特集:中南米進出日系企業の今新型コロナの影響は甚大も、為替の安定性に評価(ペルー)

2021年1月29日

ジェトロの「2020年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」で、ペルーについては33社から回答を得た。同調査結果の中から、顕著な結果が表れた業況感および投資環境面のメリットとしての為替の安定性について、分析・解説する。

厳格な新型コロナ対策は日系企業の業況感にも大きく影響

2020年のペルー進出日系企業の景況感は、前年と比べて大幅に悪化した。2020年の営業利益見込みについて「黒字」と回答した企業の割合は42.4%、「赤字」が33.3%だった。前回(2019年)の調査では、前者69.4%、後者22.2%。すなわち、「黒字」が27.0ポイント減少し、「赤字」は11.1ポイント増加したことになる(図1参照)。また、前年と比べた営業利益改善見込みについての問いをみても、「改善」の回答はわずか6.1%であった一方、「悪化」回答は57.6%に上った。前回調査では前者が36.1%、後者が16.7%だった(図2参照)。ペルー経済は近年、好調を維持してきただけに、その悪化幅は大きいものとなった。

営業利益見込み「悪化」と回答した理由として、78.9%が「現地市場での売り上げ減少」を選択。この理由を選択した企業全社が、その要因として新型コロナウイルス感染拡大を挙げている。

図1-1:2020年の営業利益見込み
(2020年度調査)
有効回答数は33社で、「黒字」は42.4%、「均衡」は24.2%、「赤字」は33.3%。
図1-2:2019年の営業利益見込み
(2019年度調査)
有効回答数は36社で、「黒字」は69.4%、「均衡」は8.3%、「赤字」は22.2%。

出所:2020年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図2-1:前年と比べた2020年の営業利益見込み(2020年度調査)
有効回答数は33社で、「改善」は6.1%、「横ばい」は36.4%、「悪化」は57.6%。
図2-2:前年と比べた2019年の営業利益見込み(2019年度調査)
有効回答数は36社で、「改善」は36.1%、「横ばい」は47.2%、「悪化」は16.7%。

出所:2020年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

ペルーでは、2020年3月に緊急事態宣言が発令されて以降、4月いっぱいは必要不可欠な産業を除き、経済活動が停止した。5月には、感染状況に応じ操業可能業種を段階的に増やしていく「経済活動再開計画」が始動した。しかし、経済の落ち込みは深刻で、第2四半期(4~6月)のGDP成長率は前年同期比マイナス29.8%を記録した。なお、同計画自体はその後順調に進み、最終段階にあたる4段階目が10月にスタートした。もっとも、ここに至るまで緊急事態宣言の発令から半年以上を要することとなったことになる。このような状況から、進出日系企業はビジネス活動が正常化する時期についても、慎重な見方を崩さない。2021年の後半を見込む企業が最も多く、全体の約4割を占める(図3参照)。また、社会・経済が正常化した後の需要環境の見込みについても、「新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」「大きく減少する」のいずれかを回答した企業が全体の約6割を占める。この比率は、調査対象の中南米諸国の中で最も大きい(図4参照)。その理由として、ペルーでの消費回復の遅れが影響していると考えられる。リマ首都圏の消費者信頼感指数(注)によると、2017~2020年初頭はおおむね45~50ポイントで安定していた。しかし、2020年6月には37ポイントに急落。9月になっても38ポイントと、なかなか回復しない。最新の11月の結果も39ポイントで、消費回復には時間がかかっている。

図3:新型コロナウイルス感染拡大後ビジネス活動が正常化する時期
有効回答数は33社で、「すでに正常化している」は3.0%、「2020年内」は15.2%、「2021年前半」は27.3%、「2021年後半」39.4%、「2022年以降」は12.1%、「ビジネス活動が正常化する見通しは立たない」は3.0%。

出所:2020年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図4:正常化後の需要環境見込み
中南米全体では有効回答は527社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は39.5%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」は43.3%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」は5.5%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」は8.9%、「その他」は2.8%。メキシコは有効回答数が259社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は39.8%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」は49.0%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」は5.0%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」は5.4%、「その他」は0.8%。ベネズエラは有効回答数が13社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は38.5%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」7.7%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」は7.7%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」は15.4%「その他」は30.8%。コロンビアは有効回答数26社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は46.2%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」30.8%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」7.7%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」は11.5%「その他」は3.8%。ペルーは有効回答数33社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は36.4%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」は54.5%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」は6.1%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」は0%、「その他」は3.0%。チリは有効回答数37社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は48.6%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」は43.2%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」2.7%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」は5.4%「その他」は0%。ブラジルは有効回答数120社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は38.3%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」は35.8%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」は5.8%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」15.8%、「その他」は4.2%。アルゼンチンは有効回答数39社で、「新型コロナ感染拡大前の需要環境に戻る」は30.8%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要がやや減少する」38.5%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」は7.7%、「正常化後に新型コロナ感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が増加する」17.9%、「その他」は5.1%。

出所:2020年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

一方、2021年に営業利益が増加すると見る企業15社中、13社は「現地市場での売り上げ増加」を見込んでいる。なお、その13社中10社は「現地市場での売り上げ減少」により2020年の営業利益見込みが悪化していた。2020年からの反動増を期待した上での回答だったと考えられる。

為替はコロナ禍でも安定も、政局混乱の影響受ける

中南米には資源国が多い。一方で、2020年は資源価格の下落し、世界経済の不透明さからの新興国通貨売りが進んだ。そうしたことから、多くの国で自国通貨の価値が低下した。そのため、中南米主要国の為替変動指数を見ると、新型コロナ感染が拡大した2月以降、特にメキシコやブラジルなどで急激に指数が上昇した(指数が高いほど自国通貨安)。それに比べると、ペルーの変動はわずかだった(図5参照)。ペルー中央準備銀行は、過去にも適時、為替介入してきた。新型コロナ感染拡大にあたっても、2020年は10月までに90億ドル超のドル売りを実施した。そのため、急激にソル安が進むことはなかった。

図5:2005年を100としたときの各国通貨の対ドル為替変動指数(2020年)
1月はブラジル105.20、チリ116.90、コロンビア101.60、メキシコ126.60、ペルー91.40。2月はブラジル109.70、チリ118.90、コロンビア103.40、メキシコ126.10、ペルー92.20。3月はブラジル121.70、チリ122.20、コロンビア115.20、メキシコ148.50、ペルー92.50。4月はブラジル130.90、チリ122.40、コロンビア114.80、メキシコ161.20、ペルー88.50。5月はブラジル139.00、チリ116.80、コロンビア111.80、メキシコ155.50、ペルー88.50。6月はブラジル129.80、チリ115.30、コロンビア109.90、メキシコ148.70、ペルー91.80。7月はブラジル132.70、チリ114.30、コロンビア109.20、メキシコ149.30、ペルー93.40。8月はブラジル138.10、チリ115.50、コロンビア113.80、メキシコ148.20、ペルー95.50.9月はブラジル136.50、チリ114.00、コロンビアデータなし、メキシコ144.90、ペルー96.00。

注:「海外進出日系企業実態調査」のアンケート実施時期(2020年9月)に合わせ、9月まででのグラフとした。
出所:国連ラテンアメリカカリブ経済委員会公開データからジェトロ作成

ペルー進出日系企業も、為替の安定性は評価する。「投資環境面のメリット」としては「為替の安定」を挙げた企業が多く、全体の39.4%を占めた。前回調査でも同様の結果が出ていた。またその割合は、中南米の他国と比べ圧倒的に大きい(図6参照)。

図6:投資環境面でのメリットとして「為替の安定性」を挙げる企業の割合
メキシコは5.1%、ベネズエラは7.7%、コロンビアは11.5%、ペルーは39.4%、チリは8.1%、ブラジルは2.6%、アルゼンチンは2.6%。

出所:2020年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

しかし2020年第4四半期以降は、ソル安の傾向が見られる。それまで1ドル=3.5ソル台に抑えられていたが、10月には3.6ソル台に突入。11月16日には3.66ソルとなり、2020年の最安値を記録した。背景には、この時期に勃発したペルーの政情不安がある。11月9日にマルティン・ビスカラ元大統領が罷免され、その後1週間で2度にわたって大統領が変わるという政局の大混乱に陥った。これにより、為替市場でソル売りが進んだ。

2021年のペルーは大統領選挙があり、7月には新大統領が就任する。新政権が政治と経済の安定を取り戻せるのか、引き続き進出日系企業の関心は高い。


注:
調査会社IPSOSペルーとアポジョ・コンスルトリアによる調査結果。景況感や雇用状況などに関する複数の質問について、0~100ポイントで回答者が点数付けしたものの平均値。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
佐藤 輝美(さとう てるみ)
2012年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ・サンティアゴ事務所海外実習などを経て現職。