世界銀行、2023年の南アジアの経済成長率を5.5%と予測

(インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ)

アジア大洋州課

2023年01月25日

世界銀行は1月10日に発表した「世界経済見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で、南アジア地域(SAR、注1)の2023年の実質GDP成長率を5.5%と予測PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)し、前回(2022年6月)の見通しから0.3ポイント下方修正した。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴う食糧やエネルギー価格の上昇、世界的な金利上昇、主要貿易相手国の成長鈍化などの影響が背景にあるとした(2023年1月12日記事2023年1月20記事参照)。

同地域のGDPの4分の3を占めるインドについて、世界経済と不確実性の高まりが輸出と投資の伸びを圧迫するため、同国の成長率は2022年度(2022年4月~2023年3月)に6.9%(6月から0.6%ポイント下方修正)に減速すると予測し、前年度の8.7%を下回った。他方、同国は主要経済国の中で最も経済成長率が高くなると見通した。また、2023年度GDP成長率は6.6%にさらに減速すると予測したものの、インド経済は将来のショックに対する強靭(きょうじん)さを維持していると述べた。今後取り組むべき重要な課題として、インフレ率の上昇、財政・経常収支赤字の拡大、輸出の減速、低所得者層の増加などを挙げた。

2022年4月にデフォルト状態に陥ったスリランカでは、政府が外貨準備を食糧・燃料の輸入、外貨建て債務の返済に充てたため、2022年(1~12月)の成長率は9.2%減少したと推測した。通貨スリランカ・ルピーは急落し、輸入は急激に縮小した(2022年6月29日2022年11月29日記事参照)。当局は現在、安定化プログラムを実施しているが、食料、エネルギー、医薬品などの不足は続いている。

パキスタンは、2022/2023年度(2022年7月~2023年6月)の成長率が2.0%と、前回見通しの4.0%から下方修正された。外貨準備高が少なく、財政と経常収支の赤字が大きいという不安定な経済状況(2022年8月2日2022年8月9日2022年8月29日記事参照)に、2022年7~8月の洪水の影響(2022年8月30日記事参照)が追い打ちをかけ、政策・政治的不確実性の継続も手伝い、引き続き厳しい経済状況が予想される(2022年9月26日記事参照)。

バングラデシュでは、インフレ率の上昇(2022年12月27日記事参照)、エネルギーコストの上昇と供給制約(2022年7月13日2022年8月26日2022年9月22日2022年11月18日記事参照)、輸入制限と金融政策の引き締め(2022年7月19日2022年7月28日2022年7月20日2022年12月21日記事参照)などにより、2022/2023年度(2022年7月~2023年6月)の成長率は5.2%に減速すると予想。輸入コストの上昇により、2019年以降に同国の貿易赤字は拡大するものの、既製服の需要の堅調な伸びにより世界市場でのシェアが拡大した(2022年12月16日記事参照)ことが赤字のさらなる拡大抑止につながったと分析した。

南アジア地域の2024年の経済見通しは5.8%と、わずかに成長率が上向くと予測。ただし、下振れリスクとして、2023年同様に新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響、世界的な金融引き締めの加速、世界的な経済成長の鈍化などが挙げている。中でも、世界銀行は、パキスタンとスリランカでの食糧価格の急上昇が食糧不安を高めていること(注2)と、気候変動を同地域にとって大きな脅威とした。

(注1)世界銀行の区分では、アフガニスタン、インド、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、ブータン、モルディブの8カ国を指す。

(注2)アフガニスタン、バングラデシュ、インド、パキスタンは2022年に米、小麦、砂糖を含む食料の輸出制限を実施した。

(寺島かほる)

(インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ)

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