化粧品は健康志向へ
タイの日用品・ライフスタイル市場(3)

2023年1月25日

タイ人は、男女問わず美意識が高い。外見を整えることに非常に気を遣う国民と言える。そのため、スキンケア、メイク、ヘアケア、オーラルケア、衛生用品、フレグランスなどの市場が、安定的に成長してきた。

しかし、とくに化粧品市場は、新型コロナ禍により大きな打撃を受けた。その要因とコロナ禍収束後の新たなニーズを探り、日本の化粧品の可能性を考える。シリーズ第3回。

コロナ禍の影響で市場が大幅に縮小した可能性

ユーロモニターによると、タイの化粧品・パーソナルケア製品市場は、2013年時点で1,250億バーツ(約4,875億円、1バーツ=約3.9円)規模だった。そこから年平均8%で拡大し、2019年には2,180億バーツになった(図参照)。

しかし、そこで新型コロナ感染が拡大。右肩上がりに成長していた市場が足止めされたかたちだ。地場化粧品メーカーのカーマートは、「2021年の化粧品市場は前年比12%程度縮小した」と見ている。

図:化粧品・パーソナルケア商品市場規模(単位:10億バーツ)
市場の規模は2013年の1,250億バーツ(約4,875億円、1バーツ=約3.9円)から年平均8%で拡大し、2019年には2,180億バーツとなった。

出所:ユーロモニター

「ビューティー・ビュッフェ」は、当地で化粧品専門店として最大手だ(新型コロナ前まで274店舗を擁し最多)。しかし、コロナ禍により、2021年末までに50店舗に減少。従業員も1,200人から200人へ、大幅削減を余儀なくされた。日系のドラッグストアについても同様だ。その中には、2021年に店舗数が半減したケースもある。

2022年4月3日付の当地経済紙「ターンセタキット」は、「タイの化粧品・美容市場規模が今後5年間、1,500億バーツを下回るのではないか」という業界関係者の見方を紹介した。この記事では、コロナ禍により最も売り上げが減少したカテゴリーとして、高級ブランドと輸入化粧品を挙げた。この点、「いずれもコロナ禍前に比べ50%以上の売り上げ減になった」という。

インバウンド減少も販売減要因

コロナ禍で特に打撃を受けた化粧品・パーソナルケア商品が、高級品ないし輸入ブランド品だ。こうした商品は、売り上げが半減したと言われる。

ジェトロの「2019年度 タイにおける化粧品・パーソナルケア商品市場調査」によると、当該市場で販売されている日本産品は、(1)カウンターブランドと言われる高価格帯が10ブランド、(2)ドラッグストアやスーパーで販売されているものが83ブランドある。いずれも、高級・輸入ブランドに該当する。実際、日本の化粧品を扱う輸入代理店A社は、2020〜2021年の売り上げがコロナ禍前に比べ半減したという。A社が扱うのは、主にドラッグストアなどで販売する化粧品や日用品だ。コロナ禍によって、外出が減り在宅勤務が常態化した。そのことで、メイク商品だけでなく、それに付随するクレンジングやヘアケア商品も同様に販売減になったという。

また、コロナ禍下での化粧品販売減少の大きな要因として、多くの業界関係者が「インバウンド不振」を挙げている。特に中国人観光客の流入が途絶えた影響が、大きかったようだ。タイで展開する日系ドラッグストアB社によると、中国人観光客は化粧品だけでなく、シャンプーやボディーソープなど重くかさばる商品も購入。売り上げ全体の中で大きな割合を占めていた。

この点、2023年前半には、中国からの観光客が戻ると見られている。その市場回復に、業界の期待は大きい。

コロナ禍後に求められる商品とは

では、市場回復が期待されるポスト・コロナ期には、どのような商品が求められるのだろうか。

タイは、既に高齢社会に入っている。アンチエイジングやホワイトニングは、今や最も大きな商品セグメントだ。また当地では2018年に、微細粉塵(ふんじん)PM2.5による大気汚染が深刻化。汚染された大気から肌を守るアンチポリューション化粧品や、天然由来成分のスキンケア商品などの人気が高まった。

このような状況から、当地化粧品業界では現在、「クリーンビューティー」が注目キーワードの1つになっている。新型コロナを契機とし、人々は以前にも増して健康意識を高めてきた。在宅勤務でパソコン画面に向かう時間が長くなり、ブルーライトまでカットする日焼け止めや化粧下地の販売も好調だ。アロマ製品や入浴剤など、自宅で使用するセルフケア商品も伸びている。オーラルケア商品も、期待できる。審美歯科クリニックが近年増加してきたことは、その期待の裏付け材料だ。実際、プレミアム価格帯の歯磨き粉が数多く市場に投入されている。いずれも単なる美容だけでなく、消費者が健康や清潔といった要素をも求めていることが理解できるだろう。

また、男性用コスメも好調だ。韓国ファッションの影響で、タイ人男性の美容への関心が高まった。スキンケアだけでなく、メイク商品も注目されている。

「憧れの日本ブランド」は過去、SNS発信などで知名度向上を

女性用化粧品でも、韓国の存在感は大きい。特にドラッグストア価格帯のトレンド商品は、韓国コスメが中心だ。コロナ禍前に日本コスメのコーナーがあった店舗でも、現在は韓国コスメに変わっていることが多い。日本に憧れを抱き、ドラマや音楽など日本の文化に親しんだ世代は、既に50代が中心だ。ドラッグストアでの購入層は、韓国ドラマとK-POPで育った20代〜30代に主力が移ってしまった。

前出の日系輸入代理店A社の代表は、「日本製だから品質が良いと威張っていられる時代ではない」と、危機感をあらわにしている。また、コロナ禍で、日系百貨店として長年存在感を示してきた伊勢丹と東急、さらには化粧品専門店のアットコスメが閉店した。すなわち、専属の従業員が対面で商品説明をする高額化粧品の売り場がなくなってしまったわけだ。こうしたことも、日本ブランドには痛手だ。

日本ブランドの販路が少なくなる中、オンラインに活路を見いだす企業も多い。事実、A社は、新型コロナを機に電子商取引(EC)市場に参入。現在では実店舗数軒分の販売をあげているという。既存商品の販路としてはもちろん、新商品のテスト販売の場としてもECは適している。また、ドラッグストアでは販売できないような高額商品も、オンラインでなら販売可能になることもあるという。

ニールセンによると、タイのEC市場は2022年までの3年間で2.9倍に成長した。その中で化粧品は、ファッション製品に次いで販売額が多い商品分野だ。これは、当然ながら競合も多いことも意味する。EC販売を伸ばすためには、InstagramやTikTokなどSNSを用いて情報発信し、そうした活動などを通じ知名度を向上させていくことが重要になる。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所