アウトドアが新型コロナで定着
タイの日用品・ライフスタイル市場(5)

2023年2月21日

新型コロナウイルスにより、特に集団による室内での娯楽が忌避される中、タイでも、アウトドアの人気が高まっている。この数年、アウトドア用品の主要販売企業の売り上げが拡大している。日本と異なり、1人のソロキャンプは人気がない一方、手軽に豪華なキャンプを楽しむ「グランピング」や、より本格的に、自然の中で手に入る木を活用して道具なども作る「ブッシュクラフト」が注目されつつある。タイの日用品・ライフスタイル市場のトレンドを探るシリーズ、第5回はキャンプ・アウトドア用品に焦点を当てる。

大型アウトドア専門店の登場

バンコク都心から離れ、チャオプラヤー川を渡った住宅街の一角に、アウトドア関連商品を販売するメガストアがある。倉庫を改築した2,500平方メートルの売り場には、テント、シュラフ(寝袋)、調理器具、バックパック、シューズなど、全て国外ブランドの商品が並べられている。


大型アウトドアショップ「アウトドア・ボタニカ」(ジェトロ撮影)

運営するのは、アウトドア用品を輸入販売する地場企業エレメント72外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます だ。同社は「KEEN」「STANLEY」「YETI」「GRAMICCI」「KELTY」など30以上のアウトドア関連ブランドの輸入代理店で、全国に56カ所の売り場を持つ。この大型店は、新型コロナ禍で商業施設が閉鎖されたため、一時的なショールームとして活用したところ、顧客から好評だったこともあり、常設メガストア「アウトドア・ボタニカ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」として運営することになった。新型コロナ禍で行動が制限される中、アウトドア人気は以前より高まり、都心にある高級デパートのエンポリアム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 内に2号店も出店している。新型コロナ以前、アウトドア用品はスポーツ用品売り場の一部でしか取り扱っていないケースが一般的だったが、現在は独立した店舗が出せるほど人気が高まったと言えよう。


高級デパート内にオープンした「アウトドア・ボタニカ2号店」(ジェトロ撮影)

新型コロナがアウトドア市場拡大を後押し

新型コロナ禍でアウトドア市場はどれほど拡大したのか。市場規模の推移を示す具体的なデータはないが、幾つか参考となる資料を基に類推は可能だ。図1はタイ国内で「キャンプ」というキーワードがどれだけ検索されたかを示すグラフだ。タイは乾季となる12月にキャンプシーズンのピークを迎えるが、新型コロナ発生後の2020年以降はそれまでの約3倍の検索人気度となっている。新型コロナによりタイ人のライフスタイルに変化が起こり、アウトドア人気を後押ししたことが見て取れる。

図1:「キャンプ」の検索人気度
タイは乾季となる12月にキャンプシーズンのピークを迎えるが、新型コロナ発生後の2020年以降はそれまでの約3倍の検索人気度となっている。

注:キーワード「キャンプ」、エリア「タイ」。
出所:グーグルトレンドからジェトロ作成

図2は、アウトドア用品の主要販売企業3社の売り上げ合計値を示している。2021年は約12億バーツ(約48億円、1バーツ=約4円)と、2017年から約12倍に増加しており、新型コロナ発生直前の2019年から見ても、約2.3倍に拡大している。人々の行動が制限され、特に室内での集団の娯楽が忌避される中、アウトドアの人気が高まり、単に注目されるだけでなく、実際に「モノが売れる」市場に拡大したことがうかがえる。

図2:大手アウトドア用品販売3社の売上合計
タイの大手アウトドア用品の主要販売企業3社の売上合計値は2021年に約12億バーツと、2017年から約12倍に増加、新型コロナ発生直前の2019年から見ても、約2.3倍に拡大している。

注:3社はOutdoor Heaven、Camp Studio (Thailand)、Element 72。
出所:タイ商務省

タイのアウトドアの特徴

アウトドアは定義の広い言葉だが、ここではタイで人気のキャンプとハイキングに絞って、その特徴を見てみる。タイのキャンプはほとんどがカーキャンプで、大人数で楽しく過ごすファミリーキャンプが一般的だ。バイクツーリングでは、日中は仲間と行動をともにし、夜は1人用テントで寝ることもあるが、それ以外では、タイでソロキャンプはまず見受けられない。アウトドア用品販売店のオーナーは「タイ人はひとりで行動することに心細さを感じてしまうため、ソロキャンプは楽しめない」と指摘する。ハイキングは日帰りがほとんどで、テントや食料など全てバックパックに詰めて移動することはほとんどない。未整備の山岳地帯を歩くトレッキングを楽しむ上級者もいるが、タイには山岳地帯といえる自然環境が少ないため、登山やクライミングまでは一般的ではないそうだ。

グランピングで快適なアウトドア

自然には触れたいが、汗をかくのは遠慮したいという人々の間では、グランピングの人気が高まっている。グランピングとは、英語で「魅力的な、華やかな」などを意味する「グラマラス」と「キャンピング」を組み合わせた造語だ。グランピング施設では、キャンプ用品や食材・食事などがあらかじめ用意されているため、手軽に豪華なキャンプを楽しむことができる。タイ北部のチェンマイやチェンライのほか、バンコクから車で3時間以内で行けるカオヤイやカンチャナブリといった高原リゾートでは、このグランピング向け客室を増設したところが多い。

タイでグランピングがはやりだしたのは2018年ごろだが、新型コロナを経て注目のリゾート形態になった。普通のホテルの部屋よりも自然により近く触れ合うことができて、写真映えするのが特徴だ。グランピング施設もあるチェンマイの高級リゾート「ランナー・ワイルド・リゾート・チェンマイ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」に聞いたところ、人気の源泉は「自然に接したいというのがベースにあるが、人と違うライフスタイルを見せたい、見てもらえる写真を撮りたいという欲求だ」という。

快適で写真映えするグランピングとは真逆のブッシュクラフト(Bush Craft)も最近注目されている。ブッシュクラフトとは、森などの自然環境の中における生活の知恵の総称で、自然をより近くに感じることができるキャンプスタイルのこととされている。上述のアウトドア用品販売店のオーナーは「BAREBONES外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」という米国のブランドを例に挙げ、アウトドア上級者向けの新たなスタイルとして注目しているという。

若い世代は日本ブランドに注目

前述のアウトドア用品販売店「アウトドア・ボタニカ」で売れ筋ブランドを尋ねてみた。テント・タープ(布状の屋根)やテーブル・チェアは「コールマン」、ランタンは大型ならコールマン、小型なら「プリムス」、ストーブは大型ならコールマン、小型なら「SOTO」か「MSR」、シューズは「KEEN」、コンテナは「STANLEY」などが売れ筋だという。タンブラーは「YETI」が圧倒的な人気で、芸能人がSNSで紹介したことがきっかけだという。


SOTOのストーブやコッヘルなどの調理器具
(ジェトロ撮影)

人気のタンブラーはYETI(ジェトロ撮影)

アウトドア用品のブランドは、世代により好みの違いがあるという。昔からのキャンパーは「コールマン」や「コロンビア」など、米国のブランドを好む傾向が強い。対して、若い世代は「スノーピーク」「モンベル」「DOD」「SOTO」などの日本ブランドを購入する傾向があるという。タイのアウトドアが一時的なブームで終わらず、新たなライフスタイルの発露として定着した今、関連する日本製品への注目度も高まっている。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所