パキスタン、債務問題の解決を難しくする大洪水

(パキスタン)

アジア大洋州課

2022年09月26日

パキスタンの923日の為替レートは、1ドル=239.9パキスタン・ルピーと下落傾向が続いている。外国人投資家が債務の不履行リスクを意識し、パキスタン通貨は売られている。元々、新型コロナウイルス感染拡大の影響による経済低迷、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴うエネルギー・食糧価格の高騰などで外貨準備高が減少していたところに、20226月ごろからの大雨で史上最悪レベルの被害が発生している(2022年8月30日記事参照)。結果的に、主力産業の1つ、農業を中心とした生産量の減少による、さらなる経済の下振れが懸念されている。投資家の懸念が強まる中、918日のロイターは、ミフタ・イスマイル財務相は経済安定化に向けた改革は軌道に乗り、債務不履行は「絶対にない」と断言したと報じた。

債務問題に関する情勢は逼迫している。925日には、イスマイル財務相辞任の報道が流れた。同日の現地紙「ビジネス・レコーダー」は、同相と政権幹部との間で、経済政策の方向性に相違があったとし、イスマイル氏は4年足らずの間に就任した5人目の財務相と報じた。また、923日の英国の「フィナンシャル・タイムズ(FT)」は、国連がパキスタンの債務返済の停止と債務再編を提案したと報じた。債務問題の根深さを背景に、10年物国債金利は、923日時点で12.8%と816日以来の水準に上昇した。

パキスタンの債務問題をあらためて際立たせた水害・洪水は、インフレ率を今後も引き上げかねない。8月のインフレ率(総合指数)は前年同月比27.3%と上昇基調が止まっていない。国民生活に影響が大きい食品のインフレ率は都市部で28.8%、郊外で30.2%と総合指数を上回る水準となっている。インフレ率の上昇は、中央銀行が政策金利を引き上げる理由の1つになる。米国連邦準備制度理事会(FRB)が速いペースで利上げを続ける中、中銀が引き締め政策を講じないと、為替レートの減価を通じて、さらなるインフレ率の上昇を引き起こしかねない。他方、過度な金融引き締めは、パキスタン経済の成長率を下押しし、債務問題の解決をさらに難しくするリスクをはらんでいる。

(新田浩之)

(パキスタン)

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