高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来日本語教育に注力し外国人エンジニアを育成(フジコソ・愛媛)
2025年7月15日
株式会社フジコソ(本社:愛媛県東温市)は、工場の省力化に向けた自動化装置の設計製作を行う企業だ。1990年創業で、従業員73人の中小企業であるが、約1割が外国人材、男女ともに育休取得率100%(外国人材も含む)、女性管理職率17%となっている。顧客の要望をヒアリングしながらオーダーメイドで工場向け自動化装置の設計製作を行うエンジニアとして高度外国人材が活躍している。着目すべきは、採用時は日本語能力試験(JLPT) N3レベル相当(日常会話レベル、試験自体には合格していなくても可)で受け入れ、入社後にきめ細やかな日本語教育を実施していることだ。その結果、今では顧客とのコミュニケーションはもちろん、日本人部下もまとめるプロジェクトリーダーを担う外国人材が誕生している。また、同社では、外国人材を含む社内のダイバーシティ推進を通じて、経験者採用や取引先からの評価において、プラスの効果も感じているという。執行役員兼営業技術第2部長、構成設計部長、管理部長である冨岡怜奈氏、営業技術第2部の原田祐香氏、管理部の板橋彰子氏、ベトナム出身のグエン・ヴァン・ホア氏とネパール出身のバラル・ラジブ氏に話を聞いた(取材日:2025年2月12日)。

- 質問:
- 高度外国人材採用の理由は?
- 答え:
- 10年ほど前、藤社司社長が近隣の企業からベトナム人技術者4人を受け入れたことがきっかけだ。受け入れた外国人材が優秀であったことや、会社として、ダイバーシティの推進という観点で女性やシニアの技術者も増やすタイミングだったので、外国人エンジニアの採用も同時に行うことにした。
- 質問:
- 外国人材向け日本語教育に取り組む理由は?
- 答え:
- お客様との密なコミュニケーションを通じて要望に合った機械を作り上げるため、エンジニアは日本語でのコミュニケーションが業務上、必要不可欠になっている。一方で、JLPT N3レベル相当で入社可能としているため、顧客と専門的な技術の相談ができる日本語レベルまで引き上げるべく、入社後に日本語研修を業務時間内に週2回、1回4時間ほど実施。N3レベル相当にはマンツーマンで、N1~2レベル相当には外国人材2人に講師1人で、少人数体制で指導している。外国人材に対しては、日本語研修は業務の一環であり、評価に直結することを明確に伝え、真剣に取り組むよう指導している。
- 質問:
- 日本語研修の内容で意識しているポイントは何か?
- 答え:
- 日本語教育の目的は、日本語でのコミュニケーション能力を高めることなので、単なる試験対策ではなく、取引先からの電話に出るなど、業務で使う日本語を扱うことを意識している。数年前からは、他の日本人社員へインタビューを行い、その内容と自分の感想を日本語でレポートにまとめるという課題を出している。この課題を通じて、日本語でのヒアリング能力とアウトプット能力を高めることを期待している。 また、実務に則した電話対応、客先対応のロールプレイングも実施している。
- 実際の業務においても、問い合わせがあった時に、外国人だからという理由で特別扱いをすることなく、必要に応じて取引先に行ってもらうこともある。会社として、日本語能力向上を支援しながら、日本人にも外国人にもチャンスを平等に与え、取引先訪問などにチャレンジするよう促すことを意識している。
- 質問:
- 社内での外国人材の活躍状況は?
- 答え:
- 機械装置の設計と電気系の制御設計の2部門で外国人材が活躍している。機械装置部門では、プロジェクトリーダー2人(いずれもベトナム人材)が誕生している。プロジェクトリーダーへの昇格基準は、国籍関係なく、装置の知識と経験値を見て判断。昇格後は、リーダーとして、業務の工程管理、装置の計画作り、取引先との打ち合わせを主導する。具体的なエピソードとして、プロジェクトリーダーになったグエン氏は、非常に勉強熱心で、部署全体を俯瞰(ふかん)して「コミュニケーションが不足している」と気付き、チームビルディングの必要性を提案した。それを受けて、会社としてチームビルディング向上を目的としたイベントを実施した。
- また、ベトナム出張時には、グエン氏の紹介で、グエン氏の出身校であるハノイ工科大学の学長や事務局長と面談を実施。面談時には、グエン氏自らが通訳を行い、同大学からの採用を拡大したいという意向を伝えた。その結果、同大学から3人の社員を採用することができた。ビジネス面でも、グエン氏が同窓生とのネットワークを生かし、取引先候補となるベトナムの加工業者との面談を設定し、今後のベトナム展開について検討を進めることができた。
- 制御部門では、ネパール人材であるバラル氏が活躍している。持ち前のコミュニケーション能力を生かし、入社2年目ながらお客様の工場に赴き、納入時のサポートをしている。2025年4月に別のネパール人材が入社するが、バラル氏がロールモデルとなり、入社後のキャリアパスを示していく予定。
- 質問:
- 高度外国人材を含め、女性やシニアなど多様な人材を受け入れて、どのような変化があったか?
- 答え:
- かつてエンジニアは男性の理系出身者が多く、職人気質を持った同質性が高い組織だったが、女性、シニア、外国人材といった多様なバックグラウンドの人材が入ることで組織が大きく変化した。 特に、自分と異なる価値観を持つ人材と一緒に働くことで、お互いの違いを理解する姿勢が根付いてきた。また、ワークライフバランスの整った働き方ができるという点が魅力となり、経験者採用の応募人数が、ダイバーシティ推進前の5倍に増えた。
- 対外的にも、ダイバーシティ推進関連の講演会に呼ばれることが増え、地域での注目度があがっている。また、大企業に会社説明をした際に、「(ダイバーシティ推進をしている貴社のように)ダイバーシティを推進している企業から取引先を選びたい」といったコメントがあり、営業面でのポジティブな効果も感じている。
プロジェクトリーダーとしてやりがいを感じる外国人材、後に続く外国人材も着々と成長
同社で活躍する外国人材を代表して、前述のベトナム出身のグエン氏とネパール出身のバラル氏に話を聞いた。グエン氏は、ベトナムのハノイ工科大学卒業で2019年2月に入社し、設計部門のプロジェクトリーダーを務める。バラル氏は、ネパールのトリブバン大学を卒業し、2023年4月に入社し、制御部門で勤務している。

- 質問:
- 日本での就業を目指したきっかけは何か?
- 答え:
- (グエン氏)戦後からの日本の発展に関する本を読み、もともと日本に関心があった。実際に日本に来たときに、モノづくりの技術レベルの高さや蓄積されたノウハウを目の当たりにし、日本で仕事をしたいと思った。
- (バラル氏)日本のアニメが好きで日本に関心を持った。自分が学んでいた電子工学分野では世界一の技術を持っている点も魅力的だった。フジコソで募集していた業務も自分が担当したい内容と一致していたので入社を決めた。ネパール人の友人が愛媛県に住んでいた点も安心材料になった。
- 質問:
- 今の業務内容とやりがいは?
- 答え:
- (グエン氏)顧客の要望に即した機械設計を3D CAD(3次元コンピュータ支援設計)を使って行っている。顧客へのメールや電話など日々の日本語でのコミュニケーションに難しさを感じる。特に敬語が難しい。2024年よりプロジェクトリーダーに昇格した。これまで一担当者としてやってきた図面を描く経験とプロジェクトリーダーの仕事は全く質が違う。チーム全体の計画を立て、工程管理をすることは責任も伴い難しいが、リーダーならではのやりがいも感じる。
- (バラル氏)制御部門で、電子回路の設計、電流・電圧の計算、配線、制御部門のソフト設計などを担当。一から回路を設計することや、海外向けの商品の場合、JIS(日本産業規格)やUL(米国の安全規格)など各国の規格を調べて対応する必要があることに、難しさを感じた。自分で解決策を考えることが好きで、納期までに設計が終わった時、達成感を感じる。自動化装置のソフトからハードまで色々な制御が分かる人材になれるよう勉強していきたい。

- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部高度外国人材課
斉藤 美沙季(さいとう みさき) - 2018年、ジェトロ入構。対日投資部地域連携課、ジェトロ岩手を経て、2023年10月から現職。