやナビムンバイ国際空港の整備により、広域交通ネットワークの強化が進んでいる点も特徴的だ。居住環境としては、海岸に近い立地により自然環境に恵まれつつ、教育機関や医療施設などの都市機能も充実している。


パームビーチロード近辺の様子(ジェトロ撮影)

ナビムンバイの今後の展望

ナビムンバイは、CIDCOによる計画的な都市開発を背景に、居住・産業・交通といった多様な機能を段階的に整備しながら発展を続けている都市だ。特に近年は、海上道路アタル・セトゥの開通やナビムンバイ国際空港の整備により、従来の郊外拠点から、ムンバイ都市圏の中核を担う存在へと大きく変貌を遂げている。また、シーウッズのような鉄道直結型の都市開発は、今後のインド都市開発のモデルケースとしても注目される。これらの動きは単なるインフラ開発にとどまらず、都市機能の分散や生活の質の向上にも寄与している点で重要だ。今後、交通網のさらなる充実や空港機能の拡張が進むことで、ナビムンバイは国際都市としての地位を一層高め、インド西部における新たな経済・生活拠点として発展していくことが期待される。

持続可能な近代都市の実現を目指して

本連載で取り上げたムンバイの都市開発計画(メトロ、ダラビ再開発、ナビムンバイ)は、いずれも都市の構造転換を支える重要な政策として位置付けられる。メトロ計画は慢性的な交通渋滞の緩和と都市機能の効率化を促し、都市全体の生産性向上に寄与する。ダラビ再開発は住環境を改善しつつ非公式経済を取り込み、住民のコミュニティを維持するという社会包摂型の都市形成を目指す点が特徴的だ。さらに、ナビムンバイの都市開発は、人口・産業の分散を通じて過密問題を緩和し、持続可能な都市成長を支える役割を担う。

これらは日本の高度経済成長期における都市開発と類似し、急速な経済発展を支える基盤整備として重要だと考える。一方で、日本では開発の進展後に公害や環境悪化といった深刻な問題が顕在化した。ムンバイにおいても同様のリスクが存在するため、今後の都市政策では単に経済成長を目指すだけでなく、環境保全や持続可能性(サステナビリティー)への配慮を含め、統合的に開発を進めることが不可欠だ。

執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、ジェトロ調査部アジア大洋州課を経て2026年4月から現職。