需要掘り起こすテレビ通販
タイの日用品・ライフスタイル市場(1)

2023年1月25日

国家経済社会開発委員会(NESDC)によると、タイの1人当たりGDP(2020年)は22万4,962バーツ(約88万円、1バーツ=3.9円)にとどまる。一方で、日系企業が集積する東部ラヨーン県では83万1,734バーツ(約324万円)、バンコク首都圏で58万5,689バーツ(約228万円)だ。このように、一部のエリアでは日本の地方都市と同等か、それ以上の購買力に育っている。日本製品の輸出市場として、タイの魅力が増してきたと言えるだろう。

そうした中、現地バイヤーへのインタビューを通じ、タイの日用品・ライフスタイル関連市場のトレンドを追った。シリーズ第1回は、テレビショッピング。新型コロナ対策により実店舗での販売が制限されていた時期に、eコマースとともに、販売プラットフォームとして注目度を高めた。市場の変遷と主要事業者の動向を見ながら、人気商品や今後のニーズについてまとめた。

テレビショッピング市場が10年で3倍超に

テレビショッピング市場規模は2011年に約52億バーツだったのに対し、2021年には約168億バーツに拡大した。この10年で3倍以上に拡大したことになる。その背景には、外資企業の参入と地上デジタルテレビ放送の開始がある。

2011年には韓国の通販大手CJOショッピングとGSショップが、2013年に日本のジュピター・ショップ・チャンネル(注1)が、それぞれタイの通信、メディア、小売りの大手企業との合弁でテレビショッピング事業を開始した。いずれも衛星・ケーブルテレビのネットワークに、24時間の専門チャンネルを開局。それまで、地場企業TVダイレクトによる独占状態だった市場に競争を促し、業界の活性化につながった。

また、2014年にはタイで地上デジタルテレビ放送が始まった。これに伴い、チャンネル数が従前(アナログ放送)の6局から26局に急増した(注2)。一方、新規参入した放送局は、コンテンツと広告の確保に苦慮した。この2つを同時に解決する手段として、テレビショッピングの放送が増加したかたちだ。

現在、タイのテレビショッピングは、自動車メーカーや飲料メーカーと肩を並べる広告主になっている。タイの企業別広告支出ランキング(2022年1~8月、米国調査会社ニールセンが発表)では、モノ・ショッピングとGMMオーショッピングの2社がトップ10にランクインした(表1参照)。

表1:企業別広告支出ランキング(2022年1月〜8月)(単位:100万バーツ)
順位 企業名 業種・分野 金額
1 ユニリーバ 一般消費財 2,454
2 ネスレ 一般消費財 1,955
3 P&G 一般消費財 1,564
4 マス・マーケティング 一般消費財 1,344
5 モノ・ショッピング テレビショッピング 1,155
6 コカ・コーラ 食品 976
7 トヨタ 自動車 942
8 GMMオーショッピング テレビショッピング 904
9 首相府 政府 898
10 いすゞ 自動車 892

出所:ニールセン

業界成長を期し主要企業が連携

タイには現時点で、50社を超えるテレビショッピング事業者が存在すると見られる。その中で、24時間専門チャンネルを持つ事業者は5社に絞られる(表2参照)。主要事業者と言うことができ、それぞれの特徴は以下の通りだ。

  • TVダイレクト:1999年に設立。長くタイのテレビショッピング市場を牽引してきた。健康器具やホーム&リビングの分野に強い。
  • トゥルー・ショッピング:(1)トゥルー・ビジョンズ(衛星・ケーブルテレビネットワークのタイ大手)、(2)CPオール(当地セブン-イレブンの運営事業者)、(3)ザ・モール・グループ(百貨店大手)、(4)GSショップ(韓国企業)の4社による合弁。化粧品やファッション製品の販売に強みがある。
  • GMMオーショッピング:GMMグラミー(衛星テレビネットワーク「GMM-Z」を保有)とCJOショッピング(韓国の通販大手)の合弁。サプリメントの販売比率が高い。
  • ショップチャンネル:サハグループ(タイの財閥)とジュピターショップチャンネル(日本企業)との合弁で設立された(現在は100%タイ資本)。
  • JKNハイショッピング:JKNグローバルメディア(映像コンテンツ配給)と現代ホーム(韓国企業)の合弁で2022年8月にスタートした。
表2:主要テレビショッピング事業者
事業者 資本構成 売れ筋商品
TVダイレクト タイ ホーム&リビング、健康器具
トゥルー・ショッピング タイ、韓国 化粧品、ファッション
GMMオーショーッピング タイ、韓国 サプリメント、ファッション
ショップチャンネル タイ ジュエリー、ファッション
JKNハイショッピング タイ、韓国 家電、食品、ファッション

出所:タイTVホームショッピング協会へのヒアリング

これら5社は全て、テレビショッピング協会(注3)のメンバー企業だ。協会を通じて、各チャンネルのヒット商品を交換して販売したり、販売データを共有したりしている。また、2021年にはトゥルー・ショッピングとショップチャンネルが、共同でジュエリー専門の「ショップナウ」という新チャンネルを設立した。こうしてみると、これら5社は単なる競合ではない、むしろ、異なる顧客層や主力商品を持つ主要企業が、業界を共に成長させるパートナーとして連携していると理解できる。

韓国勢が目立つ中、日本の商品も根強い人気

これまで見た通り、主要5社のうち3社が韓国系企業ということになる。これらチャンネルでは、化粧品、日用雑貨、下着、ファッション製品、家電などで、韓国の商品が数多く販売されている。最近のテレビショッピングのヒット商品を見ても、化粧品、サプリメント、フライパン、調理家電、ダイエット器具、ファッションなど、韓国勢の強さが目立っている。

そのような中、ショップチャンネルでは日本資本が抜けた現在でも、日本の商品を積極的に販売している。ダイヤモンドやアコヤ真珠の日本製アクセサリーなど高額商品を扱っているのも大きな特徴だ。もう少し汎用性のある商品でも、履き心地の良いストレッチ素材の日本製パンツ(2,000~4,000バーツ)の売れ行きは爆発的だ。1人で4〜5本購入する顧客もいるという。日本のメーカーの社長が番組に直接出演し、丁寧に商品を説明したことで、徐々に人気が広まった例でもある。

タイのテレビショッピングには、韓国産品があふれる。とはいえ、日本の商品にも根強いニーズがあると見てよさそうだ。そのキーワードは、「レア(珍しい商品)」で「リミテッド(限定商品)」、そして商品に「クオリティ」と「ストーリー」があること。既に市場にある商品とは明確に差別化できることも、大切な条件になるだろう。

現役世代の新たなニーズを掘り起こす

ショップチャンネルの最高経営責任者(CEO)でテレビショッピング協会会長も務めるソラチョート・アムパンウォング氏は、電子商取引(EC)が急成長する中でも、タイのテレビショッピング市場にまだ成長の余地があると見ている。現在の主な客層は団塊世代とX世代(表3参照)で、テレビの視聴時間が長い。これら世代には、健康をキーワードにした商品に需要が見込めるという。

また、40歳以下のY世代向けの商品を投入することで、新たなニーズと顧客層の掘り起こしも目指している。具体的には、働く現役世代向けのサプリメントや電子機器だ。また、20代のZ世代向けには「My First Jewelry(初めてのジュエリー)」というコンセプトで、低価格アクセサリーやファッション製品を提示。これらを「テレビだけでなく、オンライン、ソーシャルメディア、実店舗で販売するオムニチャンネルを目指している」と語った。

表3:世代の定義
世代 定義
Z世代 2001年以降生まれ
Y世代 1981年〜2000年生まれ
X世代 1965年〜1980年生まれ
団塊世代 1946年〜1964年生まれ

出所:タイ電子取引開発機構(ETDA)

タイ市場を目指す上では現地規制に要留意

テレビショッピングを通じてタイ向け輸出を目指す上では、留意点もある。

まず、テレビショッピングでは多くの場合、委託販売になるため、タイ国内に輸入代理店があることを条件とする事業者が多い。

また、輸入規制や現地の規格への適合が必要な商品もある。例えば、化粧品はタイ国食品医薬品承認局(FDA)の輸入許可が必要となる。石鹸(せっけん)や歯磨き粉も同様だ。肌に直接塗布する化粧雑貨(美容マスクなど)も、FDAの審査対象になる。

電化製品、玩具、プラスチック食器、一部のベビー用品などは、タイ工業規格(TIS)の取得が求められる。健康器具や介護製品には医療機器とみなされる製品があり、医療機器の輸入制度に対応する必要がある。


注1:
2022年12月現在は100%タイ資本。
注2:
2022年12月時点では15局まで減少。
注3:
TV Home Shopping Association (Thailand)。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所