特集:アフリカ・スタートアップ:物流・運輸の変革者に聞くアフリカ唯一のクラウド倉庫サービスを展開(南アフリカ共和国)

2019年11月8日

南アフリカ共和国(以下、南ア)では、道路や鉄道などの輸送インフラが整い、近代的な物流システムも構築されている。こうした中、物流分野でもユニークなビジネスモデルを武器にスタートアップが活躍している。ジェトロはこのうち、クラウド倉庫サービスを運営するパーセル・ニンジャ(Parcelninja外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )(注)のジャスティン・ドレナン共同創設者にインタビューした(10月7日)。


パーセル・ニンジャ共同創設者のジャスティン・ドレナン氏(同社提供)
質問:
起業の経緯と事業概要は。
答え:
2014年に、弟と友人の3人でこのビジネスを始めた。3人とも、テクノロジー・ソフトウエア・エンジニアリングの経験と知識を有しているプログラマーだ。パーセル・ニンジャの起業前には、「ウォント・イット・オール(Want It All)」という南アでは入手できない米国製品の販売に特化した、オンラインショップを運営していた。幅広い製品を販売する、とてもニッチなビジネスで、同じ注文を2度受けることがほとんどなく、リピーター確保に苦労したため、2007年に同事業の一部を投資家に売却した。
2012年に当時、競争力を持っていたフラッシュセール・サイト運営会社シティ・モブ(現スーパー・バリスト)に投資を申し出たが、はじめは断られた。しかし、同年12月に同社から、「サプライチェーンシステムを持っていないので、顧客からの注文を追跡できず困っている」と連絡があり、クリスマス期間中の配送管理の支援を提案した。南アの他のオンラインショップ企業にとっても、物流は共通の課題であると気付いたことが、パーセル・ニンジャの起業・開発のきっかけだ。これまでに、英国を拠点とする投資会社C5ホールディングスから2,000万ランド(約1億4,800万円、1ランド=約7.4円)の資金を調達した。従業員は約80人。約100の顧客を持っている。
質問:
ビジネスの概要は。
答え:
パーセル・ニンジャは、あらゆる規模の電子商取引(EC)ビジネスや、通常の流通ビジネス向けのクラウド倉庫サービスだ。企業が販売前の商品を保管するための倉庫を管理している。サービス利用企業からの注文を受信した後、企業に代わって宅配業者を見つけ、商品を選び、梱包(こんぽう)して配送する。利用企業は、ダッシュボードを使用して、在庫と注文の配送状況をリアルタイムで確認することが可能だ。
質問:
ビジネスの特徴は。
答え:
顧客からの注文量が多いほど、宅配価格を安く抑えられる。そのため、特にクリスマスや11月第4金曜日の大型セール「ブラックフライデー」などの繁忙期に、利用企業にメリットがもたらされる仕組みだ。小企業が独自に倉庫への設備投資をしなくても済むことから、コストが抑えられ、新規参入者が多い新興市場に適しているモデルと言える。商品管理に当たっては、大規模で高価な倉庫管理テクノロジーを使用するのではなく、アンドロイドのデバイス、ブルートゥーススキャナーなど小型のシステムを活用している。また、国内外のサードパーティ製アプリとも互換性のある技術設計を施しているため、顧客のニーズに応じてシステムをカスタマイズすることも可能だ。
アフリカでクラウド倉庫サービスを展開している唯一の企業である一方、世界的に見てユニークなアイデアというわけではない。米国アマゾンなどの大企業も同様のビジネスを行っている。しかし、当社にはここアフリカで実績を持っており、また同地域で課題となる物流の「ラストワンマイル」に焦点を当てている企業に対しても、サプライチェーンの上流からの支援を提供することができるところが強みだ。

パーセル・ニンジャが管理する倉庫(同社提供)
質問:
今後の展望、日本企業との協業の可能性は。
答え:
アフリカ以外の地域で、同様のビジネスを展開するための戦略的パートナーを探している。日本にはさまざまなセクターをカバーする大企業があると理解しているが、日本とは全く物流環境の異なるアフリカにおいて、日本企業が製品を流通させる際にも手助けができるだろう。

注:
企業名称にある「パーセル」は、英語で包みまたは小包。また「ニンジャ」は、熟達者やエキスパートを意味するテック業界用語に由来する。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
カイラ・オニール
ダーバン市出身。2015年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査、訪日招聘プロジェクトに従事している。