欧州議会、ノー・ディールの際の緊急対策をあらためて示す

(EU、英国)

ブリュッセル発

2019年03月22日

欧州議会は3月21日、英国が何ら合意なしにEUから離脱(ノー・ディール)する場合に発動されるEUの緊急対策を概観、EUの企業や市民への悪影響を最小限に食い止める考えをあらためて示した。これらについて欧州議会は、あくまで暫定的かつ一方的な措置であり、英国がEU加盟国として認められていた権利をEU離脱(ブレグジット)以降も保障するものではないこと、また、一部の措置は、英国が同等の措置を認めた場合に限り適用する「相互主義」であることを強調した。

色濃く残る「相互主義」の影響

欧州議会がまとめた分野ごとの緊急対策の概要は次のとおり。

  • 航空:英国がEU航空サービス事業者に英国でのサービス提供を認める場合に限り、EUは英国の航空サービス事業者のEU加盟国でのサービス提供を認める(2018年12月21日記事参照)。
  • 鉄道:英国が同様の措置を認める場合に限り、EUは英国との鉄道運行の継続を可能にするために、EU安全規格への英国の適合性を認める(2019年2月13日記事参照)。
  • 道路輸送:英国が同様の措置を認める場合に限り、EUは英国の貨物輸送、バス・長距離バス(coach)事業者がEU・英国間の連絡サービスを行うことを認める。
  • 社会保障:英国で生活するEU市民、およびEUで生活する英国市民が、英国のEU離脱前に取得した社会保障に関わる権利はブレグジット以降も保障される。
  • 研究交流:英国にいるEUの教員・学生、またはEUにいる英国の教員・学生が、EUの研究交流プログラム「エラスムス・プラス」を活用して外国留学している場合、プログラム完了までその権利は保障される。
  • 北アイルランドの和平プロセス:「ベルファスト合意(聖金曜日協定)」に基づいて開始された、北アイルランドの和平プロセスに関するプログラムへの財政支援については、少なくとも2020年まで継続運用を認める。
  • 漁業:英国が相互主義に基づき合意し、EUの漁業従事者に英国領海内の漁場へのアクセス権を完全に認める場合に限り、英国の漁業従事者に対し、EU加盟国領海内の漁場で操業するための認可を得る簡易手続きを認める(2019年1月24日記事参照)。割当交換制度(加盟国間の枠の割り当て、移転または交換を行える制度)については、2019年12月31日までの期限付きで引き続き認められる。英国が合意しない場合、英国領海内の漁場へのアクセスを失ったEU漁業従事者は欧州海洋漁業基金(EMFF)からの補償が認められる。

なお、運転免許証、ペット通行証、欧州健康保険証(EHIC)については、ノー・ディールの場合、EU・英国のこれまでの権利関係は停止し、双方の当局に対応を確認する必要があると注意喚起した。これらの措置発効には欧州議会の承認が必要であることも強調している。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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