特集:アジアのサプライチェーンをめぐる事業環境新型コロナがもたらした物流逼迫に一服感(フィリピン)
なおも続くコスト高、外資参入緩和に光明

2022年11月29日

フィリピンではかねて、物流の高コスト体質が指摘されてきた。その背景には、島しょ国という地形的要因や政府の過去の外資参入規制、非効率な通関手続きなどがある。さらに最近では、新型コロナ禍によってフィリピンの物流をめぐる環境が悪化。輸送費が急激に高騰する事態に至った。

一方で、2022年に入り、ゼロコロナ政策によって中国での生産活動が低迷したこと、世界的に景気が鈍化していることを受け、当地での物流需要逼迫は一時期より緩和されつつある。また、コロナ禍での物流混乱・輸送費高騰を契機に、輸送コストの削減や物流最適化について積極的に取り組むようになった企業もある。

フィリピンで物流コストが高いわけ

コロナ禍前からフィリピンは、島しょ国であることや、外資参入規制などの制度的要因、税関の非効率性、物流インフラの未整備から、物流コストが近隣のASEAN諸国と比較して高いと評価されてきた。世界銀行が2018年に発表した「物流パフォーマンス指標(Logistic Performance Index)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で、フィリピンの順位は160カ国中、60位だった(表参照)。他のASEAN諸国と比較しても、劣後している。例えば、タイは32位、ベトナム39位、マレーシア41位、インドネシア46位だった(注1)。

表:物流パフォーマンス指標の順位(2018年)
国名 順位
ドイツ 1
スウェーデン 2
ベルギー 3
日本 5
シンガポール 7
タイ 32
ベトナム 39
マレーシア 41
インドネシア 46
フィリピン 60
アルゼンチン 61
アフガニスタン 160

出所:世界銀行の発表データを基にジェトロ作成

フィリピンは、7,100余りの島々から成る。しかも、経済圏も分散している〔マニラ首都圏を含むルソン島、セブを中心都市とするビサヤ地方(セブ島)、ダバオが中心都市のミンダナオ島、など〕。そのため、同じ島内などのケースを除き、陸路だけで完結することができず、物流コストが割高になりやすい(「ビジネス・ミラー」紙2018年11月8日付参照)。

こうした地形的特徴に加え、非効率な通関手続きや港湾の混雑も物流コスト高の要因として指摘されている。この点は、ジェトロの「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」からも裏付けられる。当地で事業運営する上での経営上の問題点として「通関に時間を要する」と回答した企業の割合は、全体の44.7%。対象企業を製造業に絞ると、65.1%にも上ったのだ。

国内最大のマニラ港では実際、港湾の処理能力が低いため、混雑が頻繁に発生している。コロナ禍前は、コンテナの滞留による港湾混雑も課題とされていた。フィリピンにコンテナが滞留しがちな要因として、国外へ送り出すコンテナ数よりも国内に入ってくるコンテナ数の方が恒常的に多いことが挙げられる。これは、同国の純輸出量(輸出量と輸入量の差し引き)で近年、マイナスが続いてきた結果だ(図参照)。

図:フィリピンの純輸出量(単位:1,000トン)
2012年3,783千トン、2013年23,530千トン、2014年24,146千トン。2015年にマイナスに転じ、2015年-8,108千トン、2016年-44,946千トン、2017年-45,263千トン、2018年-60,425千トン、2019年-51,827千トン、2020年-35,143千トン、2021年-47,089千トン。

出所:グローバル・トレード・アトラス〔原データはフィリピン統計庁(PSA)〕からジェトロ作成

コロナ禍は物流にも打撃

コロナ禍はフィリピンの物流環境に、大きく負の影響をもたらした。フィリピン企業の多くが、コロナ禍下で生じた物流混乱に翻弄された(貨物船の運航スケジュール遅延、物流コストの上昇など)。2020年後半からは、欧米での経済活動の再開に伴って、中国や東南アジアから欧米などに運ばれる荷物が急増。世界的にコンテナが不足し運賃が高騰した。これは、世界的な物流バランス変化につながる。その結果、それまで空コンテナが滞留していたフィリピンですら、コンテナが不足するという事態まで発生した。

さらに2022年に入ってからは、ロシアのウクライナ軍事侵攻に起因した燃料価格の高騰により、物流コストがさらに上昇した。物流混乱を一層悪化させたかたちだ(「インクワイヤラー」紙2022年6月14日付)。

ジェトロが2022年6月、在フィリピンの自動車・同部品メーカーにヒアリングしたところ、「物流費高騰の勢いが増している」「他国からフィリピンに部品を調達する際、サプライヤーから値上げの申し入れが多く発生している」などのコメントが寄せられた。また、同時点で、「2022年3月末から約2カ月間、中国が厳しい新型コロナ対策を実施した。これによって、同国での経済活動が大きく制限され、中国からの部品調達に遅延が見られる」との指摘もあった。

コロナ禍が収束に向かい、物流逼迫は改善

一方で、新型コロナのリスク(感染拡大および感染後の重症化)そのものは収まってきた。このことから、フィリピン政府は2022年に入り、本格的に新型コロナ対策のための行動・移動制限の緩和を進めた。その結果、2022年10月時点でフィリピン国内のビジネス活動について特段の制限は課されていない。2022年4月以降、ワクチン接種を完了している場合、入国時隔離なしで入国が可能になっている。また、2022年11月2日からは、ワクチン接種が完了していない場合でも、陰性証明書の提示を条件に入国時の隔離なしでの入国が可能となった(2022年11月28日現在)。

行動・移動制限の緩和によって、フィリピンの物流環境も変化しつつある。ジェトロが2022年8月30日、日系物流会社A社にヒアリングしたところ、航空輸送(以下、空輸)では、「2021年後半と比較して、需要逼迫がかなり改善してきた」(2022年8月末時点)という。「2021年後半は、欧米向け貨物について、クリスマスシーズンという季節性の要因も加わり輸送需要が増加。運賃の高騰が激しく、片やスペース確保に苦労せざるを得なかった。2022年に入ってからは、ウクライナ情勢の緊迫化や中国のロックダウン政策を受け、世界的な景気減速や部品不足が発生している」と指摘する。空輸スペースの需要が落ち着いてきているのは、その結果だ。そのため、2021年に起こったような急激な運賃高騰は発生していない。また、各国での入国規制緩和を受け、旅客便の運航本数が増加、空輸スペースの供給も回復しつつあると指摘する。ただし、コロナ禍前の平時と比較すると、依然としてフィリピンから世界各地へ発送する運賃は2~4倍の水準ではある。

海上輸送についても、「2021年後半と比較すると、輸送スペースの逼迫はかなり落ち着いてきており、運賃も低下傾向。特に米国向けの運賃の下落が著しい」(2022年8月末時点)という。また、米国西海岸などで見られた港湾混雑も解消されつつあるという。またA社は、米国向けの運賃低下の理由として、「米国の自動車メーカーの生産活動低迷の影響が大きい」と指摘した。ただし、空輸と同様、海上運賃もコロナ禍前よりは高い。

なお、新型コロナ禍が深刻だった2021年のうちは、在フィリピン日系メーカーが海上輸送で外国から部品を十分に調達できず、急きょ、空輸調達するケースも見られた。しかし、2022年8月末時点では、そうした代替的な調達はほぼ見られなくなったという。

燃料価格上昇を受け、燃料割増付加金(注2)が復活する動きもみられる。従来フィリピンでは慣行的に、物流会社が荷主に対して提示する運賃には燃料価格が含まれていた(輸送費全体の中で、燃料費の占める割合が明示されていなかった)。しかし、A社によると、ウクライナ情勢の緊迫化を受け、燃料価格が急騰。フィリピンのフラッグキャリア、フィリピン航空が燃料割増付加金の再導入をフィリピン政府に申請し、認可された。付加金導入の動きは、セブパシフィック航空など、他の航空会社にも広がっている。この復活によって物流会社は、輸送費の中の燃料価格を明示し、燃料価格高騰を理由に、輸送費を引き上げることが可能になった。燃料価格の動きによっては、今後さらなる運賃の上昇も懸念される。

コロナ禍での輸送費の高騰や物流の混乱を受けて、物流の効率化を意識する動きも出てきている。ジェトロが2022年10月12日、日系製造業会社B社にヒアリングしたところ、「仕入れ先のルート最適化に務めるとともに、混雑の激しいマニラ港だけではなく、マニラ首都圏の南方に位置するバタンガス港を併用している」との説明を受けた。バタンガス港の併用により、同社が使用するコンテナ滞留をなるべく削減するというのが狙いだ。また、「生産量をこれまでよりも精度高く予測し、海上輸送と比較的して輸送費の高い空輸利用を避けるよう工夫している」という。B社では、グループ会社全体で集中購買(注3)することも検討中だという。

外資規制緩和による物流費低減に期待

当地の物流コスト高は、外資参入規制が要因の1つとも言われてきた。ただし、この問題に関しては近年、規制緩和が進んでいる。その1つが、公共サービス法の改正だ。

フィリピンではこれまで運送業が「公益事業」とみなされてきた。その結果、1936年に成立した公共サービス法によって、その事業が運営できるのは、フィリピン人またはフィリピン人が60%以上出資する企業だけに限られていた。また、国内船舶輸送はもっぱらフィリピン船籍に認められる(外国籍船舶による輸送を制約)という規制も、別にあった。しかし、公共サービス法は改正され、2022年4月に発効。運送業の外資の出資比率が100%まで認められるようになった(2022年3月25日付ビジネス短信参照)。また、2015年に成立した外国船共同積荷法(共和国法第10668号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の成立により、国内船舶輸送の規制も撤廃されるに至った。

なお、フィリピンで競争法を執行する機関であるフィリピン競争委員会(PCC)は、2021年にレポート「貨物輸送事業に関する競争政策(Competition Policy Issues in Cargo Services)」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.25MB)を発表した。その中で、「従前からの外資参入規制措置によって、市場での企業間競争が阻まれ、運送業で少数のローカル企業が市場に対して強力な影響力を有するようになった」と分析。その上で、「企業間の競争が少ないことでフィリピンの運送業の近代化が妨げられ、高い水準の物流コストにつながった」と結論付けた。近年、フィリピン政府が外資規制緩和を推進したことで、外資参入が活発化することも見込めそうだ。そうなると、外国企業からの技術導入を通じて、運送業の生産性が高まる可能性も出てくるだろう。また、少数ローカル企業による寡占状況が変化し、市場競争を通じた企業努力により、物流コストが低減することも期待できる。

2022年7月に就任したフェルディナンド・マルコス大統領は、大統領選挙キャンペーン時から、物流の強化を主張していた。また、大統領は9月28日、クラーク国際空港(注4)の新ターミナルについて「フィリピンがアジアの物流センターになる1つの布石になるだろう」と述べている(同空港新ターミナルの開所式に出席した際の発言)。この背景には、マニラ首都圏にある既存のニノイ・アキノ国際空港で、貨物の輸送需要がキャパシティーを大幅に超過していることがある。クラーク国際空港の新ターミナルを既存空港への利用集中を緩和する施策の一環と位置付けたかたちだ。

コロナ禍や燃料費高騰の影響で、なおもコスト高が続くフィリピンの物流環境。しかし、若干ながらも光明が見えてきた。外資参入規制緩和による物流分野への外資新規参入や新政権の施策によってコスト低減が実現できるのかが、注目される。


注1:
日本は、物流パフォーマンス指標で5位。世界的に、高評価を得ている。
注2:
燃料割増付加金(fuel surcharge)は、燃油価格の急激な高騰によって、通常の運賃の適用が困難な場合に付加される料金を指す。
注3:
集中購買とは、複数の事業所で要する資材などを1つの窓口で調達すること。集中購買によって、売り手に対して価格交渉力が高まることや、購買に関する管理コストが低減しうるというメリットがある。
注4:
クラーク国際空港は、マニラ首都圏郊外に立地する。
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
吉田 暁彦(よしだあきひこ)
2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月から現職。

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