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オンラインでの診療、教育、娯楽サービスの提供が拡充
「コロナ禍」での事業拡大事例を見る(その5)

2020年8月6日

コロナ禍により、従来の対面式での診療、教育サービスなどの代替として、オンラインでの診療、教育、さらには娯楽サービスに対するニーズのさらなる高まりに応じた企業の動きがみられた。コロナ禍以前から事業活動がなされているものが数多く、新型コロナ感染拡大により事業活動に弾みがついたケースも少なからずみられる。

(1)オンライン診療

オンライン診療に関しては、同診療サービスを提供するスタートアップが数多く、コロナ禍以前から、欧米諸国や中国で累計1億ドル以上を調達した企業が生まれている(注1)。

日本では、医療ヘルスケア関連のインターネットサービス提供会社メドレーが先駆的に2016年からオンライン診療システムCLINICS(クリニクス)を提供。通院のための移動時間や待ち時間を気にすることなく、スマートフォンやパソコンで診察を受けて薬や処方箋も自宅で受け取れるサービスだ。病院内での感染リスク回避面でも有効である。コロナ感染拡大の影響で、2020年4月、日本でも(感染収束までの時限的な対応ではあるが)特例措置として初診患者に対しても電話や情報通信機器を使ったオンライン診療・電話診療の解禁が決まった(注2)。コロナ禍によりオンライン診療に対するニーズが高まったものと思われる。

新型コロナの影響でストレスや不安を抱える人が増加していることを背景に、ファンド運営・コンサルティング会社の日系AAICは2020年6月、エジプトのメンタルヘルスケアのスタートアップShezlongへ出資。オンライン上でメンタルヘルスの診断・相談サービスを提供しており、今回の出資を受けて機能強化やアラビア語圏への海外進出を図る、とされる(注3)。

また、ブラジルで高度医療を提供するスタートアップ企業ビダ・クラスは、ウェブサイトや携帯アプリを通じて、30レアル(約600円、1レアル=約20円)で専門医による新型コロナ含む各種疾患のオンライン診療を24時間体制で提供している(注4)。

ジェトロ・パリ事務所によれば、「レゼコー」紙電子版(2020年6月19日付)が報じるところ、診察予約サイトのDoctolibはTanker(個人情報保護ソリューション)と提携し、サイト上の医療関係者と患者の間のメッセージの暗号化を進めている、としている。全ての医療情報、処方箋、遠隔診察、支払いデータなどを対象に、送信者と受診者以外は解読ができないようにするなど、非常に高度な情報セキュリティーを提供する初の医療関連サイトになる、とされる。同社は新型コロナの外出制限の間、サービスを無料で提供、2020年3月1日以降3カ月間で同社が取り次いだ遠隔診察件数は460万件に達し、通常の3カ月間の20万件を大幅に上回った旨が報じられている。また、ジェトロ・ブカレスト事務所からも、現地紙「ビジネスレビュー」(2020年5月15日付)の情報として、ルーマニアでも医療関連のITサービスを提供するスタートアップなどへのベンチャーキャピタル(VC)投資が加速している模様だ。

なお、オンライン診療・オンライン服薬指導と連動した実証実験として、北海道経済産業局が事業主体となり、ANAホールディングス、アインホールディングス、エアロセンス、トッパン・フォームズなどがドローンによる処方箋医薬品配送に取り組もうとする動きもみられる(注5)。

(2)オンライン教育

学校の休校、構内や施設内への立ち入り禁止への対応として、オンラインでの授業や講義などが各地で行われている。

日本のワンダーラボは2020年4月28日、同社が開発・運営する子供向け思考力育成アプリ「シンクタンク」を用いたオンライン授業を無償提供する旨、カンボジア教育省と合意し、同国でオンライン授業が開始された旨を公表(注6)。また、東芝は2020年6月10日、オンライン授業の教師の音声を字幕化し、学生に配信する音声自動字幕システムToScLiveTMを開発した旨を発表した(注7)。一方、コロンビアのジェトロ・ボゴタ事務所からの報告では、同国でもネット遠隔教育プラットフォームを展開するスタートアップPLATZIが好調な売り上げを記録している、とのこと。中南米諸国向けに600の技術教科を提供する同社は、2020年3月15日以降、5月下旬にかけてそれまでと比較し売り上げを約7割伸ばした、とされる。

なお、全米小売業協会(NRF)は2020年7月15日、8月からの新学期商戦(Back-to-school shopping)の売り上げが1,016億ドルに達するとの予測を発表。これは、コロナ禍下でのオンライン授業によるノートパソコンや付属品の購入増加見込みによるもの。同協会のアンケート調査(7月1~8日、国内7,400世帯が対象)によると、小学生から高校生までの子供を持つ両親は平均789.49ドル(前年は696.70ドル)、大学生がいる世帯は平均1,059.20ドル(976.78ドル)を支出する計画とされる(注8)。

(3)オンライン娯楽サービス

また、リモートワークや巣ごもりによる運動不足解消のため、オンラインフィットネス(注9)の会員企業数が各地で増加している。昨今の日本はもとより、最初に感染が確認された中国でいち早く外出禁止やリモートワークへの切り替えが行われ、自宅での運動不足が問題視されていた。そもそも中国ではコロナ禍以前から、オンラインフィットネスへの関心が高まっていたが、外出制限やジムの閉鎖・休止により関心がさらに高まった。中国オンラインフィットネス大手キープは、アプリでレッスンを動画配信し、登録者数が2億人に達している(注10)。また、ブラジル発のスタートアップ企業ジムパスは2020年5月6日、自宅で利用可能なライブ配信フィットネスサービスを同年4月に開始したことを表明。外出自粛や禁止で在宅勤務を行う企業の従業員が自宅でトレーニングを行う方法として、ライブ配信によるフィットネスサービスを開始。ジムが再開されても、ライブ配信でのオンライントレーニングにはニーズがある、としている(注11)。一方、カナダのアスレチックアパレルメーカーのルルレモン・アスレティカは、米国の在宅フィットネス関連サービスのミラーを買収し、自社スポーツ衣料品販売との相乗効果を見込んでいる(注12)。

また、新型コロナ拡大による巣ごもりの影響で、コンピュータゲームやビデオゲームを用いて行うeスポーツにも注目が集まっている。KADOKAWAの子会社でEスポーツ事業を手掛けるKADOKAWA Game Linkageによると、eスポーツの2019年の国内市場規模は前年比27%増の61億2,000万円に拡大したが、2020年はさらに増加するものとみられている(注13)(表参照)。

表:コロナ禍でオンラインでの診療、教育、娯楽サービスを強化した主な企業事例
項目 企業名 事例の概要
オンライン診療 AAIC(日) エジプト・メンタルヘルスケアのスタートアップShezlongへ出資。オンライン上でメンタルヘルスの診断・相談サービスを提供しており、出資を受けて機能強化やアラビア語圏への海外進出を図る。
ビダ・クラス(ブラジル) 新型コロナ含む各種疾患のオンライン診察を24時間体制で提供。
オンライン教育 ワンダーラボ(日) 開発・運営する子供向け思考力育成アプリを用いたオンライン授業をカンボジアで無償提供。
東芝(日) オンライン授業の教師の音声を字幕化し、学生に配信する音声自動字幕システムを開発。
PLATZI(コロンビア) ネット遠隔教育プラットホームを展開し、中南米諸国向けに600の技術教科を提供。2020年3月中旬以降売り上げが大幅に伸長。
オンライン娯楽サービス キープ(中) アプリでオンラインフィットネスのレッスンを動画配信。登録者が2億人に。
ジムパス(ブラジル) 自宅で利用可能なライブ配信フィットネスサービスを2020年4月に開始。
ルルレモン・アスレティカ(米) 米国の在宅フィットネス関連サービス・ミラーを買収。
KADOKAWA Game Linkage(日) eスポーツ事業を手掛け、コロナ禍下でも拡大基調。

出所:メディア報道などからジェトロ作成


注1:
INITIAL、2020年4月10日付「コロナ対策の担い手となるか。世界のオンライン診療スタートアップ」
注2:
2020年4月7日閣議決定「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策-国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ-」
注3:
ジェトロビジネス短信、2020年6月12日付「日系のAAICがヘルスケア・スタートアップに出資、「新型コロナ禍」でもICT活用ビジネスに可能性」
注4:
前出(注56)ジェトロ地域分析レポート、2020年4月15日付「新型コロナ危機を逆手に取った新たなスタートアップビジネスが台頭(ブラジル)」
注5:
経済産業省北海道経済産業局、旭川市、旭川医科大学、ANAホールディングス、エアロセンス株式会社、トッパン・フォームズ、特別養護老人ホーム緑が丘あさひ園、日通総合研究所共同プレスリリース、2020年7月10日付「国内初、オンライン診療・オンライン服薬指導と連動したドローンによる処方箋医薬品配送の実証実験について」
注6:
ワンダーラボ株式会社プレスリリース2020年4月28日付「カンボジアで「シンクシンク」を用いたオンライン授業を無償提供。教育省と連携し国営テレビ放送にも展開。新型コロナによる休校措置への対応。」
注7:
東芝ニュースリリース2020年6月10日付「オンライン授業向けのリアルタイム音声自動字幕システムToScLiveTMを開発-高精度な字幕化により、聞き逃しの防止・授業の振り返りを容易に実現、ウィズ・アフターコロナの社会の学校教育をサポート-」
注8:
NEWSMAX, July 15,2020, “NRF: Back-to-School Sales to Hit $102B as Laptop Buys Surge”
注9:
オンラインフィットネスはZoomなどのオンライン会議システムを用いて、画面越しのインストラクターに動作を習うものである。
注10:
東洋経済ONLINE、2020年4月19日付「運動不足で「自宅フィットネス」に高まる期待 コロナ影響受けたジム休業が利用者数増加に」及び日本経済新聞、同年7月18日付 「米中コロナテック躍進」
注11:
ジェトロビジネス短信、2020年5月19日付「伯ユニコーン企業、コロナ渦中でライブ配信フィットネスサービスを開始」
注12:
Business Wire, June 30,2020, “lululemon athletica inc. to Acquire Home Fitness Innovator MIRROR”
注13:
KADOKAWA Game Linkageニュース、2020年2月13日付「2019年日本eスポーツ市場規模は60億円を突破」
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部上席主任調査研究員
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、シンガポール、バンコク、ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長を経て2019年4月から現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。

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