ビジネスチャンピオンとの連携
日・アフリカ新時代を切り拓く(1)
2025年6月25日
日本は、1993年にアフリカ開発会議(TICAD)を初めて開催して以来、アフリカの開発に深くコミットしてきた。回を重ねるごとに「援助からビジネスへ」のシフトが叫ばれるようになったが、日本企業のアフリカ投資は期待するようには伸びなかった。日本とアフリカの経済関係は今も、資源を輸入し、自動車を輸出する関係にとどまっている。日本とアフリカが新たな時代を切り拓くカギはどこにあるのか。ナイジェリアの財閥大手ダンゴテ、アルジェリアの炭化水素公社ソナトラック、世界130都市以上に就航するエチオピア航空、南アフリカ共和国のメディア大手ナスパーズなどアフリカのビジネスチャンピオンとの連携も重要なカギの一つだ。
なぜ日・アフリカ関係は停滞しているのか
ジェトロのアフリカ・ビジネスデータ集によると、日本とアフリカの貿易額は2008年をピークに増減を繰り返し、アフリカの貿易総額に占める日本の割合は、2023年時点で輸出入ともに1.4%にとどまった。ピーク時には輸出が3.1%、輸入が4.1%を占めていたことからみれば、この20年間でむしろ、貿易関係は減退してしまったといっても過言ではない。直接投資残高でみても、2022年末で日本の投資はわずか70億ドルで、2018年末の90億ドルから減少した。日本からの輸出品目で最も多いのが輸出総額の35.1%を占める自動車で、輸送用機器まで広げればほぼ6割に達している。直接投資残高でもやはり輸送機械器具が総額の37.6%を占めて最大だ。第三国からの貿易、投資も多くあり、一概には言えないが、日本のアフリカビジネスは自動車の「一本足打法」に頼っている状況といえるだろう。
では、なぜ、日本とアフリカの経済関係が期待されるように発展してこなかったのか。理由はあまたあるが、1つには、日本とアフリカが経済的な相互依存関係を築くことができなかったことにあるだろう。アフリカ経済は、内戦や紛争、貧困、そして低成長から、かつて「絶望の大陸」と呼ばれていた。それが2000年代初頭に中国が急速な成長を始めると、その急増する資源需要をアフリカが供給地として支えることで、アフリカ経済も急速な成長を始めた。資源マネーが内需を喚起、中間層をつくりだし、そこに低廉な中国製品がなだれ込んだ。また、地方と都市、内陸部と沿海部を結ぶインフラも、中国が資金・技術を出して整備した。かつて日本が東南アジアに対して資金・技術を提供し、その成長とともに日本も成長を遂げたのと同じような経済的な相互依存関係が中国とアフリカの間にもあったが、日本とアフリカの間には築かれなかった。
しかし、東南アジアでの日本のプレゼンスが徐々に低下しつつあるのと同様に、アフリカと中国の関係も変化しつつある。アフリカは重債務や多くの国での成長率低迷で、インフラや低廉な製品を輸出するだけでは、親密な関係を保つことが難しくなってきた。もはや中国はアフリカにとって唯一無二のパートナーではなく、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった中東諸国も入ってきた。中国もアフリカと新しい関係を模索する必要が出てきている。
このような変化の下、日本はどのようにアフリカに取り組んでいくべきか。中国の後を追い、ただ安い製品を作ってアフリカで売ればよいというわけではない。アフリカ経済は、新型コロナウイルス感染拡大と、ロシアによるウクライナ侵攻などといった度重なる外的要因と、アフリカ各地での紛争による疲弊や重債務などの内的要因の双方から、足腰が弱り、弱体化している。かたや日本も貿易赤字国となり、高齢化が影を落としている。日本とアフリカの関係も、現状と今後を冷静に見定め、もう一度、白紙から戦略を考え直すべき時だ。
国家支えるアフリカのビジネスチャンピオン
日本とアフリカの新時代を切り拓く1つ目のカギは、アフリカのビジネスチャンピオンとの連携だ。外的要因と内的要因の双方から足腰が弱り、弱体化しているアフリカ経済だが、たくましく成長を続け、国家をも支えるチャンピオンが存在している。その成長は国別のGDP成長率では測れない。
その代表例がナイジェリアの財閥大手ダンゴテだ。1981年にアリコ・ダンゴテ氏がコメの輸入商として創業、1990年代にはテキスタイルや製粉、製糖など製造業に進出し、1990年代後半には建設ブームを見越して、セメントの国内生産に踏み切った。さらに、2013年には、有数の産油国でありながら石油製品はほぼ全量を輸入に頼る状況を打破すべく、日量65万バレルの生産能力を持つ世界最大規模の製油所の建設計画を発表した。その後、10年かけて2023年末についに生産開始に至った。ダンゴテは一代で、セメント、砂糖、塩、石油ガスなど幅広いビジネスを展開するコングロマリットとして、アフリカ17カ国に展開するアフリカの代表的企業に成長した。
ナイジェリアは人口2億人を超えるアフリカ最大の国だが、過去10年間の平均成長率は2.0%と振るわない。為替の大幅な切り下げや、それに伴う高インフレに苦しんでいる。製造業を誘致しようにも、外貨不足や電力・港湾などのインフラ不足、汚職など、厳しいビジネス環境を挙げればきりがない。しかし、このような環境下でも、ダンゴテは人口増加が生み出す内需を的確に捉え、成長を続けてきた。政府や輸入商の既得権益を1つずつ打破し、政府を味方につけて、輸入代替化政策などで有利な局面を作り、内需を取り込んで成長してきた。アフリカの成長する内需を体現するチャンピオンとなった。
アルジェリアの炭化水素公社ソナトラックも、アフリカ最大の売上高を誇るチャンピオンだ。2025年のアフリカ・レポートの売上高ランキングでは、ソナトラックは709億ドルで、アルジェリアのGDPの3分の1を占める。同社は同国での化石燃料の継続的な開発と同時に、将来的なグリーン水素生産に向けて、ドイツやイタリアなどと協力して、実現可能性調査を進めており、事業化に必要な技術導入を狙い、外国企業と相次いで提携している。同社はアフリカで最初の石油メジャーとも呼ばれており、マリ、ニジェール、リビア、チュニジア、ペルーで採掘を行うほか、2019年にはエクソンモービルの子会社からイタリアの製油所を買収するなど、海外展開にも積極的に乗り出している。アルジェリアもナイジェリアと同様に、過去10年間の平均成長率は2.2%にとどまる。さまざまな規制や汚職などがあり、ビジネス環境は過酷だ。外的要因でみても、資源価格や欧州のグリーン水素需要の不安定さを抱えている。そのような中でも成長を続けるソナトラックもまた、真のチャンピオンといえるだろう。
新型コロナ禍で世界の航空会社が不調に苦しむ中、路線を急速に増やし、以降も急成長を続けているのが、エチオピア航空だ。かつてのライバルだった南アフリカ航空やケニア航空が経営不振に陥る中、ネットワーク拡大を続け、国内22都市、アフリカ60都市、その他世界全体で合計136都市に就航している。アフリカナンバーワンであることはもはや明らかで、同社の視線の先にはドバイのエミレーツ航空や、カタール航空が見えている。年間1億1,000万人規模の旅客に対応する新空港の建設を発表し、2029年のオペレーション開始を目指すなど、さらなる高みを目指している。
南アフリカ共和国のメディア大手ナスパーズも、分野がまったく異なるチャンピオンだ。もとは1915年に創業された出版社だが、1980年代以降、有料テレビ放送に参入し、1995年にマルチチョイスを設立した。マルチチョイスは衛星放送でアフリカ全土に進出し、ナンバーワンとなった。その後もインターネット普及に合わせて、動画ストリーミングサービスのショウマックスを2015年に立ち上げ、アフリカのクリエーターを多く起用したコンテンツを配信するなど、積極的な展開をしている。また、1990年代後半からインターネットサービスプロバイダー事業を開始し、電子商取引(EC)事業にも参入した。2001年には中国のテンセントに出資したことで世界の注目を集めた。現在も、南ア最大のオンラインショッピングサイトTakealotなど、多種多様なECを手掛けている。このほか、エドテック(注)や人工知能(AI)などのテック分野で積極的な投資をしている。今や世界100カ国以上で展開し、同社の製品・サービスを利用する消費者は20億人を超える世界最大級のテック企業の1つとなった。
南アの政治経済は、長年の低成長や、ロシアのウクライナ侵攻に対する外交姿勢、米国のトランプ政権とのあつれきなどで、難しい状況が続いている。ナスパーズは、インフラで世界から大きく劣るアフリカで実績を着実に積み上げた。逆境下でも、グローバルに活躍するテック企業にまで上り詰めたアフリカのテックチャンピオンだ。
ビジネスチャンピオンとの協業の可能性
前述に挙げたチャンピオンに共通しているのは、各国の経済の根幹をなしつつも、その経済状況にかかわらずに成長を続けていること、また、各国の外交スタンスにかかわらず、幅広い国々の企業とのパートナーシップによって事業を拡大していることだ。ソナトラックは世界的な脱炭素の潮流でグリーン水素に取り組み、エチオピア航空はコロナ禍で競合が路線を減らす中でむしろ路線を拡大、ナスパーズはECでコロナ禍の引きこもり需要を味方につけて成長してきた。アフリカでは、まさに「コイの滝登り」のように逆境にあらがい、時にはそれを利用して成長を続けるビジネスチャンピオンが次々と誕生している。ナスパーズは既にグローバル企業だが、国境や地域を軽々と越えていく真のグローバル企業がアフリカから誕生しつつある。
では、これらのチャンピオンにとって、日本はどのように映っているだろうか。前述のとおり、チャンピオンは必ずしも国籍でパートナーを選ばない。純粋にビジネスパートナーとしてウィンウィンの関係が構築できるかがポイントとなる。ジェトロの石黒憲彦理事長が2025年1月にナイジェリアで前述の財閥ダンゴテ創業者アリコ・ダンゴテ氏と面会した際に、先方から「日本企業は相手の懐に深く入り込め」との示唆があった。同社の製油所にも一部、日本企業の技術が使われているが、日本はいつまでもアウトサイダーで、懐に入って長期的な関係を構築しようとしないというイメージを持っているようだ。同じく、2025年2月にジェトロが実施したアルジェリアミッションでも、ソナトラックのラシッド・ハシシ最高経営責任者(CEO)から、日本企業にはアグレッシブであってほしいとの発言があった。
多くの日本企業では、各国のGDP成長率やビジネス環境が投資判断の指標となっており、国内に紛争地域があるからNGといった「一部が全部」の判断も多く聞かれる。また、米中対立など地政学的な要素から、南アやエチオピアはBRICS加盟国だから難しいなど、ビジネスでも過剰に萎縮してしまっていないだろうか。こうした見方から、ビジネスチャンピオンとの協業を逃していることもあるかもしれない。前述のとおり、チャンピオンの動きは各国の成長率や外交スタンスとは軌を一にしていない。アフリカでは、国ではなく、もっとパートナーを見て、相手の懐に深く入り込んでビジネスをしていくことが重要だろう。
- 注:
- エドテックとは、教育とテクノロジーの英単語を組み合わせた造語で、教育分野にイノベーションを起こす企業やビジネスの総称。
日・アフリカ新時代を切り拓く

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ) - 2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。