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英国とEU、双方がノー・ディール時の措置を公開
緩和措置なく影響を免れない分野も

2019年9月17日

英国のEU離脱(ブレグジット)を10月31日に控えるが、合意なき離脱(ノー・ディール)時には、離脱日翌日から英国はEUの第三国となり、EU規制の適用範囲外となることで様々な分野で大きな変更が生じ、混乱が予想される。そのような混乱を未然に防ぐ、もしくは影響を軽減するため、英国およびEUは政府レベルで離脱に向けた対応を公表している。英国およびEUそれぞれのブレグジットに対する対策、特に合意なき離脱(ノー・ディール)を想定した取り組みを整理し、それらに対する産業界の見方や懸念点を紹介する。

英国政府はノー・ディールに対する準備を加速

英国政府は2018年8月以降、ノー・ディールに備えるためのガイダンス「テクニカル・ノーティス」を順次、公表している(2018年8月24日付ビジネス短信参照)。本ガイダンスは、市民、消費者および企業に対する円滑なビジネス、生活インフラおよび公共サービス運営・維持と経済への悪影響の最小化を目的とする。対象分野はEU基金や農業、輸出入、環境保護、安全規制・医薬品規制その他のビジネス規制など多岐にわたるもので、それぞれの分野について、EU離脱前の状況とノー・ディールで離脱した際の影響をまとめている。ガイダンスは公表後、継続的に改定が行われており、最新版は政府ウェブサイト「Find Brexit guidance for your business」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます において確認できる。

また、ボリス・ジョンソン首相は、ノー・ディールに対する備えを急ピッチで進めており、サジード・ジャビド財務相は7月31日、ノー・ディール対策として21億ポンド(約2,730億円、1ポンド=約130円)追加拠出することを発表(2019年8月5日付ビジネス短信参照)。このうち11億ポンドは、国境管理や税関体制の強化、医薬品や医療製品の供給継続に向けた在庫の積み増しなど重要な分野に直ちに拠出するとした。残りの10億ポンドは、各省庁ならびに自治政府のブレグジットに対する運用準備資金となる。

一方、EU側の対応については、欧州委員会は2018年7月以降6回にわたり、「欧州委員会コミュニケーション(指針)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」として、ブレグジットに関する行動計画や、法整備を含む緊急時対応措置の準備の進捗などを公表している(注:ジェトロによる日本語仮訳資料をウェブサイトから参照可能)。さらに、物品や食品、税関、輸出入許可、金融サービス、データ保護、知的財産など多岐にわたる分野ごとに、100本(9月4日時点)の企業向け「ブレグジット準備通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を公表し、ブレグジットがそれぞれの分野に対し、どのような変化をもたらすかを注意喚起している。

分野により差が見られるノー・ディール時の措置

このように英国とEUの双方はノー・ディール時の影響を詳細に分析し、分野ごとの対応策を公表しているが、分野によりビジネス環境の急激な変化を抑制するための緩和措置の有無など、その濃淡に差が見られる。9月6日現在で明らかになっている措置を、英国側、EU側に分けてまとめるとともに、第三国協定にかかる日本と英国のスタンスをまとめた(表1、表2参照)。

表1:ノー・ディールの際の分野別影響

通関・物流
分野 EUのスタンス 英国のスタンス
関税 EU共通関税を適用(*) 英国独自の最恵国関税を適用(物品の87%を離脱日より最長1年間無税、農産品・自動車など13%に関税)(**)
航空 英国発便は最長2020年3月までEUへのアクセス維持
※措置の期限について2020年10月24日まで延長提案中(**)
EU発便は2020年10月24日まで英国へのアクセス維持(**)
陸運 英国ライセンスの陸運業者は2019年12月までEUへのアクセス維持(EUに同等の権利を与えることが条件)
※2020年7月までの期限延長を提案中(**)
EUライセンスの陸運業者は英国にアクセス維持(EUの方針と同等の権利を付与)(**)
鉄道 EUと英国をつなぐ鉄道事業で、最大9カ月間既存の鉄道インフラの部品などの安全規格、安全認証、鉄道運転者資格を認める(**) 離脱日より最大で2年間、EUで発行された事業ライセンス・安全認証・鉄道運転者資格の効力を認める(**)
VAT 原則輸入VATが適用(還付制度有)(*) 輸入VAT繰延制度を導入(**)
通関手続 英国・EU間で出発前申告(PDD)・搬入略式申告(ENS)の義務化(*) EUからの輸入に移行簡易手続き(TSP)を導入。運用開始から3~6カ月後に制度のレビューを実施予定。(**)
職員増強 税関職員増強(アイルランド、フランス、オランダ、ドイツなど)(**) 税関の体制強化のための予算を21億ポンドに積み上げ。国境警備も2019年中に最大1,000人を増強。(**)
拘束的関税情報(BTI) 既存のBTIサービスを継続(**) 新デジタルBTIサービス(eBTI)を導入(**)
サービス・雇用
分野 EUのスタンス 英国のスタンス
VAT(B2B) 「供給地課税」の原則(顧客の居住地で課税)(**) 「供給地課税」の原則(顧客の居住地で課税)が継続(**)
金融 デリバティブ清算について在英国の中央清算機関を暫定的に承認し、引き続き EU 域内でサービスを提供することを暫定的に認める(12カ月)。このほか、中央証券保管振替サービス(24か月)、店頭デリバティブ契約の移行(12カ月間)に関する経過措置を準備(**) EU離脱日より最大3年間、英国内のEEA企業(他国パスポートで営業する企業)は、英国のライセンスを申請しながら営業継続可(**)
市民の権利 EU居住の英国市民のステータス維持・確保(**) 英国居住のEU市民は継続して居住可(**)
離脱後は電子パスポート等で従来通り入国可。Euro TLRを導入し、EU市民の申込者に36ヵ月の一時的な移民ステータスを付与。申請しない市民は2020年末までに出国の必要あり。
規制・基準
分野 EUのスタンス 英国のスタンス
食品 第三国と同様のルールを適用。衛生植物検疫(SPS) と認証管理要件が満たされれば、貿易可(*) 動物性食品に関しては、第三国と同様の輸入手続きが必要。輸入通知システム(IPAFF)を使ったデジタル通知が必要となるが、システム完成までは書類などでの申請となる。鶏肉などの家禽(かきん)肉は直ちには変更なしでEU基準を準用。卵については新基準となるも未公表。残留農薬基準はEU法に似た新法が成立される予定。(*)
ラベルはEU基準のものが離脱後21カ月間の間移行期間として有効とされる。(**)
化学品 REACH登録している在英企業はEEA域内で登録をし直す必要あり(*) REACH登録している在英企業は、原則、UK版REACHに登録が継続される。ただし、120日以内に関連データの提出などが必要(**)
データ保護(GDPR) 英国への個人データの移転は原則禁止
十分性認定国の検討はEU離脱後に実施(*)
英国内のデータ保護規制は変化なし。英国からEUへのデータの移動自由は継続(**)
製品の認証
(CEマーキング等)
英国の認証機関による認証は無効、EUの認証機関で再認証を取るか認証を移管する必要あり。(*) EU認証機関による認証、自己宣言のCEマーキングは時限付き英国で製品を上市可能。離脱日翌日から新しく「UKCA」マーキングを導入(**)
離脱前の英国の認証機関からの認証は、新しい制度の下での英国証機関からのUKCAマークへの置き換え対応が必要(*)
自動車型式認証 英国の型式認証の保有者は、従前の英国の型式認証の状況で提出した文書とテスト報告に基づき、同一の型式について、EUの型式認証当局に新たな型式認証を申請可能(**) EUの型式認証に対し2年程度暫定認証し、その期間内に英国に認証を移管する(**)
医薬品 製造販売承認取得者(MAH)はEEA内に拠点があることが必要であるため、医薬品市販承認をEEA内のMAHに移管する必要あり(*) EUの医薬品市販承認を受けているものについて、離脱日に自動的に英国の市販承認を与える(1年以内に関連データの提出が必要)。MAHの英国内設置義務についても2020年までは英国内にコンタクトパーソンの指名によって代用が可能(**)
フロンガス規制 EU27カ国と英国で分けて割当を実施(**) EU制度の要求事項の多くを取り入れた規制の制定、独自の割当制度を創設(**)
気候変動政策 英国企業のEU-ETS市場への参加停止(*) 国内・国外への気候変動への取り組みの変更なし。EUの枠組みから外れるものの、新たな炭素排出税の導入するなどし、脱炭素社会を実現する。(**)

注:表中の記号は、ノー・ディール離脱時への対応について、(*)緩和措置なし、(**)緩和措置あり、(***)未定、をそれぞれ表す。
出所:欧州委員会、英国政府、日本政府資料からジェトロ作成

表2:第三国協定への影響
分野 日本のスタンス 英国のスタンス
自由貿易協定 合意なき離脱の場合、離脱日の翌日以降、日EU・EPAは英国には適用されない(*) 離脱以降、EUのFTAと類似したFTA合意を目指す。アンデス共同体、カリブ共同体、中米、チリ、東南部アフリカ、フェロー諸島、アイスランドおよびノルウェー、イスラエル、リヒテンシュタイン、太平洋諸国、パレスチナ、韓国、スイスと、EUとのFTAを英国が継承することに合意し離脱直後に発効(**)
相互承認協定 交渉中(***) 日本とは交渉中だが、離脱前の合意は不可能の見込み(オーストラリア、ニュージーランド、米国は合意)(**)

注:表中の記号は、ノー・ディール離脱時への対応について、(*)緩和措置なし、(**)緩和措置あり、(***)未定、をそれぞれ表す。
出所:欧州委員会、英国政府、日本政府資料からジェトロ作成

EU側では、特に「規制・基準」分野で、ノー・ディールの際の緩和措置を設けず、EU離脱後の英国を、第三国と同等に扱うとする項目が目立つ。また、航空や鉄道、陸運など一部の分野については、英国が同等の措置を認めた場合に限り、影響緩和の措置を講じる「相互主義」の方針を取っている。ただし、欧州議会は、これらはあくまで暫定措置であり、英国がEU加盟国として認められていた権利を、ブレグジット以降も保証するものではない点を強調している(2019年3月22日付ビジネス短信参照)。一方、英国側では、化学品の登録やCEマーキングなどでは離脱後、新たな手続きが必要になるものの、多くの分野ではノー・ディール時の影響緩和措置をとるスタンスだ。

物品貿易に関する措置を比較すると、英国からEUに輸入する場合は、第三国からEUに輸入する場合と同様の手続きが必要になる。具体的には、EUの対外共通関税が適用され、通関手続きが必要となり、EU側の輸入者は輸入付加価値税(VAT)の支払い義務が生じる。一方、英国側においては、国外からの輸入については暫定的に英国独自の最恵国関税率を適用することで、金額ベースで87%相当の物品については離脱後も関税免除となる(最長1年、2019年3月14日付ビジネス短信参照)。さらにEUから英国への輸入に関しては、通関手続きは生じるものの「移行簡易手続き(TSP)」により、輸入申告フォーム不要かつ関税の支払いは翌月15日までという猶予が与えられる。TSPは、EUからの物品を簡易な通関手続きで輸入できるようにすることを目的とし、輸入規制対象品目を除き、英国の輸入者は、EU域外からの輸入時に通常必要となる「C88フォーム」なしで通関申告をすることができる制度だ(2019年2月7日付3月26日付ビジネス短信参照)。同制度は、EUから輸入通関を行うすべての国内の港湾・空港で利用可能になる。

産業界からは多くの懸念

英国産業連盟(CBI)は7月28日、英国とEU、および企業のノー・ディールに対する準備状況を評価した報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を公表し、ノー・ディールに対して準備できていない状況だ、と警鐘を鳴らした(2019年7月30日付ビジネス短信参照)。報告書では、物品の移動や規制、関税・税制、北アイルランド、サービス、市民、データ、競争政策、国際関係などに対する英国側、EU側および企業の対策の状況について、(1)「ノー・ディール当日からネガティブな影響が予想される」、(2)「緩和策あるもリスクが残存」、(3)「短期的緩和策はあるが長期的解決策なし」、(4)「短期・長期的に十分な準備あり」の4段階で評価している。CBIは「多くの対策は短期的な悪影響を緩和するためのもので、影響自体を取り除くものではない」と指摘、特にEU側の対策については状況を厳しく評価している。

一方で、「ザ・サン」紙(2019年8月14日)によれば、英国のアパレル大手、ネクストのサイモン・ウルフソンCEO(最高経営責任者)は、ノー・ディールの場合でもトラックの運転手はTSPにより少なくとも12ヵ月間は通関書類を記入する必要がなく、政府が既にノー・ディール時の関税率を公表しており企業はあらかじめ価格調整が可能なことなど、政府がノー・ディールへの対策に焦点を当てた十分な準備をすることにより、影響は「軽度の混乱」で済むと主張している。また、フランスのカレー港のジャン=マルク・ピュイスソー最高責任者も「デイリー・テレグラフ」紙(2019年8月11日)に対し、英国当局は準備に対して多大な努力をしているとし、ブレグジット翌日には何も起こらないと主張。「英国は第三国になる、それだけだ。もし(英国とEUの)双方が宿題をこなせば、物流は完全に流れる」とコメントしている。ドーバーからカレーに向かうトラックの約3割は貨物を運んでいないため通関手続きは不要、6割のトラックが運搬する貨物も検査は不要である、と分析した。しかし、英国政府が2019年9月11日に公表したノー・ディールの影響評価をした内部資料「イエローハンマー作戦」(2019年9月13日付ビジネス短信参照)によると、ノー・ディールでの離脱の翌日時点では、英国からEUに向かうトラックの50~85%がフランス税関での対応準備ができていない可能性があり、車両の流通量は離脱前の4割から6割程度まで減少する。最悪の状態の混乱は最大3カ月続き、その後は企業の対応準備が進み、5割から7割程度に改善されるが、いくらかの混乱は長引く可能性がある。また、EUに向かうトラックは海峡を渡るために1日半から2日半の遅れが生じる可能性も指摘している。

なお、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は7月16日、意見書「企業が次期欧州委員会に対し、発足から100日間に実施を期待する50項目」の中で、ブレグジットについて、ノー・ディールの回避や、データ移転の事業運営上の悪影響阻止、新たな通関手続きへの対応の企業支援、ブレグジット後の企業内転勤者の処遇などを、次期欧州委員会に要請した(2019年7月18日付ビジネス短信参照)。ノー・ディールの場合、欧州企業への悪影響を最小にする対応も求めた。

また、ジェトロがブリュッセルに所在するEUの産業団体にブレグジットに関するヒアリング(2019年7月10~11日)をしたところ、自動車関連の産業団体は、多くのEU加盟国の企業は英国と深く結びついているため、英EU間の規制枠組みの相違、今後の英EU関係などを懸念点として指摘し、同産業にとって英国との緊密なアクセスが重要とコメントした。また、ブレグジットに伴う影響についてはいまだに多くの疑問が残っており、自動車業界にとって、確実性が保証されない現状は事業運営上、非常に困難な状況だという。ジャスト・イン・タイムでの生産が重視されるため、新たな通関手続きの発生などに伴う数秒・数分の国境での物流の遅れも大きな損失となり、物流面での不確実性は、潜在的にサプライチェーンへの深刻な打撃を秘めていると警戒する。さらに、2019年3月末に離脱が予定されていた時は、1次部品メーカーが夏季の定期修理を4月に早めて対応したが、離脱日が延期された結果、10月末の離脱の際には定期修理や休暇期間による調整ができないことに加えて、さらなる離脱日延期の可能性も残されており、3月末と同様の対応は難しいという。

さらに、物流関連の業界団体は、ノー・ディール時の航空輸送について、英国とEU間の航空機の往復は2020年3月まで確保された(注)ものの、EUの航空機は英国内の都市間を輸送できないなどの問題点を指摘。陸運についても、トラックやトレーラー、ドライバーの国際輸送にかかるライセンスや登録が新たに必要となるため、離脱前もしくは離脱後の一定期間内に取得しなければならない問題があると指摘する。船舶関連の業界団体は、ノー・ディールの準備として、追加で発生する諸手続きやセキュリティーコントロール、船舶のアクセス(北海やアイリッシュ海の通行)などの対応を進めているが、EUレベルでの競争力低下や、英国が企業誘致に有利な税制などを導入すると欧州の企業が簡単に英国に移転してしまうなど「公正な競争環境(level playing field)」が失われることへの懸念を指摘する。

多くの業界団体に共通して見られた問題意識として、欧州中小企業への対応が困難である点が挙げられる。これまで、EU域外の第三国との取引を行った経験のない中小企業にとって、ブレグジット後は英国との取引で初めて輸出入を経験することとなり、その知識や人手の不足、専門家を雇う費用が捻出できないためだ。

ノー・ディール時の政府の対応は徐々に明らかになっているものの、実際にどの程度の混乱が生じるかを見通すことは難しい。特に、影響緩和措置がない分野については混乱が生じる可能性があり、双方の政府や関係団体が発信する情報を事前に収集し、十分な準備をすることが求められる。


注:
欧州委員会は2019年9月4日公表の「第6次ブレグジット対策準備コミュニケーション(指針)」において、英国とEUの航空機のアクセスを2020年10月24日まで延長することを提案(2019年9月6日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
鵜澤 聡(うざわ さとし)
2013年、高圧ガス保安協会(KHK)入会。2016年10月よりジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課へ民間等研修生として出向、2017年10月より現職。

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