高付加価値産業が集積するコスタリカ、FTA網拡大の動きも
FTZを軸に豊富なインセンティブ

2026年6月25日

コスタリカは、2014年に米国インテルの製造部門が撤退した後から、精密機器や医療機器などの高付加価値産業の集積地として発展した。フリーゾーン(FTZ)を中心としたインセンティブに加え、豊富な高度人材を背景に投資を呼び込んできた。近年は製造拠点だけでなく、研究開発(R&D)拠点を当地に構える企業も少なくない。通商面では、2026年5月に環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)への加入交渉が妥結するなど、他国との通商関係の強化にも積極的だ。一方、コスタリカは依然として米国との経済的な結びつきが強く、2025年1月に就任したドナルド・トランプ大統領の政策の影響を受けやすい。本稿では、コスタリカの貿易・投資政策を整理しつつ、生産拠点および研究開発拠点としての可能性を多角的に考察する。

税制優遇だけでなく、FTZ独自の支援サービスも

コスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)によると、コスタリカの2025年の総輸出額は261億5,300万ドルで、そのうち精密・医療機器が110億2,700万ドルと、全体の42.2%を占める(図1参照)。電気・電子機器も輸出シェア16.2%と比較的高く、いわゆる高付加価値産業の輸出が多いのが特徴だ(注1)

図1:コスタリカの分野別輸出シェア(2025年)
精密・医療機器42.2%、電気・電子機器16.2%、農産品14.2%、食品10.4%、化学・医薬品4.6%、その他12.4%。

出所:コスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)

コスタリカに精密機器や医療機器産業が集積した背景には、米国インテルの半導体製造部門が大きく関わっている。インテルは1997年にコスタリカに進出したが、2014年にアジアへ製造部門を集約させる戦略をとり、同国から撤退した。コスタリカ政府はこれを受け、電気・電子分野の輸出減を補うことを目的に、国策として産業の多角化を強化した。外資企業の多くはフリーゾーン(FTZ)内に拠点を設置し、輸出品の製造工場や関連サービスが集積している。

FTZ内に拠点を設置するためには、投資金額や雇用人数に関する基準を満たす必要がある(注2)。製造拠点やサービス拠点の場合は、政府が指定する戦略分野に属することなど、追加の要件もある(表1参照)。

こうした要件を満たし、FTZに拠点を設置すると、操業に必要な設備の輸入に係る関税や付加価値税などの税制インセンティブを受けることができる。特に大きいのが法人所得税の減免だが、受けられるインセンティブの内容は、FTZが大都市圏(GMA)の内外によって異なる。コスタリカ政府としては地方の開発を促進したい狙いがあり、GMA外に位置するFTZに対するインセンティブの方が充実している(表2参照)。

表1:コスタリカのフリーゾーン内に入居するための主な要件注1:本表以外にも、投資の移転可能性などの要件があるため注意が必要。 注2:製造拠点の場合、分野要件はGMA内に立地する企業にのみ適用される。また、サプライヤー企業で生産の40%以上をFTZ入居企業に販売している場合、同要件は免除される。
項目 内容
投資規模 GMA内:15万米ドル(3年間で達成)
GMA外:10万米ドル(3年間で達成)
大規模製造プロジェクト:1,000万米ドル(8年間で達成)
雇用人数 原則として、入居時に企業自身が設定し、フリーゾーン制度の適用期間中、継続して維持する必要がある。
次の3区分については、最低雇用人数が定められている。
(1)大規模製造プロジェクト:100人
(2)ヘルスケアサービス:100人
(3)エコツーリズム関連施設:50人
分野
(製造・サービス拠点の場合)
次の戦略分野に該当すること
戦略分野(※):衣服・繊維、電気・電子機器、医療機器、自動車、精密機器、航空宇宙、医薬品・バイオテクノロジー、再生可能エネルギー、生産の自動化、先端素材、研究開発など
〔戦略分野(※)のサプライチェーンに含まれる関連産業も含む〕

注1:本表以外にも、投資の移転可能性などの要件があるため注意が必要。
注2:製造拠点の場合、分野要件はGMA内に立地する企業にのみ適用される。また、サプライヤー企業で生産の40%以上をFTZ入居企業に販売している場合、同要件は免除される。

出所:コスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)「フリーゾーンガイド」からジェトロ作成

表2:フリーゾーン入居によって受けられる法人所得税優遇の概要注:製造(大規模)は、投資額1,000万ドル超、雇用者100人超のものを指す。
業種 設置場所 税率
製造(通常) GMA内 1~8年目:6%
9~12年目:15%
13年目以降:30%
GMA外 1~6年目:0%
7~12年目:5%
13~18年目:15%
19年目以降:30%
製造(大規模) GMA内 1~8年目:0%
9~12年目:15%
13年目以降:30%
GMA外 1~12年目:0%
13~18年目:15%
19年目以降:30%
サービス業、商社など GMA内 1~8年目:0%
9~12年目:15%
13年目以降:30%
GMA外 1~12年目:0%
13~18年目:15%
19年目以降:30%

注:製造(大規模)は、投資額1,000万ドル超、雇用者100人超のものを指す。

出所:コスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)「フリーゾーンガイド」からジェトロ作成

人材育成では、PROCOMERが輸出企業の人材育成に係る費用の50~90%を補助する制度もある。同制度は2023年に開始され、これまでに100社以上の約7,000人に対する補助実績があるという。加えて、FTZ運営企業が無償で提供するサービスも、投資先としての魅力を高める取り組みの1つだ。コスタリカで最も大きいFTZの1つであるコロン・フリーゾーンでは、20万人以上の人材データベースを保有しており、ここから企業の採用をサポートする。そのほか、遠方からの通勤バスの運営や、周囲の道路インフラの整備なども行っている。また、カルタゴ州にあるラ・リマ・フリーゾーンでは、新規進出時の支援が手厚く、工場立ち上げに必要な部材・人材確保のサポートに加え、仮オフィスの貸し出しも行っている。

医療機器を中心にFTZ入居企業は右肩上がり

こうしたインセンティブなどの投資誘致政策の成果もあり、2024年時点でコスタリカのFTZには626社が入居している。インテルの製造部門が撤退した2014年の313社から倍増した。このうち、74%が外国企業となっている。入居企業の業種内訳を見ると、サービス関連企業が67%を占める。内訳には、シェアードサービスセンター(SSC)やリースサービス、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)などが含まれる。製造業では、精密・医療機器(全体の9%)が最多で、食品(同6%)、電気・電子機器(同4%)などと続く(図2参照)。

図2:FTZ入居企業の業種別内訳(2024年時点)
サービスが67%、精密・医療機器9%、食品6%、電気・電子機器4%、金属加工4%、プラスチック・ゴム製品3%、その他7%。

出所:コスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)

製造業の中でもコスタリカへの集積が進んでいるのが、医療機器分野だ。PROCOMERによると、2025年の売上高で世界上位25社に入る医療機器メーカーのうち、13社がコスタリカに進出しているという。代表的なのは、米国メドトロニックやアボットのほか、日本企業ではテルモも心臓外科手術関連製品や血液関連製品などの生産拠点を設置している。2025年5月には、同社の血液関連部門であるテルモBCTが新たに研究開発拠点の設置を発表した。完成品メーカーのほか、プラスチック・樹脂部品や金属加工部品などのサプライヤー、委託製造業者もFTZ内に入居し、エコシステムが形成されている。異なるFTZ間の売買にも関税がかからないため、現地調達を進める企業も多い。調達の8割をコスタリカ国内で行っている企業もあるという。

通商政策のキーワードは「多角化」

コスタリカは49カ国と自由貿易協定(FTA)を締結しており、FTA締結国との貿易額は全体の88.2%を占める(表3参照)。国別で最も貿易額が大きいのが米国で、全体の44.5%を占める。対米依存の高さは投資誘致の強みである一方、通商政策の変動に影響を受けやすい側面もある。そのほか、中国との貿易額も10.0%と大きく、特に対中輸入は47億1,200万ドルと、国別で2番目に多い。米国・中国の2カ国とFTAを締結しているのは、中南米諸国ではコスタリカのほか、ペルーとチリのみだ。

表3:コスタリカのFTA締結相手国と総貿易額に占めるシェア(単位:100万ドル、%)
国・地域名 2025年輸出額 2025年輸入額 貿易額シェア
FTA締結国合計 24,074.7 23,483.6 88.2
米国 13,173.4 10,834.1 44.5
EU 4,527.9 2,588.7 13.2
中国 681.6 4,711.8 10.0
メキシコ 339.9 1,457.2 3.3
グアテマラ 1,119.6 612.5 3.2
ニカラグア 878.2 207.8 2.0
パナマ 684.0 316.4 1.9
ホンジュラス 736.7 190.6 1.7
エルサルバドル 585.7 281.2 1.6
コロンビア 90.6 460.5 1.0
ドミニカ共和国 400.0 68.1 0.9
カナダ 142.2 314.2 0.8
チリ 42.7 401.1 0.8
英国 207.4 199.4 0.8
韓国 72.7 290.6 0.7
ペルー 135.1 141.1 0.5
EFTA 29.5 245.9 0.5
シンガポール 136.5 70.3 0.4
エクアドル 68.8 59.7 0.2
UAE 22.2 32.5 0.1
FTA非締結国合計 2,356.7 3,998.2 11.8
日本 368.3 728.2 2.0
マレーシア 325.3 425.2 1.4
ベトナム 78.5 221.6 0.6
オーストラリア 30.2 7.7 0.1
ニュージーランド 6.7 10.7 0.0
ブルネイ データなし 0.0 0.0
その他 1,547.8 2,604.7 7.7
合計 26,431.5 27,481.8 100.0

出所:ジェトロ「世界のFTAデータベース」、Global Trade Atlasのコスタリカのデータを基に作成

このように、FTAカバー率の高いコスタリカだが、さらなるFTA網拡大を通じて貿易相手国の多角化を図る動きもみせている。中でも大きなものがCPTPPへの加入で、2022年8月に加入申請を行い、2026年5月に交渉妥結に至った(2026年5月11日付ビジネス短信参照)。CPTPP締約国の中には既にコスタリカとのFTAを持つ国もあるが、日本、マレーシア、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、ブルネイとは初めてのFTAとなる。このほか、2025年4月にはアラブ首長国連邦(UAE)との協定が発効し、2025年12月にはイスラエルとの協定に署名するなど、中東諸国とのFTA拡大の動きもみられる。

FTA網拡大に動いている背景には、最大の輸出先(シェア49.8%)である米国のトランプ大統領による追加関税措置の影響もあるとみられる。コスタリカは米国とドミニカ共和国・中米・米国自由貿易協定(DR-CAFTA)を締結しているものの、同協定の原産地規則を満たすことで各種追加関税措置の対象外となるのは、繊維製品・衣類のみだ(注3)。また、コスタリカの主要輸出品である医療機器については、2025年9月から1962年通商拡大法232条に基づく調査が開始されている。同調査の結果によっては新たな追加関税が課される可能性もあり、そうなればコスタリカの輸出産業にとって大きなダメージとなる。マヌエル・トバル貿易相は、各メディアのインタビューで、輸出先や外国直接投資の出所を多角化する旨の発言をしている。ジェトロがインタビューを行ったコスタリカ貿易省の担当官も、「コスタリカはトランプ政権下で輸出先の多角化をしなければならない。CPTPPはそれを後押しするものだ」と述べた。

日本はコスタリカとのFTAがない国の中では最も貿易額が大きく、コスタリカから見て、輸出では第12位、輸入では第4位に入っている。コスタリカの対日貿易を品目別(HSコード4桁別)に見ると、対日輸出では医療用・獣医用機器(シェア87.2%)が圧倒的に多い。対日輸入では、乗用車(同26.0%)、集積回路(同15.0%)、コンデンサー(8.5%)などが上位に入っている。コスタリカの主要な対日輸入品目に対する一般関税率は0%のものが多く、例えば乗用車(HSコード8703)では、一部救急車や霊きゅう車を除いて関税が課されていない。自動車部品(HSコード8708)では、サスペンション部品やクラッチ・同部品が日本から一定数量輸出されているが、多くの品目で9%の関税が課されている。日本政府の発表(注4)によると、自動車部品は関税の即時撤廃で合意したとしており、日本にとっても関税削減効果は一定程度あるとみられる。

次なる戦略産業は半導体、外国投資を誘致できるか

コスタリカ政府は2024年3月に「半導体産業ロードマップPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.73MB)」を発表し、半導体関連投資誘致に向けて、人材育成の強化や税制インセンティブの拡充に取り組むとしている。背景には、米国バイデン政権下で成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)がある。バイデン前政権下では同法に基づき、同盟国やパートナー国との連携も含めた半導体の供給安定化を模索し、対コスタリカ投資における補助金などの支援が期待されていた。実際、米国商務省は2024年に、コスタリカでの半導体製造に向けた人材育成プログラムなどへの補助として、アリゾナ州立大学に対し1,380万ドルの拠出を発表している。一方、現トランプ政権では米国内での供給力強化に焦点が当てられており(2026年2月6日付地域・分析レポート参照)、同様の対外支援は確認されていない。

現状、コスタリカに拠点を持つ半導体関連企業はいるが、サービスや研究開発が主で、大規模に半導体製造が行われているわけではない。インテルは2020年12月にコスタリカでの後工程(組立・テスト)工場の再開を発表したが、リソース配分戦略の一環として、2025年から同機能をベトナムやマレーシアに段階的に移管している。PC・スマホなどの電子機器の組み立て拠点としてASEANの存在感が高まったことに伴う、アジアでの半導体需要増加の影響もあるとみられる(2026年5月20日付地域・分析レポート参照)。ただ、研究開発やコーポレート部門などは引き続きコスタリカに残るとしている。

こうした状況の中で、コスタリカとしては自国への投資メリットをさらに高める必要があるといえる。OECDは「コスタリカ半導体エコシステムの発展・推進外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と題したレポートの中で、半導体エコシステムを発展させるためには次の4点が重要だと述べている。(1)半導体産業ロードマップを基盤とし、各ステークホルダーの意見やデータに基づく半導体産業政策を継続すること、(2)貿易円滑化や企業手続きの簡素化、新規事業支援などを通してビジネス環境を強化すること、(3)より多面的に人材育成に取り組むこと、(4)物流網の整備など、半導体分野に必要なインフラへの投資を行うこと。2026年5月には前政権の流れを引き継ぐラウラ・フェルナンデス氏が大統領に就任した(2026年2月5日付ビジネス短信参照)。同氏は行政手続きの簡素化など、行政改革に積極的な姿勢をみせているが、今後どのように外国投資誘致を強化するのかが注目される。


注1:
コスタリカの産業構造については、2022年11月15日付地域・分析レポートも参照。 本文に戻る
注2:
WTOの補助金および相殺措置協定(SCM協定)は、輸出を条件として法人税を減免する措置や、輸出製品製造に用いる機械設備にかかる関税免除を輸出補助金と見なしている。そのため、製造企業がフリーゾーン制度を利用するための輸出量に関する要件はない。 本文に戻る
注3:
米国で生産ができないことなどを理由に、一部の品目はもともと追加関税措置の対象外となっている。例えば、2026年2月から開始した1974年通商法122条に基づく課徴金では、コスタリカの主要輸出品目であるバナナやパイナップルは対象外であり、コスタリカにとって農産品輸出への影響は比較的小さい。 本文に戻る
注4:
日本の内閣官房TPP等対策本部発表資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(547KB)本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課中南米班
加藤 遥平(かとう ようへい)
2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。