試行錯誤で市場を拓く、米サンクゼール
米国流通市場を読む(1)
2026年5月7日
米国の食品市場開拓に向け、日本企業はさまざまな取り組みを行っている。久世福商店のブランドで日本国内178店舗を運営し、500以上の国内メーカーと取り引きをするサンクゼール(本社:長野県)もその1つだ。同社は、米国にSt.Cousair Inc.
(以下、サンクゼールUSA)を設立。米国法人は、世界中のマーケットにアンテナを張りながら、グローバルでの販路拡大を進め、生産拠点としての機能も備えている。本稿ではサンクゼールUSAの久世直樹代表取締役社長に同社の米国展開の取り組みや米系小売り(注1)での商流構築までの流れを聞き、米国展開をもくろむ日本企業への示唆を得る。(取材日:2026年2月11日)

- 質問:
- 米国事業は、どのような背景・戦略意図から生まれたのか。
- 答え:
- 米国事業の検討は、2015年頃に始まり、2017年にオレゴン州ポートランド近郊でベリーノアール(Berry Noir)というコーパッカー(注2)企業の工場資産を承継したところから始まる。開発・製造・物流・商談を米国内で完結させる「現地一貫体制」を立ち上げ、立地の強みである豊かな水、良質な農産物(果実・野菜)、食品産業人材の厚み、西海岸にアクセスできる物流の強みがあった。オレゴン州政府は、日本企業誘致に積極的で、創業初期から補助金や伴走支援が得られるなど、協力的だった。
- 質問:
- 日本ブランドを米国市場にフィットさせる上で、どのような戦略を選んだのか。
- 答え:
-
2019年に米国向けブランド「KUZE FUKU & SONS」を上市した。日本の果実として想起されやすいユズと酢を組み合わせた「飲む酢」を中心に、米国の食品展示会のファンシー・フード・ショー
(注3)への出展を複数回行った。一方で、日本のブランドを現地の人に伝え、どのように購買に結びつけるかを考えた際、単品のみを米系小売りの棚で訴求し続けることは難しいと判断した。その後、調味料の「たれ」「ジャム」や「ソース」などカテゴリー商品を横断的に「面」で展開し、バイヤーと消費者の双方に「日本の食の世界観」を伝える戦略へと変えた。米系小売りの食品売り場は、健康・機能・サステナビリティといったテーマ別横断軸で棚が構成される傾向にあるため、「世界観×機能価値」を併置した面展開が評価されやすいと感じた。
- 質問:
- 新型コロナ禍は米国事業にどのような影響を与え、どう対応したのか。
- 答え:
- 新型コロナ禍では、受注が相次いでキャンセルとなり、工場の稼働率が大きく低下した。一方で、自治体や病院、小売りなどから工場で利用している消毒のためのハンドサニタイザーやアルコールを供給してもらえないかという依頼があり、在庫を寄付した。また、食品工場としての稼働が落ちていたため、思い切って、市場ニーズのあるハンドサニタイザー製造へと仕様転換した。
- 新型コロナ禍に社会に役立つ供給をしたことで、多くの人に感謝されたと考えている。「地域に根差したメーカー」としての評価が高まり、オレゴン州の米系小売りであるニューシーズンズ・マーケット(New Seasons Market)、マーケット・オブ・チョイス(Market of Choice)、また日系では、無印良品(MUJI) などで取り扱いが一気に拡大した。結果として、「ジャム」「たれ」など既存の主力商品も棚が広がり、米国事業が伸長する転機となった。米国内での売り上げは、創業時に比べると現在は20倍以上に成長を遂げている。
- 質問:
-
日系小売りのみならず、米系小売りを志向する企業やスタートアップがいる。
米系小売りに参入する際、日本企業がまず理解すべき構造的な特徴は何か。 - 答え:
- 米国での商品流通を目指す日本の食品企業やブランドが取る戦略の第1歩は、日系流通への提案となっている。「日系商社への提案」や「現地日系小売店への提案」などだ。日本と商習慣が近く、ビジネスがしやすいということがある。また、「日本に来た海外バイヤーとの商談会に参加する」などの方法がある。日系商社や日系小売り、日本に来た海外バイヤーから、米系小売りにつながる事例も多くある。
- 米系小売りは、日系小売りとは異なるロジックで動いており、異なるビジネススキームだと認識する必要がある。また、冷凍・冷蔵・常温保存の加工食品などカテゴリーごとに商品調達バイヤーが異なるため、自分のカテゴリー以外の提案については決定権がないなど、極めて効率的に運営されている。
- 米系小売りは、カテゴリーごとの商品提案を受け入れる時期が厳格で、年に1回程度という時間軸で動く。1回あたりの商談はおよそ30分、関係が良くなれば60分などになるケースもある。この違いを意識して販路開拓をしていくことが重要だ。
米国で小売りのメインストリームを開拓するのは、決して簡単ではない。サンクゼールUSAが示した購買へのつなげ方、バイヤーの日米の違いの理解といった米国市場開拓の道のりは、どの日本企業にとっても王道といえる。本稿に続く(2)では、この先の販路構築、商流づくりなどさらに踏み込んだ実践プロセスについて聞いた内容を紹介する。
- 注1:
-
米国の一般消費者向けに商品を展開する主流小売りチェーンおよび地域スーパーマーケット。日系・アジア系小売りを含まない。
- 注2:
-
企業のプライベートブランド製造などを請け負う事業者。
- 注3:
-
毎年6月末にニューヨーク、1月中旬に米国西海岸(2026年はカリフォルニア州サンディエゴ、2027年は同サンフランシスコ)で行われる食品の展示会(2025年7月9日付ビジネス短信参照)。
米国流通市場を読む
シリーズの次の記事も読む
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる) - 民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。





閉じる




