中国、ASEANとグリーン協力深化
ACFTA3.0を中国視点から読む(1)
2026年4月1日
中国商務部の発表によると、王文濤商務部長は2025年10月28日、マレーシア・クアラルンプールにおいてACFTA3.0アップグレード議定書(中国語)
(495KB)に署名した。商務部の説明によると、同議定書の交渉は2022年11月に開始され、2025年5月に完了した。議定書の署名後、中国とASEANの双方が批准手続きを進め、早期発効を目指すとした(2025年11月17日付ビジネス短信参照)(注1)。
議定書はデジタル経済、グリーン経済、サプライチェーン相互連結、標準・技術法規および合格評定手続き、衛生・植物検疫措置、税関手続き・貿易円滑化、競争・消費者保護、中小企業、経済技術協力の9分野で構成される。商務部の説明によると、そのうちグリーン経済、デジタル経済、サプライチェーン相互連結、競争・消費者保護、中小企業の5章は今回新規に盛り込まれたものとなっている。本稿では今回新たに協定に盛り込まれた内容のうち、グリーン経済章の内容について紹介するとともに、中国側の意図を分析する。
グリーン産業で技術移転を実施、制度面での協力・導入促進も視野に
ACFTA3.0のグリーン経済章では、目的として以下の3点が掲げられている。
- 経済発展のグリーン化と気候変動への適応の推進、再生可能エネルギー・グリーン産業・イノベーションなどの新たな成長エンジンの構築、低炭素・資源節約型で気候に適応した発展の実現促進
- グリーン貿易、グリーン投資、グリーンファイナンスなどの共通の関心分野における協力の強化
- 地域のエネルギー転換、エネルギー効率の向上、クリーン・再生可能エネルギー分野の技術共有の共同推進
また、第4条において、グリーン経済の核心は貿易と投資にあると定義されており、中でも環境関連製品・サービスの重要性が強調されるとともに、貿易障壁の改善や投資協力の強化がうたわれた。具体的には、環境関連製品・サービスの定義を定めることや、環境にフレンドリーな製品の標準(規格)、技術法規、適合性評価手続きなどにおいて協力の可能性を模索するとしている。
優先協力分野としては、グリーン貿易、グリーン投資、循環経済、サステナブルファイナンス、グリーンテクノロジー、グリーン規格・技術法規および適合性評価手続き、持続可能なエネルギー、デジタル化とグリーン化の協調発展推進が挙げられた(各分野の概要は表参照)。
| 分野 | 概要 |
|---|---|
| グリーン貿易 | 展示会、フォーラム、見本市などを活用し、協力してグリーン貿易発展プラットフォームを構築し、グリーン製品とサービスの貿易を促進 |
| グリーン投資 |
|
| 循環型経済 |
次の分野などで経験・情報共有、交流、協力、共同研究を強化し、自発的かつ相互の合意に基づく条件での技術移転の可能性を検討 (1)プラスチック汚染対策、生産者責任の拡大、材料循環利用の促進、エコプロダクツ、エコデザイン、エコラベル、廃棄物エネルギー化、グリーン産業の実施およびグリーン物流 (2)農業、エネルギー、交通、グリーンビルディングおよびインフラ、廃棄物およびプラスチック管理などの分野における循環型経済モデルのベストプラクティスの応用 |
| サステナブルファイナンス |
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| グリーンテクノロジー |
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グリーン規格、技術法規 および適合性評価手続き |
次の分野における経験の共有および協力を強化 (一)適切な場合に締約国間の共通の関心分野におけるグリーン経済関連の国際規格との調和を促進 (二)グリーン経済、特に新エネルギー電池、新エネルギー自動車および関連部品などの新エネルギー製品に関する規格、技術法規および適合性評価手続きについて、対話と協力を展開
|
| 持続可能なエネルギー |
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| デジタル化とグリーン化の協調転換発展の推進 |
次の分野において経験共有と協力交流を強化 (一)データセンター、5Gなどのデジタル産業のグリーン・低炭素発展、デジタル技術を活用した伝統産業および中小零細企業のグリーン化・デジタル化転換、デジタル化・グリーン化共通技術の研究開発と普及、デジタル化・グリーン化融合応用シーンの拡大など。 (二)農業生産のデジタル化・スマート化・グリーン化の推進、異なる品種・地域におけるグリーンテクノロジーの統合・組み立て、デジタル農業の発展支援(デジタル応用シーンの創出と普及の推進、農業ビッグデータの応用加速、スマート農業の発展推進を含む) |
注1:脱炭素社会への移行を支援するための資金提供。
注2:環境的に持続可能と定義できるグリーン投資の基準。
出所:ACFTA3.0アップグレード議定書を基にジェトロ作成
前述の優先分野においては、いくつかの特徴を指摘できるだろう。まず、中国において強みのある、あるいは競争優位性の高いとされる産業・技術分野における交流・協力・技術移転などへの言及が多くみられることから、今後同議定書の履行プロセスを通じて、これら産業のASEAN域内への展開を側面支援していく方向性が垣間見える。また、中国で導入されているグリーン関連の各種規制・制度やシステムなどの導入・移植を図る方向性も見出し得る。以下では各優先協力分野の具体的な内容に則して紹介していく。
持続可能なエネルギーの分野では、風力発電、水力発電、太陽光発電、水素エネルギー、バイオエネルギー、スマートグリッド、スマートエネルギーソリューション、エネルギー貯蔵システム、電気自動車などの持続可能なエネルギー産業における協力や、再生可能エネルギーや排出削減に寄与するクリーンエネルギー施設の建設などの分野における経験の共有と交流協力がそれぞれ盛り込まれた。これらはいずれも中国が政策的に注力し育成している産業であり、多大な生産能力を有している。
循環型経済においては、廃棄物のエネルギー活用、プラスチックの管理や汚染対策、材料の再利用、拡大生産者責任(注2)などの文言がみられる。中国ではプラスチックや廃棄物に関する規制の強化や再利用の促進が政策的に推奨・促進されており(注3)、これらの関連産業もASEANに比べ中国において育成や集積が進んでいるとみられることからこうした産業のASEAN域内への展開を促進する姿勢がうかがえる。また、エコプロダクツ、エコデザイン、エコラベルのような政府や第三者機関などによる認証制度について、経験・情報共有、交流、協力、共同研究を強化し、技術移転の可能性を検討するとした。中国からASEANへのこれら制度の導入を推進することで、中国で同制度の下で認証された製品・サービスの、ASEAN市場での浸透、差別化、ブランド化を図る意図も見受けられる。
再生可能エネルギープロジェクトや脱炭素関連投資など、グリーン経済活動を推進する際には資金調達が重要となるが、こうしたサステナブルファイナンスの面では、ファイナンス商品や市場システム、関連政策や基準体系などについて、経験共有や協力を通じた制度の調和・融合を図る方向性がみられる。また、サステナブルファイナンスの分類に関するタクソノミー(注4)について、国際基準と並んで中国およびASEANレベル、ASEAN域内各国版のタクソノミーが重要な役割を担うと定めている。状況の推移によってはASEAN域内各国においても中国式の分類によってサステナブルファイナンス関連活動が実施されることになる可能性もある。グリーンファイナンス改革・イノベーション試験区(注5)という中国式の試行的政策実験の経験を共有することが盛り込まれている点も興味深い。他には多国間開発銀行との協力・連携に複数箇所で言及している点も注目される。
グリーン関連のテクノロジー分野においては、「中国・ASEAN 未来に向けたより緊密な科学技術イノベーションパートナーシップ構築行動計画(2021~2025)」(注6)およびその後の行動計画を通じて、低炭素技術、持続可能でグリーンなインフラ、環境産業およびグリーン産業を推進するとした。また、技術の普及速度の面で中国の強みと指摘されることの多い、実用化・応用化支援、先行的試験導入などが盛り込まれている。デジタル化とグリーン化の協調発展推進の分野においても、中国の産業・製品の社会実装の文脈でよく使われる「応用シーン(活用事例、ユースケースに類似)」の創出や拡大に言及されている。
電池・新エネ車・同部品の規格協力を推進、参入障壁形成の可能性も
製品・サービスの市場参入要件ともなりうる規格・技術法規・適合性評価手続きの分野においても協力の方向性が示された。グリーン経済の中でも特に中国の産業・企業の競争力の高さが指摘される、電池や新エネルギー自動車・同部品を特に名指しした。その上でこれらの分野における規格、技術法規、適合性評価手続きについて、対話と協力を実施するとした。EVメーカーの投資などに代表されるような、関連分野の中国企業のASEAN域内への進出が既に多数みられる(注7)ことから、今後同分野では中国企業主導で関連規格に関する交流や策定・改定に関する協力が展開される可能性が高く、ひいては同分野の日系企業の競争環境にも影響を与える恐れがある(注8)。このため議定書発効後の具体的な協力の動向を注視していく必要があるだろう。
中国は近年、EVや車載電池などを中心として大規模な生産能力を有しており、ASEANに向けた輸出も急増している(図参照)。ACFTAによる関税面でのコストメリットの存在がその勢いに拍車をかけている可能性は高い。
出所:グローバル・トレード・アトラス(GTA)を基にジェトロ作成
こうした状況下において、ACFTA3.0アップグレード議定書のグリーン経済章では、関税の減免という既存の手段に加えて、中国的な特色のある政策ツールの導入、標準化協力を通じたソフトインフラ面での支援という側面がうかがえる。中国の競争優位分野における標準の協調・融合などによって、中国産業・企業の競争優位性の維持・強化を図っている。また、技術の移転・実用化支援や応用シーン創出などを通じて、中国発の技術・製品の導入・実装のフィールドとして中国・ASEAN経済圏を位置付けようとする志向も見出し得る。
もちろん、同章に記載された内容が実際にどの程度反映されるかは、今後の協定発効後の中国とASEANおよび域内各国をはじめとする関連アクター間の交渉や、米国とASEAN各国の関係性などの外部要因によっても大きく左右されると考えられる。また、技術の社会実装、実用化に関してもその前提となる環境(各国の制度、労働力などの各種資源、インフラなどを含む)が中国とASEANでは相当程度異なる。ASEANで、中国で行われたようなかたちで産業の育成や技術の実装・浸透が進むかは見通しが難しい。しかし、同章の規定を1つの梃子(てこ)として、中国のグリーン経済関連産業がさらにASEAN域内での優位性・競争力を高め、堅固にするというシナリオも想定しうるため、今後より具体的な個別分野での取り組みの進展状況を引き続き注視していく必要があるだろう。
- 注1:
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本稿執筆時点(2026年2月27日)において、同議定書は未発効となっている。
- 注2:
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製品に対して生産者が負うべき責任の範囲を、その製品の廃棄やリサイクルの工程まで拡大し、費用負担などを求める制度。中国では電気・電子製品、自動車、動力電池などの分野において同制度の導入に向けた動きがみられる(2026年1月8日付ビジネス短信参照)。
- 注3:
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個々の政策に関して直近では例えば、材料リサイクルに関しては2026年1月7日付ビジネス短信を、固体廃棄物の再利用に関しては2026年1月8日付ビジネス短信を、電池の回収・リサイクルに関しては2026年1月21日付ビジネス短信を、プラスチック製品規制に関しては2025年9月18日付ビジネス短信などを参照。
- 注4:
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環境的に持続可能と定義できるグリーン投資の基準。中国版のタクソノミーについては、中国人民銀行(中央銀行)などの金融監督当局が発表した「グリーンファイナンス支援プロジェクトリスト(2025年版)」が2025年10月1日より施行されている。
- 注5:
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中国人民銀行の解説によると、中国では2017年6月以来、一部の省や自治区に設けられた試験エリアにおいて、グリーンファイナンスを促進する先行的な改革・奨励措置などが実施されてきたとされている。
- 注6:
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同計画は2018年11月14日に開催された第21回中国・ASEAN首脳会議において、中国とASEAN各国政府首脳が採択した「中国・ASEAN科学技術・イノベーション協力に関する共同声明」を実施する目的で策定された。イノベーション政策、企業インキュベーション、新興産業、科学技術パーク管理などに関する科学技術イノベーション政策面での協力のほか、生命科学、食品科学、インフラ・資源開発、気象学・地球物理学、マイクロエレクトロニクス・情報技術、海洋科学技術、材料科学技術、持続可能エネルギー研究、宇宙技術・応用などを優先分野とする共同研究開発や応用、関連の技術移転や実用化、人材交流などを推進するとしている。
- 注7:
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中国のEVメーカー、電池企業のASEAN展開に関しては、2024年12月16日付、2024年12月19日付、2024年12月13日付地域・分析レポート、ジェトロ調査レポート「中国企業のASEAN展開に関する動向把握
(1.52MB)」参照。 - 注8:
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中国は2021年10月に発表した国家標準化発展綱要(いわゆる「中国標準2035」)において、国際標準策定への関与と中国標準と国際標準との相互認証や一致性確保を促進していくと表明している(ジェトロ調査レポート「国家標準化発展綱要およびデータ管理に係る標準整備の動向(前編)
(500KB)」参照)。また、中国商務部が2025年10月に発表した「グリーン貿易の拡大発展に関する実施意見」において、グリーン・低炭素分野の適合性評価に関する多国間・二国間の相互認証協力の強化が盛り込まれており、今後本分野の協力はASEAN以外の国との間でも展開される可能性がある。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課 リサーチ・マネージャー
小宮 昇平(こみや しょうへい) - 2013年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課に配属。2016年3月より1年間の海外実務研修(中国・成都事務所)を経て、2017年3月から2018年8月まで中国北アジア課に所属。2018年8月から2023年7月まで中国・北京事務所にて調査業務等に従事。2023年7月から現職。





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