米国の対中関税の引き下げ、「貿易委員会」の行方は

2026年7月13日

米中の貿易関係の潮目が変わりつつある。両国は2026年5月に中国・北京で行われた首脳会談で「建設的戦略安定関係」の構築で一致した。この新しい関係の下、両国は今後、首脳会談で合意した「貿易委員会」を通じて、安全保障上の懸念を生まない分野に限り、関税見直しを協議する。米国は消費財などに焦点を当て、中国産品への関税引き下げを検討するが、先端技術分野を対象とした関税は維持する方針だ。

米中関係は「管理貿易」という新しい段階に

米中両国は5月の首脳会談で、貿易委員会と投資委員会という2つの政府間協議の枠組みの設立で合意した(2026年5月19日付ビジネス短信参照)。米国ホワイトハウスは首脳会談に関するファクトシートで、これらの委員会を中国との合意の「基礎」と位置付け、今後の対中関係で重視する姿勢を示している。ファクトシートによると、貿易委員会は非センシティブ(機微でない)分野の2国間貿易の管理について協議する。投資委員会は投資に関する問題を扱う場となる。

米国通商代表部(USTR)は6月、貿易委員会に関するパブリックコメントの募集を始め、中国との協議に向けた準備に動き出した。USTRはパブコメ募集に関する官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、今回の首脳会談を経て「米中通商関係は新しい段階に入った」と宣言した。過去の米国政権の政策は中国の非市場的な慣行の是正に失敗したと総括した上で、トランプ政権は中国との「管理貿易」という新たなアプローチを採用すると主張した(注1)。管理貿易とは、根本的に異なる経済原則に基づいて運営される米中間の貿易関係に、互恵性、持続性、均衡をもたらすことを意味し、貿易委員会はそれを実現するための仕組みとして機能するという。

貿易委員会では互いに300億ドルの品目の関税削減を交渉

貿易委員会は、単なる2国間協議の場にとどまらず、両国でビジネスを行う企業の貿易活動に直接影響を与える可能性がある。貿易委員会での交渉に基づいて、両国が互いに課している関税の削減や撤廃が見込まれるためだ。USTRの官報によると、米中は互いに非センシティブ製品を特定し、それらの品目に対する関税の修正に合意することを目指すという。米国は「国内法や国家・経済安全保障上の利益と矛盾せず、必要な条件が全て満たされること」を前提に、中国に対する一般関税(MFN関税)以外の関税の削減・撤廃を検討する。関税引き下げに必要な具体的な条件は示されていないが、中国側による合意順守などを念頭に置いているとみられる。

では実際に、どのような中国産品が米国の関税引き下げの対象となり得るだろうか。USTRの官報は、非センシティブ製品の具体例や関税削減の規模、対象となる関税の種類を明示していない。USTRはパブコメで「非センシティブと見なすべき中国製品の種類」についても意見を求めており、非センシティブの定義として「経済・国家安保やサプライチェーンの強靭(きょうじん)性に関わる問題をほとんど、あるいは全く引き起こさない」ことと説明している。米中首脳会談に同席したスコット・ベッセント財務長官は、米国は国内で再び製造される見込みのない花火などの消費財を含む非戦略品目、中国はエネルギー製品などへの関税をそれぞれ削減できるとの見方を示した(CNBC、2026年5月14日)。逆に言えば、米国が中国からの調達を排除している情報通信機器などの先端技術分野の製品は、交渉のテーブルには乗らないということだろう。

関税削減の規模に関しては、ベッセント財務長官やジェミソン・グリアUSTR代表が米国メディアに対し、米中双方で300億ドル相当の品目の関税引き下げを交渉すると説明している。中国側も同様の認識を示しており、両国間で一定のコンセンサスが形成されているようだ。この300億ドルという規模は、米国の対中財輸入額(2022~2024年の平均)4,679億ドルの6.4%、対中財輸出額(同)1,483億ドルの20.2%に相当する(注2)

修正する関税の種類については、USTRが官報で「非MFN関税」と明記しているため、1974年通商法301条や1962年通商拡大法232条に基づいて課している追加関税が候補になると予想される(注3)。第1次トランプ政権で導入された中国産品に対する301条関税は、1万品目以上〔米国関税分類番号(HTSコード)8~10桁ベース〕に7.5~100%の税率を課しており、関税引き下げの余地は大きい(注4)。一方で、「経済・国家安保上の問題を引き起こさない」というUSTRの説明を踏まえると、安保上の脅威への対処を目的として国・地域を問わず課されている232条関税は、関税引き下げの対象になりにくいと考えられる。

非ハイテク消費財への301条関税に引き下げ余地

これらを踏まえると、301条関税の対象となっている非ハイテク分野の消費財が、関税削減の恩恵を受ける可能性が最も高いといえる。米国の貿易統計(エンドユース別)(注5)を見ると、米国の消費財の対中輸入額(2022~2024年の平均)は2,304億ドルだ。ここからハイテク製品〔貿易統計で先端技術製品(ATP)(注6)に分類される品目〕を除いた「非ハイテク消費財」の輸入額は1,890億ドルとなる。300億ドルの水準を大きく上回るが、非ハイテク消費財のうち301条関税の対象品目の輸入額は978億ドルと約半分(51.8%)にとどまる。税率別では、25%対象の輸入額が439億ドル(23.2%)、7.5%対象の輸入額が539億ドル(28.5%)だ(図参照)。品目別では、25%対象では椅子などの金属製・木製家具や一部の真空式掃除機、オートバイなどの輸入額が大きい。一方、7.5%対象では国旗などの繊維製品やプラスチック製の家庭用品・トイレ用品などの輸入額が大きい。

また、301条関税の対象となっている非ハイテク消費財の中には、トランプ政権が相互関税や1974年通商法122条に基づく関税を発動した際、「米国内で十分な量が生産されていない」などの理由で適用除外品目に指定した製品(117億ドル)も含まれている。こうした品目は、301条関税引き下げのハードルが特に低いと判断される可能性がある。

図:米国の対中非ハイテク消費財の輸入額の内訳(2022~2024年の平均)
米国の中国からの非ハイテク消費財の輸入額(2022~2024年の平均)の内訳をみると、301条関税(25%)の対象品目は439億ドル。そのうち、122条関税対象は347億ドル、122条関税対象外は92億ドル。301条関税(7.5%)の対象品目は539億ドル。そのうち、122条関税対象は514億ドル、122条関税対象外は25億ドル。301条関税の対象外品目は911億ドル。そのうち、122条関税対象は770億ドル、122条関税対象外は141億ドル。

注:HTSコード8桁ベースで算出。301条関税対象品目のHTSコードは米国国際貿易委員会(USITC)が公表しているリスト「China TariffsPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(387.4KB)」、122条関税の対象外品目のHTSコードは122条関税の発動に関する大統領布告の付属書2のリストPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(942KB)をそれぞれ参照。非ハイテク消費財で25%を超える301条関税が課されている品目はない。
出所: USITC貿易統計および公表資料、米国政府発表資料からジェトロ作成

もちろん、これらの品目以外にも関税引き下げの範囲が広がる可能性はある。例えば、トランプ政権が2026年4月に232条に基づく鉄鋼・アルミ・銅関税の運用ルールを変更した際、国内産業への影響を考慮して時限的に税率を軽減した産業機器や電力網関連機器などは、その候補となり得る(2026年4月3日付ビジネス短信参照)。

米国は対中関係で関税を放棄せず

在米日系企業の間では、第2次トランプ政権下で調達先を中国から分散させる動きが続いている。しかし、コスト競争力や代替調達先が限られていることなどを理由に中国からの調達を続けている企業にとっては、調達品目が関税引き下げの対象となれば、直接的なコスト削減が見込める。中国から直接輸入していない企業にとっても、米国内の取引先などを通じて中国産品を調達している場合には、サプライチェーン全体でコストを見直す余地が生まれるだろう。

ただ、貿易委員会は参加者のレベルや開催頻度など、運用面で不明な点が依然として多く、交渉にどれだけの時間を要するかは見通せない。貿易委員会が実効性のある協議の場として定着するかどうかは、今後の運営体制や首脳レベルの政治的関与の度合いにも左右される。米国内に目を向けても、関連産業の利害を調整して関税削減品目を特定するのは政治的に容易ではない、との通商専門家の指摘も聞かれる。USTRは関税引き下げで合意した品目の将来的な修正についても意見を募っていることから、関税引き下げの対象や範囲は定期的に見直される可能性がある。両国の協議は長い目で見ていく必要がありそうだ。

貿易委員会は、貿易額を定めて相互の関税引き下げを目指す点で、中国の不公正な貿易慣行の是正を目的とした過去の米中の対話枠組みとは異質の取り組みといえる。とはいえ、USTRは官報で「中国が非市場的な政策や慣行を維持し、米国の輸出に対して互恵的な待遇を提供することを拒否し続ける限り、米国は中国との貿易を管理するために、関税やその他の手段に頼り続けるだろう」とも記し、中国の国家補助金や過剰生産能力などを巡る問題をあらためて牽制した。ベッセント財務長官も、対中関税の水準が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税の適用停止前に戻ることを中国は許容するだろう、と述べるなど、今後も一定水準の関税が維持される可能性を示唆している(ロイター、2026年5月19日)。非戦略品目に焦点を当てた貿易委員会は、あくまで米中間の貿易関係を調整するための仕組みであり、戦略品目の国内回帰というトランプ政権の政策目標を変えるものではない。米中間の貿易に関与する企業は今後も、米国が中国との関係で関税という手段を当面手放すつもりがないことを前提に、米国に関わる事業環境を見通す必要があるだろう。


注1:
具体的には、「WTOの紛争解決制度を活用しつつ、2国間のハイレベル対話を通じて中国にWTOルールの順守と経済改革を促すという過去のアプローチは、中国の不公正な経済・通商政策を変えることができなかった」と振り返っている。トランプ政権下でUSTRは、WTOが「中国の非市場経済がもたらす課題に対処できていない」との批判を繰り返し表明し、WTO以外の枠組みでの通商ルールの形成を進めている(2026年6月1日付地域・分析レポート参照)。 本文に戻る
注2:
USTRは貿易委員会に関する官報で、関税を引き下げるべき中国産品について意見を提出する際、当該品目の2022~2024年の対中輸入額の平均を示すよう求めている。このため、本稿でも対中貿易額を示す際には、それに倣った。 本文に戻る
注3:
トランプ政権が強制労働や過剰生産能力などを理由に検討している301条措置については、本稿執筆時点で発動時期や最終的な関税率などの詳細が不明であるため、関税引き下げの検討対象から除外した。122条関税についても時限的な措置であるため、検討対象から外した。 本文に戻る
注4:
USTRは2026年5月、対中301条関税について2回目の見直しを開始した(2026年5月7日付ビジネス短信参照)。この国内手続きと貿易委員会での交渉がどのように関係するのかについても、現時点では明らかになっていない。 本文に戻る
注5:
輸出入される品目を主な最終用途(エンドユース)に応じて分類した統計「Trade Term: End-Use外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」。食品・飼料・飲料、工業用資材、資本財、自動車など、消費財、その他の6つの大分類の下に詳細な分類外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが定められている。 本文に戻る
注6:
ATP外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにはハイテク分野の製品が含まれており、バイオテクノロジー、情報通信、エレクトロニクスなど10分野で構成されている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 リサーチ・マネージャー
甲斐野 裕之(かいの ひろゆき)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、海外調査部米州課、ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕を経て、2024年2月から現職。