アフリカの新たなビジネス潮流
日・アフリカ新時代を切り拓く(3)
2025年6月26日
日本とアフリカが新たな時代を切り拓くカギとして、本連載(1)ではアフリカのビジネスチャンピオンとの連携を、(2)では「若年層」「ソフトパワー」「イノベーション」についてそれぞれ概説した。
最後になる本稿では、3つ目のカギとして、フロンティアとして変貌するアフリカでの新たなビジネス潮流について概説する。日本にとって今後ますます重要なパートナーになりうるアフリカを見ていく。
日本企業は南アとケニアに極端に偏り
外務省の統計によると、アフリカに進出する日系企業の拠点数は2023年末時点で948だった(アフリカ・ビジネスデータ集参照)。日本企業のアフリカ進出は2013~2019年に増加したが、2022年の972をピークに、2023年は減少に転じた。日本でも徐々にネクスト・フロンティアとして注目されるようにはなってきたものの、1,000拠点は超えられていない。
拠点数が最も多いのは南アフリカ共和国(南ア)の255で、続くケニアが118、モロッコ70、エジプト65、ナイジェリア51になっている。南アには、商社や銀行・保険、そしてトヨタ自動車、日産自動車、いすゞ自動車といった自動車メーカーが進出している。ケニアには政府開発援助(ODA)に関連する企業や日本人起業家が多く、他にはトヨタ、いすゞ、ホンダなどがトラックやピックアップ、二輪車の組み立てを行っている。モロッコには欧州のサプライチェーンの一部として、自動車部品などの日本企業が数多くフランス法人などにぶら下がる形で進出しており、ほぼ欧州向けでアフリカまでは見ていないケースが多い。どの国でも、登記しただけで活動していない企業が少なくない。
ジェトロが毎年実施している海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)では、「今後の注目国」はケニア、南ア、ナイジェリアの3カ国が長年上位を占め、長らく変動がない。ケニアは東アフリカのビジネスハブや自動車、ODA案件などに注目しているとの回答が多く、長年首位だ。しかし、2024年の営業利益見込みを見ると、ケニアの黒字比率は43.3%、赤字が40.0%で、他の主要国と比べて黒字が少なく、赤字が多かった。ケニアの現状を見ると、重債務や急激な増税、それにかかるデモの頻発など進出企業にとって確かに苦しいビジネス環境にある。南アは、電力、小売、製造拠点、地下資源、重工業などの観点から注目国2位で、営業利益見込みでは黒字が81.6%と驚異的な高さを見せた。しかし、足元を見ると、過去10年間の南アのGDP成長率は0.8%と伸び悩んでいる。果たして、日本企業は今後もこのまま南アとケニアを攻め続けるだけでよいのだろうか。
ケニアや南アで、ビジネスパートナーを通じて十分に稼げていて、この先も成長が見込めるのであれば問題はない。しかし、ケニアは東アフリカ共同体(EAC)加盟国の中でも成長率は低い方だ。人口面でも、タンザニアとウガンダがケニアを大きく追い越すことが確実視されている。ケニアは域内の物流ハブとしての期待があるものの、現実的にはケニアの域内貿易は2024年減少に転じるなど決して先行きは明るくない。またEAC加盟国間は断続的に貿易摩擦状態にある。道路がつながっていても、基準認証制度や物品税の違いなど様々な理由から、EAC域内貿易の活性化は容易でない。実際、ジェトロの調査においても「自由貿易協定(FTA)・関税同盟の利用状況」について、EACの活用を検討している日本企業は13.3%にとどまる。一人当たりGDP2,000ドル、人口約5,000万人のケニア市場だけでは大きな成長は期待できないのが現実だ。
変貌するフロンティア
では、日本企業が南アやケニアに注力している間、他国ではどのような変化があっただろうか。
ケニアの隣国を見ると、タンザニアとウガンダが好調だ。タンザニアはサミア・スルフ・ハッサン大統領が2021年に就任以降、政権運営が安定している。農業が最大という点はケニアと同様だが、金やガスなどの鉱業、建設、製造業なども発展しており、産業のバランスが良い。内陸部への標準軌鉄道(SGR)やダルエスサラーム市内のバス高速輸送システム(BRT)の建設など、インフラ事業も進む。東アフリカのハブとして期待される深海港バガモヨ港の建設も近々開始される計画だ。内陸へとインフラ建設が進むその先にあるのは、人口成長の著しい大湖地域だ。その先にはさらに重要鉱物資源の宝庫、コンゴ民主共和国(DRC)が控えている。また、ウガンダも2024年にはコーヒーの輸出量でエチオピアを超え、アフリカ大陸最大の輸出国になった。域内で最も豊富な水資源に恵まれ、肥沃な土壌と人件費の低さから安価な農産物や畜産品で高い競争力を有している。また、ウガンダも、南スーダンやDRC、ルワンダ、ケニア、タンザニアに国境を接する陸のハブだ。ケニアのモンバサから入った貨物は、ウガンダで分岐して各国に輸送されている。
先日、筆者は20年ぶりにタンザニアのキリマンジャロ山の麓、アルーシャとモシを訪れた。どちらも、コーヒー栽培で有名な地域だ。大きく開かれた畑が広がり、トラクターの新車のディーラーが立ち並んでいた。ケニアでもあまり新品のトラクターは見かけないが、タンザニアでは需要が大きいのだろうか。また、「ZAMSEED」の看板も多く見かけた。ザムシードはザンビアの種苗会社で、20年前には見かけなかった新顔だ。ザンビア企業も農業分野では高い競争力を有し、国境を越えて東アフリカまで展開しつつある。
アフリカを大西洋側から見ると、米国主導でロビト回廊開発計画が進んでいる。この回廊は、(1)アンゴラのロビト港と、(2) DRC南部の鉱山都市コルウェジ、ルブンバシ、(3)ザンビアを三角形につなぐ(2024年3月22日付地域・分析レポート参照)。DRC南部とザンビアを中心に東西双方に伸びる回廊は、地域のゲームチェンジャーとして、日本企業の注目にも値するだろう。米国のトランプ政権の誕生でプロジェクトの先行きが心配されたが、重要鉱物の開発は、同政権にとっても重要性が高い。ここで同盟国として日本が関与していくことも戦略的に重要かもしれない。また、西アフリカを見ると、サヘル諸国が不安定化する中でも、コートジボワールが安定的な成長を遂げている。ほかにも、人口こそ少ないにせよ、ナミビアとモーリタニアが恵まれた再生可能エネルギー資源を生かして、グリーン水素供給地として台頭しつつある。日本が南アとケニアだけを見ている間に、フロンティアはどんどん変貌しているのだ。
もちろん、これらのフロンティアがすべて順風満帆というわけではない。タンザニアとコートジボワールでは、2025年秋頃に大統領選を迎える。ウガンダでも高齢のヨウェリ・ムセベニ大統領の今後の行方が不安視されている。DRCも東部の紛争は一時的な停戦に至っているものの、いつ再燃してもおかしくない状況だ。また、いずれの国もビジネス環境は決して良いとは言えない。
すべての日本企業がこれら市場を目指すべきと言っているのではない。ここで伝えたいのは、妄信的に南アやケニアを目指すのではなく、幅広い選択肢を検討し、その先にあるフロンティアにも目を向けて、パートナーシップを広げていくべきということだ。
ビジネスに新潮流
日本ではアフリカというと依然として貧困のイメージは強い。確かに貧困削減は思うように進んでいない。それでも、フロンティア国が変貌する一方で、ビジネスでも新たな潮流が生まれつつある。
例えば、南アのキャピテック・バンクは2001年3月創業と、比較的新しい。それでも、既にスタンダードバンクやアブサ銀行、ファーストナショナルバンク(FNB)、ネドバンクなどの古参の銀行と肩を並べ、南アの5大銀行に数えられるほどに成長した。人口約6,200万人の南アフリカで、2,400万人以上の顧客を抱える。リテールバンクとして、同国最大だ。
同行の特徴は、シンプルさ、わかりやすさ、アクセスのしやすさにある。隠れた手数料がなく、利用者が支払う金額を正確に把握できる。また、デジタル技術を生かして、アプリやオンラインバンキングを顧客が利用しやすいようになっている。各種手数料も他行と比べて最も低い水準に設定されている。南アでは、1人当たりGDPが6,112ドル(2023年、IMF)とアフリカで高い水準にある。しかし、国民の上位10%が国富の8割以上を独占。貧富の格差が世界で最も大きな国の1つだ。そのため、リテールはもうからないと言われてきた。しかし、キャピテック・バンクは低コストとシンプルさ、高利率の貯蓄口座などで、高所得者層だけでなく、幅広い層の新規顧客を獲得できた。デジタルバンクのタイムバンク(TymeBank)も、低コストで若年層を中心にこの市場に参入して急成長している。リテールがもうからないわけではなく、企業が顧客に見合った戦略をとってこなかったにすぎないようだ。
日本とアフリカの新時代を切り拓くことは容易でない。ビジネスチャンピオンやフロンティアとしてここで挙げた国々も、今は成長軌道にあってもいつ崩れたとしてもおかしくない。また若年層の拡大は、アフリカにとって諸刃の剣だ。常に柔軟性と、長期的な視野が求められる。
しかし、今や不安定さを抱えているのは、アフリカに限らない。このような不安定な時代を乗り切っていくには、パートナーが必要だ。アフリカは人口増加や資源により、日本にとって今後ますます重要なパートナーとなっていくことは間違いないだろう。アフリカと日本企業が「苦しい時の友」となれるかどうか。
これからが重要だ。
日・アフリカ新時代を切り拓く

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ) - 2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。