アフリカの若年層にアプローチ
日・アフリカ新時代を切り拓く(2)
2025年6月25日
1993年のアフリカ開発会議(TICAD)初開催以来、日本はアフリカの開発に深くコミットしてきたが、日本企業のアフリカ投資は依然として低水準で、資源を輸入し、自動車を輸出する経済関係にとどまっている。本連載(1)では、アフリカのビジネスチャンピオンとの連携を、日本とアフリカが新たな時代を切り拓く1つのカギとして概説した。連載の(2)となる本稿では、2つ目のカギとして、アフリカの「若年層」、日本企業が強みのある「ソフトパワー」、両国の新たな関係に欠かせない「イノベーション」について触れる。
日・アフリカ新時代の担い手に注目
新時代を切り拓く2つ目のヒントは、日・アフリカ新時代の担い手となる若年層に着目することだ。急速な人口増加により、2050年にはアフリカの人口は世界人口の4分の1を占めると予測されているが、特筆すべきは人口の若さだ。北アフリカ地域や南アフリカ地域、島しょ部の一部で人口増加率が減速している国はあるものの、アフリカ大陸の平均年齢は19.2歳と世界でも突出して若い。ゆえに若年層を見なければ新時代は語れない。若年層を見据えた事業の再構築が2つ目のカギだ。
しかし、多くの日本企業の視界に、若年層はなかなか入らない。インフラ事業は現地政府の高官に話をしなければ進まないし、自動車も中古車市場が中心のアフリカでは、新車は現地政府や大企業の幹部、援助機関などが主要な顧客だ。品質も高いが価格も高い日本製品は、大半の若年層には手が届かない。世界における日本ブランドへの信頼は長い時間をかけて醸成されてきたものだが、アフリカでは若年層に手が届く製品を供給しているのは中国企業で、日本製品を知らない世代が急速に増えてきている。
では、アフリカの若年層に対して、どのようなアプローチが可能だろうか。1つ参考になるのは、インドネシアの財閥サリム傘下の食品会社インドフードのインスタント麺「インドミー」の事例だ。同社は、麺食の文化がまったくなかったアフリカで市場を一から作り上げ、インスタント麺を若年層の国民食にまで育て上げた。現在は、ナイジェリアに数多くの工場を持つほか、エジプトやガーナ、エスワティニなどのアフリカ各地で工場を持ち、アフリカ全土で年間50億食以上のインスタント麺を販売するほどに成長した。
インドミーはもともとインドネシアで開発され、1972年に最初に発売されたが、海外で人気が爆発したのはナイジェリアで、1980年代にシンガポール系企業のトララムがインドミーを輸入・販売したのが始まりだ。サリムとの合弁で現地生産に踏み切ったのは1996年で、アフリカが成長軌道にのる2000年代に入るまでは赤字が続いたという。しかし、トララムは、若年層が都市人口の多くを占める同国であれば、安価で調理が簡単な食品は確実に伸びる、と信じていた。1世帯に平均5人の子供を抱える家庭で、インスタント麺は忙しいナイジェリア人の母親たちには理想的である半面、ナイジェリア人たちには奇妙でなじみのない食べ物だった。ゆえに、同社は簡単に調理できる点を強調しつつ、都市の路上や地方でメリットを訴求しつつ売り歩いた。また、サンプリングに最も力を入れ、毎週、学校に行き、インドミーのサンプルを配布、サンプルの数を年1万個から2万個、100万個、200万個、そして500万個へと増やし、子供たちが食べる機会をつくった。同社のブランドは、「ナイジェリアのどの子供にインスタント麺をあげても、それがインドミーでなければ突っ返される」ほどまで、若年層に浸透していった、と同社のオペレーションマネージャーが語っている。筆者がナイジェリアに駐在していた10年前も、インドミーはCSR(企業の社会的責任)事業と称して、学校給食向けに膨大な数のサンプルを配布していた。テレビコマーシャルにおいても、インドミーは有名な子供のタレントを起用し、そのコマーシャルはアフリカ中で展開されている。麺食文化は、財布を握る保守的な成人層ではなく、柔軟な若年層を中心に浸透していったのだ。やがて、この若年層が年齢を重ね、消費の主役となっていったということは言うまでもない。
日本の持つソフトパワーを強みに
果たして、日本企業は、どのようにアフリカの若年層に対してアプローチしていくべきだろうか。急増するアフリカの若年層には、日本のアニメをこよなく愛する日本ファンも多く、今やアフリカでもアニメやマンガを愛する「オタク」たちが各地でイベントを開催し、その規模は年々拡大している(2024年2月28日付ビジネス短信参照)。筆者が先日、エチオピア航空の幹部と面談した際にも、家族が日本のアニメの大ファンであると言っており、子供からあれが欲しい、これが欲しいと訴えられているとのことであった。影響力は子供世代にとどまらず、子供から親世代にも影響していく。日本は自身の持つソフトパワーに着目すべきだ。問題はアニメを見て、そこに出てくるラーメンを食べたい、下駄をはいてみたい、好きなキャラクターのグッズが欲しいと思っても、アフリカでは手に入らないことだ。ビジネス機会を逸している。
また、今やアフリカでも、糖尿病やがんなど「現代病」が急速に拡大している。消費者の健康志向も徐々に高まりつつある中で、緩やかに日本食の人気が拡大しつつある。ただし、現在、日本食レストランに来る客の大半は国際機関で働く外国人や観光客が中心で、アフリカ人が本格的に日本食レストランで消費するようになるにはより時間がかかるだろう。消費者のパイが十分に広がらぬままに日本の同業他社がやってきて、小さなパイを分け合っているのが現状だ。マンガやアニメなどで日本食になじみのある若年層を対象とした戦略に切り替え、時間をかけてパイを大きくしていく取り組みが必要だ。
ソフトパワーとは少し異なるが、企業の将来幹部になると見込まれる若手のエンジニアに対して、日本の技術力や日本企業に対する信頼感を醸成していくことも重要だ。2025年2月にジェトロが派遣したミッションで訪問した、アルジェリアの国営公社ソナトラックのラシッド・ハシシ最高経営責任者(CEO)は、若手のエンジニア時代に日本を何度も訪れている知日派だ。日本ファンを継続的に育成していくことが将来につながる。
アフリカの若年層は、どのような特徴を持っているか。都市に住む若年層は、農業や製造業で働くよりも、金融やIT分野などで働きたがる傾向にある。特にインターネットやSNSの恩恵を存分に受け、世界中から多くの情報を取り入れている。筆者がコンゴ民主共和国(DRC)の内陸部で世話になった家庭にも、熱狂的なアニメファンが存在した。一方で、音楽や芸術といった分野では、欧米の作品も受け入れつつも、アフリカ固有のアイデンティティも強く認識しており、映画や音楽などの独自のエンターテイメント産業が急速に伸びている。こうした分野で、日本とアフリカの持つソフトパワーの強みを生かし、ともに世界に打って出るような作品は作れないだろうか。
イノベーションで社会課題を経済成長の原動力に変える
最後に、日・アフリカ新時代の担い手として欠かせないのが、イノベーションを担う両国・地域の若手経営者らだ。アフリカは最近、ナイジェリアのマネーポイントと南アフリカ共和国のタイムバンクを加え、今やユニコーン9社を輩出する大陸となった。スタートアップ投資は、かつての勢いこそないが、今も新たな若手起業家が続々と登場する活気あふれる市場だ。日本とアフリカはこの分野で、どのように協力を深め、相互依存関係を創っていけるだろうか。筆者は、アフリカが抱える社会課題を経済成長の原動力に変えるために、「稼ぐ力」「人づくり」「街づくり」の分野でイノベーションを起こしていくことが重要だと考えている。社会課題の解決について、アフリカの現地政府頼みでは一向に事は進まない。イノベーションを起こし社会を変えることができるのは、日アフリカ双方の若手経営者らだ。
まず、経済成長に何と言っても欠かせないのが「稼ぐ力」だ。広大な土地と豊富な資源、労働力を有するアフリカは、そのポテンシャルを十分に生かせていない。日本は半導体や、はたまた1個数万円の高級果実など、技術とブランド戦略により、少ない資源から数倍の商品価値を創出し、世界で最も高い収益を実現してきた、稼ぐ力のチャンピオンだ。日本とアフリカのビジネス協力は、互いの強みを生かした高収益ビジネスを生み出す大きなチャンスとなりうると考えている。
また、持続可能な経済成長を達成するカギは「人づくり」だ。アフリカの若く有能な人材は、経済成長を支える重要な資源だ。しかし、アフリカでは教育や職業機会が不足し、若年層人口の増加が成長の足かせとなってしまっている。日本では国際競争に打ち勝つため、民間企業が独自のノウハウで、人材を磨き上げてきた。既に日系スタートアップの多くでは、アフリカ人留学生が採用され、日本人エンジニアと切磋琢磨(せっさたくま)する姿が見られるようになってきた。日本企業とのパートナーシップにより、アフリカはイノベーションの未来を担う人材の世界的な供給地となる可能性を秘めている。
3つ目は、街づくりだ。「魅力的な都市」は、ヒトとカネを引きつけ、経済成長の原動力となる。アフリカでは、人口の急増により、各地で都市化が急速に進展するが、インフラの不足は住宅、医療、教育、交通など様々な問題を引き起こしている。日本は戦後、急速な人口増加・都市化を経験し、これらの社会課題を乗り越え、東京や大阪をはじめとした魅力的な都市を生み出した。今後、電気自動車(EV)や人工知能(AI)など、イノベーションを活性化していくうえでも、魅力的な街づくりは重要な課題となるであろう。日本の経験・技術を生かすことで、アフリカの都市を成長のエンジンとして生まれ変わらせることができるかもしれない。
最後に、日・アフリカ新時代のイノベーションは、日本からアフリカに製品を輸出する、日本企業からアフリカ企業に投資するといった一方的な関係にとどまらない。共創したビジネスモデルを、日本へ逆輸入するだけでなく、東南アジア、欧州、北米などへ持っていってもいい。日本企業とアフリカ企業が平等なパートナーとして、ともに長期的な視点を持ち、世界へ打って出るビジョンを共有していくことが重要だろう。
日・アフリカ新時代を切り拓く

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ) - 2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。