中国EV・車載電池企業の海外戦略 EVとともに急成長する中国の車載電池メーカー
海外でも攻勢強める
2023年12月4日
新エネルギー車(NEV)の普及が急速に進んでいる中国では、コア部品である車載電池においても、国内企業の存在感が高まっている。本稿では、中国車載電池企業の高性能電池の開発、投資動向、海外市場の開拓などについて考察する。
中国の市場調査会社GGII が発表した2023年1~9月における世界車載電池の出荷量(搭載ベース)ランキングでは、上位10社に中国企業6社がランクインした(表1参照)。特に首位の寧徳時代新能源科技(CATL)、2位の比亜迪(BYD)の市場シェアは合計で5割を超え、3位以下との差を広げている。
順位 | 企業名 | 本拠地 | 出荷量 | 市場シェア |
---|---|---|---|---|
1 | 寧徳時代新能源科技(CATL) | 中国福建省 | 175.0 | 35.5 |
2 | 比亜迪(BYD) | 中国広東省 | 82.4 | 16.7 |
3 | LGエネルギーソリューション | 韓国 | 67.0 | 13.6 |
4 | パナソニック | 日本 | 53.3 | 10.8 |
5 | 中創新航科技 | 中国江蘇省 | 22.1 | 4.5 |
6 | SKオン | 韓国 | 19.7 | 4.0 |
7 | サムスンSDI | 韓国 | 18.7 | 3.8 |
8 | 国軒高科 | 中国安徽省 | 10.7 | 2.2 |
9 | 恵州億緯鋰能 | 中国広東省 | 8.0 | 1.6 |
10 | 孚能科技 | 中国江西省 | 7.9 | 1.6 |
その他 | 28.7 | 5.8 | ||
世界 計 | 493.5 | 100 |
出所:GGIIの発表を基にジェトロ作成
急速充電の電池を相次ぎ開発
中国車載電池メーカーの快進撃を支える理由は2つだと考えられる。1つは、電気自動車(EV)の弱点とされる持続距離、長い充電時間を克服する高性能電池を相次いで開発していることだ。現在主流の車載電池には、三元系リチウムイオン電池とリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の2種類がある。三元系電池はエネルギー密度が高いが、ニッケルやコバルトなどの高価な素材を利用することで生産コストが高いため、中国企業は特に、鉄とリン酸を使用した安価なLFP電池の改良に力を入れている。
2023年に日本でEVの販売を開始したBYDは、もともと1995年に創業した電池メーカーだ。同社は2020年3月に「ブレードバッテリー」というLFP電池を開発した。電池の構成をシンプルにして、限られたスペースに対してより多くのセルを搭載することで、従来電池のエネルギー密度が低いという弱点を克服し、航続距離を延ばすことができた。また、「ブレードバッテリー」は、熱安定性が高いほか、三元系電池に比べて希少金属の使用が少ないため、コストも抑えられているというメリットがある。「ブレードバッテリー」は、電池本来のコストを30%減、部材の数量を40%減少させた一方で、電池の体積利用率(VCTP、電池バックの体積に対する電池セルの体積)を50%高めたという。
CATLは2023年8月、世界初の4C(注)急速充電が可能なLFP電池「神行超充電池」を発表した(2023年8月22日付ビジネス短信参照)。同電池を搭載するEVは、10分の充電で400キロの走行ができ、航続距離も700キロを超える。さらに、マイナス10度の低温環境でも30分で80%まで充電でき、加速性能も保つという。CATLは2023年末に「神行超充電池」の量産を開始し、EVメーカーに納品する。2024年第1四半期(1~3月)には同電池を搭載したEVが発売される見込みだ。同社は、4C急速充電が可能な三元系「麒麟電池」も開発済みだ。2023年4月に初の納入先として、新興EVメーカーの理想汽車のEVに搭載すると発表している。LFP電池と三元系電池は車載電池の2本柱として、EV普及を後押しすることが期待される。
電池容量が大きく航続距離の長いEVは高額になる傾向があり、EVの本体価格は電池に大きく左右されている。安価なLFP電池が必要十分な航続距離を確保できるようになったことで、自動車各社も積極的に採用している。車載電池業界団体の中国汽車動力電池産業創新連盟(CABIA)の発表によると、2023年1~9月に中国で販売されたLFP電池(搭載ベース)の市場シェアは68.0%で、三元系電池(31.9%)の2倍以上だ。前年同期比の伸び率でも、LFP電池は49.4%増と、三元系電池(5.7%増)を大きく上回った。
電池の大規模生産によりコスト低減を図る
中国電池各社が快進撃を続けるもう1つの理由は、大量生産によるコスト低減だ。
国内電池メーカーの蜂巣能源科技の楊紅新・董事長は、2023年4月末に開かれたCABIAの年次総会で講演を行い、「我々の統計によれば、過去の10年間では、リチウムイオン電池価格が生産規模の拡大で当初より8割低下した。今後も電池の累計生産量が倍増するごとに、電池の単位コストが17%ずつ逓減していく」と指摘した。
矢野経済信息諮詢(上海)のまとめによると、中国国内の車載電池関連の投資額(計画を含む)は2020年に1,668億元(約3兆3,360億円、1元=約20円)だったが、EVの販売急増を追い風に、2021年には前年比約3.8倍の6,366億元、2022年には7,494億元と急増した。CATLが2020~2022年の3年間で公表した17件のプロジェクトの総投資額は1,803億元で、生産能力も682ギガワット時(GWh)に達する予定だ(表2参照)。また、BYDも3年間で880億元を投じ、新たに生産能力187GWhに拡大することを計画している。
一方、2023年に入ってから各社の投資ベースが緩やかとなっており、1~8月に発表された投資額は約2,300億元と減速している。EV需要の伸び鈍化と、電池各社が生産能力の拡大競争を繰り広げてきた結果、電池の在庫がにわかに膨張しているためだ。
企業名 | 項目 | 公表時期 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|
2020年 | 2021年 | 2022年 | |||
CATL | プロジェクト件数 | 6 | 8 | 3 | 17 |
総投資額 | 550 | 843 | 410 | 1,803 | |
生産能力 | 186 | 316 | 180 | 682 | |
BYD | プロジェクト件数 | 1 | 3 | 5 | 9 |
総投資額 | 60 | 200 | 620 | 880 | |
生産能力 | 10 | 60 | 117 | 187 |
出所:矢野経済信息諮詢(上海)
電池の海外輸出は拡大の一途
CABIAの発表によると、2023年1~9月における中国の車載電池生産量は492GWhだったが、内販(国内向け搭載量)は生産量の52.0%に相当する256GWhに過ぎず、外販(輸出)が前年同期比2.2倍の90GWhと急増した。車載電池各社は、過剰生産部分を輸出することで活路を見いだそうと、海外市場に目を向けるようになった。
中国化学・物理電源業界協会(CIAPS)は、2022年以来、リチウムイオン電池の輸出は車載電池と蓄電池の牽引によって急拡大していると述べている。2023年1~9月のリチウムイオン電池の輸出額は486億ドルで、前年同期(349億ドル)に比べて39.0%増えた。国・地域別をみると、米国向けは40.9%増の94億900万ドルで最多となり、続いてドイツ(74億1,400万ドル)、韓国(62億5,100万ドル)、オランダ(29億1,400万ドル)、ベトナム(21億7,400万ドル)の順となった。日本向けは32.8%増の17億100万ドルと7位にランクインした。
韓国貿易協会(KITA)の発表によると、韓国が2023年1~8月に中国から輸入した車載電池は、前年同期比2.1倍の44億7,000万ドルで、既に2022年通年の金額(34億9,000万ドル)を上回った。逆に、韓国から中国向けの輸出額はほぼ半減の6,600万ドルに縮小した。背景には、EV価格を下げるため、中国産LFP電池を採用する韓国自動車メーカーが増えているためだという(「韓聯社」2023年10月8日)。
好調なリチウムイオン電池は、EV、太陽電池とともに中国の輸出を牽引する「新三様(新御三家)」と呼ばれている。税関総署が発表した中国の1~9月の輸出額伸び率(人民元ベース)をみると、「新三様」は前年同期比41.7%増と全体(0.6%増)を大きく上回った。輸出総額に占める割合も1.3ポイント増の4.5%に高まった。
海外生産拡大でグローバル化を推進
車載電池メーカーは、輸出を強化するとともに、2020年ごろから海外工場の建設も積極的に推進している。とりわけ、EV需要は高まっているものの、電池のサプライチェーンがまだ整ってない欧州での工場建設や製品を売り込む動きが強まっている。
CATLは2023年10月、ハンガリー東部で計画していた工場を着工したことを明らかにした。総生産能力は年間100GWhで、73億4,000万ユーロを投じる予定だ。ドイツ工場に次ぐ、欧州で2番目の工場となる。ハンガリー工場の敷地面積は221ヘクタールで、メルセデス・ベンツ、BMW、ステランティス、フォルクスワーゲン(VW)などの欧州系自動車メーカーに納入する電池セルとモジュールを製造する。ハンガリーは欧州の中央に位置しており、前述の自動車メーカーなどの工場にも近いため、現地市場のニーズに即時に対応ができるという(2022年8月18日付ビジネス短信参照)。
矢野経済信息諮詢(上海)のまとめでは、中国電池各社が2020年1月~2023年8月の間に発表した海外投資プロジェクトは計27件で、投資総額は3,316億元(約6兆6,320億円)に達した(表3参照)。そのうち、欧州への投資額は約1,600億元で全体の47%を占めた。各社は2020以降、特にハンガリー、ドイツなどへの投資を増やしている。
順位 | 投資先 | 件数 | 投資額 | 割合 |
---|---|---|---|---|
1 | ハンガリー | 4 | 63,370 | 19.1 |
2 | 米国 | 4 | 57,320 | 17.3 |
3 | ドイツ | 4 | 44,160 | 13.3 |
4 | モロッコ | 1 | 44,010 | 13.3 |
5 | インドネシア | 1 | 42,210 | 12.7 |
その他 | 13 | 80,530 | 24.3 | |
世界 計 | 27 | 331,600 | 100 |
出所:矢野経済信息諮詢(上海)
次世代電池の開発巡り競争激化
中国の電池メーカーは、国内の旺盛なNEV需要を見込んで一気に投資を拡大してきたが、結果として過剰生産能力が生まれた。長安汽車の朱華栄・董事長は2023年6月に開催された中国自動車(重慶)フォーラムで、「2025年までに中国の車載電池需要は約1,000GWhだと見込んでいるが、現時点の生産能力は既に4,800GWhを有し、厳しい生産過剰局面に陥る可能性がある」と予測している(「第一財経」2023年6月9日)。
CABIAが公表した中国の車載電池納入概況によれば、2023年1~9月期にNEVへの搭載実績があった電池メーカーは49社に上るが、上位3社の搭載量は全体の80.6%、上位10社は全体の94.5%と大きなシェアを占めた。高性能電池を相次いで開発したCATLやBYDのような企業はわずかで、多くの企業が旧型車種に対応していた電池が売れず、先行きの不透明感が強まっている。
一方、欧米や日本の大手自動車メーカーでは、急速に進む自動車の電動化に対応し、電池などの研究開発に力を入れている。トヨタなどでは全固定電池の開発を加速させ、中国や韓国勢が先行している電池分野での巻き返しを図ろうとしている。次世代電池を巡る開発レースは本格化しており、車載電池業界での競争が一層激化している。
- 注:
- Cレートは電池の充放電性能を指しており、数値が大きいほど性能が高い。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん) - 2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。