メコンデルタの投資魅力と課題
ベトナム南部(前編)

2026年3月19日

外資系製造業によるベトナムへの進出は、これまでその多くが北部の首都ハノイ市と港湾都市ハイフォン市、南部の商業都市ホーチミン市、および両市周辺の地方省を候補地として検討されてきた。しかし、既に製造拠点が集積しているこれらの地域では、人件費や土地賃料の上昇や、深刻な人材不足などの課題に直面している(注)。本稿では、前編と後編に分け、ジェトロが2025年9月8日から2026年1月8日まで実施した、ホーチミン市以外の南中部地域、南東地域、メコンデルタ地域における訪問調査で得られた情報を基に、投資環境のメリットや魅力、ならびに課題を紹介する(図参照)。前編では調査概要およびメコンデルタ地域、後編は南東部地域(ドンナイ、タイニン)、中部沿岸・高原地域を中心に取り上げる。

図:ベトナム中南部
今回調査対象の中部沿岸・高原地域3省、南東地域2省、メコンデルタ地域1市4省を含む。

出所:ベトナム南部・ホーチミン市近郊情報マップ2026(ジェトロ作成)

ホーチミン周辺に集中する外国直接投資―ドンナイ・タイニンが牽引、メコンデルタは低水準

今回、調査対象とした地域は、ベトナム南部1市、9省で、中部沿岸・高原地域3省(ダクラク省、カインホア省、ラムドン省)、南東地域2省(ドンナイ省、タイニン省)、メコンデルタ地域1市4省(ドンタップ省、ビンロン省、カントー市、アンザン省、カマウ省)。調査は、ジェトロが各市・省の人民委員会に調査票を送付したほか、ベトナム統計総局および各市・省の統計年鑑などの公的機関の情報、ならびに人民委員会の紹介により訪問した企業へのヒアリングを通じて実施した。

これらの市・省について、外国企業による直接投資の認可状況(出資・株式取得を除く)を見ると、今回対象地域の中では、認可件数ではホーチミン市(20,255件)に次いでドンナイ省が2,656件、タイニン省が2,067件となっている。累計認可額でも、ホーチミン市(1,419億1,700万ドル)に次いで、ドンナイ省が452億5,500万ドル、タイニン省が256億6,600万ドルと続く。一方、今後の経済発展が期待されるメコンデルタ地域は、投資認可件数が610件、累計認可金額が233億4,100万ドルにとどまり、ベトナム全国(4万5,416件、5,296億2,500万ドル)と比べ、件数で構成比1.3%、認可額で4.4%と、依然として低い水準にある。

表:ベトナム各省の概要(ーは値なし)
No. 直轄市・
省名
面積(平方キロメートル) 人口(1,000人) 1人あたりGRDP (ドル) 外国直接投資 日本直接投資
総人口 労働人口 累計
(件)
許可額
(100万ドル)
累計(件) 許可額
(100万ドル)
参考 ベトナム全土 331,338 102,345 52,942 45,416 529,625 5,717 79,320
ハノイ市 3,360 8,718 4,178 6,416 7,925 44,541 1,595 11,565
ハイフォン市 3,195 4,664 1,991 6,296 2,083 45,800 247 7,581
ダナン市 11,860 3,066 1,500 3,895 1,400 13,571 304 1,285
1 ダクラク省 18,096 3,347 1,628 2,826 81 2,594 11 52
2 カインホア省 8,556 2,244 1,037 3,938 197 7,413 14 2,668
3 ラムドン省 24,233 3,873 1,908 3,775 295 4,951 25 156
4 ドンナイ省 12,737 4,491 1,851 5,398 2,656 45,255 329 6,087
5 ホーチミン市 6,773 14,003 7,490 7,830 20,255 141,917 2,284 15,280
6 タイニン省 8,536 3,254 1,708 4,143 2,067 25,666 175 1,279
7 ドンタップ省 5,939 4,370 2,003 3,003 180 3,562 7 102
8 ビンロン省 6,296 4,258 1,932 2,965 182 5,969 18 659
9 カントー市 6,361 4,200 1,673 3,446 125 3,768 13 1,652
10 アンザン省 9,889 4,952 1,861 2,893 93 5,206 12 1,315
11 カマウ省 7,942 2,607 1,122 2,807 30 4,836 3 123

出所:面積、人口は、2025年度のベトナム統計局のデータより引用し、ジェトロで計算。労働人口、1人あたりGRDPは、2024年度のベトナム統計局のデータより引用し、ジェトロで計算。直接投資は、2025年12月31日時点の外国投資庁のデータに基づき、ジェトロで作成。対内直接投資総額および日本からの直接投資は2025年12月31日までの累計。

経済拡大と広域交通網整備が進むメコンデルタ

ホーチミン市の南西に位置するメコンデルタ地域は、メコン川からの恩恵による肥沃(ひよく)な土壌と通年の温暖な気候が特徴だ。米は年間3回の収穫(三期作)が可能で、2024年の生産量は全国の56.4%を占める国内有数の産地となっている。パパイア、ココナツ、ドラゴンフルーツなどのフルーツ栽培も盛んだ。さらに、エビやパンガシウス、ナマズなどの水産資源も豊富で、同地域は一次産品の宝庫といえる。2025年7月の省市再編により、本地域にはカントー市、ドンタップ省、ビンロン省、アンザン省、カマウ省の1市4省が含まれる。


メコンデルタ地域を縦断するメコン川(ジェトロ撮影)

メコンデルタ地域の域内総生産(GRDP)は、2020年の833兆6,228億ドン(1ドン=0.0059円、約4兆9,184億円)から、2024年には46.4%増の1,220兆6,964億ドンへと拡大した。2020年から2024年にかけて、同地域のGRDPは国内総生産(GDP)の1割台を維持しており、ベトナム経済における重要な拠点の1つとなっている。

同地域では、交通インフラの整備が着実に進んでいる。ホーチミン市~カントー市間の高速道路が2023年に完成し、所要時間は従来の3時間30分から2時間程度に短縮された。さらに、2026年1月19日にはカントー市~カマウ省の高速道路が開通し、ホーチミン市~カマウ省の高速道路が全線で利用可能となった。これにより、移動時間は従来の8時間超から4時間程度へと大幅に短縮され、ホーチミン市とメコンデルタ地域間の貨物輸送の効率化に加え、観光客のさらなる増加も期待される。また、カンボジア国境付近(アンザン省)からカントー市東部沿岸のチャンデ港を結ぶ高速道路も、2027年の完成を目指して建設が進められており(2023年6月30日付ビジネス短信参照)、地域内の物流機能の向上が見込まれる。さらに建設省は、ホーチミン市からカントー市を経由してカマウ省に至る高速鉄道(設計速度は時速200~350キロメートルの幅がある)の整備に向けた投資案を検討している。

メコンデルタでも日本語教育の取り組みがスタート、日系企業の人材確保に期待

人材面では、メコンデルタ地域において日本語人材を育成する動きが進みつつある。例えば、日本での就業を目的とした人材教育や派遣業務を行うベトナム企業「エスハイ」は、2025年10月に同地域で初となる日本式の職業訓練校をカントー市に開校した(2025年11月10日付ビジネス短信参照)。各市・省人民委員会へのヒアリングによると、労働人材は豊富である一方、日本語人材や教育については市・省内での実施が限定的、あるいは今後着手予定とする回答が多かった。民間企業主導の取り組みではあるものの、日本語教育の拡充により、日系企業が日本語人材を確保できる可能性の高まりが期待される。また、ジェトロは、地域最多の学生数を誇る国立総合大学「カントー大学」を日本企業に紹介するオンラインイベントを開催した(2025年8月5日付ビジネス短信参照)。こうした取り組みで日本を志す若年層が増えることに期待が集まる。進出日系企業へのヒアリングでは、ベトナムとの接点を持ったきっかけとして「技能実習生などでベトナム人材を受け入れた経験」と回答する企業が一定数みられる。日本での就業経験を持つ人材が帰国後に日系企業で働くことで、日本の技術や文化をベトナム人に共有できる。業務への理解とともに日本人への理解も進むことから、駐在員と現地スタッフをつなぐ架け橋としての役割も期待される。

メコンデルタでは外国人を受け入れる生活環境が課題

一方、同地域への進出にはいくつかの課題がある。実際に訪問してみると、メコンデルタ地域では、発展途上国の雰囲気を色濃く残している。外国人向けのレストラン、日常生活を支えるスーパーマーケットやコンビニエンスストア、設備の整った医療機関など、生活基盤となる施設は、ホーチミン市から離れるほどに見られなくなり、外国人駐在員にとっての生活環境の確保が課題だと感じられる。日系企業へのヒアリングでも「現在の駐在環境は厳しい」との声が漏れた。ベトナム地場のスーパーマーケットのほか、韓国のロッテマートやタイのGo!など大型商業施設は点在するものの、日系商業施設はこれからの段階にある。最新の状況(2026年3月時点)では、2027年にドンタップ省の中心地・ミトー市に「イオン・ミトー」が、カントー市に「イオンモール・カントー」が2028年の完成を目指し、建設が進められている。


ベトナム南端のカマウ省の様子(ジェトロ撮影)

低付加価値構造からの脱却へ、日本企業に寄せる各市・省の要望

各市・省へのヒアリングでは、日本企業に対する期待として、高付加価値化への貢献が必ずといって良いほど言及された。農林水産業に限らず、多くの産業で付加価値の低さが課題として認識されており、人民委員会の高官からは産業高度化を求める声が多く聞かれた。特に、世界的に需要が拡大する半導体産業をはじめ、DXやGX関連分野、精密機器や医療機器など、加工度や技術水準の高い産業を誘致して、地域産業の付加価値向上を図りたいとの意向が示された。


注:
ベトナムの投資環境に関して、ジェトロが2025年8月から9月にかけて実施した「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編・ベトナム編)」においても、直近2年間の雇用環境の変化で「採用が困難になっている」と回答した企業は48.2%で、2023年度の類似の調査結果(11.2%)から大きく変化し、ASEAN(36.8%)を大きく上回る結果だった。地域・業種別で見ると、北部の製造業で「採用が困難になっている」と回答した割合は76.0%だった。一方、南部の製造業では56.7%と約20ポイント下回り、南部の方が人材不足の深刻度は比較的低いと考えられる(2026年2月13日付地域・分析レポート参照)。本文に戻る

ベトナム南部

執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所 ディレクター
新田 和葉(にった かずよ)
民間企業勤務を経て、2019年、財務省大阪税関入関。 財務省関税局を経て、2023年8月から現職(出向)。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
小林 真龍(こばやし しんりゅう)
2014年、福島県庁入庁。 2024年、ジェトロ中堅中小企業課、2025年4月から現職(出向)。