特集:アフリカ・スタートアップ:物流・運輸の変革者に聞くインフォーマル市場の流通可視化に挑むフランス系スタートアップ(ケニア)

2019年11月8日

オプティメトリクス(Optimetriks)は、インフォーマル市場(露天商や行商人など小規模零細事業者)の流通を可視化・効率化するソリューションを企業向けに開発し、販売するスタートアップだ。小規模事業者から、ネスレやダノン、南アフリカ共和国の大手通信会社MTN、インド系通信会社エアテルなど大企業まで、幅広く顧客を取り込む。英語とフランス語での対応力を強みに、ケニアをオペレーション拠点として、タンザニアやウガンダ、セネガル、ナイジェリア、ニジェールなど、アフリカ19カ国にサービスを展開する。創業者のひとりであるマーク・カーセル最高商務責任者(CCO)とロイック・バレスター最高執行責任者(COO)に、同社の取り組みや今後の展望を聞いた(10月9日)。


左からマーク氏、ロイック氏(ジェトロ撮影)
質問:
創業やこれまでの経緯は。
答え:
2015年に、フランス人のマーク氏とポール・ラングロワ-モーリン最高経営責任者(CEO)がウガンダで、流通の課題と携帯電話の普及に着眼し、起業した。オペレーション拠点をケニア・ナイロビに移したのは翌2016年だ。携帯電話の普及率が高く、日用消費財(FMCG)のグローバルメーカーが多く拠点を構えているからだ。アフリカ大陸は54カ国で構成され、インフォーマル市場の規模も大きい。南西アジアや南米と比べ、英語とフランス語が使えれば、横展開の可能性が高いと考えた。
2017年には、英国の移動通信事業者の業界団体GSMAによる1年間のアクセラレーションプログラムに選ばれた。返済不要の運転資金に加え、グローバル企業本社とのネットワークを得ることができ、有意義だった。2018年には、ケニアのインキュベーターであるiHubによる6カ月間のブートキャンプに参加し、ケニア国内のネットワーク拡大に役立った。エクイティファイナンスは利用せず、借り入れを中心に資金を調達している。現在はナイロビに20人弱の開発チームとマーケティング、営業チームがあり、フランス・パリとの2拠点で、システム開発に取り組んでいる。
質問:
ビジネスモデルは。
答え:
セールス向けのアプリケーションを開発し、企業に販売している。顧客の営業スタッフがアプリケーションを携帯電話にダウンロードするだけで、準備は完了だ。例えば「ライブトラッキング」機能は、管理者が地図上で営業スタッフの位置を確認することができる。営業スタッフに効率的な経路を提案する「ルート管理」に加え、在庫やオーダー、配送の管理機能も導入した。管理者は営業スタッフのパフォーマンスを逐一モニタリングし、分析することができる。物流の無駄を省き、見えづらかった取引の流れを可視化する仕組みになっている。
2019年10月時点で進行中のプロジェクトが45件あり、約4,000人がアプリケーションを利用している。料金はシンプルに設定した。1アカウントにつき、企業が月25ドルを支払う。20アカウントを超えた場合、1アカウントごと20ドルを課金する。50アカウント以上の契約で、機能をカスタマイズできる。取引企業の規模は数人から1,000人まで、幅が広い。競合サービスとの差別化のポイントは、当社はケニアでシステムを開発しているため、現場でのマーケティングに強みがあり、現場の課題や顧客のニーズに適応しやすい。当社のサービスは、アフリカの小売りの90%以上を占めるインフォーマルな市場に強みがある。
質問:
今後の展望と日本企業との協業の可能性は。
答え:
小売事業者、販売卸、FMCG企業の情報を集約し、コミュニケーションのプラットフォームに発展させたい。フランス系グローバル企業や通信会社との契約に加え、ローカル企業との契約を増やしていく考えだ。課題は、ケニアでの人材不足だ。特に、熟練エンジニアの確保には苦労している。数年以内に、アフリカ域外へのサービス展開も視野に入れている。日本企業には、サービス展開の戦略的なパートナーとして期待している。また、アフリカ大陸への進出の際には、ぜひサービスを活用してもらいたいと考えている。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか)
2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。