急成長するペット関連市場
タイの日用品・ライフスタイル市場(8)

2023年3月14日

タイは出生率が低下する中で、ペットの飼育数(犬猫の飼育登録数)が増加している。市中にはペット用品専門店が増え、関連商品やサービスは大きな成長分野となっている。2021年のタイのペット関連の市場規模は約446億バーツ(約1,784億円、1バーツ=約4円)。5年後の2026年には50%拡大し、約667億バーツになると予想されている。タイの日用品・ライフスタイル市場のトレンドを探るシリーズ、第8回はペット用品に着目する。シリーズ最終回。

増加するペット用品専門

バンコク中心部から西にチャオプラヤー川を渡って車で30分。かつては開発が遅れていたエリアも、バンコク市内と高架鉄道で結ばれ、コンドミニアムなどの住宅開発が進んでいる。この新興住宅地を貫く幹線道路沿いに、都内に10店舗を展開するペット用品専門店のペットモール(タイ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます がある。2019年にオープンしたこの店舗では、フード、ケア用品、おもちゃ、アクセサリー、ハウスなどの販売をはじめ、ペット用薬局やペットクリニック、ペットサロンも併設している。


クリニックなどを併設したペットモール(ジェトロ撮影)

タイは現在、ペットブームに沸いており、こういったペット用品専門店がベッドタウンや幹線道路沿いに増加している。ペットモールをはじめ、ペットラバーズセンター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (20店舗)、ペタペット(タイ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (7店舗)など、広い売り場を持つ独立店が多いのも特徴だ。2021年には、タイ小売業最大手のセントラルがペット市場に参入。グループが運営するショッピングセンターにペットアンドミー(タイ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (5店舗)をオープンしている。また、ペットサロンも増加傾向にあり、2022年には日本の有名ペットサロンも進出している。さらには、ペットフードの自動販売機も登場した。市場やマスメディアでは、ペットを消費者に見立て、ペット(Pet)と消費者(Consumer)を合わせた「ペットシューマー」なる造語まで使われるようになっており、タイのペット市場の勢いが窺える。


最多店舗数のペットラバーズセンター(ジェトロ撮影)

ペットフードの自動販売機(ジェトロ撮影)

ペット市場は高成長分野

ユーロモニターによると、2021年のタイのペット関連の市場規模は、製品・サービスが39億5,400万バーツ(約158億円、1バーツ=約4.0円)、ペットフードが406億3,800万バーツとなった。なお、タイ商務省では、今後のペット市場の成長率を年8.4%とし、5年後の2026年には、製品・サービスが62億5,300万バーツ、ペットフードが604億9,500万バーツになると予測している。


ペットフード専門店(ジェトロ撮影)

子供の代わりに、ペットを育てる世帯が増えている。タイの特殊出生率は約1.4人と低迷しており、日本とほぼ同等の水準になっている。他方、犬猫の飼育登録件数は急激に増加している。2022年にマヒドン大学(注)が行なったペットに関する調査では、ペット所有者の80%以上が独身で、49%が子供を持つ代わりにペットと暮らす「ペットペアレント」だという。子供を持たない夫婦が、ペットを実の子供のように大切に育てている姿は珍しくない。

キャットハウスが人気のブランド

従来、タイでは犬の人気が高かったが、最近は猫の人気が急上昇している。現在、犬猫の飼育数は同じくらいの比率だが、人気やトレンドで言えば猫となる。段ボール素材のキャットハウスが人気のブランド「カフボ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」に話を聞いた。同社は、段ボール製造工場を営んでいたが、2013年に段ボールを素材としたペット用爪研ぎを開発。その後、キャットハウスやアクセサリーなど、製造アイテムを増やしてきた。販売商品の80%が猫用の商品で、おもちゃなどの一部商品は輸入している。

自社製ダンボール素材のキャットハウスは、オンラインのみで販売を始めたが、ソーシャルメディア(SNS)で人気が広まり、現在は主なペット用品専門店でも販売されており、人気のアイテムとなっている。社長のクワンチャノック・アモーンタナヌバン氏によると、コンドミニアムに住む人が増えたこと、散歩が不要でトイレや餌の手間がかからないことが、猫の人気を後押ししているという。また、猫好きのコア購買層は、大学新卒から30代前半の一人暮らしの女性で、品質はもちろん、商品のデザイン性や写真映えなどを重視しているという。


カフボの段ボール素材のキャットハウス(同社提供)

高付加価値の商品を求める市場、SNSでの情報発信が必須

カフボには顧客からの様々なニーズやリクエストが届けられるが、その中でも特に多い商品が、スナック、キャリーバッグ、睡眠マット(ベッド)についてだという。スナックやフードは市場に多くの商品があふれているものの、ペットを家族のように扱う飼い主は、常に新しいものを探している。特に健康や安全をキーワードにした商品が求められている。キャリーバッグは、中国製の安価な商品(2,000円弱)が多い中で、デザインが良ければ、倍以上の価格でも許容できるという。

ペットラバーズセンターでは、アクセサリーでは飼い主が一緒に遊べるおもちゃ、フードでは毛並みや毛艶を良くする成分の含まれる商品が人気だという。同店のスタッフは、最近の傾向として、今までと違う商品や、特別な付加価値がある商品を探す飼い主が多いと感じている。市場にあふれる商品と差別化を図った、高付加価値な商品が求められている。

先のマヒドン大学の調査によると、ペット用品に関する情報の入手元は、SNSが39.8%、クチコミが28%、インターネット検索が22.3%の順となっている。タイでは、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSの利用率が高い。企業が公式ホームページの代わりに、フェイスブックの公式ファンページを設けるケースも珍しくない。タイのペット市場に参入を検討するのであれば、あらかじめSNSでの情報発信、できれば英語での情報発信はしておきたいところだ。


注:
1943年にタイ初の医科大学として設立されたタイの国立大学。現在は総合大学。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所