【コラム】サッカーW杯で日本と同組、コスタリカってどんな国?
ビジネスの側面から見たその魅力

2022年11月15日

サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会のグループリーグで日本と対戦するコスタリカ。日本ではあまりなじみのない人も多い国かもしれないが、そのコスタリカについて経済や産業などビジネスの側面からその魅力を紹介する。

高い1人当たりGDP

まず、一般的な経済指標としてGDPの数値だが、世界銀行によると、2021年のコスタリカの1人当たりの名目GDPは1万2,508.6ドルだ。購買力平価(PPP)では2万3,387.1ドルで、1万9,000ドル台の中国やタイを上回っている。

社会指標としては、まず貧困率の低さが挙げられる。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の推計によれば、2020年のコスタリカの貧困率は19.4%で、同推計の対象となっている中南米15カ国の中ではウルグアイ、チリ、ブラジルに次いで4番目の低さで、中米の中では最も低い。また、一般的に治安が悪いと言われがちな中南米諸国だが、国連薬物犯罪事務所によれば10万人当たりの殺人件数は11.19人(2020年)と、メキシコ(28.37人)やブラジル(22.45人)を大幅に下回っている。大学進学などの後期高等教育就学率(注)も30.3%と、中南米諸国の中ではアルゼンチンやブラジル、メキシコといった主要国を上回っている。

高付加価値産業が集積

続いて、コスタリカの経済構造を見ていく。2021年の経済活動別GDPによると、製造業のシェアが最も大きく、13.6%を占める(図1参照)。これは、後述する通り、付加価値の高い精密機器や医療機器産業が集積していることが一因にある。また、商業・宿泊・飲食業も11.4%を占めている。コスタリカは豊かな自然を誇り、それを活用したエコツーリズムも盛んであるため、観光関連の産業のシェアが大きい。なお、2021年は新型コロナウイルス感染拡大による入国規制が設けられていたため、GDP比も感染拡大以前よりは小さくなったが、2022年4月1日以降、水際措置は全て撤廃されている。2022年は観光産業の復活に期待がかかる。

図1:コスタリカの経済活動別GDP(2021年)
農林水産牧畜業は4.5%、鉱業は0.3%、製造業は13.6%、建設業は4.1%、電気・水道は2.7%、商業・宿泊・飲食業は11.4%、運輸・倉庫・情報・通信業は9.0%、金融・保険業は6.1%、不動産業は7.9%、企業向けサービス業は12.8%、行政は4.0%、教育・保健は13.5%、その他は10.2%。

出所:コスタリカ中央銀行

コスタリカには精密機器や医療機器産業が集積しており、コスタリカ投資促進機構(CINDE)によると、米国企業を中心に医療機器産業だけで92社が進出しているという。日本企業もテルモが進出しており、2022年9月には人工肺と人工心肺装置を接続するチューブが含まれた「人工心肺用回路システム」を生産する工場の開業を発表。同社にとって、コスタリカで3拠点目の工場だ。

コスタリカに精密機器や医療機器産業が集積した背景には、2014年の米国インテルの半導体製造部門の撤退がある。インテルは世界戦略として、同製造部門のアジアへの移管を行った。インテルは1997年にコスタリカに進出したが、その当時コスタリカは競争力を失っていた繊維産業から電機・電子産業への転換を図るため、同分野の企業誘致に力を入れていた。インテルの進出は、同国のハイテク産業の成長にも大きく寄与した。しかし、同社の半導体部門撤退後、電機・電子分野の輸出減を補うことを目的に、コスタリカは国策として産業の多角化を強化。フリーゾーン内を中心に精密機器や医療機器産業が集積した。

同分野の輸出も順調に伸びており、コスタリカ貿易振興機構によると、2021年は52億2,900万ドルと過去最高を記録した(図2参照)。輸出先は67.3%を米国が占めている。

なお、インテルの半導体製造部門だが、コスタリカから撤退後、2020年に操業の再開を決定した。サプライチェーンの強化がその理由に挙げられており、地理的条件や高度教育を受けた人材の豊富さからも今後、コスタリカは北米に近いニアショアリングの観点からも注目される国となりそうだ。

図2:コスタリカの精密機器・医療機器輸出額推移
2017年は28億1000万ドル、2018年は32億9400万ドル、2019年は36億4000万ドル、2020年は39億1900万ドル、2021年は52億2900万ドル。

出所:コスタリカ貿易振興機構

電力の再生可能エネルギー比率は7年半連続で98%超

コスタリカの注目すべきポイントとして、再生可能エネルギー比率の高さも挙げられる。2015年以降ずっと、再生可能エネルギーでの国内電力供給率は98%を超えている(2022年7月27日付ビジネス短信参照)。コスタリカは地理的条件に恵まれており、再生可能エネルギー発電の電源構成も水力、地熱、風力、バイオマスと多岐にわたる。

一方で、都市部を中心に自動車の排出ガスなどによる大気汚染問題がある。コスタリカは2019年に「脱炭素化国家計画」を採択しており、その中で2050年までにゼロエミッションを達成することを掲げている。再生可能エネルギー以外のグリーン分野の動向にも注目が集まる。

さらなる自由貿易推進に期待

コスタリカは元々、中南米域内の主要国や中国、また周辺の中米諸国と共に米国やEUなどとFTA(自由貿易協定)を締結しているが、2022年5月にロドリゴ・チャベス新政権が発足し、さらなる自由貿易推進に向けた動きがある。7月にはチャベス大統領が太平洋同盟への加入に向けたプロセスを加速させることを表明した。太平洋同盟は、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリの4カ国が正規加盟国となっている、加盟国間の経済交流促進に向けた取り組みを共同で行う枠組みだ。太平洋同盟の正規加盟国になるには、現在の正規加盟国4カ国全てと2国間FTAを締結する必要があるが、コスタリカは既に締結済みだ。そのため、太平洋同盟が発足した当時から「加盟国候補オブザーバー国」という特別な位置づけにあった。しかし、前政権の意向でその後の加盟プロセスが進んでいなかったのだが、政権交代を機にそれが促進されることとなった。

また8月には、チャベス大統領が環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)への加入申請のための文書に署名(2022年8月15日付ビジネス短信参照)。CPTPP加盟により貿易の多角化を狙う。

ここまでコスタリカについて、ビジネスの観点からいくつかのトピックを紹介してきた。W杯を機にコスタリカに興味を持った方はビジネスの観点でもコスタリカに注目してみてはいかがだろうか。


注:
出所はOECD。25~34歳に占める高等教育就学率。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
佐藤 輝美(さとう てるみ)
2012年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ・サンティアゴ事務所海外実習などを経て現職。