中国EV・車載電池企業の海外戦略 中国自動運転スタートアップCORAGEの事業展開
再生可能エネルギーと無人化による物流革命
2024年3月18日
中国調査会社のIT橘子によると、2023年1月30日時点の世界のユニコーン企業数は1,400社で、このうち米国に650社、中国には347社が拠点を構える。ハイエンド製造、自動車交通、物流の分野においては、中国ユニコーンの数が米国を上回る。中国が世界に強みを持つ産業分野だ。
この分野を代表する中国スタートアップCORAGEのグループ戦略責任者であり、自らも投資家である那小川氏に、同社の取り組みや対日ビジネス、日本のスタートアップ市場について聞いた(取材日:2024年2月7日)
無人運転の大型トラックを開発、中国の製鉄所などで採用
- 質問:
- CORAGEの会社概要についてご教示願いたい。
- 答え:
- 当社は自動運転システムの開発会社として、2021年12月に広東省深セン市で設立した。当社の自動運転技術はレベル4(注1)。米国Motionalが nuScenesという名称で各社の自動運転技術の比較結果を公開しているが、CORAGEの認識技術は世界ランキング2位の評価を受けた。
- 資金調達はエンジェルラウンド(注2)で10億円、社員数は40人。現在は、自社で開発した自動運転技術を、再生可能エネルギー[EV(電気自動車)/FCV(燃料電池車)]商用車に搭載している。また、物流現場の全工程をリアルタイムで管理するクラウド型のプラットフォームの納品と合わせて、物流DXシステムまで含めたトータルソリューションを提供している。
- 2022年から中国の重慶市や広東省で、自動運転EV大型トラックの納品を開始した。重慶市では、10ヘクタールの物流パークで、当社の荷重5~10トンのトラックが走行している。もともと倉庫内に導入されていた無人搬送車と、当社の無人自動運転トラックとをシームレスに連携させることで40%の人件費カットを実現した。リアルタイムでモニタリングするプラットフォームも提供しており、高度なスマート物流を構築している。広東省では年産300万トンの製鉄所で、薄板の熱延・酸洗間の輸送のためのトラックを提供している。今後は、他の物流工程も含めてカバレッジを拡大していく。
世界有数の自動運転技術で、日本での技術革新に貢献したい
- 質問:
- 日本でも自動運転トラックの使用が2023年に入ってから活発化している。このような動きをどのように見ているのか。また、CORAGEとして今後、日本でのビジネス展開を検討されているか。
- 答え:
- 当社は既に日本企業3社より出資を受けている。東京大学発のAI(人工知能)企業であるPKSHA Technology、資産運用大手のSPARX、住友商事の3社だ。住友商事の事業では、自動運転技術が応用できる機会が多く見込まれており、日本でのビジネス展開においては重要なパートナーとなる。
- 各種報道のとおり、日本では、豊田通商が新東名高速道路の100キロメートル(km)夜間無人運転車用レーン計画に参画している。また、重工大手IHIは製鉄所の無人運転トラックの開発を行っている。三井物産もAI事業会社Preferred Networks(本社:東京都)と合弁でT2を設立し、レベル4の自動運転トラックの開発を進める。CORAGEは世界有数の自動運転技術を有しており、その技術を日本市場に導入することができると自負している。また、中国の技術者を日本に派遣し、日本企業とともに研究開発を日本で行うことも可能だ。そこが当社の強みであり、日本のEV産業に貢献できるところだ。
- 当社のEV商用車は70トンの積載荷重と最大時速89 kmを実現した。FCV商用車は250キロワット(kW)までの燃料電池モジュールを搭載し、積載荷重は最大100トンで最大時速は100 km と、利用シーンに合わせてカスタマイズが可能だ。
- 車両は日本企業から調達することも可能。過疎化・高齢化が進む日本では、スマート化により運転手不足を補うことができる。また、日本の電力価格は15~20/キロワット時(kWh)程度と比較的低価なため、EV化によりコスト削減やカーボンニュートラル対策を一挙に実現できる。
既存技術や海外人材の活用が、日本企業の競争力を高めるカギとなる
- 質問:
- 今後、自動運転の業界はどのような発展をしていくと考えるか。レベル5の実現にはどのくらいの期間が必要か。
- 答え:
- レベル5の自動運転技術の実現には、まだ多くの時間が必要であり、技術的な課題が存在する。自動運転はSensor、Perception、Decision、Executionの機能から成るが、AIとソフトウェアの進化によってそれらが一部機能を担い、ビジネスモデルが大きく変わる可能性があるとの指摘もある。ただし、自動運転の用途やコストによってすみ分けが進み、今後ともレベル4は併存し続けるだろう。
- 質問:
- 最後に、起業家・投資家として、今の日本のスタートアップの現状をどのように見ているのか。
- 答え:
- 例えば、自動運転技術をゼロから開発することは難しい。時間やコストもかかる。EV市場は単なるEV化を超え、知能化(スマート化)やエネルギー変化を含む複合的な進化を遂げている。中国と米国の技術・投資環境の変化が、日本市場に新たな機会をもたらす可能性もある。このような状況下では、若手技術者や新しいパラダイムに適応する能力が必要となる。日本企業が国際競争力を高めてグローバル展開を進めるためには、資金を集中させた上で、既存の技術や人材を活用していくことが実利的だと考える。
- 質問:
- 注1:
- 自動運転レベル4の定義は、特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全てを代替する状態である。レベル5が最高位で「完全運転自動化」となり、どの領域においても持続的かつ無制限な自動運転の実現を可能とする。
- 注2:
- エンジェルラウンドとは、創業前後のアイデア段階にあるスタートアップに対する投資を指す。プレシードラウンド、ともいう。
- 略歴
- 那小川(Na Xiao Chuan)
- 東京大学情報理工学研究科修士。ローランド・ベルガー東京オフィスコンサルタント、DeNA China戦略アナリスト、China Renaissance(華興資本)投資ディレクターを経て独立。Roadstar.ai、Transcapital、SUGENAの創業メンバー。CORAGEグループ戦略責任者(2024年3月より顧問)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・上海事務所 副所長
髙村 大輔(たかむら だいすけ) - 2002年、ジェトロ入構。対日投資課、北京事務所、富山事務所長などを経て、2022年11月から現職。中国企業の日本誘致、スタートアップ支援、在中国日系企業支援、知的財産などを担当。