日本とサブサハラ・アフリカ諸国との間の投資協定の歴史と現状
2026年4月30日
本稿は、日本企業のサブサハラ・アフリカへの投資の安全性を確保する上で重要な制度要因である投資協定の現状を整理するものだ。
サブサハラ・アフリカは、豊富な資源や人口増加を背景に大きな潜在的ビジネス機会を有する一方で、政府による規則・法令の整備やその運用に課題が見られるほか、政治・社会情勢が不安定である国も少なくない(2025年度 海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)も参照)。このため、同地域に対する投資判断においては、成長性のみならず、リスクを踏まえた上での戦略的な展開が必要となるだろう。こうした投資リスクを軽減し、日本企業がより安心して投資を行えるようにするための制度的枠組みの1つとして、日本はサブサハラ・アフリカのいくつかの国と、投資財産の保護などを定めた国際条約である投資協定を締結してきた(注1)。日本が投資協定を締結、あるいは交渉している国についての現状を把握することは、サブサハラ・アフリカにおけるビジネス展開を検討する際の判断材料となるだろう。
本稿では、日本がこれまでサブサハラ・アフリカ各国と交渉・締結してきた投資協定について、交渉や署名に至る経緯とその内容を概説する(表参照)。投資協定そのものの概要については、ジェトロの解説ページ(投資協定とは)や「『世界は今-JETRO Global Eye』 海外進出する企業を守る -こんなときに役立つ『投資協定』-(動画)」をご参照いただきたい。また、各協定の条文は経済産業省
や外務省
のサイトからご確認いただきたい。
サブサハラ・アフリカ諸国との投資協定の歴史
| 相手国(発効済みの国は協定文にリンク) |
交渉開始 (第1回交渉日) |
署名 | 発効 | 種類 |
|---|---|---|---|---|
|
アンゴラ |
2010/4/1 | 2023/8/9 | 2024/7/21 | 自由化型 |
|
モザンビーク |
2012/8/8 | 2013/6/1 | 2014/8/29 | 自由化型 |
|
ケニア |
2014/4/8 | 2016/8/28 | 2017/9/14 | 保護型 |
| ガーナ | 2014/4/15 | 交渉中 | — | — |
| タンザニア | 2014/12/12 | 交渉中 | — | — |
|
コートジボワール |
2017/1/26 | 2020/1/13 | 2021/3/26 | 自由化型 |
| セネガル | 2017/10/9 | 交渉中 | — | — |
| ナイジェリア | 2017/12/18 | 交渉中 | — | — |
|
ザンビア |
2017/12/21 | 2025/2/6 | 批准手続き中 | 保護型 |
| エチオピア | 2018/1/15 | 交渉中 | — | — |
注1:「交渉中」は本稿執筆の2026年3月末時点で交渉が長期間行われていない国を含む。注2:「自由化型」は投資参入前から内国民待遇などを付与する協定、「保護型」は原則として投資参入後の投資財産保護を規定する協定を指す。詳細は後述。
日本政府は2010年代以降、サブサハラ・アフリカ各国との投資協定の交渉を加速させてきた。日本とサブサハラ・アフリカ諸国との間の投資協定締結の動きは、アフリカ開発会議(TICAD)と密接に関連している。2008年に横浜で開催されたTICAD4で発表された横浜行動計画
では、「日本の民間セクターからアフリカへの直接投資を倍増させるためにあらゆる政策手段を積極的に動員するように努力を払う」ことが打ち出され、本計画を具体化する一環としてサブサハラ・アフリカ諸国との投資協定交渉の開始が検討されることとなった。まず2010年にアンゴラとの交渉が開始され、2年後の2012年にモザンビークとの交渉が開始された。アンゴラは石油、モザンビークは天然ガスの一大産地であり、日本とサブサハラ・アフリカ諸国との投資協定はまず資源大国との間で始まったということができるだろう。
2014年にはケニア、ガーナ、タンザニア、2017年にはコートジボワールやナイジェリアなど、サブサハラ・アフリカの中では経済規模が比較的大きく、一定の日系企業の進出があった国との交渉が開始された。両年はそれぞれ2013年に横浜で開催されたTICAD5および2016年にケニアのナイロビで開催されたTICAD6の翌年となっており、TICADにおける首脳会談などで交渉開始が合意され、翌年に第1回の交渉が行われた。2018年にエチオピアとの交渉が開始された後、新たなサブサハラ・アフリカの国との交渉開始は発表されていない(注2)。
以降は、既に署名済みの投資協定について、個別に経緯と内容を概観する。
モザンビークと初の発効、アンゴラは交渉が長期化
モザンビークでは2010年代に世界最大級の天然ガス田が発見され、日本企業では三井物産などが開発に参画した(2020年9月16日付地域・分析レポート参照)。2012年にモザンビーク政府からの要請により投資協定の交渉が開始された後、比較的短期間で交渉が進み、日本とサブサハラ・アフリカの国との間の初めての投資協定として、2013年6月に署名、2014年8月に発効を迎えた。
本協定は自由化型の協定であり、日本企業は原則として参入段階から現地企業と無差別の待遇を享受することが可能となった。保護の対象には、天然資源の探査、試掘、採掘および抽出のための権利を含む資源関連権益が幅広く含まれている。鉱業権そのものはモザンビーク法人に限定される留保が設けられているものの、当該法人への出資や資源・収益に係る権益も保護対象となるため、日本企業や金融機関が資源関連事業に取り組む際の法的安定性が一定程度確保された。また、強制的な技術移転要求、現地調達義務、外貨収支均衡要件などのパフォーマンス要求は原則として禁止され、技術流出などを過度に懸念することなく事業展開が可能となった。政府による協定違反が生じた場合には、国内裁判所に代えて国際仲裁手続き(ISDS)を利用できる制度も整備された。
一方、2010年に交渉が開始されていた日・アンゴラ投資協定は、署名まで実に13年以上を要した。これは日本が締結してきた投資協定の中でも際立って長い交渉期間であり、実質合意までに計9回の交渉が実施された。交渉期間中には、2017年にアンゴラを38年間率いてきたドス・サントス前大統領からジョアン・ロウレンソ大統領に政権が移行し、石油採掘管理制度の改革が実施された。
本協定も自由化型の協定として2023年8月に署名され、翌2024年7月に発効した。石油産業など一部の例外分野を除き、原則としてアンゴラ企業よりも不利な取り扱いを受けることなく参入することが可能となった。また、モザンビークとの協定同様、特定のパフォーマンス要求の原則禁止や、政府による協定違反が生じた場合の国際仲裁手続きが規定されている。
進出日本企業の多いケニア、外資誘致に積極的なコートジボワールとも締結
東アフリカの物流拠点であり地域経済大国でもあるケニアとの投資協定は、経済界からの強い要望を背景に、TICAD5の機会に行われた安倍首相とウィリアム・ルト副大統領(当時)との会談で交渉開始が合意された。2014年の第1回交渉以降、約2年間で5回の交渉が行われ、最終的に2016年のTICAD6に際した安倍首相のケニア国賓訪問の機会に署名された。TICADをモメンタムとして締結に至った協定と評価できる。
本協定は投資財産設立前の内国民待遇・最恵国待遇を義務付けない、いわゆる保護型の協定だ。現地調達比率や自国企業との合弁義務などを設けることを明確に禁止する規定は置かれておらず、ケニアには一部の分野で外資規制が存在している(詳細はケニア制度情報「外資に関する規制」参照)。一方、日本の外務省の調査によれば、2024年10月時点で同国にはサブサハラ・アフリカでは南アフリカ共和国(南ア)に次ぐ120を超える日系企業の拠点があり、これら既に進出した日本企業の投資財産は協定によって一定の保護を享受することになる。協定違反が生じた場合に備えたISDS条項も規定されている。
コートジボワールは独立直後から欧州諸国と積極的に投資協定を締結し、製造業を中心に外国投資の誘致を行ってきた。日本との間でも2016年のTICAD6の首脳会談において交渉開始が宣言され、翌2017 年1月に第1回の交渉が行われた。交渉はほぼオンラインで、わずか1年半の間に7回という極めて早いペースで実施され、2020 年1月にはコートジボワールの旧首都アビジャンにおいて署名が行われた(2021年4月20日付ビジネス短信参照)。実質的な内容はアンゴラやモザンビークとの間のものとほぼ同じであり、日本企業は投資参入段階から内国民待遇を享受できる自由化型の協定となっている。
銅の一大産地ザンビアとは2025年に署名、批准手続き中
アフリカ有数の銅産出国であるザンビアとの投資協定は、約7年に及ぶ交渉の末2024年12月に実質合意が発表され、翌2025年2月に署名が行われた。本協定は保護型の協定であり、外国企業の受け入れについては国内法に委ねられているが、いったん投資財産が設立されれば協定上の保護を受けることになる。
署名に先立って東京で開かれた日・ザンビア首脳会談では、石破茂首相(当時)が鉱物資源分野での協力を推進していきたいと述べたのに対し、ザンビアのハカインデ・ヒチレマ大統領も、資源の高付加価値化のために協力していきたいと述べた。ザンビア政府は銅生産量の拡大を達成するため、地図を作製して有望な一部の鉱業ライセンスを政府が保持し、民間投資を招いて開発する方針を示しているという(2025年2月10日付ビジネス短信参照)。2026年3月にはジェトロが同国でビジネスミッションを開催し、メーカーや商社、運輸業など14社(機関)が参加するなど、鉱業、農業、電力などの分野で同国への日本企業の関心は高まっている(2026年3月12日付ビジネス短信参照)。
本協定は2026年3月末時点では両国で批准手続き中だが、資源国であるザンビアに対する日本企業の投資は長期プロジェクトになるものが多いと考えられるところ、投資協定の存在は投資判断を下支えする重要な制度的基盤となるだろう。
引き続き交渉中の国も多く存在
2026年3月末までに署名以上の段階に至った投資協定は、以上で述べた5本である。一方で、ガーナ、タンザニア、セネガル、ナイジェリア、エチオピアとの投資協定は、それぞれ引き続き交渉中となっている。投資協定の交渉期間は数年程度であることが一般的だが、ガーナは最後の交渉会合の発表から10年以上が経過しており、他の4カ国も5年以上が経過している。しかし、アンゴラやザンビアなど交渉に長期間を要した協定が、新型コロナ禍などを乗り越え近年署名に至ったことは、今後の協定交渉を展望する上で前向きな材料といえよう。経団連は、2025年のTICAD9に際した提言において、現在交渉中の協定の速やかな締結とともに、南アとコンゴ民主共和国との交渉開始を求めている(経団連ウェブサイト参照
)。今後、新たな国との交渉開始にも期待したい(注3)。
最後に、投資協定は投資家保護の「最後の切り札」として非常に重要な制度であるものの、あらゆる個別の事案に対応できるものではない。現地でトラブルが生じた際には、直ちに協定の活用を検討する前に、まずは現地のジェトロ事務所や在外公館などにご相談いただきたい。
- 注1:
-
経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)の「投資章」も投資協定と同様に投資財産の保護などを規定しているが、2026年3月末時点で日本とサブサハラ・アフリカ諸国の間でEPA・FTAが結ばれた例はない。
- 注2:
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アフリカ大陸全体に視野を広げると、2024年12月にチュニジアとの投資協定交渉の開始が発表されている。
- 注3:
-
南アはもともとドイツ、フランス、イタリアなど欧州諸国と投資協定を結んでいたが、黒人経済力強化政策(BEE政策)に基づく措置が投資家との紛争に発展したことなどを契機に、2010年代に欧州諸国との投資協定を終了させている(協定終了時点で既に行われていた投資については、一定期間引き続き協定上の保護が及ぶ)。現在は「投資保護法(Protection of Investment Act
)」により、政府と投資家の間で紛争が起きた場合は、国際的な仲裁機関ではなく、原則として南ア国内の裁判所で解決することが定められている。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
波多野 瞭平(はたの りょうへい) - 2025年10月から現職。中東・アフリカ地域の調査業務を担当。





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