欧州繊維・アパレル業界参入に求められる認証の潮流(イタリア)

2026年3月2日

イタリア司法による大手ファッションブランドの違法労働摘発が相次いでいる。多くは下請け業者による移民労働者搾取に関するもので、低賃金、劣悪な環境下での長時間労働などが指摘された。摘発を受けたブランドは司法管理下に置かれ、裁判所が任命する管理人のサプライチェーン監査・改善計画の監督を受けている。

また、イタリアをはじめとする欧州のアパレル業界は、シーインやテムなどの国外ウルトラファストファッションが、電子商取引(EC)などを通じて急激に欧州に流入している。欧州繊維産業連盟(EURATEX)は2025年9月、EUおよび加盟国に対し、ウルトラファストファッションの台頭に迅速な対応を求める共同宣言を発表(2025年9月24日付ビジネス短信参照)した。対応として市場監視の強化や、2024年に約45億個に達したEU域外からの小口小包への課税導入などを求めている。高品質な製品より、安価な製品を購入する消費者が増え、欧州の繊維・アパレル業界は苦境に立たされている。

欧州の繊維・アパレル業界の潮流、その潮流に日本企業が対応する際の課題と、ビジネスチャンスを広げる鍵は何か、2025年12月にイタリアで実施したヒアリングを基に詳述する。

企業のコンプライアンス順守と規制対応、大手ブランドからの認証取得要請

2011年に採択された国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGPs)には、「特定の機能を果たす特定の社会組織として、適用されるべき全ての法令を順守し人権を尊重するよう求められる、企業の役割」と明記されている。また、欧米各国ではサプライチェーンと人権に関する規制が一部法制化されており、対応が必要になっている(注1)

欧州の大手ファッションブランドも対応を迫られており、各ブランドはこぞってコンプライアンス順守と規制対応のための認証取得をサプライヤーに求めている。在欧日系商社によると、新たに彼らと取引を始めるには、事実上認証取得が必須だ。年2回ミラノで開催されるテキスタイル見本市の「ミラノ・ウニカ」を訪れるバイヤーたちも、市場参入にあたっての認証の必要性について証言している(ジェトロの国際ビジネス情報番組「世界は今」(2025年5月22日)参照)。認証はEUや各国が施行する規制に適合するように、さまざまな認証運営団体がそれぞれ独自に発行しており、また各ブランドが求める認証は多様だ。例えば、環境的配慮や労働環境などの社会的配慮や、動物福祉(アニマルウェルフェア)などを含んだトレーサビリティーを保証するオーガニック国際認証であるGOTS認証(Global Organic Textile Standard、ゴッツ認証)や、リサイクル含有量などを含む環境・社会的配慮認証のGRS認証(Global Recycled Standard、グローバルリサイクル認証)などがある(表1参照)。2026年末に発行される、水やエネルギーの使用などの気候配慮の項目を加えたMMS認証(Materials Matter Standard)も注目だ。数多くの認証を発行している米国のNGO団体テキスタイル・エクスチェンジ(Textile Exchange)が、GRS認証や動物繊維認証のRWS認証などを統合し、化学物質や廃棄物の管理に至るまで要件に加えた新しい認証だ。実際に、商談会で神戸と福井を訪れたイタリア、フランス、スウェーデン、英国の大手アパレル企業も、製造時に使用する水処理などの環境配慮に関して、大きな関心を見せている(2025年12月18日付ビジネス短信参照)。

表1:主要認証リスト注:MMSのロゴは複数の形態があり、記載ロゴは見本の1つ(変更される可能性有)
ロゴ 名称 概要 検査項目 運営主体名 運用開始年
ロゴ
OEKO-TEX®認証(Oeko Tex Standard、エコテックス認証) 有害化学物質の含有を検査対象とし、繊維製品の安全性を保証。
  • 安全性
International OEKO-TEX® Association(スイス) 日本では2000年(欧州では1992年)
ロゴ
GOTS認証(Global Organic Textile Standard、ゴッツ認証) オーガニックテキスタイルの国際認証で、ジニング(綿繰り)から小売りまでが対象。1)環境への配慮 2)社会的規範 3)使用する資材において要求事項がある。最終製品をGOTS認証製品として販売する場合は、全てのサプライチェーン(製造者、製造加工チェーンに属する全ての企業、B2B貿易流通業者)でGOTS認証を受ける必要がある。審査が厳しく信頼性の高い認証の1つ。
  • オーガニック
  • トレーサビリティー
  • 環境的配慮
  • 社会的配慮(労働環境など)
  • 動物福祉
Global Standard(ドイツ) 2002年
ロゴ
OCS認証(Organic Content Standard、オーシーエス認証) オーガニック基準認定された農場で生産された材料の加工・流通過程の管理検証を行う認証。ラベル対象は認証材を5%以上含む製品または95%以上含む製品。
  • オーガニック
  • トレーサビリティー
  • 環境的配慮
  • 社会的配慮(労働環境など)
Textile Exchange(米国) 2011年
ロゴ
GRS認証(Global Recycled Standard、グローバルリサイクル認証) 製品に含まれるリサイクル材の含有量を証明する認証。リサイクル材を50%以上含む製品に適用。製造工程が環境的・社会的に配慮されていることも保証する。
  • リサイクル含有量
  • 環境的配慮
  • 社会的配慮(労働環境など)
Textile Exchange(米国) 2011年
ロゴ
RCS認証(Recycled Claim Standard、リサイクルクレーム認証) 製品に含まれるリサイクル材の含有量を証明する認証。ラベル対象はリサイクル材を5%以上または95%以上含む製品に適用。 リサイクル含有量 Textile Exchange(米国) 2011年
ロゴ
RWS認証(Responsible Wool Standard、レスポンシブルウール認証) 羊の飼育場における動物福祉と、認証された農場から最終製品までの羊毛の管理についての認証。ラベル対象は認証材を5%以上含む製品。
  • 動物福祉
  • 気候配慮(生産、加工工程での土地、水の使用方法)
Textile Exchange(米国) 2011年
ロゴ
MMS認証(Materials Matter Standard、マテリアルズ・マター認証) リサイクル認証の「GRS」「RCS」や、動物繊維認証の「RWS」などを統合する新基準。土地や水、エネルギーの利用から、労働条件、動物福祉、化学物質や廃棄物の管理に至るまで、原料生産と一次加工に焦点を当てた要件を定めている。
  • 気候配慮(生産、加工工程での土地、水、エネルギーの使用方法)
  • 環境的配慮
  • 社会的配慮(労働環境など)
  • 動物福祉
Textile Exchange(米国) 新基準は2026年末発行、2027年12月末に義務化見込み。

注:MMSのロゴは複数の形態があり、記載ロゴは見本の1つ(変更される可能性有)
出所:環境庁サイトなどを基にジェトロ作成

また、前出の在欧日系商社によると縫製工場に「社会的責任(CSR)監査」(ソーシャルオーディット)を求めるブランドも増えている。これは、企業やサプライチェーンにおける労働環境・人権・倫理・安全衛生などの「社会的責任」領域を評価する監査だ。工場に監査が入ることにより、法令順守、強制労働や児童労働のリスクの排除、賃金レベルや労働時間などの適切な労働条件、作業場の安全衛生の確保などが可能になる。サプライヤーに求める社会的責任監査もさまざまで、ドイツのブランドはサプライチェーン全体の社会的責任レベルを引き上げることを目指すamfori BSCI(Business Social Compliance Initiative)監査、英国のブランドは縫製製品が安全、合法、人道的、倫理的な条件の下で生産されていることを保証するWRAP(Worldwide Responsible Accredited Production)監査、米国のブランドは労働者の人権に特化した労働環境評価の国際規格であるSA8000(Social Accountability 8000)認証を求めることが多い(注2)。人工皮革を手掛けるイタリアのアルカンターラでも、原則全サプライヤーにSA8000認証を求めている。

デジタルプラットフォームを活用した規制・監査対応、循環型経済への移行

前述の規制・監査対応のためにも、各ブランドはサプライチェーンを可視化し、トレーサビリティーを保証しやすいデジタルプラットフォームの使用をサプライヤーに求めている。ブランド側が使用すべきデジタルプラットフォームを指定する場合もある。代表的なプラットフォームは以下のとおり(表2参照)。

表2:主なデジタルプラットフォームリスト
業界 名称 概要 導入状況など
ファッション産業 Retraced
(リトレースド)
  • ファッション、テキスタイルに特化
  • AIを使ったコンプライアンス/ESGデータ管理
  • マルチティア(多層)サプライチェーンのトレーサビリティー
  • デジタル製品パスポート(DPP)対応
  • 規制対応(CSDDD、LkSG、フランス循環経済法AGECなど)
  • サプライヤーとのデータ連携・ライフサイクル管理
  • 150以上のブランドが採用
  • 2万5,000以上のサプライヤーが使用
TextileGenesis
(テキスタイルジェネシス)
  • ファッション分野のサプライチェーンのトレーサビリティーに特化
  • ファッションの“繊維から小売りまで”を追跡。製品がどこから来て、どこへわたったかを記録するデジタル追跡台帳。
  • 150以上のブランドが採用
  • 65カ国、1万以上のサプライヤーが使用
TrusTrace
(トラストレース)
  • EU規制(CSDDDやDPPなど)対応が強み
  • サプライチェーン可視化・環境インパクト計算も可能
  • 人権デューディリジェンス対応
認証済みのサプライヤー、工場の数:11万2,000以上
Made2Flow
  • ライフサイクルアセスメント(LCA)による環境インパクト測定に強み。サプライヤー、製品それぞれの脱炭素レベルを測定
  • 消費財に特化
53カ国、1万4,000以上のサプライヤー
全産業 Sedex
(セデックス)
  • Sedexが運営するプラットフォームで共有されるSMETA監査は、世界で最も広く利用されている社会倫理監査
  • 安全でない環境・差別・低賃金・強制労働などから労働者を保護することを目的とする
  • 労働基準・環境・倫理監査プラットフォームとして世界最大級
  • Sedex会員企業数9万5,000社
EcoVadis
(エコバディス)
  • 企業のサステナビリティ(環境・社会・倫理など)を評価する世界標準に基づくESG評価
  • 取引条件としてエコバディスの評価提出を求められるケースが増加
世界185カ国、15万社以上
Circularise
(サーキュライズ)
  • トレーサビリティー、欧州規制(ESPR、DPPなど)対応に強く、持続可能なサプライチェーン構築、規制対応、監査準備を支援
  • AIデータ抽出も活用し、サプライヤー負荷を軽減
  • 消費者にもデータ公開可
  • オランダ発で、2025年に日本拠点開設
プラスチック・自動車・化学分野の国内外大手企業で導入実績あり

出所:各団体サイトなどを基にジェトロ作成

デジタルプラットフォームの活用は、循環型経済への移行に寄与する側面もある。EUが導入を進めているデジタル製品パスポート(DPP)により、原材料栽培から製品廃棄までのサプライチェーン全体を通じたトレーサビリティーなど、必要な情報に誰もがアクセス可能になる。情報開示はリサイクルやリユースを推進し、循環型経済への移行を後押しする。日本からEUに輸出される繊維製品も2027年から段階的にDPPへの対応が必要になると見込まれている。

サプライヤー側の対応負担、イタリア業界団体が乗り出すDX化支援

一方、サプライヤー側には、認証、監査、プラットフォーム対応の経済的負担、人的負担、作業負担がかかっている。対応するためには、認証、監査、プラットフォームに係る費用、デジタルプラットフォーム入力に必要なデータ収集、デジタルスキルのある人材と入力作業時間などが必要になる。家族経営など小規模企業が多い繊維・アパレル業界の企業にとっては、費用負担が大きい、そもそも基礎的データが残っていない、デジタルスキルのある人材がいないなど、多くの課題がある。また前の章で紹介した認証同様、取引先ブランドから指定されるプラットフォームが異なる場合、複数のプラットフォームに対応せねばならず、負担はさらに増加する。

イタリアの繊維・アパレル関連企業の業界団体であるファッション産業連盟 (Confindustria Moda)は、多くが家族経営の小規模工房や繊維中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX化)を支援することに積極的に取り組んでいる。その目的は、デジタルツールへのアクセスを容易にしながら競争力を強化し、国内生産を守ることだ。研修や情報提供活動を通じて、同連盟は小規模企業に既存のソリューションに関する指針を提供し、より効率的で相互運用可能なデジタルエコシステムの促進を図っている。

現在イタリアで使用されているプラットフォームの1つがインパクト(Ympact)だ。インパクトは、異なるシステムと連携できるハブとして機能し、重複するデータ入力を減らすことを目的としている。背後にあるコンセプトは、一度アップロードされた情報を複数のプラットフォームで可視化することでデータの一元化を図り、サプライヤーのコンプライアンス対応負担を軽減することだ。インパクトは既に50以上のグローバルブランドに採用されており、その相互運用性のアーキテクチャは業界から注目されている。

消費者へのサステナビリティ情報の提供、使い捨てからの脱却

デジタルプラットフォームを通じた情報開示が繊維ビジネスの市場参入に必須となっている今、大手ブランドと取引のある在欧の日系繊維企業によると、対応を余儀なくされているサプライヤーは多いが、労力をかけて提供した情報が消費者まで届いていないというサプライヤーの不満の声も聞くという。それに対し、フランスでは既に消費者に製品のサステナビリティ情報を届けるシステムが誕生している。フランス政府は2025年10月、エコスコア表示に関する規則を施行。衣類に任意表示され、製品が完成するまでの環境負荷などの情報を数値で比較できる(2025年9月16日付ビジネス短信参照)。数値が高い製品ほど環境負荷が高く、数値で表記されるため、異なるブランドのTシャツなどの比較が容易だ(2025年5月27日付ビジネス短信参照)。2026年からは、個人、メディア、団体など製造元ブランド以外の誰でも、製造元の同意なく環境スコアを計算し、公表できる。フランスの政令の特徴によるもので、不利なスコアが公表されることで循環型経済への移行を推進する意図がある。またフランスの「人と環境を尊重するファッション」を推進する独立組織であるクリア・ファッションは、同規則施行前の2019年から独自のアプリで、環境負荷だけでなく、労働環境などの社会的配慮や動物福祉(アニマルウェルフェア)に関する点もわかりやすく色分けし、スコア化している。消費者は容易にサステナビリティ情報にアクセスし、製品を選択することが可能になっており、既に1,700万人がアプリを利用している。

また、フランスでは使い捨てからの脱却につながる修理費用の負担制度も2023年10月から始まっている。拡大生産者責任(注3)の一環として生産者から徴収した拠出金を基に、衣類・靴などの修理費用の一部が負担される制度で、認定修理業者に修理を依頼すれば、消費者は割安に製品を修理できる(2023年7月19日付ビジネス短信参照)。靴のかかと修理で7ユーロ、服の裏地貼り換えで25ユーロ程度の割引を受けられる。フランスでは、修理される衣類・靴の量を、2028年までに2022年比35%増とすることを目指しており、リユース、リペア、リサイクル、アップサイクルに積極的に取り組む多くの企業事例がある(注4)

欧州では、企業のコンプライアンス順守、法制化されたサプライチェーンと人権に関する規制対応、商取引に必須となったトレーサビリティーの確保に係る認証・監査対応がいや応なしに進んでいる。また今後、循環型経済への移行によって消費者への情報開示が進むことで、消費者の行動に変化が生じれば、サステナビリティ対応を行った企業の欧州への輸出機会が拡大することにもつながり得る。日本企業は、こうした潮流を踏まえ、競争力強化の観点からもサステナビリティ対応を戦略的投資と捉え、人権・環境尊重の取り組み推進を検討すべきときが来たのではないだろうか。


注1:
各国の規制には、EUの企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)やデジタル製品パスポート(DPP)、ドイツのサプライチェーン・デューディリジェンス法(LkSG)、フランスの親会社および発注企業の注意義務に関する法律(注意義務法)、米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)などがある(調査レポート「『サプライチェーンと人権』に関する法制化動向(全世界編 第2版)」参照)。
CSDDDは2025年12月に簡素化法案が政治合意され、今後正式な承認を経て施行される。CSDDDについては調査レポート「EU人権・環境デューディリジェンス法制化の最新概要」(2025年5月)を参照。
DPPは製品の原材料調達から廃棄までのライフサイクル情報をデジタルで一元管理し、QRコードなどを通じてアクセスできる仕組み。2024年7月施行の「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」の中核施策として導入が進められており、バリューチェーン全体でトレーサビリティー(追跡可能性)を改善することを目的とする。調査レポート「EUの循環型経済政策(第1回)」(2022年10月)を参照。 本文に戻る
注2:
amfori BSCI監査では、年間4万回の監査が実施されており、6万7,000の製造拠点が監査登録。WRAP監査の証明書は4万3,000以上発行されており、SA8000認証は5,700を超える製造拠点が取得している。 本文に戻る
注3:
製品を作った生産者(企業)が、その製品の使用後・廃棄後の処理やリサイクルについて一定の責任を負うという考え方。 本文に戻る
注4:
調査レポート「フランスアパレルブランドのサステナビリティ動向」(2025年3月)を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
冨岡 亜矢子(とみおか あやこ)
フランス民間企業、国際NGO勤務を経て、2024年から現職。