米サンクゼール、流通拡大の両輪
米国流通市場を読む(2)

2026年5月7日

サンクゼール(本社:長野県)は米法人にSt.Cousair Inc.外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(以下、サンクゼールUSA)を設立し、米国で販路拡大に取り組む。

本稿では、米系小売りの開拓、認証、Eコマース(電子商取引)などへの取り組みについて聞いた。


同社の米国本社および工場(サンクゼール提供)

米国で展開する商品写真(サンクゼール提供)
質問:
米系小売りへの販路構築を実際にどのような手順で進めてきたのか。
答え:
地道だが、まず地域の独立した店舗に足しげく営業に通い、販路開拓を進めていった。その実績をもって、地域で複数店舗を運営するスーパーマーケットに商品を提案した。そこで採択されたら、地域で10店舗以上を経営するアンカーストアに営業に行く。そこでも採用が決まれば、米系の食品問屋大手のユニファイ(UNFI)やケーヒー(KeHE)などに登録ができ、他の大手でも採用されるという流れになる。全国チェーンに採用されるには、この正攻法を逆算して進める以外に、持続的な拡大への道はないと考えている。
食品の展示会は入り口でしかないため、飛び込み・試食・継続した店舗訪問で、店舗での実売の実績を積んだ。その上で、アンカーストア(大手小売店)で面展開の意向を受け、問屋側のケース入り数、識別コードであるUPCやITFなどのバーコード、EDIなど電子取り引きシステム、受発注条件などの商品登録を先んじて完了し、「いつでも流通できる状態」を先に作っておく。これにより、展示会出展時に米系小売りの担当バイヤーが来たら、話が早くなる。社内稟議(りんぎ)を回す際の検討材料となる「本当に調達できるのか」の壁をクリアし、商流の歩留まりを上げられる。米系小売りは制度の壁、文化の違い、時間がかかり過ぎることで成約につながらないことが少なくない。前倒しの仕込みこそが近道になると考えている。
質問:
認証や表示、棚での見せ方など、商品を購買につなげるための工夫は何か。
答え:
USDAオーガニック(注1)、Non-GMO(注2)などの認証を取得すると購買につながりやすいが、各商品で一律に取得することが最適とは限らない。配合・工程・調達の裏付けを踏まえ、(1)第三者認証、(2)自社保証表示、(3)クリーンな原材料表記の費用対効果を商品ごとに見極めるのが現実的だ。基本となる栄養成分表示、アレルゲン、名称・原材料欄の要件は規制をベースに決定し、取得した場合の商品表示に当たっては、文字サイズ・配置・宣言文の細部もよく検討する必要がある。
加えて使用するシーンをどう伝えるかという用途の翻訳と置き場所の最適化も、売り上げを左右する。日本での定番の宣伝文句がそのまま通じないケースもあり、米国の消費者向けにアピールする言葉を選択すること〔高たんぱく、低糖、ギルトフリー(注3)、キャンプOKなど〕や売り場構成をわかりやすくすることが必要だ。例えば、サーディンジャーキーをビーフジャーキー棚に置けば、「(魚の)高たんぱく・ヘルシーなおつまみ」という商品の位置づけが伝わりやすくなり、消費者に瞬時に選ばれやすい。また、「みそとくるみ」のドレッシングのような日本国内でもローカル色の強い味は、サラダ以外の用途の提案〔例えば、グレインボウル(穀物ベースのサラダ)、ローストした野菜のディップ・ソースなどをピクトグラムや短文で示す〕など工夫が必要だ。
機能性・サステナビリティ・アップサイクル(注4)が共通語になっている米国の自然・オーガニック食品市場を理解して、小売りの棚構成に反映することも重要だ。
質問:
Eコマースは事業の中でどのような役割を果たしているか。
答え:
会社の売上構成上大きくないが、Eコマースの顧客から多くの情報を得ている。現在、ショピファイ(Shopify)(注5)を使って自社Eコマースサイトを運営している。継続的に購買してくれる顧客との1対1ヒアリングを定期的に行い、一番伝えたい情報を明確にして、写真・色などを含めたパッケージデザインに反映している。Eコマースで得た示唆を、量販店向けの表示・販促物にも素早く反映させることで、実店舗の売り上げの改善も見込める。小売りバイヤーの商品レビューが得られる他にも、パッケージなどの更新を可能にする顧客との関係性を築けるのは、Eコマースならではの強みだ。
質問:
M&Aを自社の事業ポートフォリオにどのように活用しているのか。
答え:
M&Aは地域で売れているメーカーを仲間に入れる戦術として機能している。2023年に有機トマトケチャップのポートランディアフーズ(Portlandia Foods)、2024年にはボニーズジャム(Bonnie’s Jam)、2025年にはペッパージャムなどで人気のケリーズジェリー(KELLY’S JELLY)を買収した。
目的や経緯はそれぞれ異なるが、主に地域の大手小売りチェーンであるクローガー(Kroger)、ホールフーズ(Whole Foods Market)などにつながることが可能になることに加え、自社工場の製造互換性が高いと考えたためだ。買収先の企業が小売りに有する棚、バイヤーコネクション、商慣習を自社の経営資源として取り込み、自社ブランド「 KUZE FUKU & SONS 」の商品ラインアップも一緒に提案することで、商品の幅を瞬時に広げることができる。
さらに、自社工場で作ることができるアイテムを増やすことで、稼働率の底上げと原価の平準化を同時に進める。ゼロからの全国ブランド化は時間と投下資本を要するが、「小さく買って速く回す」M&Aなら、キャッシュフローを早期に生むシナジー効果を得やすい。
質問:
日本政府・公的機関のどのような支援があると、企業の米国市場参入が加速すると考えるか。
答え:
サポートのスキームは充実しており、展示会の支援などは事業者として助かるだろう。一方で、海外の展示会に出ただけで終わってしまうケースが多いように思う。それを「商流」に接続するスキームがあると良い。具体的には、展示会後の商品展示場所確保、商談継続サポート、アンカーストア獲得の評価材料になる売上実績につながるスキームだ。
ただし、企業自身が汗をかく必要があることは一番意識すべき。われわれがやってきたように、1店舗ずつ訪問して感想を聞く、地道に増やしていく取り組みはマストだ。展示会だけでは不完全であり、小売りとの関係性を構築していくために企業自身が地域に根差した取り組みを行うべきだと考えている。
また、海外M&Aのデューディリジェンス(注6)、PMI(Post-Merger Integration)(注7)費用への補助があれば、スモールディールを核に米国マーケットを開拓するための成功確率が上昇する可能性があるため、そのようなサポートがあれば期待したい。

サンクゼールUSAの取り組みから得られる示唆は明確だ。自らの足で小さな店舗での実売の実績を作り、それを複数店舗に広げていき、アンカーストアで面展開の意向を取りつけるということに集約される。同時に顧客に商品のヒアリングを行い、パッケージの変更に取り組むなど商品改良にも余念がない。さらには、M&Aにより「棚・バイヤー・製造」の3つを一気に取り込み、米国展開を加速化している。サンクゼールUSAの取り組みは、米国主流市場の「王道」を、丁寧に、速く進むための手引きといえる。


注1:
米国農務省(USDA)のオーガニック基準によって生産されたことを示す表示。 本文に戻る
注2:
遺伝子組み換え技術を使用していないこと。 本文に戻る
注3:
商品を購入する際に、健康的でないなどの消費者が抱く罪悪感を最小限に抑えること。 本文に戻る
注4:
本来廃棄される素材や製品などに新たな付加価値をつけることで、元の素材や製品よりも高い価値をもつようにすること。 本文に戻る
注5:
オンラインストア作成から、運営上の決済、在庫管理、配送、マーケティングなどブランド価値向上や自社での販売コントロールが可能なプラットフォーム。 本文に戻る
注6:
M&Aなどの取り引きに際して、投資対象となる資産の価値・収益力・リスクなどを経営・財務・法務・環境などの観点から詳細に調査・分析すること。 本文に戻る
注7:
企業のM&A後に行われる、事業や経営の統合、およびその統合プロセス全体。 本文に戻る

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執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる)
民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。