グローバルサウスでの競争激化、求められる日本企業のポジショニングとは地場・欧州系に加え、中国系とも競合
南アフリカの競争環境(2)

2025年3月24日

南アフリカ共和国(以下、南ア)での競争環境の実態に迫る連載。南ア市場では、先行する地場企業や欧米企業に加え、中国企業などの競合他社が徐々に増加している。日系企業は今後、製品の独自性や品質、営業力やサービスを武器に、差別化を図る必要がある。

シリーズ2回目の本稿では、競合他社の状況と日系企業の奮闘について、現地インタビューや日系企業調査結果を基に報告する。

地場・中国・欧州企業が競合

ジェトロが実施した「2024年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」(以下、進出日系企業調査、注1)では、進出国・地域別に、現地市場で最も有力な競争相手を聞いている。南ア進出日系企業は、1位に「地場企業」(30.3%)、2位に「日本企業」(21.2%)、3位に同率で「中国企業」(18.2%)と「欧州企業」(18.2%)を挙げた。

「地場企業」と回答した企業の割合は、非製造業(36.2%)が製造業(18.2%)より高かった(図参照)。一方、「中国企業」と回答した企業では、製造業(27.3%)が非製造業(13.6%)に比べて高い。この結果から、

  • コスト競争力が要となる製造業では、価格競争に強い中国企業が台頭している、
  • 販売網が求められる非製造業では、地域に根差したネットワークを生かして、地場企業が優位性を維持している、

状況を推察できる。

図:進出先で最も競争力が高いと思う企業(%)
南アでは30.3%の進出日系企業が「地場企業」と回答し、最も多かった。次点には日本企業、中国企業・欧州企業があげられた。

出所:ジェトロ2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)

実際、地場企業の競争力が強いと感じる理由としては、「販売ネットワーク」(80.0%)が最多だった。これに対し、南ア市場で強固な基盤を持つ欧州企業については、「ブランド・知名度」(83.3%)が、中国企業は「コスト競争力」(83.3%)が最多だった。

なお、日本企業は、「ブランド・知名度」(85.7%)と「コスト競争力」(71.4%)が多く挙げられた。欧州企業と中国企業、双方の特長を兼ね備えていることがわかる(表1参照)。

表1:南ア市場で最も競争力が強いと思う企業とその理由(複数回答)(%)

表1:PDF版を見るPDFファイル(467KB)

項目 販売ネットワーク コスト競争力 意思決定の早さ(顧客対応や現地市場への適合など) ブランド・知名度 営業力の高さ(広報戦略、顧客への提案など) 製品・サービスの技術力 現地企業との連携・パートナリング その他外国企業(日本企業を含む)との連携・パートナリング 市場ニーズに適した製品サービスの開発力 現地・外国政府による優遇措置・インセンティブ、FTAなどの差 納品・提供までのスピード コンプライアンス対応の差 現地・外国政府による規制の差 人材獲得における競争力(賃金・待遇、採用活動など)
地場企業(n=10) 80.0 40.0 40.0 30.0 30.0 20.0 20.0 20.0 10.0 10.0 10.0 10.0 10.0 0.0
日本企業(n=7) 42.9 71.4 14.3 85.7 42.9 42.9 14.3 28.6 57.1 28.6 14.3 14.3 0.0 14.3
中国企業(n=6) 16.7 83.3 16.7 0.0 16.7 0.0 0.0 0.0 0.0 16.7 16.7 16.7 0.0 16.7
欧州企業(n=6) 33.3 33.3 0.0 83.3 16.7 16.7 16.7 16.7 33.3 33.3 0.0 0.0 0.0 0.0

注1:営業利益の発生しない駐在員事務所は、設問の対象外。
注2:回答割合が7 割以上は太字。
出所:ジェトロ2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)

地場企業(日系企業にとって1番の競合)の存在感の高さは、アパルトヘイト(人種隔離政策)に対する1980年代の国際社会からの経済制裁に起因する。経済制裁下で輸入が停止し、国内生産の必要性に直面する中で国内企業が成長した。貨獲得源として鉄鋼などの輸出振興も進められ、南アの国有企業は、同国経済における外資企業の影響力増大に対抗する存在として期待された。鉄鋼や石油精製産業の振興は、白人貧困層の所得向上にも寄与した(注2)。

また、1994年以降の民主化以降は、南ア政府による国内の黒人の経済参加促進のための産業政策として、黒人経済力強化政策(BEE)〔2024年3月黒人経済力強化政策(B-BBEE)最新動向レポート参照PDFファイル(597KB)〕に基づき、一部の業種ではBEEレベルの取得・維持が求められており、地場企業が育ちやすい環境が整っている。BEEでは、(1)「黒人」の雇用率を上げることや、(2)「黒人(注3)」が保有する企業の議決権と享受する経済的利益の割合が25%以上になること、(3)現地調達が(労務費や減価償却費を除く)が総費用の25%以上であることが遵守目標となっている。これにより、経営意思決定の現地化、現地雇用創出や現地調達促進などが法制度上で促されており、国内ビジネスの中で、南アに拠点のある地場企業がパートナーに選ばれやすい一因となっている。なお、同政策は外国企業だけでなく国内企業にも適用されるものであるため、外資系企業の参入を妨げるものではない。

南アの主要産業の1つである鉱山業種では地場企業の存在感が強い。また、地場企業は設計・調達・建設(EPC)においても強豪企業が多い。他方、大手コングロマリットのビッドベスト(Bidvest外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、当地運輸業界で最大のシェアを持つほか(注4)、当地で人気の消費財ブランド(注5)を傘下に置く。

また、英国を含む欧州企業のプレゼンスも高い。植民地時代の影響から、伝統的な投資家になっている。業種としては、(1)再生可能エネルギーや(2)物流・倉庫業、(3)鉱業、(4)自動車関連産業などの業種が多い。特に(3)や(4)では、日系企業とも競合する。2023年以降の主要案件は、表2の通りだ。

表2:欧州企業による主な南ア向け対内直接投資案件(2023~2024年)
投資国・地域 業種 企業名 時期 投資額 企業概要 目的
英国 金属 レインボー・レアアース(Rainbow Rare Earths) 2024年1月 2億9,550万ドル 金属鉱山会社 南アのファラボルワ鉱山操業。2026年の開鉱を目指す。
英国 鉱業 サザンアフリカ・リチウム・タンタル・マイニング(Southern African Lithium and Tantalum Mining) 2024年8月 4,740万ドル 鉱山開発会社マルラ・マイニング(Marula Mining)の子会社 南アのブレスバーグ・リチウム・タンタル鉱山の採掘許可を南アフリカ鉱物資源エネルギー省から取得したと発表。これにより、リチウム、タンタル、ニオブの鉱石の開発と露天採掘が可能になる。同社は現在、初期の地表開発作業とクリアランス作業を進めている。
英国 輸送機器部品 トワイナム・コンポーネンツ(Twynham Components) 2023年8月 3,250万ドル 自動車部品メーカー ヨハネスブルクに本社を開設。フロアマットやその他のコンポーネントを製造予定。
オランダ 輸送機器 ステランティス(Stellantis) 2023年3月 1億5,772万ドル 自動車メーカー大手 2025年までに東ケープ州コエガ特別経済区で自動車製造を開始。1トントラックを生産予定で、国内および輸出市場向けに、年間5万台の生産を見込む。
ドイツ 輸送機器 スカニア(Scania) 2024年11月 1億2,530万ドル フォルクスワーゲングループ傘下の商用車メーカー 需要増加による新工場設立。
ドイツ 輸送機器 BMW 2024年10月 2,310万ドル 自動車メーカー大手 物流倉庫の開設や工場の拡張。
ドイツ 産業機器 イノモティクス(Innomotics) 2024年11月 2,130万ドル シーメンスの子会社 電気モーターと大型駆動システムを扱う。ヨハネスブルグに電気モーター組み立てセンターを開設。
ドイツ 運輸・倉庫 レイノス(Rhenus) 2024年1月 3,030万ドル ロジスティクスサービスプロバイダー プレトリアとイーストロンドンに新たな倉庫を開設し、ポートエリザベスにある既存の倉庫を近代化・拡張。

注1:発表ベース。
注2:主要な業種(金属、鉱業、自動車OEM、自動車部品、産業機器、運輸・倉庫)での英国やEU諸国の南ア投資案件のうち、金額ベースで上位1件のプロジェクトを抽出。輸送機器については、金額ベースで上位3位のプロジェクトまで抽出。
出所:「fDi Markets(Financial Times)」(2025年2月19日時点)を基にジェトロ作成

他方、新たな投資元として、中国企業が近年、徐々に投資を伸ばしている。投資の目立つ主な分野としては、「自動車・バッテリー」「建設機械」「通信」などがある。(1)積極的にグリーンフィールド投資をして工場を設立したり、(2)物流機能を拡張して競争力を強化し、市場シェアを拡大している。代表的な投資事例は、表3のとおり。

表3:中国企業による主な南ア向け対内直接投資案件(2023年)
業種 企業名 時期 投資額 企業概要 目的
輸送機器 比亜迪(BYD) 2023年9月 1億2,530万ドル EV(電気自動車)・バッテリーのメーカー EVの生産拠点を設立予定。
輸送機器 奇瑞汽車(Chery) 2023年8月 1,810万ドル 自動車メーカー ボクスバーグで、(1)部品倉庫を拡張するとともに、(2)ディーラーやスタッフ向けのトレーニング施設を増設。(1)により、保管スペースと利用可能な部品の数量が倍増する見込み。
輸送機器 ハバル・モーター(Haval Motors) 2023年3月 1,600万ドル 長城汽車のブランド「ハバル」を生産 物流センターの移転。
通信 ハイテラ コミュニケーションズ(Hytera Communications) 2023年8月 3,720万ドル 移動無線機器とソリューションのプロバイダー 南アフリカ本社をヨハネスブルクに移転。
建設機械 三一重工(Sany) 2023年11月 1,600万ドル 建機メーカー 年間1,000台の掘削機やその他建設機械を生産し、南部アフリカ地域にサービスを提供。
建設機械 山河智能装備(Sunward) 2023年12月 1,580万ドル 建機メーカー ボクスバーグに3,000平方メートルの流通施設を新設。新施設はジェットパーク地区に位置し、アフリカ南部の市場にサービスを提供する。

注1:発表ベース。
注2:中国企業の南ア投資案件のうち、金額ベースで上位6件(1,000万ドル以上)を抽出。
出所:「fDi Markets(Financial Times)」(2025年2月19日時点)を基にジェトロ作成

ジェトロは2025年2月、南ア進出日系企業を対象にインタビュー調査を実施した。アフリカ市場向けにビジネスする販売会社から多く聞こえてくるのは、次の点だ(注6)。

  • 以前から、主に地場企業や欧米企業とは競合してきた。しかし近年は、一部の製品ラインナップが中国企業と重複している。
  • 市場で、中国企業の伸長を脅威に感じている。

当地日系企業は、人的リソースが不足しがちだ。これに対し、中国企業は人員を多数投入し、販路拡大を図っている。また、南ア市場向け製品についても、技術力・商品力を高めつつ、コスト競争力を着実に伸ばしている。また、次のような指摘もあった。

  • インフラ建設や鉱業などで中国企業が権利を持つプロジェクトでは、資材や物資のサプライヤーを中国企業が独占している。日系企業が参入する余地は、ほとんどない。

なお進出日系企業調査では、中国企業が競争力を高めてきた背景に「中国輸出入銀行と連携したファイナンス提案」「国レベルでの大型投資」などがあったという自由記述回答もある。

地道な販路拡大で欧米大手のシェアを奪取した例も

一方で、日系企業は南ア市場で競争環境の激化に直面しながらも、さまざまな戦略を駆使して市場シェアの拡大に奮闘している。進出日系企業調査によると、南ア進出日系企業は競争環境激化の中、「製品・サービスの多角化」(51.5%)や「営業・広報の強化」(48.5%)に注力している(表4参照)。

南ア進出日本企業の中には、南アを拠点に南部アフリカ諸国まで自社製品の販路を地道に拡大した例がある。高品質な製品ラインナップにより競合する欧米の大手多国籍企業のシェアを奪い、着実に売り上げを伸ばした。

例えば、既述のインタビュー調査に応じた日系メーカーは、以下を指摘した。

  • プレミア層向けや利益率の高い市場をターゲットにした。南ア人の慣習や嗜好(しこう)に合わせてマーケティング活動を進め、売り上げが伸びた。
  • 自社製品の耐久性や幅広い品ぞろえに加え、顧客との関係構築やアフターサービスのきめ細やかさで差別化を図っている。
  • 代理店に任せきりにせず、むしろ、代理店を買収するなどして取り込んだ。欧米企業があまり取り組んでいない提案型営業を展開。シェアを拡大している。
  • きめ細やかな在庫管理を励行。安定的かつ迅速に顧客に対して商品供給ができる態勢を整えた。同時に、機会損失を最小限に抑える結果をもたらし、強みになっている。
表4:進出先での競争において特に力を入れて取り組んでいる対策(複数回答)(%)
項目 製品・サービスの多角化 営業・広報の強化 販売チャネルの拡大 コスト削減 現地企業との協業・連携 価格の引き下げ 製品・サービスの開発 その他外国企業との協業・連携 製品・サービスの絞り込み 販売ネットワークの見直し・再構築 ESGなどの付加価値の向上 現地・外国政府による優遇措置・インセンティブの活用 販売チャネルの整理・縮小 その他 対策を取っていない
アフリカ全体(n=117) 41.0 38.5 35.9 31.6 27.4 23.1 23.1 17.9 16.2 16.2 10.3 9.4 2.6 9.4 0.9
南アフリカ共和国(n=33) 51.5 48.5 33.3 30.3 27.3 30.3 21.2 21.2 12.1 15.2 9.1 9.1 0.0 6.1 0.0

出所:ジェトロ2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)

しかし、一部の大企業から、リスク許容度の低さが原因になりビジネス拡大に苦戦しているという課題も聞こえてきた(注6)。

  • 投資や経営を判断するのは本社。南ア拠点に対する経営資源配分や新規プロジェクトの組成などを決めるに当たり、その時々の経営層が示すアフリカ市場への関心が左右する面がある。
  • その結果、新規案件開拓よりも、日本向け輸出など、定期的に一定量の購入が見込めるビジネスに比重を置く方針になりがちだ。

本稿では、日系企業が南ア市場で、従来から地場企業・欧米企業と競合していたが、昨今は中国企業の競合他社が増加していることが分かった。さらに、(1)進出日系企業が南アや南部アフリカ諸国で地道な販路拡大を図っていること、(2)日系企業の一部が、欧米大手のシェアを奪取しながら市場での競争力を伸ばしていること、が見えてきた。新たな競合国の台頭など、競争環境が刻々と変化する中、日系企業の地道な努力と戦略的なシェア獲得が、アフリカ市場での成功を後押ししている。今後も、競合他社の動向を注視する必要がある。


注1:
ジェトロは2024年8月から9月にかけて、海外83カ国・地域の日系企業1万8,186社を対象にアンケート調査を実施した。なお、ここで言う日系企業とは、日本側出資比率が10%以上の現地法人、または日本企業の支店・駐在員事務所のこと。7,410社から回答を得た(有効回答率40.7%)。
うちアフリカ編では、アフリカ21カ国に拠点を有する日系企業267社を対象に実施。223社から回答を得た(有効回答率83.5%)。
注2:
参照文献は次の通り。
注3:
B-BBEE制度に言う「黒人」には、出生地または家系上、南ア出身の黒人、カラード(混血)、インド人、中国人を含む。
注4:
ビッドベストは、貨物運輸業事業者として、(1)ビッドベスト・フレイト(Bidvest Freight外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)や、(2)ビッドベスト・インターナショナル・ロジスティックス(Bidvest International Logistics外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を展開している。
注5:
ビッドベストが傘下に置く消費財ブランドには、(1)コロクセリー(Croxley外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、文房具)、(2)セリーニ(Cellini外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、バッグ・鞄)、(3)サルトン(Salton外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、家電・キッチン家具)や(4)ピンウエア(Pineware外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(3)に同じ)などがある。
注6:
ヨハネスブルク市内での筆者インタビューに基づく(2025年2月10~12日実施)。

変更履歴
文章を加筆・修正しました。(2025年4月7日)

(誤)強い地場企業の例として、南アの主要産業の1つゴールド・フィールズ(Gold Fields )を挙げることができる。同社は、鉱山開発プロジェクトの設計・調達・建設(EPC)で、同業種内のシェア首位(2023年時点)を誇る。また、大手コングロマリットのビッドベスト(Bidvest )は、当地運輸業界で最大のシェアを持つほか(注4)、当地で人気の消費財ブランド(注5)を傘下に置く。

(正)南アの主要産業の1つである鉱山業種では地場企業の存在感が強い。また、地場企業は設計・調達・建設(EPC)においても強豪企業が多い。他方、大手コングロマリットのビッドベスト(Bidvest)は、当地運輸業界で最大のシェアを持つほか(注4)、当地で人気の消費財ブランド(注5)を傘下に置く。

執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ)
2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。

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