米環境保護庁、自動車排ガスの新規則を発表、過去最も厳しい基準値に

(米国)

ニューヨーク発

2021年12月24日

米国環境保護庁(EPA)は12月20日、2023年から2026年製車の乗用車およびライトトラックに対する温室効果ガス(GHG)排出基準を含む最終規則(新規則)を発表した(2021年10月18日記事参照)。前トランプ政権下で緩和された基準値などを見直したもので、最終規則の策定にあたっては、2021年8月より改正規則草案に対する関係機関などからの意見聴取を行っていた。今回の最終規則によって業界に対し厳しい基準値を課すことで、バイデン政権の掲げる排出削減目標の達成を目指す。

最終規則の中で示された車両1台あたりのGHG排出量の目標値は、いずれの製造年の車両に関しても、現行のSAFE規制(注1)を上回る厳しい基準値が採用されている。特に2026年モデルでは1マイルあたり161グラム(161gpm)、燃費換算値で1ガロンあたり55マイル(55mpg)とこれまでで最も厳しい値になった。また2025年、2026年モデルに関しては、関係機関からの意見を取り込むかたちで、改正規則案を上回る値が設定された(添付資料表参照)。

目標値の達成方法に関しても、厳しい措置が設定された。現行規則では、2016年から2020年モデルで獲得したクレジット(注2)に関し、メーカーが未達分に充てるための繰り越し期間を5年間まで許容しており、改正規則案では2016年モデルで2年間、2017年から2020年車に対しては1年間の延長が提案されていたが、最終規則では、2017年、2018年モデルに限り1年間のみの延長となった。

一方で、高性能ライトなど、テイルパイプ以外などからの排出量削減に対するクレジットの上限を1マイル当たり10グラムから15グラムに引き上げ、車両全体での削減を促す措置がとられた。また低排出、無排出車の販売を促すため、現行規則では取り下げられていた、プラグインハイブリッド車(PHEV)を含む電気自動車(EV)や、燃料電池車(FCV)に対する販売台数の積み増し(注3)、フルサイズピックアップトラックの一部ハイブリッド車に対するクレジットが再び採用された。こうした措置により、EPAは2026年までにEVの市場シェアが17%まで増加すると試算している。

最終規則によりEPAは、2050年までの二酸化炭素排出削減量が、2019年の全米での排出量の半分以上にあたる31億トンに上ると見積もる。また、人々の健康状態の改善などにも貢献し、全米での2050年までの経済的純便益は最大で1,900億ドルと試算されている。さらに、2050年までにガソリン消費が最大で4,200億ドル分節約されることなどから、消費者は2026年モデルの走行期間中、1台あたり約1,080ドル分の利益を得ることになるとみている。

今回の最終規則に対し、全米自動車労働組合(UAW)は「バイデン政権が策定した排ガス規則のようなよく考えられた規則は、米国の長期投資を促進すると同時に、自動車生産や先進技術における高賃金の組合の仕事を保護および拡大し、メーカーがこれらの基準を満たすために必要な柔軟性を与える」とおおむね歓迎するコメントを発表した(UAWホームページ)。また、自動車業界団体の自動車イノベーション協会(AAI)のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は「この最終規則の目標を達成するには、消費者へのインセンティブや大幅なインフラの成長、車両の要件、米国の製造業とサプライチェーンの発展へのサポートなど、政府による支援政策の制定が間違いなく必要だ」「経済全体の業界と政府の間のコラボレーションが不可欠だ」と述べた(AAIホームページ)。

(注1)トランプ前政権下で施行された2021年~2026年モデルを対象とする自動車排ガス、燃費規制。オバマ政権下で制定された基準値が緩和された。

(注2)基準値超過分をポイントとして貯蓄し、未達時などに一定の要件のもとで利用する制度。

(注3)一定の係数をかけることでEVとFCVの販売台数を一定倍に積み増す制度。これにより、調和平均の結果が実際よりも上昇することになり、EVなどの開発へのインセンティブとして機能することが期待できる。

(大原典子)

(米国)

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