GLP-1薬普及による高栄養・機能性食品の影響
米国流通市場を読む(4)
2026年6月18日
世界最大規模の健康食品・自然食品の展示会「ナチュラルプロダクト・エキスポ・ウェスト」で注目を集めた機能性食品は、米国食品市場で大きな広がりをみせている。特に、腸内環境を整えるプレバイオティクスやプロテインなど高栄養密度の食品への需要が拡大しており、小売店の売り場構成を変える勢いがある。
腸の機能強化に向けた商品に注目
サンディエゴ発のウェルネスブランドであるスジャ・ライフ(Suja Life)は、ショット型(注1)やジュース型の機能性飲料を展開し、腸内環境の改善を訴求する。商品には、約20億個のプロバイオティクス(腸内細菌)と3種類の菌株、3グラムのプレバイオティクス(食物繊維)を配合。腸内細菌とその活動環境の双方に働きかける設計とする。
また、2023年に創業したオレゴン州発のグリュンズ(Grüns)は、毎日1袋(8粒)を摂取する栄養ギャップ補給グミを出展した。6グラムの食物繊維や60種類以上の食品由来成分を配合し、マルチビタミン、グリーンパウダー、食物繊維を一体化した。「毎日1袋」で完結する手軽さが消費者の支持を受けている。展示会後の4月9日には、米・ユニリーバが同社を買収することを発表した。複数の報道によると、取引額は非公開ながら10億ドル超と報じられ、ユニリーバのウェルビーイング戦略に合致したとされる。

近年はプロバイオティクス(菌そのもの)に加え、腸内細菌の栄養源となるプレバイオティクス(食物繊維)への注目が高まっている。これは、菌を追加するだけでなく、既存の腸内細菌の働きを最適化する方向への転換を示す。製品開発においても、プレバイオティクスの重要性が高まりつつある。
小売りデータ調査会社ニールセンの全米小売りデータによると、特に食物繊維を含む商品が売り上げを伸ばしている。機能性飲料の売り上げは前年比10%増、消化機能訴求飲料は同20%増、さらに4年前比では344%と大幅に拡大している。また、自然食品を多く扱う小売り大手ホールフーズも、日常食品に食物繊維を取り入れた商品が2026年のトレンドになると発表(注1)しており、キャッサバ(イモ類の一種)を用いたプレバイオティクス飲料やコンニャクを活用した即席食品などへの広がりがみられる。こうした動きから、食物繊維は単なる機能性食品にとどまらず、日常食品への組み込みが進んでいる。食物繊維を軸とした商品は売り場構成そのものを変えつつある。
プロテインは引き続きトレンド
スナックやアイスクリームなど多様な食品にたんぱく質を付加するトレンドは引き続き主要トレンドとして確認された(2025年12月23日付地域・分析レポート参照)。これまでも食パンにプロテインを加えた商品などが出展されていたが、今回はコメでもたんぱく質を強化した商品が複数展示された。コメはもともと一定量のたんぱく質を含む食品であるが、こうした商品はその含有量をさらに強化し、主食から効率的にたんぱく質を摂取できるという新たな価値を提案している。 2024年に南カリフォルニアで設立されたバッチ・フーズ(Batch Foods)は、28グラムのプロテインを含むパウチ容器のご飯をPRした。「オーガニックのチキンブロスで煮込んだオーガニック白米を使用しており、主食とともに28グラムものプロテインを摂取できる。素材はクリーンラベルで、電子レンジで温めるだけですぐに食べられる点も特徴だ」と同社の担当者は語った。このほか、2025年のNEXTYAアワード(注2)を受賞企業のライスボックス(Rice Box)や、オーストラリアのコメ流通大手サンライスも、10グラムのプロテイン入りパックライスの新商品を訴求した。
また、フィンランド発のフードテック企業ワンゴー・バイオ(Onego Bio)は、精密発酵由来の卵白たんぱく質「バイオアルブミン(Bioalbumen)」を含む商品を出展し、機能性・供給安定性・サステナビリティーを訴求した。先行するエブリ・カンパニー(The Every Company)に続き、米国食品医薬品局(FDA)から「異議なし」の公式通知書(GRASレター)を取得し、北米市場での展開を進めている。エキスポ・ウェストではBtoB向けに応用方法を提示し、高度加工でありながら実用性を備えた原料として存在感を示した。UPF議論(2025年12月11日付ビジネス短信参照)が進む中にあっても、「加工度は高いが、機能性・安全性・供給安定性を備えた原料」として、BtoB領域で実用的な選択肢となり得る。
たんぱく質を重視する傾向は、販売動向にも表れている。調査会社スピンズ(SPINS)のデータによると、2025年11月30日までの52週間における動物性たんぱく質の売り上げは、ナチュラル製品を扱うチャネルにおいて22%増、一般量販店でも27%増と高い伸びを示している。米国ではナチュラル・オーガニック製品が従来型製品を上回る成長を続けており、特に、たんぱく質をはじめとする高栄養密度食品や、腸内環境を整える機能を訴求する製品が成長を牽引している。こうした需要の変化は、流通市場の商品構成にも影響を与えおり、小売店の品ぞろえや棚構成の見直しを促している。
さらに、2026年1月には保健福祉省(HHS)や農務省(USDA)が新たな食事のガイドラインを公表し、たんぱく質を中心とした食事の重要性を打ち出した。これが、たんぱく質市場の拡大を後押ししている。


背景にはGLP-1薬の普及も
このようなファイバーやたんぱく質を重視する製品の盛り上がりについては、GLP-1薬(肥満・糖尿病治療薬)の米国での浸透が背景にあるとみられる。米国の複数の調査によると、GLP-1薬を過去または現在使用したことがある成人の割合は12%に達する。当初は糖尿病患者に処方されていたが、近年では肥満、心血管疾患リスクの低減、腎疾患、脂肪肝などにも適用され、処方対象が広がっている。
実際に、GLP-1薬の使用者では食品購買行動にも変化が確認されている。コーネル大学の調査によれば、同薬の使用開始後、食品全体の支出は減少する一方、菓子類やスナックの支出が減少し、ヨーグルトや栄養バーなど高栄養密度食品の購入は相対的に増加する傾向がみられる。また、調査会社のアコスタグループの調査によると、同薬の使用者は高たんぱく食品や機能性食品を志向する傾向が強い。これらの動きは、食品カテゴリー内の需要構造が変化していることを示す。GLP-1薬は食欲を抑制し、胃の排出を遅らせる作用がある。そのため、少量でも満腹感を得やすい。一方、摂取量の減少により、栄養バランスの偏りや不足が生じる可能性がある。この結果、少量でも必要な栄養を補える高たんぱく食品や、消化機能の維持に寄与する食物繊維(ファイバー)を強化した食品への関心が高まっている。
さらに、栄養密度の高い食品への需要は、GLP-1薬の使用者に限定されない。近年、米国では健康志向の高まりを背景に、たんぱく質や機能性栄養素を重視する食行動が広く浸透している。多くの消費者がたんぱく質摂取を意識し、プロテイン関連食品市場も拡大を続けている。また、スナックや軽食を「食事として機能させる」トレンドも進展しており、少量で栄養価の高い食品への需要が高まっている(2025年7月7日付地域・分析レポート参照)。GLP-1薬の普及は、こうした消費者志向をさらに加速させる要因となっている。
米国市場では、食品は食欲を満たす手段から、機能維持や健康管理を目的とするものへと変化している。UPFを巡る議論による「加工の再定義」や、腸内環境を基盤とした商品開発、さらにGLP-1薬の普及による食行動の変化が相互に作用し、新しい需要を生んでいる。こうした変化は、流通市場における商品構成や売り場の見直しを促している。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる) - 民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。





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