高級和食店に食器のニーズ
タイの日用品・ライフスタイル市場(4)

2023年1月30日

新型コロナウイルスによる影響が顕著だったタイの外食産業だが、ジェトロの調査によると、タイの日本食レストランの店舗数は前年比21.9%増の5,325店に増加するなど、引き続き日本食の人気は高い状況だ。さまざまなジャンルの日本食レストランがオープンする中、富裕層向けの高級店の登場により、日本製の食器に商機が訪れている。特に高級和食店では、「おまかせ」というコースが流行し、メニューによって使用する食器を変える必要がある。また、他の店とは違う独創性のある食器を選ぶことも重要な差別化になるためだ。タイの日用品・ライフスタイル市場のトレンドを探るシリーズ、第4回はキッチン用品・テーブルウエアに焦点を当てる。

和食店向けにワンストップで販売できる店づくり目指すタイ企業

バンコク北部にあるドンムアン国際空港から車で10分、和食器や調理器具の販売店の「ビーシェフ(BeCHEF)」がある。店内には、和食のイメージに合う食器や酒器、土鍋などが所狭しと並べられている。


さまざまな食器が並ぶビーシェフの店内(ジェトロ撮影)

ビーシェフを運営するのは、レストラン向けにテーブルウエアを販売するブラザーJというタイ企業だ。陶器をメインに、ガラス、金属食器、カトラリー、さらには厨房(ちゅうぼう)機器、調理器具も扱っており、品数は6,000品目を超える。2015年の設立以来、和食レストラン向けにワンストップで商品を提供できる販売店を目指している。

ビーシェフの主な販売先はレストランとホテルで、特に和食レストランが80%を占める。レストランのオーナーやシェフが来店し、直接買い付けていくという。和食はメニューによって使用する器が大きく違うため、レストランから質問を受けたり、特定のメニューに合う器を探したりすることもあるという。

同社が扱う食器も調理器具も、全て和食レストランで使用されることを想定した製品ばかりだが、その多くは中国やベトナムから輸入したものだ。同社では日本製品の取り扱いはまだ少ないが、徐々に増えており、今後も増やしていく予定だ。日本からの輸入を増やす背景には、後段で説明するような、タイの和食店からのニーズの変化があるという。

オリジナリティー求めるおまかせ店

タイの日本食ブームは2000年前後に始まり、「フジ」「ゼン」「オイシ」などの地場のファミリー向けレストランがその先駆けとなった。ブームは一過性にとど留まらず、当初は日本食全般を販売する店が多かったが、徐々に寿司、お好み焼き、カレー、麺類などの専門店も増加。ジェトロの「2022年度タイ国日本食レストラン調査(2022年12月)PDFファイル(398KB)」では、タイの日本食レストラン店舗数が初めて5,000店を超えた。

ここ数年、タイでは富裕層向けの高級和食店が増加している。カウンターだけの小さな店が多く、決まったメニューが少ないのが特徴だ。その日の仕入れ状況によって内容が変わるコース料理や、素材を選んでから板前にお勧めの調理法(メニュー)を聞いて注文するといったサービスが登場している。このような和食店をタイでは「おまかせ店」と呼んでいて、近年その数を増やしている。メニューが高級になるほど、調理器具や器も専用のものが必要になってくる。おまかせ店では高級な料理に合うオリジナリティーある食器が求められており、ここに日本製品の需要があるという。


高級店などが買い付ける日本製の食器(ジェトロ撮影)

小ロットに対応できるかがカギ

高級和食店では特別な食器を求める傾向があるものの、価格面で折り合わないこともある。ビーシェフの担当者は「そこは価格次第だ」と明言する。「日本の食器はオリジナリティーにあふれ、品質が高いものが多いが、タイの業者が手の届く価格帯の商品が求められている」という。

そのためには、日本のメーカーから直接仕入れる必要があるが、日本の陶磁器の産地では、組合や複数の指定問屋を通さないと購入が難しいこともあり、物流コストと併せて仕入れ価格が許容範囲を超えてしまうことが多い。また、おまかせ店の増加に伴って高級食器へのニーズは高まっているが、おまかせ店の多くは1店舗のみのため、売れる数量は多くないということも留意が必要だろう。日本製食器のタイ市場での販売には、価格面での調整と、小ロットへの対応可否がカギとなると思われる。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所