特集:ロシア・デジタル経済政策とスタートアップ生態系ユニコーン企業は3社、日本進出事例も徐々に出現
ロシアにおける有力スタートアップ企業

2019年6月19日

ロシアには数学・物理系に強い人材が豊富で、総じてソフトウエア分野の産業基盤が厚く、IT系スタートアップ企業の優秀さについては業界でも評価が高い。一方、具体的にどのような企業が存在するのかについては、それほど知られていない。本稿ではロシアにおけるユニコーン企業、世界的大企業と提携関係にある企業、大規模資金調達に成功した企業、既に日本に進出している有力なスタートアップ企業を紹介する。

ユニコーン企業3社のうち2社がEC

ロシアにおいてユニコーン企業と定義(注1)される企業は、ワイルドベリーズ、アヴィト・ルー、テレグラムの3社だ。ワイルドベリーズとアヴィト・ルーは電子商取引(EC)企業。ワイルドベリーズはアパレル・コスメ・スポーツ用品、玩具などの製品を取り扱うロシア最大級のオンラインモールで、ロシアのIT系企業の時価総額ランキングで1位になったこともある。アヴィト・ルーは自動車、家電、DIY製品、アパレル製品・コスメ、ペット、不動産、雇用、各種サービスなど扱う、スウェーデン発のロシア最大のクラシファイド広告(注2)ウェブサイト。南アフリカ共和国の大手インターネットメディアグループであるナスパーズがほぼ100%の株式を有している。

表:ロシアにおける主な有力スタートアップ企業リスト
分類 企業名 分野 概要
ユニコーン企業 ワイルドベリーズ 電子商取引(EC) アパレル・コスメ・スポーツ用品、玩具などの製品を取り扱うロシア最大級のオンラインモール。2019年のロシアIT系企業の時価総額ランキングで4位。
アヴィト・ルー EC 自動車、家電、DIY製品、アパレル製品・コスメ、ペット、不動産、雇用、各種サービスなど扱うスウェーデン発のロシア最大のクラシファイド広告ウェブサイト。
テレグラム SNS ハッカーの攻撃に対する高い暗号化技術を有するメッセンジャーアプリ。2013年9月にサービス開始。2016年2月にユーザーが1億人を突破。
世界的な大企業と提携 ロックフローダイナミクス 産業用ソフトウエア 石油ガス鉱区開発モデリングソフトウエア開発に特化した企業。同社製品の旗艦製品「tNavigator」は、貯留層の流体力学モデリング向けのソフトウエアパッケージ。
スコンテル 計測機器 可視、赤外線、テラヘルツ周波数範囲での量子効率(光感度)を高感度・高速度・低ノイズで獲得できる超薄膜超電導フィルムを用いた検出器を開発。
大規模資金調達 ヴィルトゥス・プロ ゲーム オンラインスポーツゲームを運営会社。2015年10月にロシアの新興財閥アリシェル・ウスマノフ氏が運営するUSMホールディングスより1億ドルを調達。
レヴォテフノロギイ・ソルスダタ フィンテック 消費者向け製品・サービスの金利なし分割払いシステムを開発。2017年1月にロシア大手民間投資会社バーリングヴォストークおよびバミューダ籍の投資会社ヴォストーク・エマージング・ファイナンスから合計2億ルーブルを調達。
タイムパッド ソフトウエア ロシア最大手のイベント企画・運営・電子チケット販売管理システムプロバイダー。2018年2月にロシア決済システム大手QiWi社長で有名な個人投資家セルゲイ・ソローニン氏が同社株式100%を1,000万ドルで購入。
ヴェジョト タクシーサービス ルータクシーとファーステンが統合して出来たロシアで2番目の規模のタクシーサービス会社。2017年12月にロシアの大手ファンドであるアルマズキャピタルとUFGグループよりサービスプラットフォーム開発向けに1,000万ドルを調達。
シンプルファイナンス フィンテック 2015年に設立された中小企業向けの資金調達を支援する金融事業者。同社は「SimplyFi」と「TenderHub」という2つのプラットフォームを開発。前者は中小企業が民間投資家から直接資金調達を可能とするもの。後者は公共調達に関するプラットフォーム。日本のSBIグループから、合計2億8,600万ドルの資金調達を行っている。
日本進出 エイドス 医療機器 ハイテク医療用ロボット・シュミレータの開発を行う、2012年に設立されたスコルコヴォ入居企業。2015年に順天堂医科大学内に同大および理研とともにシミュレーションセンターを開設。同社製品は手技トレーニングに用いられている。
エクソアトレト 医療機器 怪我・脳卒中・手術失敗により下肢運動機能障害を抱えた患者のリハビリ・社会適合を支援する歩行型リハビリサポート機器メーカー。日本進出を目指し、2018年に医療機器認証取得申請を行っている。
データドバンス ソフトウエア 仏エアバスとロシアの情報通信問題研究所(IITP RAS)が共同で創設したソフトウエア開発会社。設計リードタイムの短縮化とコスト削減に寄与するデータ解析、最適化、予測モデリングを行う「pSEVEN」ソフトウエアを開発。2017年9月に日本の大手システムインテグレーターSCSKが販売代理店契約を締結した。
ライディクス データストレージ 2009年設立の高性能なデータ保管ソリューションサービスの開発・販売を行う企業。日本のコアマイクロシステムズと、ビックデータ保管のハイブリッドシステムを構築。
カープライス ネットオークション CtoB型の中古車買取オークションサイト。2014年6月に設立。ロシアにおける中古車販売台数・売上シェア第2位。
エルシス 画像・動画解析 デジタル動画・画像解析技術を用いた不審者検知システムを開発。ロシアではソチ五輪の際に採用。日本に代理店を設置。
モヴィコム ロボット モスクワ大学サイエンススクールからスピンアウトした企業。ロボティクス技術をベースとし、コントローラーによる遠隔操作で臨場感ある撮影を可能とするケーブルカメラシステムを展開。日本に代理店を設置。日本のテレビ局が放映する柔道やフィギュアスケートの試合のほか、競輪や各種コンサートなどで活用されている。

出所:各社ウェブサイト、メディア情報、ヒアリングなどに基づきジェトロ作成

テレグラムは、ハッカー攻撃に対する高い暗号化技術を有するメッセンジャーアプリ。ロシア版フェースブックと呼ばれる、SNSサイトのフコンタクチェを立ち上げたパヴェル・ドゥーロフ氏が開発した。2013年9月にサービスを開始し、2016年2月にはユーザーが1億人を突破。2015年にグーグルが10億ドルを提示して買収を試みたが、合意に達しなかった。2018年3月には、ユーザーによる書き込み内容の解読を可能とする鍵の連邦保安局への提示をめぐり、テレグラムが拒否したことから、ロシア連邦通信・情報技術・マスコミ監督局がテレグラムへのアクセスをブロック。その影響で、テレグラムと関係のないさまざまなウェブサイトが広範に閲覧できなくなったことから、ロシア国内では大規模な抗議デモの発生にまで至った。

世界で名だたる企業がこぞって利用する技術を有する企業あり

ユニコーン企業にはなっていないが、世界的な大企業との提携を行っている企業については、ロックフローダイナミクスやスコンテルなどが挙げられる。両社ともに、ニッチ分野で高い技術を持つ企業だ。

ロックフローダイナミクスは、石油ガス鉱区開発モデリングソフトウエア開発に特化した企業だ。同社の旗艦製品「tNavigator」は、貯留層の流体力学モデリング向けのパッケージソフトウエア。通常のコンピューターを用いて、数年前までは実現できなかった高度な計算を実現することを可能とした。ロスネフチ、ルクオイル、ガスプロム、ガスプロムネフチ、タトネフチ、バシュネフチなどロシアの大手石油ガス採掘会社だけでなく、英国のBGグループやペトロファク、米国のオクシデンタル・ペトロリウム、ベーカー・ヒューズ、フランスのCGG、日本のJOGMECなど世界的な企業が同社の顧客となっている。

スコンテルは、可視、赤外線、テラヘルツ周波数範囲での量子効率(光感度)を高感度・高速度・低ノイズで獲得できる、超薄膜超電導フィルムを用いた検出器を開発した。開発に当たっては科学技術分野小規模企業発展協力基金(イノベーション協力基金)(注3)の支援を受けた。顧客は、日本、米国、中国、西欧諸国などにおける大規模研究センター、大学、さまざまな国の観測施設など、世界中に広がり、日本では東京インスツルメンツが代理店となっている。

1億ドルを超える資金を調達した企業も

近年、大規模資金調達に成功した事例では、ヴィルトゥス・プロ(オンラインスポーツゲーム運営)や、レヴォテフノロギイ・ソルスダタ(消費者向け製品・サービスの金利なし分割払いシステムの開発)などがある。前者は、2015年10月にロシアの新興財閥アリシェル・ウスマノフ氏が運営するUSMホールディングスから1億ドルを調達。後者は、2017年1月にロシア大手民間投資会社バーリングヴォストークおよびバミューダ籍の投資会社ヴォストーク・エマージング・ファイナンスから合計2億ルーブルの資金を獲得した。そのほかの事例では、イベント企画・運営・電子チケット販売管理システムのタイムパッドが、2018年2月にロシア決済システム大手QiWi社長で有名な個人投資家であるセルゲイ・ソローニン氏から1,000万ドルを、2017年12月にはタクシーサービスのヴェジョトが、ロシアの大手ファンド、アルマズキャピタルとUFGグループから同じく1,000万ドルを調達している例がある。

日本からの投資を受けている会社もある。シンプルファイナンスは、2015年に設立された中小企業向けの資金調達を支援する金融事業者。同社は「SimplyFi」と「TenderHub」という2つのプラットフォームを開発。前者は、中小企業が民間投資家から直接、資金調達を可能とするもの。後者は、公共調達に関するプラットフォーム。日本のSBIグループから、2017年9月に2億7,100万ドル、2018年9月には1,500万ドルの資金調達を行った。

日本企業との提携事例も

日本企業と提携関係にあるロシア・スタートアップ企業の代表例は、エイドス、ライディクス、データドバンスなどだ。ハイテク医療用ロボット・シュミレータ開発を行うエイドスは、2012年に設立されたスコルコヴォ入居企業で、欧州、米国、アジア、CIS諸国への輸出実績を有する。2015年に順天堂医科大学内に、同大および理化学研究所とともにシミュレーションセンターを開設。同社製品は手技トレーニングに活用されている。

ライディクスは、2009年設立の高性能なデータ保管ソリューションサービスの開発・販売を行う企業。日本のほか、米国、英国、スペイン、ブラジル、インド、パキスタン、エジプト、トルコ、韓国、台湾、カザフスタン、ウクライナに展開。パナソニックのスーパーコンピューター向けのデータサーバーを提供している日本のコアマイクロシステムズと、ビックデータ保管のハイブリッドシステムを構築している。

データドバンスは、フランスのエアバスとロシアの情報通信問題研究所(IITP RAS)が共同で創設した、ソフトウエア開発会社。同社は、自動車、航空宇宙、エレクトロニクスなどの分野における製品の設計リードタイムの短縮化とコスト削減に寄与するデータ解析、最適化、予測モデリングを行う「pSEVEN」ソフトウエアを開発。2017年9月に、日本の大手システムインテグレーターのSCSKが販売代理店契約を締結した。

そのほか、既に日本に自社拠点あるいは代理店を設置して事例は、カープライス(CtoB型の中古車買い取りオークションサイト)、エルシス(デジタル動画画像解析技術を用いた不審者検知システム)、モヴィコム(4点づりケーブルカメラシステム)などだ。

日本進出を進めている企業としては、エクソアトレトが挙げられる。同社は、けが・脳卒中・手術失敗により、下肢運動機能障害を抱えた患者のリハビリ・社会適合に向けた歩行型リハビリサポート機器メーカー。2018年4月に韓国のコスモ・アンド・カンパニーと、同社から500万ドルの出資を含む、欧州市場輸出向けの合弁会社を設立することで合意。コスモ社を通じて、日本進出を目指し、医療機器認証取得申請を行っている。


注1:
スタートアップやベンチャー企業に関連するニュースを発信している「vc.ru」によると、ユニコーン企業の定義は、2003年以降に設立された会社で、時価総額が10億ドル以上の企業。
注2:
数行程度の簡素な広告を、内容ごとに分類してまとめて表示する広告スタイル。個人を中心に、だれでも手軽に広告掲載できることが多く、広告掲載料は無料もしくは安価で、原稿作成も自由で単純なことが多い。
注3:
国の科学技術分野の開発支援に向けた助成金・補助金など提供する国営の基金。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。

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