特集:北米地域における環境政策の動向と現地ビジネスへの影響テキサス州、再エネ発電量で全米1位(米国)

2021年10月11日

米国のバイデン政権は、国内・国外双方に向けて、気候変動対策に精力的に取り組んでいる。具体的には、2030年の温室効果ガス(GHG)排出量を2005年比で50~52%削減、2050年のカーボンニュートラルを目指す構えだ(2021年6月9日付地域・分析レポート参照)。これに呼応した動きは各地域に及ぶ。石油・ガス産業が盛んなテキサス州も例外ではない。

「ブロックバスターの二の舞いは演じない」。年間売り上げ114億ドルの電力大手ビストラ(本社:テキサス州アービング)のカーティス・モーガン最高経営責任者(CEO)は、ビジネスの要諦は環境変化への対応力と説いた。ブロックバスターは、かつてテキサス州に本社を構え、店舗数約9,000、従業員約8万人超を擁したレンタルビデオ大手だ。それほどの大企業でありながら、2010年に破綻。環境変化に対応しきれないばかりの結果であり、同社を引き合いにしたのはそのためだ。

ビストラの言う変化とは、脱炭素に向けた社会的要請の高まりにほかならない。同社は2050年までのネットゼロ排出を目指し、州内複数の太陽光発電所建設に取り組んでいる。

脱炭素は避けられず

「電力系統運用にかかる追加コストを再生エネルギー(以下、再エネ)事業者ばかりに負担させれば、州内の事業投資に悪影響をもたらす」。再エネ推進派の企業連合は2021年8月、同年2月のテキサス大停電の責任が不当に再エネに押し付けられていると抗議した。この企業連合には、グーグルやアマゾン、ゴールドマン・サックスらが加わっている。矛先が向けられたのは、テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)や州議会に対してだ。6月に成立した大停電対策法では、対策の目玉の1つとして、発電所や天然ガス施設、系統施設へ耐候性を持たせることが義務づけられた。一方、アボット知事は7月に別途、州政府機関に対し「発電事業者には全州民への電力供給が期待されている」「風力や太陽光のように電力供給を保証できない発電事業者には、信頼性確保のコストを負担させよ」と指示していた。

石油ガス産業が強い影響力を及ぼすテキサス州議会では、再エネ産業は常にこうした逆風にさらされるリスクを抱える。しかし、ブロックバスターの例を挙げるまでもなく、ビジネスの現場は急激に変化する脱炭素への対応に迫られている。米国格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が2021年2月、米石油ガス生産大手のエクソンモービル(テキサス州アービング)と、コノコフィリップス(同ヒューストン)、シェブロン(カリフォルニア州サンラモン)の格付けを引き下げた。これら企業は、気候変動対策への取り組みが不十分と映ったからだ。エクソンモービルは6月、株主提案により3人の環境活動家を取締役に迎え、気候変動に対し一層取り組む姿勢を打ち出す必要に迫られている。事業継続のため、脱炭素か否かの選択の余地はない。

再エネ発電容量で、テキサス州は全米1位

しかし、実のところテキサス州は、再エネで全米屈指の実力を持つ。風力、太陽光、太陽熱を合わせた再エネ発電量で、テキサス州は全米1位なのだ。これは全米の4分の1を占め、2位のカリフォルニア州の2倍以上だ(図参照)。

図:風力、太陽光・太陽熱発電量上位10州(2019年)
2019年の実績。テキサス州は全米の23.9%、カリフォルニア州は11.4%、オクラホマ州は7.9%、アイオワ州は7.2%、カンザス州は5.7%、イリノイ州は3.9%、ミネソタ州とコロラド州は各々3.3%、ノースダコタ州は3.0%、ニューメキシコ州は2.2%を占める。

注:【 】内の数値は、各州の総発電量に占める風力、太陽光・太陽熱発電量の割合。
出所:米国エネルギー情報局(EIA)

州内発電量の2割を占める風力発電は、10年ほどで3倍以上に拡大した。これは、連邦・州の税額控除や、州西部の発電地域から大都市が集中する州東部への送電網整備などの追い風を受けた結果でもある。2021年8月にもデンマークの風力発電大手オーステッドが州北部に風力タービン130基、367メガワットの発電容量を擁する同社最大級の風力発電所を完成させるなど、活発な投資が続く。

太陽光発電の整備も着々と進む。例えば、州北東部に建設中のサムサン太陽光発電所は、2022年の完成時に全米最大規模となると見込まれる。また、再エネ発電事業者・EDPリニューアブル(ポルトガル電力公社の子会社、本社:スペイン)が2023年の商業運転開始に向けて太陽光発電所建設を予定。このように、大小さまざまな案件がある。風力同様のインセンティブや設備投資コストの低減、日照時間の長さなどから、今後建設予定される発電施設はもっぱら太陽光だ(2021年5月24日付地域・分析レポート参照)。

テキサス州は、「エネルギー生産全米1位」「二酸化炭素(CO2)排出量全米1位」。そこから、脱炭素の対極にあると思う方も多いだろう。しかし、その先入観は取り除いたほうが良さそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ヒューストン事務所長
桜内 政大(さくらうち まさひろ)
1999年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕、海外調査部北米課、サービス産業部ヘルスケア産業課などを経て、19年10月から現職。編著書に「世界の医療機器市場―成長分野での海外展開を目指せ」など。