南西アジアで経済危機の連鎖懸念も

(インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール)

アジア大洋州課

2022年08月09日

南西アジアで経済的に苦境に陥る国が増えている。スリランカが4月にデフォルト状態になって以降、パキスタン、バングラデシュも外貨準備の減少抑止に向けた保護主義的な通商・貿易管理政策導入が鮮明になってきた。経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)も反映する88日時点の各国通貨の対ドル為替レートを2020年初頭比でみると、経済危機下のスリランカは50.4%下落した。パキスタンは31.0%と3割以上、バングラデシュも10.4%下落と2桁の下落となっている。同期間インド・ルピーも10.5%下落した。

経済危機下のスリランカ政府は、8月末までにIMFと金融支援に関する実務者レベルの合意に達することを望んでいる(「デーリー・ミラー」82日)。パキスタンについては、IMF713日に実務レベルでは追加融資供与で合意したものの、為替レートは減価傾向にある。外貨準備の減少も響き(2022年5月13日付地域・分析レポート参照2022年8月2日記事参照)、国民生活に影響を及ぼす直近のインフレ率は、スリランカが58.9%、パキスタンが24.9%と、歴史的に高い水準となり、国民の不満の矛先は、政府に向かっている。

バングラデシュ政府がIMFに支援を要請したと現地紙が報じる中、IMFは同国の経済状況がさらに悪化した場合、セーフガードを備えた融資プログラムを政府と協力の上で策定するとした(ロイター83日)。パキスタン、スリランカと同様に、バングラデシュも外貨準備が減少し、政府は信用状(L/C)開設条件を厳格化するなど、さまざまな措置を講じている(2022年7月19日記事参照)。さらに、ネパール経済も苦境に陥っている。現地紙は「過去数カ月の輸入急増により、外貨準備高が危機的水準まで減少する中、経済危機が発生する可能性がある」とする(「カトマンズ・ポスト」紙79日)。一方、同紙(729日)は「ネパールは経済と金融リスクを管理できる」とするIMFの見方も伝えている。バングラデシュ、ネパール両国の直近のインフレ率は7.6%、8.6%と高水準にあるものの、スリランカ、パキスタンほどインフレ率が急上昇しているわけではない。IMFの両国への反応をみても、スリランカ、パキスタンとは足元の状況に差異があるようだ。

(新田浩之)

(インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール)

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