持続可能な包装と企業の対応事例Dcycle、AI活用でPPWRの包装データを一元管理(EU)

2026年10月19日

EUの環境・社会・ガバナンス(ESG)関連規制が複雑化し、企業に求められるサステナビリティ情報の開示も拡大している。こうした動きを事業機会と捉え、規制対応や情報開示、サプライチェーン管理などを支援するデジタルプラットフォームを提供する企業が欧州で相次いで登場している。一方で、個別の制度や用途に特化したサービスも多く、企業にとっては、複数のシステムで同じデータを繰り返し収集・管理する負担も課題となっている。

本稿では、こうした課題への対応を図るプラットフォーム企業の一例として、スペイン企業Dcycle外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを取り上げる。同社は、サステナビリティ関連情報を共通基盤で管理し、複数の報告や規制対応に再利用する統合型プラットフォームを開発・提供している。Dcycleでドイツ・デュッセルドルフを拠点に、DACH市場(ドイツ、オーストリア、スイス)の顧客支援を担当するジャン・バウアー氏[ESG-X外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます共同創業者兼最高執行責任者(COO)]に話を聞いた(取材日:2026年7月9日)。


Dcycleのバウアー氏にジェトロ・デュッセルドルフで取材した(ジェトロ撮影)

サステナビリティ・データを複数の報告に活用

Dcycle(法人名:The Wake Up Movement)は2020年に創業したESG・非財務データ管理企業だ。スペイン・マドリードを本拠とし、英国・ロンドンとドイツ・ミュンヘンにもオフィスを置く。企業内外に分散するESGやサステナビリティ関連データを収集・管理し、EUの企業持続可能性報告指令(CSRD)(注1)、包装・包装廃棄物規則(PPWR)(注2)、森林破壊防止デューディリジェンス規則(EUDR)のほか、温室効果ガス(GHG)プロトコル、EcoVadis(エコバディス)(注3)、国際標準化機構(ISO)規格(注4)など、複数の報告や規制対応に利用できるプラットフォームを提供している。

顧客企業は、Dcycleのプラットフォームで一度収集・構造化したデータを、複数の報告書の作成や顧客アンケートへの回答、監査対応、業務上の意思決定などに再利用できる。同社は、これによりデータ収集の重複を避け、コストや報告作業に要する時間を削減できるとしている。

2026年2月には、ドイツ企業のESG-X(注5)を買収し、バウアー氏を含むESG-Xの創業者3人がDcycleに加わった。ESG-Xは、人工知能(AI)を活用したサステナビリティ報告向けのESG管理プラットフォームを開発し、CSRDや非上場の中小企業向け自主的サステナビリティ報告基準(VSME)などに対応したサービスを提供していた。

Dcycleは非財務データを一元管理するソフトウエア基盤、ESG-Xは規制対応を自動化するAI技術にそれぞれ強みを持つ。両社の技術は、買収により統合された。

スペイン、英国およびESG-Xのカバー範囲であったDACH市場を中心に、欧州全域へのビジネス展開を目指す。Dcycleのプラットフォームは、ESG-XのAIシステムにより、現在EU27カ国の言語に対応している。

PPWR対応モジュールを開発

Dcycleは2026年6月に、包装データの収集・管理などを支援するPPWR対応モジュールの主要機能を公表した。7月以降、包装カタログの一括登録、販売対象国に応じた拡大生産者責任(EPR)などの要件表示、データ出所の追跡、EU適合宣言書(DoC)の作成機能などを順次追加した。製造事業者は、サプライヤーから収集した材料・含有物質情報などを管理できる。また、同じ包装仕様を使用する複数のSKU(在庫管理上の商品識別単位)を1つの包装単位にひも付け、対象商品をまとめたEU DoCをプラットフォーム上で生成できる。

同社の「PPWRツール」は、PPWRへのコンプライアンス状況を照会するためのモジュールで、包装単位ごとに材料構成表(BOM)、含有物質の値、回収・分別・リサイクル率などの情報を登録できる。PPWRの経済事業者(economic operator)は、自身が扱う包装の含有物質や再生材含有率のほか、リサイクル性能等級(注6)リサイクル設計、リサイクル方法(マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル)などの情報を申告・照会できる。これらの情報は、プラットフォームに直接入力することも、エクセルのテンプレートに入力してアップロードすることもできる。扱う包装材の材料や仕様の変更により、リサイクル可能性が変更された場合は、その都度プラットフォーム上の情報を更新し、顧客企業などに提供する。

自社がPPWRにおけるどの経済事業者(製造事業者、輸入事業者、包装材サプライヤーなど)に該当するかは、ユーザー自身がモジュール上で入力する必要がある。製造事業者は、包装材サプライヤーをモジュール上のPPWRプロジェクトに登録・招待し、複数の包装単位に関するコンプライアンスデータや根拠資料をまとめて要求・回収し、一元管理できる。

サプライヤーは専用ポータル上で、懸念物質の有無や基準値への適合状況について、「この包装は有機フッ素化合物(PFAS)を含みますか?」「包装はPPWR第5条第5項が定める閾値(個別PFASの上限値25ppb/PFAS総量の上限値250ppb/総フッ素量50ppm)に適合していますか?」などの簡潔な質問に選択式で回答することで、一般的な適合状況を申告し、その裏付け書類を添付する。PPWR上の適合性評価や技術文書、EU DoCの作成責任は製造事業者が負う。

バウアー氏によると、欧州企業のPPWRへの準備状況は企業によってまちまちであるものの、大企業では比較的準備が進んでいるケースが多いという。

欧州のほか、日本などの域外市場への展開にも期待

Dcycleは2026年時点、10カ国以上で2,000社以上の顧客を持ち、15以上の報告枠組みに対応している。

バウアー氏は、日本企業の多くが欧州市場に製品を供給していることから、日本を有望な市場とみている。現在、Dcycleを利用する日本企業は欧州現地法人が中心で、同法人が規制対応と日本本社との連携窓口を担っているという。バウアー氏は、まず欧州現地法人で導入することが、同社のサービスを利用しやすい方法だと説明した。ウェブサイト上では、各モジュールのデモ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをリクエストすることもできる。

日本企業による活用事例では、バイオスティミュラントなどを手掛ける味の素グループの農業資材事業会社、Ajinomoto Agro Solutions(本拠:スペイン)が、環境負荷を低減するサステナブルな農業資材を市場に供給するにあたり、製品の原材料調達から製造・流通に至るまでの環境データを可視化するため、Dcycleのライフサイクルアセスメント(LCA)モジュールを導入している。

バウアー氏によると、2027年3月期から日本で段階的に適用されるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)によるサステナビリティ開示基準外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますへの対応に向け、Dcycleの技術に関心を持つ日本企業もいるという。


注1:
CSRDの詳細は、ジェトロの調査レポート「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」(2024年5月)を参照。 本文に戻る
注2:
PPWRの詳細は、特集「EU包装・包装廃棄物規則(PPWR)関連情報」を参照。 本文に戻る
注3:
エコバディス(EcoVadis)は、企業のサステナビリティへの取り組みを評価する国際的な評価プラットフォーム。多くの企業がサプライヤー評価に活用している。 本文に戻る
注4:
Dcycleウェブサイトによると、ISO14001(環境マネジメントシステム)、ISO14064(温室効果ガス排出量の算定・報告など)、ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)、ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)などに対応する。 本文に戻る
注5:
ESG-Xはドイツ南部のミュンヘンと西部のデュッセルドルフにオフィスを持つ。 本文に戻る
注6:
欧州委員会は、リサイクル設計基準とリサイクル性能等級を定める委任規則を2028年1月1日までに採択する予定。現在は、欧州の業界団体RecyClass(リサイクラス)やCEFLEXが業界独自の包装リサイクル設計ガイドラインを策定している。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 課長代理
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現部署に所属。