持続可能な包装と企業の対応事例クラレ製品、プラスチック包装のモノマテリアル化を実現(日本)

2026年4月6日

EUの包装・包装廃棄物規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(PPWR)(注1)の段階的な適用開始が2026年8月12日に迫る。欧州でビジネスをする企業にとって特に影響が大きいのは、プラスチック包装のリサイクル可能性の要件となるリサイクル性能等級やリサイクル材(再生材)の最低含有率に関する規則だ。

大手総合化学メーカーのクラレ(本社:東京都千代田区)(注2)は、プラスチック包装のモノマテリアル化を実現するEVOH(注3)樹脂製品「エバール」を生産している。エバールの製品概要やEVOHが市場で果たす役割について、同社エバール事業部の製品・品質統括部 製品安全管理グループリーダー 新留裕之氏と樹脂販売部販売課 吉田直樹課長に聞いた(取材日:2026年2月9日)。

優れたガスバリア性で多岐に渡る包装に活用

食品や医薬品などのプラスチック包装は、基材、接着剤、インキ、バリア材などで構成される。包装の内容物を外気や香り・油分などから守るバリア材の役割を果たすEVOHは、従来のプラスチックにはない優れたガスバリア性(注4)を持ち、内容物の安全性確保や食品の賞味期限の延長に貢献する。クラレは1972年にEVOHの開発に成功して以来、「エバール」(図参照)という製品名で樹脂や単層フィルムとして販売してきた。

図:「エバール」採用アイテムの標準的な多層構造
バリア材の役割を果たすエバール層と、ポリオレフィン等から成る基材の間に接着層がある。外層の基材、接着層、エバール層、接着層、内層の基材と5つの層が重なった多層構造になっている。ガスバリア機能があるエバール層により、内層では内容物の鮮度を保ち、風味を落とさない、外層では酸素やにおいを透過させない。

出所:クラレ提供

エバールは国内外で、フレキシブル包装、カップ・トレー、ボトル、チューブ、紙コートなどの食品・化粧品・医療用途のほか、工業用途など、多岐にわたる包装に採用されている。EVOHを生産するメーカーは、現在世界に数社あるが、シェアではクラレが1位を誇る。

エバールは現在、同製品を最初に生産した岡山県、生産量で最大の米国・ヒューストンのほか、ベルギー・アントワープの3拠点で生産している。2026年末にはシンガポールに新たに生産工場を開設予定で、このシンガポール生産分を合わせると、世界で13万トンの生産能力を有することになる。

同社が欧州の生産拠点を有するアントワープは、オランダのロッテルダムに次ぐ欧州第2の規模の港を有し、コンビナートには、さまざまな化学メーカーが立地している。同社はここに、1999年に生産拠点を設立し、エバールの生産を開始した。

PPWRのリサイクル基準に有利な素材

PPWRで規定されるプラスチック包装のリサイクル基準やリサイクル性能等級(表参照)の詳細は、欧州委員会が2028年1月1日までに委任立法で定める。2030年1月1日、または委任立法の施行日から2年後のいずれか遅い日以降、EU域内に上市できるのはA、B、Cの等級の包装だけとなる。

規則によると、基準の設定で考慮するパラメータとして、添加物、接着剤、染料、密封用などの包装部品、原材料の構成、コーティング/バリアの有無と素材、インクや塗料、空にしやすいこと、解体のしやすさなどを挙げている。

表:PPWRで定められるリサイクル性能等級とEU市場への流通可否
リサイクル基準

リサイクル
性能等級
流通可否
2030年 2038年
95以上 A
80以上 B
70以上 C 不可
70未満 リサイクル不可 不可 不可

出所:EUの包装・包装廃棄物規則(PPWR)からジェトロ作成

リサイクル基準やリサイクル性能等級を定める委任法は欧州標準を参照して決められることがPPWRの中で言及されている。この欧州標準は欧州標準化機関にて検討中であるが、欧米の環境系コンソーシアムのガイドラインが参照されるものと思われる。

RecyClassやCEFLEX、APR(注5)が定めるポリオレフィン(注6)系の包装を回収・リサイクルする際のバリア材のリサイクルガイドラインでは、EVOH樹脂はいずれも包装の総重量比で5~10%以下であれば、基材となるポリオレフィンと相容する(Compatible)(注7)とされている。一方、アルミ箔(はく)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、いずれのガイドラインの中でも相容しない(Not compatible)、または記載なしとなっている。ポリアミド(PA、ナイロン)については、ガイドラインによって見解が異なる。

そのような理由からEVOH製品のエバールをバリア材に使用したポリオレフィン基材の包装はモノマテリアル包装として、アルミ箔、PVDC、PETによる多層構成の包装からの切り替えが進んでいる。

各社との協業でサステナブルな包装トレンドを作る

エバールの直接の顧客は包装資材を生産するコンバーターやフィルムメーカーだが、包装資材を商品に活用する各業界のブランドオーナー、そして原料メーカー、機械メーカー、コンソーシアムなど、各サプライチェーンのステークホルダーと協業している。特に環境関連の対応では、包装資材のトレンドを作る食品やパーソナルケア業界の大手グローバルメーカーから市場の需要に関する情報を得て、新たな製品の開発につなげている。

成長著しいアジア市場での需要に期待

現在はアジア市場の開拓に注力している。その理由として、インドなど新興国の活発な経済成長に伴い、生鮮品と比べて賞味期限が長い加工食品の需要が伸び、それと連動してガスバリア機能を持つEVOH樹脂の需要も伸びるというマーケットの特性がある。同社はテクニカルセンターをタイ、中国、インド、シンガポールに拡充し、現地のサポートを強化している。

包装資材を生産する企業の中には、東南アジアの工場から欧州に輸出する企業もある。それら企業は欧州の法規制への対応が必要となることから、感度も高い。また、グローバルな大手ブランドオーナーは、市場に関わらずイメージ戦略や企業方針として環境に配慮した最先端の包装資材を使用していることが多い。

環境や人権といったサスティナビリティ対応が、規制対応だけでなく、企業のビジネスモデルや企業の社会的責任(CSR)の観点からもますます重視される中、企業や消費者とともに、包装資材に新たなトレンドが作られていくのか注目される。


注1:
詳細はジェトロ調査レポート「EU循環型経済関連法の最新概要」(2024年11月)を参照。 本文に戻る
注2:
1926年設立のクラレは、世界32カ国・地域に拠点を持ち、海外売上高比率は79.2%を占める。 本文に戻る
注3:
EVOHはエチレンビニルアルコール共重合体(Ethylene and Vinyl-Alcohol)の略。クラレの事業の中で、EVOHは「ビニルアセテート」部門に属する。 本文に戻る
注4:
ガスバリアとは、フィルムや包装資材が酸素、水蒸気、窒素、炭酸ガスなどの気体(ガス)を透過させない(バリアする)性能のこと。 本文に戻る
注5:
RecyClassとCEFLEXはEU、APRは米国の機関で、いずれもプラスチック包装の循環型経済を推進するコンソーシアム。 本文に戻る
注6:
ポリオレフィンは、軽量で加工しやすいポリエチレン(PE)とより強度が強いポリプロピレン(PP)の総称。いずれも石油から生成される合成樹脂で、プラスチックの中で最も一般的に利用されている。 本文に戻る
注7:
包装を構成する異種の物質が、リサイクル過程で互いに混ざり合うこと。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 課長代理
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現部署に所属。