Newtopia Now 2025に見る新食品
米国食品市場のトレンドを探る(2)

2025年12月23日

米国コロラド州デンバーで2025年8月20~22日に開催された見本市「ニュートピア・ナウ(Newtopia Now、旧Natural Products Expo East)」では、食品を中心にサステナブルな消費財や革新的な商品などが数多く展示され、米国のナチュラル製品の今後のトレンドがうかがえる。本稿では、ニュートピア・ナウでバイヤー・業界関係者の注目を集めた商品やスタートアップの動向を探ることで、米国食品マーケットの最新事情を明らかにする。

スタートアップ中心に新たな商品を訴求

主催者によると、2025年8月に開催されたニュートピア・ナウには480以上のブランドが出展した。同社が毎年3月にカリフォルニア州アナハイムで開催する「ナチュラル・プロダクツ・エキスポ・ウエスト(Expo West)」(2025年7月7日付地域・分析レポート参照)とは異なり、スタートアップや中小企業、開催地のコロラド州など地域発のブランドが出展者の大半を占めた。出展者数・来場者数ともに前年並みだった。日本の食品や日用品を扱う企業の出展も5ブース確認できた。


エキスポ・ウエストと同様に、食品・飲料のほか、サプリメント、パーソナルケア、健康・美容分野などの企業が出展した。会場では、トークセッションやピッチイベントも行われ、バイヤーに自社商品をその場でPRするスタートアップもあった。


日本のカステラをPRする
長崎県・須崎屋のブース(ジェトロ撮影)

多数のスタートアップがバイヤーに自社商品をPR
(ジェトロ撮影)

小売り大手がスタートアップ支援、トランプ関税も話題に

トークセッションでは、「インサイド・ホールフーズ・マーケット―マネジメントへのアクセスとピッチ」と題し、大手スーパーマーケットのホールフーズのバイヤーと同社のスタートアップ向けアクセラレーションプログラムである「リープ」プログラム(注1)の責任者が登壇。イノベーションをテーマに、同社の取り組みを紹介した。さらに、希望するスタートアップによるエレベーターピッチ(注2)も行われた。

ホールフーズは、食品におけるイノベーションを、「単なる新製品ではなく、革新的で既存製品を破壊する商品」と定義。同社によると、消費者はまだ見たことのない商品を期待しており、バイヤーも消費者と同様である。また、クリーンラベル(注3)など商品の透明性、栄養密度、タンパク質、腸にやさしく消化しやすいなどのトレンドを意識することが必要となる。さらに、企業は流通戦略、製品の背景にあるストーリー、科学的根拠、成長可能性を考慮して製品を評価する。バイヤーとのコミュニケーションに関して、同社は「メールでPRだけされても困る。バイヤー、そしてその先にいる消費者に向けて、商品のメリットを明確に伝えてほしい」と述べた。

続けて、同社は、独自のアクセラレーションプログラムについて、「年間1,600件以上の応募があり、専門家のサポートやメンタリングの提供のほか、少額出資している。有望企業には融資も行い、昨年は500万ドル以上実行した」と語った。プログラムにおいては、参加企業の透明性が鍵となり、独自の視点や同社との関係性を構築しやすいかが重視されている。

ディスカッションセッション「ナチュラル製品のクロストレンド~コミュニティの現状と考察」では、トランプ政権下での関税政策について、その場のアンケートで、約半数の企業が影響を受けていると回答した。対策として、契約書に関税条項を盛り込むことや、関税の影響で価格が上昇したことをディストリビューターや小売りに説明することなど、価格戦略の透明性確保が提言された。


ホールフーズバイヤーによるセッション
(ジェトロ撮影)

ナチュラル製品に関するディスカッション
(ジェトロ撮影)

機能性食品が日常に浸透するトレンドが見える

ニュートピア・ナウの会場での出展傾向から、以下のトレンドがうかがえた。

(1)「プロテイン入り」を訴求

バータイプのスナックに加え、アイスクリーム、デザート、ピザなどの食品でプロテイン入りであることを訴求する商品が多く見られた。

スミアケース(SMEARCASE)は、カッテージチーズを主原料に、牛乳などを配合し、1個当たり40グラムのプロテインを含むデザートを販売。同社は、乳製品不使用のデイリーフリーアイスクリームとは異なる、牛乳本来のおいしさをアピールするとともに、「(食品パッケージの表示内容が明確で分かりやすい)クリーンラベルであることに加え、原料にタンパク質を入れることを意識した」と話した。

また、HOLヘルスクラブ(HOL Health Club)は、自然由来の成分から作られた高プロテイン入りのチョコレートバーを本展示会に合わせて発表し、バイヤーにアピールした。味も良い本商品は、開発開始からわずか 3カ月という短期間で商品を発売した。筆者はこれまで、展示会やイベントなどで多くの食品スタートアップに話を聞いてきたが、大半のスタートアップや企業は新製品の開発から発売まで半年から1年ほどかけており、3カ月は最も早い部類となる。同社は、「すでに商品の引き合いを小売店から受け、上々の滑り出しとなった」と語った。


SMEARCASEのブース(ジェトロ撮影)

HOL Health clubのブース(ジェトロ撮影)

(2)進化する機能性飲料

エキスポ・ウエストと同様に、本会場でも、水分補給に機能性を加えた製品の出展が見られた。

地元のコロラド州デンバーで起業したシークウェル(Sekwl)は、キノコ原料入りの炭酸水を販売する。創業者の1人であるマシュー・イートン氏がカワラタケ(英語名:ターキーテールマッシュルーム)を服用して病を克服した経験から、同原料を用いて社会貢献できないかと考え、起業したという。同社は1年間で6種類のフレーバーの飲料を開発し、コロラド州で販売している。バイヤーに訴求するため複数種類の商品を開発したことには、どの味が好まれるかを見極める側面もある。


Sekwlの商品ブース(ジェトロ撮影)

米国消費者、「プロテイン」「オーガニック」を指向

本見本市で確認された、プロテインを重視する傾向は、消費者調査でも明らかになっている。インターナショナル・フード・インフォメーション・カウンシル(IFIC)が2025年7月に発表した「米国における消費者のプロテイン意識に関する調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.01MB)」によると、プロテイン入り飲料や食品を摂取している消費者は2025年には70%に上り、2022年の59%から年々増加している。また、回答者のうち35%が過去1年にプロテイン摂取量を増やしたと述べている。

コーヒーチェーンのスターバックスコーヒーは、2025年9月から、プロテイン入りのドリンクを通年メニューとして販売を開始。大手小売りチェーンのクローガー(Kroger)は、自社の自然派・オーガニック・プライベートブランド(PB)商品ラインの「シンプル・トゥルース(Simple Truth)」で、80品目以上のプロテイン入り食品を販売すると2025年9月に発表した。高たんぱくで栄養価の高い商品を手頃な価格帯で提供し、人工着色料・香料・保存料など不要な成分を含まない設計にしているという。また、複数の報道によれば、GLP-1薬(肥満・糖尿病治療薬)が体重管理薬としてSNSなどを通じて一般にも普及しており、これが栄養補完食品などプロテイン入り食品市場の伸びを加速させているとの見方もある。GLP-1薬と併用することでより効果が上がるといわれているためだ。

オーガニック市場の伸びも顕著だ。オーガニック・トレード・アソシエーションによれば、2024年の米国内でのオーガニック食品の売上高は716億ドル(前年比5.2%増)に達し、食品市場全体の成長率2.5%を大きく上回った。オーガニック食品として米国で販売する場合、米国オーガニック認証の取得が義務付けられている(注4)。インフレ下にもかかわらず、通常よりも高単価のオーガニック食品を選ぶ消費者は、食品表示における「透明性」も重視していることがわかる。

ニュートピア・ナウで見られたトレンドと一致する、前述のプロテイン、オーガニック指向の流れは、米消費者の価値観の変化そのものだ。企業はその変化を読み解き、共感を生む商品訴求が求められている。この際、米国の消費者に響く言葉で伝え、競合との差別化を図ることが重要だ。製品の原料や製造過程のユニークさ、ブランドの持つストーリーを、会社紹介とは違った視点で訴求する工夫が必要である。


注1:
Local and Emerging Accelerator Program(LEAP):革新的なローカルブランドや食品分野での新興企業を支援するためのアクセラレーター制度。新たな食品ブランドの成長のためのプログラムを通じて、ホールフーズの棚に並ぶ可能性を提供する。
注2:
製品・サービスやプロジェクトなどを簡潔かつ説得力をもって説明すること。
注3:
一般には、原材料表示がシンプルで、なじみのある自然由来の素材を使用し、人工添加物を含まない食品・飲料を指す。
注4:
一部の例外を除いて、2024年3月19日から米農務省(USDA)国家有機プログラム(NOP)の有機執行強化(SOE)最終規則により、米国で「有機食品(オーガニック)」として販売する場合は、同最終規則の定める要件を満たすことが義務付けられている。

米国食品市場のトレンドを探る

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(1)Expo West 2025の動向とトレンド

執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる)
民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。