特集:未曽有の危機下で日本企業が模索する海外ビジネス日本企業のEC利用は増加したのか(世界、日本)
2021年2月26日
新型コロナウイルス感染拡大を機に、電子商取引(EC)に一層注目が集まっている。ECはこれまでも、インターネットやスマートフォンなどの普及で増加基調にあったが、新型コロナ禍での巣ごもり消費を背景に加速している。本稿では、2020年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(注)に基づき、日本企業によるECの活用動向を、ECの利用率と、売上高比率の2つの観点から整理する。
約3分の1の企業がEC利用経験あり
本調査では、ECを「インターネットを介したモノ・サービスの売買であり、支払いおよび配送はオンライン、オフラインどちらで行われても構わない」と定義したうえで、現在のEC利用状況や売上高を尋ねた。
まず、国内外の販売でECを利用したことがあると回答した企業は、回答企業全体の33.3%を占めた(図1参照)。過去の調査結果と比較すると、EC利用率は、2016年度の24.3%、2018年の30.3%から増加を続けている。また、今後EC利用を拡大すると回答した企業は43.9%に上った。EC利用経験という観点では、日本企業のEC利用は増加しており、今後もその傾向が続くと考えられる。

注1:nは本調査の回答企業総数。
注2:「利用したことがある」は、ECを利用したことがある企業から、「現在は利用していない」と回答した企業を除いて算出。なお、「現在は利用していない」という選択肢は2020年度に新設したため、2016、2018年度との厳密な比較はできない。
注3:「利用を拡大する」は、「利用したことがあり、今後、さらなる拡大を図る」と「利用したことがないが、今後の利用を検討している」の合計。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)
越境EC利用率も上昇
ECを利用したことがあると回答した企業に対し、ECを海外向け販売で利用しているか尋ねたところ、65.0%の企業が海外向け販売でECを活用していると回答した(図2参照)。中でも、日本国内から海外への販売でECを利用(越境EC)していると回答した企業は45.5%に上った。越境ECの利用率は2016年(30.9%)、2018年(40.3%)から増加している。海外向けの販売でも、ECを利用する企業は増加しているといえる。

注1:nは「ECを利用したことがある」と回答した企業から、「現在は利用していない」を除いた企業数。
注2:「代理店等を通じた海外への販売」は2020年度に新設。
注3:「海外向け販売」は、「日本国内から海外への反米(越境EC)」、「海外拠点での販売」、「代理店などを通じた海外への販売」のいずれかを回答した企業の合計。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)
売上高に占めるEC比率は10%以下が7割強
続いて、売り上げに占めるECの比率(=ECによる販売額/売上高)をみてみる。国内向け・海外向けを問わず、売上高に占めるECの割合を尋ねたところ、「1~10%」(37.3%)、「1%未満」(36.0%)で全体の7割強を占めた(図3参照)。2016年度の調査と比較してもその傾向は変化していない。売上高に占める割合という観点でみると、ECの比率は7割強が10%以下にとどまり、拡大には至っていない。

注1:nは「ECを利用したことがある」と回答した企業から、「現在は利用していない」を除いた企業数。
注2:2015年度、2019年度の売上高ベース。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)
EC販売のうち海外向け比率は1%未満が約半数
海外向け販売でECを利用していると回答した企業に対し、EC販売額に占める海外向けの割合(ECによる海外向け販売額/ECによる販売額)を尋ねたところ、1%未満が48.1%で最多、次いで1~10%(23.1%)となった(図4参照)。図2では、海外向け販売でECを利用したことのある企業がEC利用企業の6割強を占めたとの結果が示されたが、販売額という観点ではECの存在感はまだ大きいとは言い難い。
その一方、3番目に回答比率が高かったのは「91~100%」(6.6%)だった。これらの企業では、ECによる販売のほとんどが海外向けということになる。主な回答業種は商社・卸売りだった。ECを海外販売の主要ツールとして活用している企業が一定数存在するといえよう。

注1:nは海外販売でECを利用していると回答した企業数。
注2:2015年度、2019年度の販売額ベース。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)
拡大する世界のEC小売市場
世界のEC市場に目を向けると、EC小売額および、小売り全体に占めるECの割合は今後も拡大する見込みだ。eMarketerがGlobal Ecommerce Update 2021で発表した推計によると、2020年のEC小売額は前年比27.6%増の4兆2,800億ドル、小売り全体に占めるECの割合は18.0%だった(図5参照)。他方、小売り額全体の伸び率は前年比3.0%減の23兆8,390億ドルと、小売市場全体は縮小したものの、EC市場は成長をしていた。2021年もEC小売額の伸び率が小売額全体の伸び率を上回る傾向が持続し、2022年には小売額全体に占めるECの割合は2割を超えるという。
中でも、ECによる小売額が世界最大の中国は、その市場規模と成長スピードが著しい。ジェトロのアンケート調査でも、越境ECによる販売先として、中国を最も重視する企業の割合は3割を超え、最多であった(詳細はプレスリリース参照)。中国の小売額全体に占めるECの割合は2020年に44.8%に達しており、2021年には50%を超えると予測されている。

注:EC小売り額は決済手段やフルフィルメント(商品受注から決済に至るまでの業務全般)の手法にかかわらず、インターネットを利用して注文された商品およびサービスを含む。ただし、旅行およびイベントチケットの販売、料金支払いや税金および送金、飲食店サービス、ギャンブルなどは除外。
出所:eMarketer “Global Ecommerce Update 2021”を基にジェトロ作成
日本企業のEC利用は増加したのか
これまでみてきたように、日本企業によるEC利用実績は拡大している。また、海外向け販売におけるEC利用も進展している。
その一方で、売上高に占めるECの割合は、10%以下が大部分を占める状態が続いている。本調査では、売上高そのものを尋ねていないため、実態としてECによる販売額自体は増加している可能性はあるが、販売全体に占めるECの存在感は、それほど高まっていない状況にある。しかし、世界に目を向ければ、販売のEC化はコロナ禍でも進展しており、2022年には小売市場の2割以上がEC小売りになるとの推計がある。
多くの日本企業は現在、EC導入期にあると考えられる。新型コロナの影響で市場全体が縮小し、販売戦略の見直しが喫緊の課題となる状況下で、EC利用経験を有する日本企業は増加しており、利用意欲もこれまでになく高まっている。バーチャル見本市やオンライン商談会の機会が増大し、オンラインツールを活用したビジネスが定着化しつつあることも、今後のEC導入を後押しするだろう。

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部国際経済課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか) - 2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。