特集:中南米進出日系企業の今新型コロナとビジネス環境悪化で企業経営に厳しさも(アルゼンチン)
2021年1月29日
ジェトロの「2020年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」において、アルゼンチンでは39社から回答を得た(内訳は、「製造業」が14社、「非製造業」が25社)。
その43.6%(17社)が、2020年の営業利益見込みについて「前年比で悪化」と回答した(図1参照)。新型コロナウイルス感染拡大の影響に加えて、2019年12月に誕生した左派のアルベルト・フェルナンデス政権による規制強化が経済活動を鈍化させ、日系企業のビジネスへも多大な影響を及ぼした。

長期化する外出制限などで64%が新型コロナにより「マイナスの影響」と回答
この調査では64%の企業が、新型コロナ感染拡大により「マイナスの影響があった」と回答した。
そのうち、71.4%が理由として「現地市場での売り上げ減少」を選択。アルゼンチンへの投資環境面のメリットとして「市場規模/成長性」を挙げる企業の割合が目立つ(28.9%)。ここからも分かるとおり、日系企業はしばしば、人口4,000万人以上を有する国内市場を目当てに進出する。そうした中で、新型コロナにより企業活動や国内の経済活動が制限されたことが、各社の売り上げに与えた影響は大きかった。特にアルゼンチンでは、他国と比較して長期間にわたる外出制限措置が影響していると考えられる。
アルゼンチンでは、2020年3月20日に外出禁止令が発令されて以降、現在(2021年1月時点)に至るまで、10カ月以上にわたり外出制限措置が敷かれている(注1)。これがビジネスに与える影響は大きい。アルゼンチン国内では、各自治体を「強制隔離措置を講じる地域(ASPO)」と「ソーシャルディスタンスを保ちながら経済活動を行うことが可能な地域(DISPO)」に分け、感染拡大の防止を図っている。ブエノスアイレス首都圏(注2)がASPOからDISPOに移行したのは、11月6日のことだ。ASPOでは原則、身近な買い物目的以外の外出は認められない。企業従業員が移動許可書を取得し、かつ、企業側が各州・市政府の決定による衛生プロトコルを順守していれば企業活動が全くできないわけではない。しかし、経済活動の停滞は避けようがないのだ。
国内のビジネス環境悪化も営業利益「悪化」の要因
アルゼンチンで特徴的なのが、2020年の営業利益見込み「悪化」の要因が新型コロナ感染拡大の影響だけではないことだ。この調査では営業利益見込みが悪化した「理由」と、その理由ごとの「悪化の要因」について聞いた。その回答を足し上げると、「新型コロナウイルスが要因」以上に、「その他が要因」の方が多かった(図2、図3参照)。

注:2020年の営業利益見込みが「悪化」とした理由ごとの要因(「新型コロナウイルスが要因」「その他が要因」「不明」)を単純に足し上げたもの。要因は重複回答がある。
出所:「2020年度 海外進出日系企業実態調査中南米編 (7.63MB) 」

注:複数回答あり。
出所:「2020年度 海外進出日系企業実態調査中南米編 (7.63MB) 」
例えば、営業利益見込み悪化理由として「現地市場での売り上げ減少」と回答した企業は15社(88.2%)あった。そのうち、「その他が要因」と回答した企業からは、「外貨購入規制」や「輸入規制」が具体的に多く指摘された。
このうち外貨購入規制は、マウリシオ・マクリ前政権下で導入。2019年12月に発足した左派のアルベルト・フェルナンデス政権下でも継続し、さらに規制が強化されたものだ。この規制により、個人(居住者)には外貨購入額には月額200ドル の上限が課せられる。法人の場合、対外支払い取引を行うための外貨購入には、中央銀行の事前承認が必要だ。さらに、個人および法人ともに外貨購入の際、30%課税される。また輸入規制では、非自動輸入ライセンス(注3)の承認遅延などがしばしば問題になる。現在、約1,500品目が許可証取得の対象にあると言われる。その許可が下りるのに過大な時間がかかっているという。
次いで回答割合が高かった理由は「為替変動」で、10社(58.8%)の回答があった。回答企業全社が「その他が要因」と指摘したことになる。アルゼンチンでは、先行き不透明な国内政治や政府による規制強化などによる信用不安の影響で、自国通貨ペソの対ドルレートの下落が進む。中央銀行によると、2020年1月1日時点で1ドル=63ペソだったのが、2021年1月20日には91.76ペソまで下落した。
急激な通貨下落がビジネスに与える影響は大きい。他方、このような状況下で各社はさまざまな見直しを進める。製造業を対象に「原材料・部品の調達状況」について聞いたところ、「地場企業」と回答割合が84.5%と最も高かった(注4)。この回答は、前回調査時より17.7ポイント増加した。ビジネス環境の変化に対応しながらビジネス継続を模索する企業の様子がみてとれる。
困難なビジネス環境ながら依然として重要市場
本調査で2020年の営業利益見込みが「9割超の減少」と回答した割合は、17.6%(3社)だった。これは、コロンビアとともに最も高い水準だ。また、今後1~2年の事業展開の方向性として、「第三国(地域)へ移転、撤退」と回答した割合も5.1%(2社)あった。調査対象各国の中で最も高い結果となった。
もっとも、日本人駐在員数の変化について「横ばい」との回答割合は84.6%(33社)。これは、中南米全体の72.9%よりむしろ高い(図3参照)。多くの日系企業にとってアルゼンチンが引き続き重要な国であることは間違いなさそうだ。また、「2021年の営業利益見込み」について、2020年比で「改善」と回答した企業は17社ある。新型コロナ禍収束後の回復に期待される。

- 注1:
- フェルナンデス大統領は2020年12月18日、3月20日に発令した外出禁止措置を2021年1月31日まで再度延長すると発表(2020年12月24日付ビジネス短信参照)。
- 注2:
- ブエノスアイレス市およびブエノスアイレス州周辺35都市で構成される地域。この地域には、多くの日系企業が所在する。
- 注3:
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アルゼンチンで財を輸入する際には、輸入許可証の取得が求められる(2020年2月発行レポート「アルゼンチンの非自動輸入ライセンス制度
(358.33KB) 」参照)。
- 注4:
- パーセンテージは、回答した企業の調達割合の平均値。

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ) - 2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。