業績や事業拡大意欲は好調継続、採用難の課題感は高まる(ベトナム)
2026年2月13日
ベトナムの投資環境に関して、ジェトロが2025年8月から9月にかけて実施した「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編・ベトナム編。ベトナム編の調査結果の報告書の閲覧を希望する場合は、本フォーム
に記入・申し込みのこと)」〔以下、海外進出日系企業実態調査(注1)〕を通して読み解く。今回の調査では、2025年の営業利益が「黒字」と回答した企業の割合が前年から増加、また、今後1~2年で事業拡大を検討する企業の割合は2年連続ASEANの中でトップとなった。一方で、業種別に見た際、「事業縮小」の割合が輸送機器部品などの分野で増加したり、人材確保に向けた競争が激化したりするなどの懸念もある。経済成長を背景にした内需の拡大などは期待されるものの、国内の政策動向や米国の関税措置などにより千変万化する事業環境を捉え、変化への対応や競争力の強化を図る必要がある。
2025年の黒字割合は67.5%、2009年以降で最多
2025年の営業利益見込みについて、ASEAN全体では「黒字」の割合が65.3%(前年差0.1ポイント増)、「赤字」が17.5%(0.4ポイント増)と、ほぼ横ばいだった。ベトナムでは「黒字」が67.5%(3.4ポイント増)、「赤字」が17.6%(1.7ポイント減)と、好調さがうかがえた。ベトナムの黒字割合は2009年以降で最多となり、2020年以来5年ぶりにASEAN全体を上回った。業種別の黒字割合は、製造業が74.1%(3.9ポイント増)、非製造業が61.2%(3.3ポイント増)だった。中でも今年度は、輸送機器部品(91.7%)や電気・電子機器部品(86.8%)といった業種が好調であった。
次に2025年の営業利益見込みについて前年からの改善・悪化割合を見ると、「改善」と回答した企業は42.3%(前年差6.5ポイント減)、「悪化」が21.8%(4.9ポイント増)だった。業績の改善理由としては、輸出先および現地市場での「需要増加」を挙げる企業が多かった。
ベトナムにおける2026年の営業利益見通しは、47.6%の日系企業が2025年から「改善」を見込み、ASEAN全体を4.9ポイント上回った。「悪化」は10.7%にとどまったが、業種別では輸送機器と輸送機器部品で3割を超えており、ハノイ市やホーチミン市で検討が進むガソリンバイク規制の強化(2025年7月31日付、2025年12月3日付ビジネス短信参照)や世界的なEVシフトなどの影響があるとみられる。バイクの走行制限の計画はこれまでも議論されていたが、2025年7月以降、2026年7月からの規制導入に向けた検討が急速に進んでいる。
事業拡大意欲はASEANで首位も、縮小も増加
今後1~2年の事業展開の方向性については、「拡大」と回答した割合が56.9%(前年差0.8ポイント増)と2年連続ASEANで首位となった(図1参照)。
注:カッコ内は回答母数。
出所:海外進出日系企業実態調査
業種別では、製造業が51.1%(3.0ポイント増)、非製造業が61.7%(1.5ポイント減)だった。拡大理由は、製造業・非製造業ともに「現地市場ニーズの拡大」と「輸出の増加」が上位に挙がり、内需・外需とも収益性の増加が見込まれていることが分かる。製造業で「拡大」の割合が7割を上回ったのは、国内市場向けのビジネスが多い食料品と化学・医薬だった。拡大機能は、「販売機能」拡大の意欲が高かった。製造業では57.5%で、「生産機能」の回答割合(汎用〔はんよう〕品56.0%、高付加価値品49.8%)を上回った。非製造業で「販売機能」を拡大すると回答した割合は67.1%だった。次いで高かったのは「新規事業開発」で31.3%、「カスタマーサービス」で20.1%だった。
一方、今後1~2年の事業展開について「縮小」と回答した企業の割合も4.2%(前年差1.4ポイント増)とわずかに増加、業種別では、輸送機器、輸送機器部品で16.7%、一般機械、繊維・衣服で10%超が「縮小」と回答した。
また、地域別に見ると非製造業(全地域)および製造業(南部)の事業拡大意欲が60%を上回っているのに対し、製造業(北部)は39.0%、製造業(中部)は41.7%にとどまった。製造業における事業拡大意欲の地域差は、原因を断定することは難しいが、米国の関税の影響や輸出国側の需要といった外部要因に加え、国内のガソリンバイクの規制などの政策、人材採用難、電力供給の課題などが複合的に影響した可能性がある。
投資環境の主要なメリットはさらに上昇も、リスクの改善は停滞
投資環境について、メリットの上位3項目は「市場規模/成長性(68.4%)」「人件費の安さ(55.2%)」「安定した政治・社会情勢(53.2%)」であり、いずれも回答割合が前年から増加した(図2参照)。
図2:ベトナム投資環境のメリット・リスク上位の推移
注:2022年の調査には本設問がないため省略。
出所:海外進出日系企業実態調査
次にリスクの上位を見ると、1位の「行政手続きの煩雑さ(許認可など)」は67.5%と、2019年の32.9%から大きく上昇し、前年からさらに5.1ポイント上昇した。2位の「法制度の未整備・不透明な運用(58.7%)」と3位の「人件費の高騰(57.3%)」は前年から順位が入れ替わった。
行政手続きや法制度の整備・運用については、ベトナム政府も改善に向けた動きがあり、2025年には大規模な政治・行政機構の再編を相次いで実施した(2025年2月25日付、2025年7月1日付ビジネス短信参照)。しかし、本調査時点では、再編に伴う手続きの遅延や所管変更などの混乱が相次ぎ、行政手続きの改善は停滞したことがうかがえる。日系企業からは「急な再編などに伴う事業の予見可能性の低下」や、「地方行政ごとの法令解釈の相違」などを指摘する声も見受けられた。
対米輸出は維持の動き多い
米国との取引状況について、ベトナムで「米国に輸出あり」と回答した企業(対米輸出企業)は、製造業を中心に35.0%を占めた。このうち、直接輸出は13.8%、間接輸出(第三国・地域などを経由した輸出)は21.2%だった。米国の関税措置が営業利益見込みに与える影響について、対米輸出企業のうち33.8%が「米国市場での需要減」などを理由に「マイナスの影響が大きい」と回答した(表1参照)。「現時点で影響が不透明」または「影響なし」と回答した企業は合わせて55.4%に上った。
| 項目 | 国・地域名 | プラスの影響大 | マイナスの影響大 | プラス・マイナスが均衡 | 影響なし |
現時点で 不透明 |
|---|---|---|---|---|---|---|
|
対米輸出 あり |
ベトナム(278) | 5.8 | 33.8 | 5.0 | 17.3 | 38.1 |
| ASEAN(821) | 3.4 | 32.2 | 4.8 | 17.4 | 42.3 | |
|
対米輸出 なし |
ベトナム(611) | 0.8 | 11.0 | 2.3 | 39.9 | 46.0 |
| ASEAN(2,290) | 0.7 | 12.2 | 2.1 | 40.7 | 44.2 |
注:カッコ内は回答母数。
出所:海外進出日系企業実態調査
一方、米国への輸出がない企業は、85.9%が「現時点で影響が不透明」または「影響なし」と回答した。対米輸出企業における関税引き上げなどへの対応策(今後の予定も含む)としては、自社のコスト削減やサプライヤーとの価格交渉などにより、引き続き対米輸出の維持を図る動きが多くみられたほか、米国以外の販売市場の多角化を図る姿勢もみられた(表2参照)。
| 国・地域名 | 米国輸出維持(価格調整) |
米国輸出維持 (既存サプライチェーンの調整) |
販売市場の 多角化 |
その他 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 自社のコスト削減 | サプライヤーとの価格交渉 | 関税引き上げのコストを価格転嫁 |
調達先の 分散化 |
原材料・ 部品の変更 |
生産地の 分散化 |
現地販売 増加 |
米国以外 販売開拓 |
米国への 生産移管 |
特になし | |
| ベトナム(277) | 56.3 | 33.9 | 16.6 | 31 | 23.8 | 14.8 | 30.3 | 20.9 | 1.1 | 15.9 |
|
ASEAN (813) |
58.1 | 35.2 | 20.2 | 28.8 | 20.7 | 16.5 | 27.2 | 20.4 | 1.8 | 16.9 |
注:カッコ内は回答母数。
出所:海外進出日系企業実態調査
また、輸出市場について見ると、現在重視している輸出市場・今後有望な輸出市場として、在ベトナム日系企業はいずれも日本に次いで米国を挙げた(回答割合はそれぞれ28.4%、29.8%)。この結果からも、引き続き米国への輸出取引を継続する動きがみられる。
地場企業からの調達は過去最大を記録も、調達の課題は残る
対米輸出の維持・拡大にあたっては、現地調達を推進し、ベトナムでの付加価値を高めることが、40%の関税が課される第三国からの積み替え品とみなされるリスクの回避にもつながるだろう。今後1~2年の現地調達について、「拡大」と回答した企業は49.4%(前年差1.5ポイント減)でほぼ横ばいであるものの、現地調達拡大への意欲は引き続き高い(注2)。業種別に見ると、電気・電子機器(69.6%)、精密・医療機器(66.7%)、一般機械(62.5%)などが高かった。
ベトナムでの現地調達率は38.1%(前年差1.5ポイント増)だった。うち地場企業からの調達率は、18.3%(前年差2.6ポイント増)で、2016~24年にかけ15%前後で推移し伸び悩んでいたが、本調査開始以来、初めて18%を超えて過去最高を記録した。現地調達における課題の上位3項目には「現地で原材料を供給できるメーカーがない」「現地調達先の品質や技術力が不十分」「現地で部品を供給できるメーカーがない」が挙がった。いずれも2021年度と比較すると回答率が減少したが、上位2項目の回答率は依然として50%を上回っている(図3参照)。
注:カッコ内は回答母数。
出所:海外進出日系企業実態調査
素材産業の育成と発展には費用と時間が必要となるため、原材料供給の課題は短期的な改善が難しい。現地調達の拡大を模索する日系企業が多い中、品質や技術面の課題を着実に克服することが、ベトナムの裾野産業には求められる。
北部の製造業の人材採用難が深刻化
直近2年間の雇用環境の変化で「採用が困難になっている」と回答した企業は48.2%だった。2023年度の類似の調査結果(11.2%)から大きく変化し、ASEAN(36.8%)を大きく上回る結果だった。地域・業種別で見ると、北部の製造業で「採用が困難になっている」と回答した割合は76.0%だった(表3参照)。一方、南部の製造業では56.7%と約20ポイントの差があるほか、非製造業では各地域とも20~30%台にとどまっている。
表3:採用が困難になっていると回答した企業の割合(ベトナム業種・地域別)
| 地域名 | 割合 |
|---|---|
| 国内全体(406) | 66.7 |
| 北部(204) | 76.0 |
| 中部(24) | 62.5 |
| 南部(178) | 56.7 |
| 地域名 | 割合 |
|---|---|
| 国内全体(488) | 32.8 |
| 北部(223) | 36.3 |
| 中部(19) | 21.1 |
| 南部(246) | 30.5 |
注:カッコ内は回答母数。
出所:海外進出日系企業実態調査
近年、北部では、米中対立に伴う中国からの生産移管などを目的に、中国系や台湾系企業による大型投資が相次いでおり、韓国系のサムスンやLGなども事業拡大を進めている。こうした背景から、中国企業、台湾企業、韓国企業との人材獲得競争が激化し、特に北部製造業においてスタッフ・ワーカーの採用難が深刻化しているとみられる。
事業環境の変化に適応した戦略と体制を
ここまで見てきたように、現地市場の需要拡大や輸出の増加を理由に、ベトナム国内での事業拡大を検討する日系企業が多い傾向は続いた。しかし、国内の政策や行政の改革、人材獲得競争の激化などにより、今後の事業展開や体制に課題を持つ企業も一定数見受けられた。
ベトナムは2026年のGDP成長率目標を10%以上に定めており、足元では経済成長を重視した施策やそれを踏まえた内需の拡大、国内の開発案件の加速が期待される。一方、民間経済の開発に関する政治局決議68号(注3)(2025年9月8日付地域・分析レポート参照)などで、ベトナム地場企業の発展や成長を促す方向性が示されていることから、今後は産業育成政策の具体化や外資誘致に係る優遇策の見直しも予想される。最新の政策や法令、各産業の動向を注視していく必要がある。
また、中国からの生産移管とみられる投資は米国の関税措置発動以降も続いていることから、人材の採用難は短期的には解消されず、賃金の上昇が加速する可能性もある。こうした国内動向と外部環境などが相まって変化するベトナムの事業環境や市場の急速な変化を十分に織り込む必要があるといえよう。これらの変化に適応し、競争力を高めるためにも、生産体制の最適化や生産性の向上、人材循環の推進、拡大する内需を取り込むための販売機能強化など、事業戦略の整備と実行、体制の構築を進めることが肝要だ。
- 注1:
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2025年8月19日から9月17日にかけて実施。アジア・オセアニア地域では、日系企業1万2,900社(うちASEANは8,656社)を対象とし、5,109社(3,172社)から回答を得た〔有効回答率39.6%(36.6%)〕。ベトナムでは、906社の日系企業から回答を得た。業種別では、製造業409社、非製造業497社。企業規模別では、大企業351社、中堅・中小企業555社。地域別では、ハノイ市やハイフォン市を含む北部が432社、ダナン市を含む中部が43社、ホーチミン市を含む南部が431社。
- 注2:
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2024年度は、ASEAN全体の37.7%を大きく上回り、ASEANでトップだった。2025年度はベトナム独自の設問として調査したため、他国のデータはない。
- 注3:
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ベトナム共産党が中期的な経済成長のため、民間企業の活性化など経済分野の構造改革の方向性を示した文書。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ハノイ事務所 ディレクター
萩原 遼太朗(はぎわら りょうたろう) - 2012年、ジェトロ入構。サービス産業部、ジェトロ三重、ハノイでの語学研修(ベトナム語)、対日投資部プロジェクト・マネージャー(J-Bridge班)を経て現職。




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