トランプ関税と米国の貿易額、ノートPC・スマホ輸入で進む脱中国

2026年5月13日

トランプ政権2期目の目玉政策ともいえる追加関税は、米国の貿易にどのような影響を与えたのか。ドナルド・トランプ大統領が重視している貿易赤字は解消に向かったのか。中国との貿易関係に変化はあったのか。2025年の米国の貿易額を基に、トランプ政権2期目発足から1年で起きた米国向けサプライチェーンの変化を読み解く。

追加関税措置は変化しながらも継続

トランプ氏は、就任直後の2025年1月に発表した「米国第一の通商政策」を通じて、貿易赤字の解消や中国との経済・通商関係の見直し、経済安全保障を守るための通商上の措置について調査するよう関係閣僚に指示した。その後に公開された報告書では、貿易赤字削減のための追加関税措置や、1974年通商法301条に基づく中国の非市場的政策や慣行に対する措置、経済安全保障上重要な分野での1962年通商拡大法232条に基づく新たな措置の必要性などが提言された(注1)

トランプ氏はこの方針に合致するように、複数の関税措置を矢継ぎ早に実行した(表1参照)。トランプ政権2期目で最初に導入した追加関税措置は、2025年2月のフェンタニルなどの流入阻止を目的にした、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく中国への追加関税だった。その後3月には、同様の理由からメキシコとカナダに対しても追加関税を課した。4月には、同じくIEEPAを基に、貿易赤字額の大きさによって国ごとに異なる関税率を課す相互関税を発表した(注2)。相互関税はその後すぐに大部分の適用を一定期間停止したものの、中国に対する相互関税率は一時125%にまで引き上げた。トランプ氏はまた、232条を根拠に自動車・同部品などへ追加関税を課したほか、鉄鋼・アルミニウムへの追加関税率を引き上げ、12の分野で新たに調査を実施した。新たな調査のうち、2026年4月中旬時点で6分野で調査結果を発表し、そのうち5分野では追加関税を課す判断をした(注3)

一方で、連邦最高裁は2026年2月、IEEPAを基に大統領は関税を課す権限はないとの判決を下した。IEEPAの条文には「輸入を規制する」との文言はあるが、「関税を賦課できる」とは明示的に記載されていない。この点について最高裁は、議会が憲法上有している課税権限を大統領に委譲する際は「常に明示的な文言と厳格な制限を伴って行われてきた」として、IEEPAは大統領による関税賦課を認めていないと結論付けた(注4)。これを受け、トランプ氏は即日、IEEPAに基づく関税を全て停止した。ただし一方で、「大規模かつ深刻な米国の国際収支赤字」に対処するため、1974年通商法122条に基づき、全ての輸入に10%の課徴金を課した(注5)。また米通商代表部(USTR)は、同法301条に基づき、主要な貿易相手国に対して、過剰生産能力と強制労働を使用して生産された産品の輸入禁止措置について調査を開始した。122条に基づく措置は、議会承認がない限り150日間で終了すると規定されている。そのため、期限を迎える7月24日までに301条による調査を終え、相互関税などと同水準の関税率を維持する方針だとみられている(注6)

表1:トランプ政権2期目の主な関税措置
発表日 根拠法 内容
2025/2/1 IEEPA 不法移民やフェンタニルの流入を理由に、カナダとメキシコに25%、中国に10%の追加関税を発表(中国に対しては2/4から賦課、3/4から20%に拡大。メキシコ・カナダに対しては3/4から賦課)。
3/24 IEEPA ベネズエラ産の原油などを輸入する国に対する25%の追加関税。ただし、対象国は指定されなかった。
3/26 232条 自動車に対して4/3から、自動車部品に対して5/3から25%の追加関税賦課を発表。
4/2 IEEPA 全世界からの輸入に4/5以降10%のベースライン関税を、貿易赤字額の大きい相手にはさらに高い相互関税を4/9から課すと発表。ただし4/9に、中国以外の相互関税は4/10から一時的に適用停止すると発表。
4/9 IEEPA 中国に対する相互関税率を125%への引き上げると発表。
5/13 232条 民間航空機・部品などに対する調査を5/1から開始。
6/3 232条 鉄鋼・アルミニウムへの追加関税を6/4から50%に引き上げ。
7/16 232条 ポリシリコンに対する調査を7/1から開始。
7/16 232条 無人航空機(ドローン)に対する調査を7/1から開始。
7/30 IEEPA ブラジルに対して、米企業の利益や米国民の人権侵害などが米国の安全保障・外交政策・経済を脅かす緊急事態に当たるとして、8/6から40%の追加関税を賦課。
7/30 232条 銅の半製品に対して、8/1から50%の追加関税(銅部分のみに課税)。調査は3/10に開始し、6/30に終了。
7/31 IEEPA IEEPAに基づく相互関税を8/7から再開。一時停止期間中に米国と合意した国に対しては、当初発表よりも低い関税率を適用。
8/6 IEEPA インドに対して、ロシア産石油の輸入を理由に、8/27から25%の追加関税賦課を発表。
8/25 232条 風力タービンに関する調査を8/13から開始。
9/2 232条 ロボット・産業機械に対する調査を9/2から開始。
9/2 232条 医療用消耗品・医療機器に対する調査を9/2から開始。
9/29 232条 10/14から木材に10%、ソファなどに25%(2027/1/1から30%)、キッチンキャビネットに25%(同50%)の追加関税を賦課。調査は3/10に開始し、7/1に終了。
10/17 232条 11/1からトラック・部品に25%、バスに10%の追加関税を賦課。調査は4/22に開始し、9月末に終了。
10/24 301条 「米国と中国の経済貿易協定」における中国の履行状況を調査すると発表。
11/4 IEEPA 中国に対する34%の相互関税を2026/11/10まで停止(ただし、ベースライン関税10%は適用)。IEEPAフェンタニル関税率を20%から10%へ削減。
12/23 301条 中国の半導体産業に対する調査結果発表。2027/6/23から追加関税を課す。
2026/1/1 301条 バイデン前政権下での決定に基づき、EV用以外のリチウムイオン電池、天然黒鉛・永久磁石、フェースマスク、医療用手袋への301条関税率を引き上げ。
1/14 232条 1/15から特定の半導体に25%の追加関税を賦課。各国との交渉次第で関税対象を拡大。調査は2025/4/1に開始し、12/22に終了。
1/14 232条 重要鉱物に関する調査結果を発表。追加関税措置は取らず、各国との交渉を継続。調査は2025/4/22に開始、10/24に終了。
1/29 IEEPA キューバに石油を販売する国に対する関税を賦課すると発表。ただし、対象国は指定されなかった。
2/6 IEEPA イランから物品などを輸入する国に対する関税を賦課すると発表。ただし、対象国は指定されなかった。
2/20 IEEPA 最高裁がIEEPAに基づく関税賦課を無効と判断。
2/20 122条 2/24~7/24まで、10%の輸入課徴金を課すと発表。
3/11 301条 日本を含む16カ国・地域の製造業における過剰生産能力や、過剰生産に関連する政策・慣行について調査を開始。
3/12 301条 主要貿易相手国・地域が強制労働を使用して生産された産品の輸入禁止措置を実施しているか調査を開始。
4/2 232条 鉄鋼・アルミニウム・銅への追加関税措置の関税率変更を発表。金属含有量に基づく課税を廃止。
4/2 232条 特許医薬品に対し、7/31から一般関税率と合計して100%の追加関税を賦課。ただし、トランプ政権と個別に協定を結んでいる製薬企業などは対象外。調査は2025/4に開始(終了日は不明)。

出所:米国政府発表資料などを基にジェトロ作成

貿易赤字額は過去最高を更新

このように、トランプ政権は追加関税措置を、対象国・地域や品目、税率、根拠法を変えながらも継続している。では、これら一連の追加関税措置によって、米国の貿易額にどのような変化があったのか。

2025年の貿易赤字額は、前年比2.7%増の1兆2,373億ドルとなり、統計開始以降、過去最高を記録した(図1参照)。輸出額が前年から1,168億ドル(同5.7%増)増加し2兆1,785億ドルとなった一方で(図2参照)、輸入額は輸出額を上回る1,493億ドル(同4.6%増)増加し3兆4,157億ドルとなった結果(図3参照)、赤字額は拡大した。国・地域別では、中国との貿易赤字額が前年比31.6%減の2,021億ドルとなり、大幅に縮小したものの、引き続き最大の赤字相手国となった。2番目に大きかったのは対メキシコで同14.8%増の1,969億ドル、3番目は対ベトナムで同44.3%増の1,782億ドルだった。4番目に大きかった対台湾は、前年比でほぼ倍となる99.1%増の1,468億ドルと大きく拡大した(注7)

図1:米国の貿易赤字額の推移
2025年の貿易赤字額は、前年比2.7%増の1兆2,373億ドル で、統計開始以降、過去最高 を記録。国・地域別では、中国との貿易赤字額が前年比31.6%減の2,021億ドルで、最大。2番目に大きかったのは対メキシコで、同14.8%増の1,969億ドル、3番目は対ベトナムで同44.3%増の1,782億ドル。4番目に大きかった対台湾は、前年比99.1%増の1,468億ドル。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

図2:米国の輸出額の推移
2025年の輸出額は前年から1,168億ドル(同5.7%増)増の2兆1,785億 ドル。国・地域別では、メキシコ、カナダ、中国、英国、オランダ、ドイツ、日本、スイス、韓国、台湾の順となる。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

図3:米国の輸入額の推移(国別)
2025年の輸入額は前年から1,493億ドル(同4.6%増)増加し3兆4,157億 ドル。国・地域別では、メキシコ、カナダ、中国、台湾、ベトナム、ドイツ、日本の順となる。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

中国からの輸入額は継続して減少傾向

中国との貿易赤字額の減少には、対中輸入額の顕著な減少が寄与した。2025年1月の対中輸入額は、他国からの輸入額同様、追加関税措置前の駆け込み輸入により2023年や2024年よりも拡大したが、対中追加関税が始まった2月以降は全て前年同月比で減少した。特に相互関税率が100%を超えた4月から急減し始め、6月は前年同月比44.5%減とほぼ半減した(図4参照)。米国の対中相互関税率は5月14日以降10%にまで引き下げられ、さらに10月の米中首脳会談ではフェンタニル関税を20%から10%へと引き下げることでも合意したが、2025年後半の対中輸入額は例年並みには回復しなかった(注8)。米国の中国に対する関税率が安定しなかった上、中国に対しては安全保障上の理由もあり、いつ関税率が上がるかもしれないとの懸念が常につきまとった。企業は、大企業になればなるほど、関税コストそのものよりも予見可能性の低さを避ける傾向がある。こうした中国を取り巻く不確実性を嫌った結果、輸入額が減少した可能性がある。なお、対中輸入額が4月以降急減したのとは対照的に、米国の総輸入額は、4月以降、ほぼ例年並みだった(図5参照)。

図4:米国の対中輸入額(月別)
2025年1月の対中輸入額は、前年比16.4%増で、2023年や2024年よりも拡大。だが、対中追加関税が始まった2月以降は全て、前年同月比で減少した。特に相互関税率が100%を超えた4月から急減し始め、6月は前年同月比44.5%減とほぼ半減。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

図5:米国の輸入額の推移(月別)
2025年1月の輸入額は前年同月比で25.1%増、2月は19.0%増、3月には32.2%増。4月以降はほぼ例年なみだった。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

ノートPCで進んだ脱中国

中国からの輸入額を品目別に見ると、上位10品目のほぼ全てで前年から減少した。例年、米国の最大の対中輸入品目はスマートフォンで、その後にノートパソコン(PC)が続いていたが、いずれも大きく落ち込んだ。特にノートPCは前年から240億ドル減(73.5%減)の86億ドルと、落ち込み幅が最大だった。スマートフォンは178億ドル減(43.1%減)の235億ドルだった(表2参照)。

表2:米国の対中輸入額の推移(品目別)(単位:100万ドル)(△はマイナス値、ーは値なし)注:HS6桁ベースで上位10品目。再輸入品などは含まない。スマートフォンのHSは2022年に新設されたため、それ以前は存在しない。
HS 品目名 2017年
金額
2018年
金額
2019年
金額
2020年
金額
2021年
金額
2022年
金額
2023年
金額
2024年
金額
2025年
金額 前年比 2018年比
851713 スマートフォン 50,297 44,790 41,318 23,521 △43.1
850760 リチウムイオン電池 1,037 1,472 1,813 2,071 4,329 9,083 13,197 16,246 11,703 △28.0 695.1
950300 三輪車など玩具 12,237 11,902 12,235 11,026 14,519 16,294 12,178 13,470 9,147 △32.1 △23.1
847130 ノートPC 37,230 37,358 37,298 46,963 55,688 49,207 35,482 32,604 8,636 △73.5 △76.9
847330 プリント基板 15,026 16,457 5,546 6,707 5,746 6,769 6,338 6,432 5,687 △11.6 △65.4
851762 スイッチング・ルーティング機器 22,883 23,478 16,245 11,765 10,138 9,477 7,687 7,556 5,490 △27.3 △76.6
392690 プラスチック 2,707 3,200 3,539 3,813 4,504 4,620 3,782 3,996 3,408 △14.7 6.5
300490 医薬品 326 396 459 641 822 6,948 4,113 5,685 3,205 △43.6 709.8
852852 PC用モニター 4,596 4,696 5,109 4,783 6,340 6,871 4,755 4,911 2,771 △43.6 △41.0
854442 電気導体(1000V以下) 2,680 3,166 2,405 2,160 2,392 2,581 2,059 2,439 2,708 11.0 △14.5

注:HS6桁ベースで上位10品目。再輸入品などは含まない。スマートフォンのHSは2022年に新設されたため、それ以前は存在しない。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

代わってこれら品目の輸入額が増えたのは、ベトナム、インドだった。2025年のベトナムからのノートPCの輸入額は前年比122.0%増(約2.2倍)の298億ドルで、全輸入額の61.3%を占め、それまで首位だった中国を大きく引き離して首位となった(表3参照)。スマートフォンに関しては、インドからの輸入額が前年比217.6%増(約3.2倍)の220億ドルだった。首位の中国にはわずかに及ばなかったものの、全輸入額に占める割合は42.3%と過半に近づいた(表4参照)。

表3:米国のノートPC輸入額の推移(単位:100万ドル)(△はマイナス値)注:HS8471.30。
国・地域名 2017年
金額
2018年
金額
2019年
金額
2020年
金額
2021年
金額
2022年
金額
2023年
金額
2024年
金額
2025年
金額 前年比 全体に占める割合
ベトナム 857 725 996 1,298 1,686 1,980 7,868 13,412 29,769 122.0 61.3
中国 37,230 37,358 37,298 46,963 55,688 49,207 35,482 32,604 8,636 △73.5 17.8
タイ 0 0 8 8 4 17 12 328 4,476 1264.9 9.2
メキシコ 257 69 154 367 115 13 108 767 3,282 328.0 6.8
台湾 1,261 1,081 1,424 1,847 1,943 2,197 2,073 1,989 1,846 △7.2 3.8
インドネシア 0 0 1 24 18 2 9 18 168 813.0 0.3
インドネシア 0 1 1 0 1 1 2 8 148 1781.7 0.3
UAE 0 1 0 3 3 4 10 23 41 76.5 0.1
韓国 29 51 54 33 63 30 21 27 40 49.4 0.1
マレーシア 24 41 40 45 40 46 36 22 27 21.5 0.1
世界 39,911 39,594 40,268 50,813 59,760 53,651 45,793 49,341 48,561 △1.6 100.0

注:HS8471.30。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

表4:米国のスマートフォン輸入額の推移(単位:100万ドル)(△はマイナス値)注:HS8517.13。
国・地域名 2022年
金額
2023年
金額
2024年
金額
2025年
金額 前年比 全体に占める割合
中国 50,297 44,790 41,318 23,521 △43.1 45.2
インド 1,154 4,937 6,920 21,980 217.6 42.3
ベトナム 12,542 7,959 2,168 5,852 169.9 11.2
インドネシア 8 7 8 187 2301.9 0.4
香港 119 110 149 162 8.6 0.3
韓国 728 1,137 108 121 12.0 0.2
マレーシア 4 8 95 95 0.1 0.2
日本 151 65 70 44 △36.2 0.1
台湾 9 2 1 12 809.9 0.0
パナマ 2 14 40 10 △75.2 0.0
世界 65,106 59,086 50,954 52,023 2.1 100.0

注:HS8517.13。

出所:米国際貿易委員会(USITC)を基にジェトロ作成

通信機器を中心に中国からの輸入が減少する傾向は、トランプ政権1期目で追加関税が課された2018年から始まっている。背景には、長期化する米中対立や新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの途絶を経験した米国の巨大IT企業が、生産拠点を中国からベトナムやインドなどに移管する戦略を確定し、それを受けて、委託生産を行う台湾の大手企業がこれらの国で投資を拡大している構図がある(注9)。生産拠点の移管から実際の稼働には、3~5年程度必要とされる中、移管が終わり生産が軌道に乗ったことで、これらの国からの輸入額が拡大したと考えられる。こうした結果、2025年の米国の対中輸入額は前年比29.7%減と大幅に減少した。米国にとって中国は、2007年以降15年以上にわたって最大の輸入相手国だったが、2023年に前年比20%超減少しメキシコに抜かれて2位になり、さらに2025年にはカナダにも抜かれ3位へ後退した(図3参照)。

迂回輸入への規制強化に注意

以上より、2025年の米国の輸入額を基に分析すると、特定の品目においては、中国から輸入が減少した一方で、ベトナム、インドなどからの輸入に代替される、いわゆる貿易転換効果が進んだと指摘できる。ただし、こうした状況下では、本来、中国産として輸入されるべき品目が、高い関税率などを避けるため、第三国を経由して輸入されているのではないかとの懸念が生じる。特に、国によって異なる関税率を設定している現状では(注10)、関税率が低く設定されている国から輸入するインセンティブが大きくなる(注11)

トランプ政権はこれまでも迂回輸入対策をとっており、2025年8月には、関税の不当な回避や輸入禁止物品の密輸の取り締まりを強化する、省庁横断の貿易詐欺対策タスクフォースを立ち上げた。また、国ごとに異なる税率を定めた相互貿易協定(ART)では、第三国のフリーライドを阻止するため、「積み替え品」に対する措置を講じるよう相手国に要求している。今後は、こうした取り組みが一層強化される可能性がある。実際、2027会計年度(2026年10月~2027年9月)の予算教書では、全体的に予算を削減する方針を掲げる中で、貿易上の不正行為に対処するため、商務省国際貿易局(ITA)へは予算増を要求している(注12)

米国の対中輸入額減少は長期トレンドに

2025年の貿易統計からは、対中輸入額の減少と、それに伴うベトナムやインドなどからの輸入額の拡大という、2018年から始まっている長期トレンドが継続している状況を確認できた。冒頭で述べたとおり、トランプ政権は最高裁によるIEEPA関税無効判決以降も、異なる通商法を根拠に追加関税措置を継続する姿勢をみせており、中国に対しては、今後も他国と比して高い関税率が設定される可能性がある。さらに米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しでトランプ政権は、中国由来の部材を一定割合利用している場合や中国企業が生産工程へ一定程度関わっている場合、USMCAの特恵関税を適用しない原産地規則を検討しているとも指摘されている(注13)。5月14~15日に行われるトランプ政権2期目で2回目となる米中首脳会談では、一時的に融和ムードが演出されるかもしれないが、軍事・経済の両面で大国間同士の競争が続く限り、米中関係は緊張と緩和を繰り返すと考えられる(注14)。従って米国でビジネスを行っている企業は、中国からの輸入には他国と比して厳しい要件がいつでも課され得るとの認識でいることが重要だ。加えてトランプ政権2期目以降は、中国からの迂回輸入に対する取り締まりを一層強化すると考えられるため、こうした点にも今まで以上に気を配る必要がある。


注1:
301条は、外国の通商慣行が貿易協定に違反している場合や、不合理・差別的である場合に、大統領の指示に従ってUSTRが輸入制限措置を発動できると定めている。232条は、特定製品の輸入が米国の国家安全保障に脅威を及ぼすと商務長官が判断した場合に、追加関税などの措置を発動する権限を大統領に認めている。301条・232条の仕組みについては、「トランプ次期政権下で取られ得る関税政策(米国)」(2024年12月10日付地域・分析レポート)を参照。 本文に戻る
注2:
ただし、スマートフォンや半導体、特定の重要鉱物、医薬品、農産品など、例外的に対象外品目もある。詳しくは2025年11月17日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注3:
トランプ政権2期目では、木材の輸入拡大が安全保障上の脅威に当たるとして、ソファなどの家具にも追加関税を課すなど、「安全保障」の概念は拡大している。 本文に戻る
注4:
IEEPA関税の最高裁の判決に関する解説は以下が詳しい。川瀬剛志「トランプ関税米国最高裁判決とトランプ関税の今後」経済産業研究所(RIETI)、2026年2月27日。 本文に戻る
注5:
122条に基づく輸入課徴金にも、相互関税同様に、例外的に対象外品目がある。なお、現在の米国は「大規模かつ深刻な米国の国際収支赤字」の状態ではないとして、122条に基づく課徴金の賦課に対しても裁判が行われている。122条に基づいて関税を課したのはトランプ氏が初めてであり、これまで裁判所が「国際収支赤字」の定義について解釈する機会はなかったとされている。 本文に戻る
注6:
IEEPA、122条、301条は、それぞれ異なる理由を基に輸入を規制する措置を認めている。そのため、IEEPAに基づく措置の代わりに301条を利用するといった対応は、本来的には認められていない(それぞれ法律が定める要件を満たす必要がある)。 本文に戻る
注7:
台湾からの輸入額の大きい品目は、「処理装置(CPU)」(HSコード8471.50)、「パソコン用部品」(同8473.30)、「パソコン用ユニット」(同8471.80)などで 、人工知能(AI)の開発加速に伴うデータセンターの需要拡大が関係していると言われている。 本文に戻る
注8:
対中輸入額の減少は、関税率の高さのみならず、既存のその他の経済制裁措置、さらには将来、米国が取り得る潜在的な規制に対する警戒も影響していると考えられる。 本文に戻る
注9:
2023年までの米国の対中輸入の動きは「米中対立が対米サプライチェーンに与えた影響」(2023年10月16日付地域・分析レポート)、および「第7章 米国」『グローバルサプライチェーン再考経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』、文眞堂、2024年9月30日参照。2024年までの動きは「トランプ政権下の米中サプライチェーン」(2025年3月19日付地域・分析レポート)を参照。 本文に戻る
注10:
相互関税が無効となった後も、米国はARTを通じて、特定の条件下で一部の国からの輸入には122条関税を課さない、あるいは232条関税の上限を設けるといった措置 を取っているほか、中国原産品には301条に基づく追加関税も課しているなど、実質的に国ごとに異なる関税率を設定している。 本文に戻る
注11:
本来であれば、WTO加盟国からの輸入には、最恵国待遇(MFN)の原則の下、同じ関税率が適用されるが、米国は事実上、MFNの原則に従っていない。米国のMFNに対する姿勢は、「米国が挑む新たな国際通商システム(2)最恵国待遇のない世界」(2025年9月10日付地域・分析レポート)を参照。 本文に戻る
注12:
そのほか、予算教書では、輸出管理の執行強化や232条に基づく調査能力拡大などのために2億1,500万ドル増を要求した。国際労働局(ILAB)の予算額は4,600万ドル減とするものの、強制労働への対処など、通商協定で定めた労働基準の厳格な執行に注力する方針を定めた。詳しくは、2026年4月7日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注13:
一般的な通商のルールでは、「実質的な変更」が行われる加工を施した国を原産国としている。ここでは企業の資本関係は考慮されない。だがUSMCAの見直しにおいて、米国は、特定国の企業が製品の生産過程に一定割合以上関わっている場合、USMCAでの原産性を認めないルールを提案するのではないかと指摘されている。詳しくは、「USMCA見直しの行方、トランプ米政権の方針と中間選挙」(2026年2月20日付地域・分析レポート)を参照。 本文に戻る
注14:
例えば、レアアースのような重要な資源のサプライチェーンを中国に依存している状況を変更するには時間が必要で、一朝一夕には解決できないことから、米中関係は今後も緊張と緩和を繰り返すと予測されている。「トランプ政権の対中政策」(2025年12月9日付地域・分析レポート)を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査担当ディレクター
赤平 大寿(あかひら ひろひさ)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、海外調査部米州課、企画部海外地域戦略班(北米・大洋州)、調査部米州課課長代理などを経て2023年12月から現職。その間、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)の日本部客員研究員(2015~2017年)。政策研究修士。