韓国ネット2強のネイバー、カカオのウェブトゥーン海外進出戦略
韓国コンテンツ産業の輸出は勢い増す

2024年2月29日

韓国のコンテンツ産業(以下、Kコンテンツ)はK-POP、映画、ドラマ、ゲーム、マンガなどを筆頭に、世界展開を年々拡大している。韓国文化体育観光部が2024年1月に発表した「2022年コンテンツ産業調査(2023年実施)」によると、2022年のコンテンツ産業の輸出額は前年比6.3%増の132億4,000万ドルで、過去最高を記録した。これは、同年の2次電池(99億9,000万ドル)、電気自動車(EV、98億3,000万ドル)、家電(80億6,000万ドル)など主要品目の輸出額を大幅に上回る水準だ。また、同部は、2023年6月にKコンテンツ輸出活性化戦略を発表した。Kコンテンツ産業を持続的に支援するため、2024年は過去最大規模の1兆ウォン(約1,000億円、1ウォン=約0.1円)を投資し、Kコンテンツ輸出を支援する海外拠点を現在の10カ所から、2027年までに50カ所に増やすといった内容だ。ここからも、Kコンテンツ輸出拡大に対する政府の高い期待がうかがえる(2023年6月12日付ビジネス短信参照)。

韓国で主要輸出品目として注目されているKコンテンツの中でも、特に、ウェブコミック「ウェブトゥーン」の世界進出は目覚ましい。米調査会社のセンサータワーが2023年12月に発表した「世界の漫画アプリ収益順位トップ10(2023年1~10月)」では、韓国のインターネットサービス大手カカオ傘下の「ピッコマ」、同大手ネイバーの系列会社ラインデジタルフロンティアの「LINEマンガ」が1位、2位となった。これらの主戦場は、最大市場の日本となっている。本稿では、韓国ネット2強のネイバー、カカオから見る韓国ウェブトゥーンの海外輸出戦略と、韓国政府による海外進出支援についてレポートする。

韓国の「ウェブトゥーン」を代表するネイバーとカカオ‐日本から世界へ‐

ウェブトゥーンとは、デジタル漫画の1つの形態を指し、インターネットを意味する「ウェブ」と漫画を意味する「カートゥーン(cartoon)」の合成語で、韓国発祥の固有のウェブ漫画プラットフォームだ。主に縦スクロール式で漫画が掲載されているのが特徴で、右から左にマンガのコマが進み、左から右にスワイプしてページ移行する日本のウェブ漫画とは形態が異なる。1997年のアジア通貨危機以降、韓国ではパソコンやインターネットなどの普及が拡大し、当時伸び悩んでいた紙媒体の漫画の代案としてウェブトゥーンが登場した。2000年代に入り、ポータルサイトにおいて無料ウェブトゥーンサービスが開始されて以降、瞬く間に拡散され、韓国の漫画市場はウェブトゥーンを中心に再編され、急成長してきた。しかし、人口5,131万人(2024年1月現在)の韓国国内市場では伸びに限界がある。そのため、韓国企業は2010年代に入り、世界進出を本格化し、積極的に海外展開を行ってきた。

文化体育観光部と韓国コンテンツ振興院が2024年1月に発表した「2023年ウェブトゥーン実態調査(注1)」によると、2022年のウェブトゥーン産業の輸出額は、1兆8,290億ウォンに上った。国・地域別にみると、日本が全体の45.6%と約半数を占め、中華圏(中国、香港、台湾)が14%、北米が13.5%、東南アジアが12.7%と続いた。

前述したように、世界進出を積極的に進める韓国のウェブトゥーン業界は、主にネット2強のネイバー、カカオが漫画配信プラットフォームの陣取り合戦を行っている。その中でも、最大市場の日本が主戦場となっている。日本最大のモバイル専門調査機関MMD研究所が2022年に日本の漫画配信アプリの利用動向を調査したところ、LINEマンガが首位の33%、ピッコマが次いで29.8%と、3位の「めちゃコミック」(11.7%)を大きく引き離した。今や韓国のネット2強は、日本の漫画配信市場で確固たる地位を築いたわけだ。

LINEマンガを運営するラインデジタルフロンティアには、ネイバーが間接的に出費しており、ネイバーにとっては同社が世界で展開する漫画配信アプリの日本版という位置づけだ。同社は、2013年から2022年までの日本国内アプリ累計ダウンロード数が4,000万を突破していると発表している。なお、同漫画配信アプリはコミュニケーションアプリ「LINE」と連動しており、LINEを通じて「友だち」に作品がおすすめされた件数は、2億9,000万を突破しているとのことだ。LINEの月間利用者数は、世界で8,500万人を超えており、全世界で累計閲覧数45億回を突破したオリジナル作品『神之塔』など世界的な作品を生み出し続けている。なお、LINEマンガをはじめとする「NAVER WEBTOON(韓国)」「WEBTOON(北南米/欧州)」など、世界各国・地域で展開する電子コミックプラットフォームの連合体「WEBTOON worldwide service」の世界の月間利用者数は8,200万、累計ダウンロード数は2億件を超え、1カ月の流通額は100億円を超えている(2022年2月時点)。

一方で、ピッコマは、カカオの日本法人カカオピッコマが運営しており、累計ダウンロード数は4,000万件を超える。カカオによると、2023年上半期(1~6月)では、米アイフォンのアップルストアおよびグーグルプレイのダウンロード数ランキングにおいて、日本国内では1位、世界では7位となっている。ピッコマは2016年4月から日本でサービスを開始し、ePub形式の出版漫画、韓国、日本、中国、米国など各国で制作されたウェブトゥーンや小説をアプリやウェブサイトで配信している。2021年6月にはタイおよび台湾にカカオウェブトゥーンが進出し、同年9月にはフランスに欧州法人として「ピッコマヨーロッパ」を設立した後、2022年3月にはピッコマフランス版をローンチした。なお、カカオ傘下のカカオエンターテインメントは、2021年に米国のウェブ漫画アプリ「タパス」とウェブ小説アプリ「ラディシュ」を買収している。カカオの2022年の全社売上高7兆1,071億ウォンのうち、海外での売上高は1兆3,987億ウォンと、全体の2割を占めている。2021年の海外での売上高は6,324億ウォンだったため、1年間で2倍以上増加したわけだ。地域別では、特にアジアが好調で、916億ウォンを達成した。次いで、北米が280億ウォン、欧州が100億ウォンとなった。同社は、国内事業拡大とともに、高い成長率が期待できる海外市場の開拓に注力している。

両社が日本市場で成功できた理由としては、スマートフォンデバイスに最も適したフォーマットのマンガコンテンツをいち早く展開したことなどが挙げられる。日本のウェブ漫画は紙媒体と同じ形式で右から左に読むため、縦長のスマートフォンでは読みにくいという難点がある。ウェブトゥーンによる新たなマンガ形式は画期的なアイディアとして、日本国内で瞬く間に定着した。また、両社とも、韓国発のマンガの翻訳事業を推進するとともに、日本発のマンガの掲載、自社アプリ・サイトのオリジナルマンガ作品創出に力を注いでおり、作家や関連会社などの人材育成にも力を入れている。LINEマンガは、各社ウェブトゥーンプラットフォームの中で最も早い2013年4月から日本市場に参入しており、日本での現地化や「継続利用」を意識したマーケティング戦略、アマチュア作家の投稿システムを確立するなど、着実に成長してきた。ピッコマは、マンガの単行本を1話ごとに分解した話売り配信と、23時間経過すると次のエピソードが無料で読めるサービス「待てば¥0」の提供という独自の展開方法をもって、ユーザー数およびシェアを伸ばしていった。両社は、今後とも日本をはじめとするそれぞれの国・地域に合わせた戦略で、海外展開を積極的に推進していくことが予想される。

韓国政府・機関のウェブトゥーン海外進出政策と支援

世界で存在感を示すウェブトゥーンに、韓国政府および韓国コンテンツ振興院などの専門機関は積極的に支援を行っている。文化体育観光部は、2022年12月にマンガ・ウェブトゥーン関連企業、団体とともに「ウェブトゥーンの生態系創生と環境造成のための協約(注2)」を締結し、政府が現場の幅広い意見を拾いながら、ウェブトゥーン作家や関連企業の福利厚生の向上など、労働環境を改善していくことを約束した。作品の制作を支援する基盤を強化することで、今後とも質の高い韓国ウェブトゥーンを海外に展開する狙いだ。韓国コンテンツ振興院は2023年2月3日に、海外でマンガ・ウェブトゥーンのプラットフォームを新規に構築する計画がある、もしくは現在運用している韓国の法人事業に、それぞれ最大5億2,000万ウォン、3億4,000万ウォンの支援を行うと発表し、最終的に8つの会社を選定した。また、文化体育観光部は2024年1月に「マンガ・ウェブトゥーン産業発展方案」を発表し、今後ともコンテンツ産業の重要分野として支援策を続けていくとした。同方案の推進目標として、次の3つの目標を掲げている。

(1) 2027年にマンガ・ウェブトゥーンの産業規模4兆ウォンを達成
(2) 2027年にマンガ・ウェブトゥーンの輸出規模2億5,000万ドルを達成
(3) 世界的な代表祝祭の新設(カンヌ国際映画祭のマンガバージョンを発足)

これらの目標を達成するために、3つの戦略および推進課題を挙げている。詳細は別添表:「マンガ・ウェブトゥーン産業発展方案」概要PDFファイル(258KB)を参照。

文化体育観光部は2024年2月には、「2024年文化体育観光部主要政策推進計画」を発表した。その中で、「Kカルチャーが率いるグローバル文化強国」をスローガンに、各項目別に計画を打ち出している。その中でも、マンガ・ウェブトゥーンなどのKコンテンツの集中育成を行い、1兆7,400億ウォン規模の政策経費を投入するとしている。

ほかにも、韓国政府はウェブトゥーンの海外展開のために、各国・地域での関連イベントを積極的に行っている。文化体育観光部と韓国コンテンツ振興院は2023年5月に日本、7月にフランス、9月に中国、10月に米国でそれぞれ「2023K-Story&Comicsビジネスイベント」を開催した。韓国発の人気が高いマンガ・ウェブトゥーンなどの各国・地域への進出拡大を目的としており、日本での同イベントでの商談成約額は673万ドルを達成した。中国・北京市での同イベントは4年ぶりに現地開催となった。

このように、韓国政府および専門機関からの手厚い協力を受けて、韓国のウェブトゥーンはさらに海外進出していくことが予想される。


注1:
調査期間は2023年7月11日~9月16日。対象者は2022年にウェブトゥーン関連事業を行った企業または事業体(166社が回答)、ウェブトゥーン作家(800人が回答)。調査方法はオンライン、電話・モバイルにて。主要調査内容は、輸出入動向と契約慣行、不公正取引行為などについて。
注2:
韓国特有の固有名詞で直訳。意訳は、政府および関連企業・団体の共存共栄を図り、適切な労働環境を整備すること。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
益森 有祐実(ますもり あゆみ)
2022年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国、韓国関係の調査を担当。