中国EV・車載電池企業の海外戦略中国自動車メーカーによるタイへの大規模投資拡大、EV生産本格化へ

2023年12月15日

タイの自動車市場では、バッテリー式電気自動車(BEV)の販売が急速に拡大している。その大部分は中国から輸入された車両だ。タイには1960年代から日系自動車メーカーが進出、現地生産を進めて自動車産業を育ててきた。そうした経緯もあり、日系ブランドの市場シェアは約85%と高かった(2022年)。BEVが国内市場に占める比率は2022年まで1%に満たなかったが、2023年に入ってから10%に迫る勢いとなっている。タイ政府の電気自動車(EV)普及支援策に応じた中国メーカーが、補助金を活用して販売を進めていることが主な要因で、2024年からは本格的に現地生産を開始する予定だ。主要中国メーカー7社の投資額・生産規模は大きく、早期に生産を軌道に乗せる構えだ。そうした中で、在タイ日系自動車部品メーカーにも、中国企業から調達の引き合いが増えている。

タイでのBEV販売、9カ月で5万台超え

2023年は、タイにおける中国製BEVの躍進の年となったといえそうだ。2023年1~9月、タイにおけるBEVの新規登録台数は5万347台と、前年同期比で8.5倍に増えた(図1参照)。同時期の国内自動車販売台数は58万6,870台であるから、BEVが市場に占める比率は8.6%まで上昇したことになる。2022年1~9月では1%に満たなかったが、タイ市場においてBEVは急速にシェアを拡大している。

図1:タイのBEV新規登録台数と国内自動車市場に占めるBEVの割合
2023年1~9月、タイにおけるBEVの新規登録台数は5万347台と、前年同期比で8.5倍に増えた。同時期の国内自動車販売台数は58万6,870台であるから、BEVが市場に占める比率は8.6%まで上昇したことになる。2022年1~9月では1%に満たなかったが、タイ市場においてBEVは急速にシェアを拡大している。

出所:タイ工業連盟、陸運局などからジェトロ作成

2023年1~9月にタイで新規登録されたBEVの台数をモデル別にみると、中国勢が躍進して上位に位置している。最も登録台数が多かったBEVモデルは比亜迪(BYD)の「ATTO3」で、BEV市場でシェアは31.6%を占める。タイ電気自動車協会(EVAT)の資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、同モデルの価格は約110万~120万バーツ(1バーツ=約4.2円、約462万~504万円)。BYDが2023年7月に発売した「ドルフィン」も約70万~86万バーツと比較的低価格で売れており、7位にランクインしている。BYDは2023年9月にはセダン型の「シール(SEAL)」を発売し、同モデルの販売も好調となっている。

表1:タイにおけるBEV上位10モデル(2023年1~9月の新規登録台数)(-は値なし)
メーカー モデル 2022年1~12月
(台)
2023年1~9月
(台)
シェア
(%)
前年同期比
(倍)
BYD ATTO3 312 15,924 31.6
NETA NETA V 71 9,294 18.5 4,647.0
テスラ モデルY 228 4,753 9.4 29.5
GWM ORA Good Cat 3,828 4,362 8.7 1.6
MG MG EP 2,393 3,110 6.2 2.5
MG MG 4 Electric 2,860 5.7
BYD ドルフィン 2,103 4.2
テスラ モデル3 186 1,843 3.7 12.0
MG MG ZS EV 805 1,389 2.8 8.2
ボルボ XC40 EV 640 858 1.7 1.5
合計(その他を含む) 9,729 50,347 100.0 8.5

出所:タイ陸運局などからジェトロ作成


BYDのドルフィン(ジェトロ撮影)

2位は、中国の新興EVメーカー・合衆新能源汽車(Hozon New Energy Automobile)のブランド「哪吒汽車(NETA)」のモデル「NETA V」で、シェア18.5%を占めている。同モデルはタイ政府の補助金により、BEVとしては低価格の約55万バーツで売り出されており、人気の車種となっている。NETAはタイ国営石油会社(PTT)傘下のアルンプラスと提携しており、同社がNETAのEVについて、タイ国内で販売・サービスを提供している。2022年9月にバンコク中心部の商業施設に初の販売店を設けて以来、主要なショッピングモールなどに販売拠点を増やしている。


「NETA V」は約55万バーツ、BEVとして手頃な価格だ(ジェトロ撮影)

3位には、テスラの「モデルY」(約170万~230万バーツ)がランクインした。8位の「モデル3」(約160万~190万バーツ)も併せ、徐々にテスラがタイでも浸透しはじめている。同社は2022年5月にタイに販売会社を設立したが、東南アジアでの生産工場はインドネシアに設置する計画だ。現在、タイには中国で製造されたものが輸入されている。

4位の長城汽車(GWM)の「ORAグッド・キャット」は、2022年タイのEV市場で最も売れたモデルだ。2021年10月から販売されている同モデルは、猫をモチーフとした小型乗用車で、若者層・女性層から人気がある。タイ政府の補助金を用いて、約76万~96万バーツで販売されている。

また、5位、6位、9位のMGは、上海汽車グループ傘下のブランドだ。2023年1~9月におけるMGの全モデルの新規登録台数を合計すると8,500台強になる。最も売れているのは2020年末から販売しているEVワゴン「MG EP(改良型のEPプラス)」で3,110台となっており、価格は補助金により約77万バーツとなっている。6位のハッチバックSUV(スポーツ用多目的車)「MG4エレクトリック」は2022年12月から投入しており、同モデルも補助金を使い約87万~97万バーツで販売されている。9位のSUV「ZS EV」は、2019年6月と早期に販売開始されたモデルだが、依然として人気がある。価格は補助金により95万~102万バーツである。

他方、日系のBEVは、最も売れたモデルでも数十台にとどまっている。トヨタ「bZ4X」の価格が約184万バーツ、日産「リーフ」で199万バーツ、レクサスでは349万~419万バーツと高価格帯のモデルが多い。そのため、富裕層以外は手の届くモデルが限られているのが実情だ。

中国からのBEV輸入が急増

中国メーカー各社がタイで本格的に現地生産を開始するのは2024年からの予定となっており、現在、タイで販売されているBEVの大部分は輸入されたものだ(2023年6月13日付地域・分析レポート参照)。タイの輸入統計をみると、2022年第3~第4四半期ごろからBEV(HSコード8703.80)の輸入額が急増しているのがみてとれる(図2参照)。2022年第3四半期(7~9月)に前年同期比7.1倍に増えて1億ドルを超え、2023年第1四半期は11.0倍の5億8,300万ドル、第2四半期は13.5倍の6億800万ドル、第3四半期は6.7倍の7億1,700万ドルと、一貫して高い伸びを続けている。2023年第3四半期のBEVの輸入元をみると、90.1%が中国となっているほか、ドイツが7.8%、インドネシアが1.1%、日本は0.4%となっている。

図2:BEV(HSコード8703.80)の輸入額
2022年第3~第4四半期頃からBEV(HSコード8703.80)の輸入が急増しているのがみてとれる。2022年第3四半期(7~9月)に前年同期比7.1倍に増えて1億ドルを超え、2023年第1四半期は11.0倍の5億8,300万ドル、第2四半期は13.5倍の6億800万ドル、第3四半期は6.7倍の7億1,700万ドルと、一貫して高い伸びを続けている。2023年第3四半期のBEVの輸入元をみると、90.1%が中国となっているほか、ドイツが7.8%、インドネシアが1.1%、日本は0.4%となっている。

出所:タイ商務省

特に中国からのBEV輸入が急増している背景には、タイ政府による補助金を含むBEVへの手厚い優遇策、FTA(自由貿易協定)による0%関税などがある。タイ政府は2030年までに自動車生産台数の30%をゼロエミッション車とする「30@30」政策を掲げており、2022年2月にBEVの購入補助金などの奨励策が閣議決定された後、同年中に具体的な措置を次々と実施してきた。タイ政府は、まず国内にBEV市場を形成するため、BEV1台当たり7万~15万バーツの補助金支給を開始した。補助金支給を含む支援策の利用には制約条件があり、2023年中に補助金を受けて輸入販売した台数分、2024年に現地生産しなくてはならない。2025年に遅れた場合、1.5倍分の台数を現地生産する取り決めとなっている。ただし、2023年中は将来的な国内生産の約束を基に、輸入BEVであっても補助金の恩恵を享受できるのだ。さらに、BEV購入時にかかる物品税の税率も、通常8%から2%に大幅に引き下げられている。

前述に加えて、中国製BEVは関税率の面でも有利だ。通常、タイにBEVを輸入する場合の関税率はWTOの最恵国待遇(MFN)税率で80%となっており、欧州や米国からのBEV完成車には高い関税が課される。しかし、中国製BEVの場合はASEAN中国FTA(ACFTA)により、完成車であっても関税率0%でタイに輸入できる(表2参照)。日本製BEVも、日本タイ経済連携協定(JTEPA)を利用すれば20%の特恵関税率で輸入が可能で、韓国製BEVもASEAN韓国FTA(AKFTA)により40%まで引き下がるが、中国製に比べて著しく不利であることに変わりはない。

表2:タイに自動車や自動車部品を輸入した場合の関税率の差(2023年)
完成車/
自動車部品
BEVの輸入関税率
(FTAを利用した場合の原産地別)
内燃機関車(ICE)の輸入関税率
(FTAを利用した場合の原産地別)
完成車 ASEAN:0%(ATIGA利用)
日本:20%(JTEPA)、EV振興策を利用すると0%(条件あり)
中国:0%(ACFTA)
韓国:40%(AKFTA)、EV振興策を利用すると0~20%(条件あり)
米国、EUなど:80%〔WTOの最恵国待遇(MFN)税率〕、EV振興策を利用すると同40~60%
ASEAN:0%(ATIGA)
日本:概ね80%〔完成車は、概ねJTEPAの譲許対象品目から除かれており、WTOの最恵国待遇(MFN)税率で輸入することとなる〕
中国:概ね50%〔ACFTAの高度センシティブ品目(HSL)に指定〕
韓国:概ね64%(AKFTAのHSLに指定)、または譲許対象品目から除かれている
米国、EUなど:概ね80%(MFN税率)
自動車部品 以下のBEV部品9品目は現地生産用途での輸入の場合は0%となる(原産国を問わない)
バッテリー、トラクションモーター、電動コンプレッサー、バッテリーマネジメントシステム、パワーエレクトロニクスコントローラー、車載用充電器、DC/DCコンバーター、PCUインバーターを含むインバーター類、減速機
ASEAN:0%(ATIGA)
日本:概ね10~30%(JTEPA)、ただし自動車の現地生産用に自動車メーカーや1次サプライヤーが輸入する場合は0%(いわゆるJTEPA-TJ6)
中国:概ね35%または42%(ACFTAのHSLに指定)、一部品目は0%
韓国:概ね24%(AKFTAのHSLに指定)、一部品目は0%
米国・EU:概ね10~30%(MFN税率)

注:前述に限らず、例えば救急車などの特殊車両は0%関税が適用されているケースがある。
出所:タイ商務省・タイ税関の資料からジェトロ作成

FTA利用によって関税率の差が大きいため、タイ政府は2022年5月~2023年12月の間、BEVの完成車(2022年5月13日付ビジネス短信参照)の関税減免措置を実施しており、これを使えば日本製BEVは0%、韓国製は0~20%、EU製や米国製は40~60%まで引き下げることができるようになった。ただし、本措置を使う場合は補助金と同様に、将来的なBEVの現地生産(輸入したBEV1台当たり2024年中に1台現地生産する)などの制約があり、簡単には利用できない制度設計となっている。

いよいよ始まる本格生産

タイのBEV奨励措置上の制約により、中国系自動車メーカー各社は2024年中の現地生産に向けて、準備を進めている。2023年にタイに地域事務所の設置を決めた中国汽車技術研究中心(CATARC)の発表によると、現在、タイには中国メーカー7社が投資を進めており、合計生産能力は35万台だという。主要中国系自動車メーカーの発表をまとめると、現在の各社の現地生産に向けた準備状況は、以下の表3のとおりである。

表3:主要中国系自動車メーカーのタイ生産拠点設置の動き(乗用車)

上海汽車(SAIC)/名爵(MG)
項目 内容
概要 2013年にタイ大手財閥CPグループとの合弁会社「上汽正大(SAIC-CP)」を設立。タイに工場を構える。2014年6月から生産を開始した。
工場所在 チョンブリ県、WHAイースタンシーボード2工業団地
敷地面積 437.5ライ(約70ヘクタール)
生産能力 10万台
BEV生産 エンジン車やハイブリッド車を生産。2023年11月4日、セター首相の工場訪問の際に第1号のタイ現地生産BEV「MG4エレクトリック」および生産ラインの稼働を発表した。
備考 MGブランドの販売会社である「MGセールス・タイ」は、EVの充電ステーションを拡充させているほか、2023年10月末にチョンブリ県でバッテリー工場を開設した。第1期の投資額は約20億円。面積は12万平方メートル。ハッチバック「MGエレクトリック」用のバッテリーを生産する。年産5万台分に達する見込み。
長城汽車(GWM)
項目 内容
概要 2021年6月に米ゼネラルモーターズの工場を取得。同年9月から本格稼働し、小型SUVハイブリッドの「ハバル」などの生産を開始。
工場所在 ラヨン県、WHAイースタンシーボード工業団地
敷地面積 412ライ(約66ヘクタール)
生産能力 8万台
BEV生産 2024年第1四半期から、東部ラヨン県の工場でORAグッドキャットなど8モデルのBEVの生産を開始する予定。
備考 バッテリー生産子会社として蜂巣能源(Sボルト)がタイに進出しており、チョンブリ県のレンタル工場内でBEVやハイブリッド車向け電池の生産ラインを設置する。年産能力は6万セットで、2024年第1四半期から出荷する。GWMやホライゾンプラスのEV工場に納入される予定。なお、タイ地場エネルギー大手バンプー・ネクストはタイ現地法人のSボルト・エナジー・テクノロジーの株式40%を7億5,000万バーツで取得している。
合衆新能源汽車(HOZON)/哪吒汽車(NETA)
項目 内容
概要 初の国外での生産。2023年3月にEV組立工場を着工。
投資予定額 現地企業バンチャン・ゼネラル・アセンブリ―(BGAC)に生産委託する。
工場予定地 バンコク近郊、バンチャン工業団地
生産能力 2万台
BEV生産 2023年12月に生産開始。当初の生産モデルは「NETAV」であるが、2024年4~6月からSUVモデルの「NETAUプロ」も生産する。
比亜迪汽車(BYD)
項目 内容
概要 2022年8月にタイでの新工場の建設を発表。
投資予定額 179億バーツ(約707億円)
工場予定地 ラヨン県、WHAラヨン36工業団地
敷地面積 第1期で600ライ(96ヘクタール)
生産能力 15万台(ASEANや欧州市場へ輸出も視野に入れる)
BEV生産 2024年6月からBEV生産を開始する見通しとなっている。生産モデルは小型EV「ドルフィン」で、初年度は1万~2万台の見込み。
備考 2023年7月に部品の現地調達に向けて大規模な商談会を実施した。2023年9月、バンコク東郊に部品倉庫を設置。アフターサービスにも力を入れる。
長安汽車(Changan)
項目 内容
概要 2023年4月、タイにEV生産拠点を設けることを発表。初の国外の大規模投資となる。2023年11月に起工式を実施。
投資予定額 約88億6,200万バーツ(約367億円)
工場予定地 ラヨン県、WHAイースタンシーボード4工業団地
敷地面積 250ライ(約40ヘクタール)
生産能力 10万台だが、将来的に20万台に拡張される可能性
BEV生産 工場稼働時期は2025年1~3月の見通し。BEVとPHEV、レンジエクステンダー車(REV)を生産する予定で、タイ国内のほか、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランドへの輸出も目指す。
備考 2023年11月から「Deepal」など2モデルを輸入販売。
広州汽車(GAC)/広汽埃安新能源(AION)
項目 内容
概要 2023年7月、タイへの生産拠点設置を発表。AIONの初の海外工場となる。
投資予定額 約60億バーツ(約250億円)
工場予定地 東部経済回廊(EEC)内に建設予定。
BEV生産 2024年中に組み立て生産を開始し、最短で同年6月から出荷する可能性。2024年は2万台を期待。
備考 現地生産する予定の小型SUV「AIONYプラス」の販売を2023年9月から開始。航続距離は500キロメートル。価格は107万~130万バーツ。
奇瑞汽車(Chery)
項目 内容
概要 2023年9月、タイでのEV生産事業への投資計画が明らかになった。組立工程を現地で行うノックダウン方式を採用する予定。
生産能力 第1期(2024~25年)は鴻海とPTTの合弁会社であるアルンプラスに生産を委託する(年1万8,000台)。第2期(2026~27年)は年5万台を生産し、うち4万5,000台を輸出する。第3期(2028~30年)は年10万台超に引き上げ、うち6万台を生産。
BEV生産 オモダやJaecooなどを生産予定。

出所:各社発表・報道などからジェトロ作成

上海汽車と長城汽車はすでにタイに自動車工場を有しており、内燃機関車(ICE)やハイブリッド車(HEV)を生産しているため、BEVの現地生産でも先行する形となっている。上海汽車は2023年11月、現地生産したBEVの第1号をセター・タビシン首相に披露した。長城汽車も、2024年第1四半期からBEV生産を開始する予定だ。

NETAについては、委託生産方式を採用する。現地企業バンチャン・ゼネラル・アセンブリ―(BGAC)が、2023年12月からNETAブランドのBEVの現地生産を開始した。BYDも着々と準備を進めており、2024年6月から生産を開始する予定だ。すでに現地で部品調達に向けた商談会などを実施しており、日系企業にも声がかかっている。

長安汽車と広汽埃安新能源(AION)は、やや後発とはなるが、大規模な投資が計画されており、タイ工場が着工した段階といえよう。長安汽車の生産開始は2025年となる見込みだが、先行して既に「Deepal」などのBEVを市場に投入している。

新たなEV振興策「EV3.5」

タイでは2023年5月に総選挙が実施されたが、EV産業においては、2023年末までの時限措置だった補助金を含むEV普及支援策が継続されるかどうかがポイントとなっていた。前述したEV販売の急増は、補助金の効果が大きいこともあり、継続しない場合は販売の縮小が見込まれたからだ。2023年11月に、セター首相が委員長を務める国家電気自動車政策委員会(NEVPC)で、2024年から施行される新たなEV普及支援策「EV3.5」が承認された。

EV3.5では、販売補助金は以前より縮小され、1台当たり2万~10万バーツとなった(表4参照)。輸入完成車の台数に対して義務付けられるタイ国内でのEV生産台数の条件も厳しくなっており、2026年までに生産を始める場合は当該補助金を受けて輸入したEV完成車台数の2倍以上、2027年に生産を始める場合は3倍以上のEV生産を義務付けられることとなった(2023年11月8日付ビジネス短信参照)。

表4:新たなEV普及策「EV3.5」(2024~2027年)
項目 乗用車 ピックアップ車 二輪車
車両価格 200万バーツ以下 200万バーツ以下 200万バーツ超
700万バーツ以下
200万バーツ以下 15万バーツ以下
バッテリー
容量
50キロワット(kWh)未満 50KWh以上 50KWh以上 50KWh以上 3KWh以上
販売補助金
(1台当たり)
2万~5万バーツ 5万~10万バーツ なし 5万~10万バーツ 5,000~1万バーツ
関税優遇 40%ポイント削減 40%ポイント削減 なし なし なし
物品税優遇 8%から2%に引き下げ 8%から2%に引き下げ 8%から2%に引き下げ なし なし

注:物品税は、排気量やCO2排出量によって細分化されているが、一般的なエンジン車(ICE)の場合は25%~40%だが、エコカーは8~40%に設定されている。
出所:タイ投資委員会(BOI)

補助金を使った輸入販売については、現地生産が遅れると将来的にタイ国内で求められる生産台数が多くなる。中国メーカー各社とも、早々に生産ラインの立ち上げを進めたいところだが、中国系部品メーカーについては、浙江宏利オートパーツ、寧波天龍電子、寧波恒師など一部のメーカーがタイ工場進出を発表しているにとどまっている。まだ、中国のサプライヤーのタイ進出は本格化していない状況だ。こうした中で、タイにすでに進出している日系自動車部品メーカーにも中国企業からの調達の引き合いが増えていると考えられる。

進出してくる中国系BEVメーカーへの納入機会をチャンスと捉える日系企業もあるが、商慣習や言語の違い、取引の継続性にリスクがあるとして静観する構えの企業もある。これまで、タイの自動車市場の大部分を日系メーカーが占めていたため、取引先も日系企業のネットワーク内で完結していたが、非日系企業の販売が拡大するなか、日系部品サプライヤーにとって判断が難しい局面に差しかかっている。

なお、日系自動車メーカーについては、タイ政府発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、トヨタは2023年11月にセター首相に対してタイ国内におけるEV業界の発展に協力する方針を明らかにした。現地報道によれば、同社はEVピックアップトラックの試験的な投入を計画している。そのほか、いすゞも、タイにおけるBEVピックアップトラック生産の計画を発表している(詳細はいすゞウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。